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53 優しい獣
しおりを挟むキアルズの手のひらが、以前よりもまろやかになったデイラの胸を包み込む。
すくい上げるように揉まれて頂を舌で転がされると、薄く開いたデイラの唇からは吐息まじりの掠れ声が漏れた。
「は……ぁっ……」
「……たまらないな」
ほとんど口を離さずに発せられた囁きが、湿った先端から甘く響いてくる。
ぴんと尖ったそこを音を立てて吸い上げられ、蕩けるような感覚にデイラは身体を震わせた。
「あ……あっ」
キアルズの指は、デイラの腹部を滑らかになぞっていく。
その軌道を熱い唇が緩やかに追いかけて臍の下までたどりつくと、デイラはびくんと背中を反らした。
艶めかしく腰をしならせる姿を見て、キアルズは目を細める。
「何もかも、ぼくしか知らないあなただ」
すいと割り開かれた腿の間にキアルズが顔を近づけたことに気づき、デイラは慌てて止めようとした。
「あっ、あの、そこは……っ」
「たったの一夜だったけど、ちゃんと憶えてるよ」
制止には耳を貸さず、そっと指を添えて晒された桃色の小さな突起に、キアルズは端正な唇を寄せる。
「あなたはここが好きでしょう?」
「っ……」
あの夜、自らそこをすり寄せるようにして愛撫に応えていたことが断片的によみがえり、デイラは頬を熱くした。
「こんなふうに」
ちゅ、と音が鳴る。
「っあ……!?」
「軽く吸っただけで敏感に張りつめて、すごく可愛いんだ」
「や……っあ……」
キアルズは舌先も使い、デイラの花芽をくすぐり始めた。
「あ、あっ……あっ」
またたく間に、快感が羞恥を上回ってしまう。
デイラはもう抗えず、淫らな水音を立てて舐められても、蜜をこぼす裂け目に長い指がしのび込んできても、喜悦に身をゆだねるしかなかった。
「ん、……あ、あぁっ……」
心地よさはどんどん膨らんでいき、デイラはしきりにつま先を動かす。
「キアルズさま……っ」
乱れた息の下で、デイラは縋るようにキアルズの名を呼んだ。
「『さま』は要らな――」
「んん……っ!」
眼裏で光が弾ける。キアルズの指をきゅうっと食い締めるようにして、デイラは達した。
「あぁ……」
忘我の余韻と、ひとりで絶頂を迎えてしまった恥ずかしさとが入り混じり、デイラの視界はうっすらと滲んだ。
まだひくついている秘裂から指を引き抜いたキアルズは、上体を起こしてデイラを熱っぽく見下ろす。
大きな枕に銀灰色の髪を広げ、薄ばら色に染まった胸を上下させている初恋の女性に視線を注いだまま、キアルズは脚衣の前をくつろげた。
「デイラ……もっと、深く触れたい」
夕闇に包まれ始めた室内で陰影を描きながらそそり立つ欲望の塊を、キアルズは片手でしっかりと掴む。
「……っ」
張り出した先端が蜜口を広げ、つぷりと入り込んできた。
大きなものが埋まっていく圧迫感に、デイラは目を閉じ枕の端をぎゅっと握る。
「っ、あぁ……っ」
奥までたどり着くと、キアルズは幸せそうに深く息を吐いた。
「……気持ち良すぎて、おかしくなりそうだ」
まぶたを開いて彼を仰いだデイラは、思わず賛美の呟きを漏らす。
「きれい……」
仄暗いなかでも彼の美しさは翳ることがなく、頬にかかった乱れ髪や、引き締まった身体に浮かんだ汗さえも、優艶さをまとって輝いて見えた。
キアルズは優しく口角を上げる。
「それはあなたのほうだよ」
枕を握っていたデイラの片方の手をほどいたキアルズは、自分の指を絡めて引き寄せ、そっと口づけた。
「きれいで、可愛くて、魅惑的で……」
キアルズの腰がゆっくりと動き出す。
「いくらでも欲しくなる」
「あぁっ……」
「デイラ、大好きだよ」
「キアル……あ、あっ」
逞しい昂りに浅いところを擦られ、深いところを押して揺らされ、絶え間なく与えられる心地よさにデイラは翻弄される。
「あっ、はぁ、あぁっ……」
「んん……」
キアルズの唇からも切なそうな声が漏れた。
「……抱きしめてくれてるみたいに、うねって……」
我慢できなくなりそうだ……という呟きと共に、デイラの内腿はさらにぐっと押し広げられる。
「デイラ……ッ」
いっそう嵩を増した熱杭が、潤みきった最奥まで打ち込まれた。
「あぁっ……!」
大胆に腰を動かされても、すっかりほぐされていたデイラの身体には稲妻のような快感だけが走る。
「キアルズ……、キ……っあ、あッ……」
これまでに感じたことのないような大きな絶頂が押し寄せてくる予感に、不慣れなデイラは恐れを覚えた。
「ん、ま……待っ……」
小休止を求めて枕元のほうに身体をずらそうとしたデイラを、熱い手のひらが押しとどめる。
「――さない」
「えっ……」
次の瞬間、デイラはくるりと裏返され、後ろから腰を持ち上げられて再びずしんと穿たれた。
「ひぁっ……!?」
デイラの目の前で、ちかちかと星が散る。
背後から、獣を思わせるような荒い息づかいが聴こえてきた。
「……もう、放さない……」
デイラの腰をがっちりと掴んだキアルズは、滾りきったものを突き入れながらうわごとのように言う。
「放すわけない……っ」
どこか哀しみを含んだ低い声が耳まで届き、デイラはハッとした。
自分が姿を消してからのキアルズの葛藤に、デイラは改めて思いを致す。
どれほど、嘆き、悔やみ、憤り、苦しみ、彼女の身を案じたことだろう。
それなのに、再会したキアルズはデイラを激しく責め立てるようなこともせず、親だと名乗らぬままアイオンを慈しみ、彼女の心の城門が開くのを根気強く待ってくれた。
年上の自分よりもはるかに寛い心を持ち、すべてを飲み込んでキアルズはそばにいてくれたのだ。
「っあ、はぁ……」
揺さぶられながら、デイラは懸命に後ろを向く。
薄暗がりのなか、キアルズの翠玉色の瞳は美しい獣のそれのように発光して見えた。
「キア、ルズ……」
もう二度と苦しませたくない。いつも幸せだけを感じていて欲しい。デイラは精いっぱい呼吸を整えて告げた。
「放さないで……。私も放さないから」
激しかった動きが静かになる。
瞳から獣性が退いて行き、キアルズは自分自身に驚いたかのように瞬きをした。
「ご……ごめん。力任せにして……」
デイラは首を横に振り、柔らかく唇をほころばせる。
「私しか知らないあなたですね」
キアルズは胸がいっぱいになったかのように肩で大きく呼吸し、少し泣きそうな顔で微笑んだ。
「デイラ……」
上体を前に傾け、キアルズはデイラに口づける。身体をひねったままデイラも応えた。
「ん……」
甘く舌を絡めながら、キアルズはまた緩やかに腰を動かし始める。
唇が離れるとデイラは再び枕のほうに顔を向けたが、もう何も怖くなかった。
互いの表情は見えないが、息づかいから、触れ合う肌から、繋がった部分から、悦びと愛情が伝わり合う。
「あっ……っあ」
キアルズは徐々に速度を上げ、デイラの中を甘美に擦り立てた。伸びてきた指が熱く膨らんだ花芽も刺激し、愉楽は際限なく積み上がっていく。
「あッ、あ、ああっ……」
「デイラ……、愛してる」
打ち震えながら、ふたりは一緒に目の眩むような高みまで昇りつめた。
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