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しおりを挟む「ヴェレッド」
蕩けるような甘さで私を満たすクリフの淹れてくれたミルクティーから口を離し、目線を上げ声をかけてきた人物を見つめる。
金色の髪とアメジストのように輝く瞳が美しい。
「殿下」
モフィラクト王太子殿下がこちらに向かって笑いかける姿に、周りの令嬢から歓声が上がった。
「生徒会室からヴェレッドの姿が見えたから」
隣に座るアカリ様と私のちょうど真ん中のところに、クリフが殿下用の椅子を用意する。
意外だわ、婚約者だから殿下の椅子はもっと私のすぐそばに置くかと思ったのに。
まぁ、アカリ様と殿下の距離も近くて私にとっては都合がいいけれど。
「ヴェレッド、先日の授業で怪我したところは大丈夫かい?」
殿下の声を聞いて、アカリ様もシュンとしょげた感じで会話に入ってきた。
「あの時は本当に申し訳ありませんでした。ヴェレッドお姉さま」
怪我の事なんてすっかり忘れていたわ。傷もまったく残らなかったし。
それよりも、この話題を出すことで背中の傷についてクリフが思い出してしまう事の方が心配。
「殿下、私は大丈夫ですわ。アカリ様も、もう気になさらないで」
「ヴェレッドお姉さま、なんてお優しい……」
ウルウルした瞳で私を見つめるアカリ様。
なんだか可愛らしいのよね。出来の悪い子ほど可愛いってホントだわ。
「殿下、こちらをどうぞ。ヴェレッド様が授業で作られたクッキーになります」
スッとクリフが殿下の前にクッキー入りの小皿を差し出す。
「ありがとう。ああ、私の好きなナッツと干し野菜入りのクッキーだね。嬉しいよ」
そう、殿下はお菓子が大好きだから、小さな頃からよくお菓子を作ってプレゼントしてあげていた。
野菜嫌いだけれど、お菓子に入れるとよく食べるので野菜をたっぷり使ったお菓子をしょっちゅう作って。
前世でも家庭科だけは成績良かったし、公爵令嬢なのにお菓子作りの腕はかなりのものだと思う。
殿下にだけではなく、お菓子を作ってみんなに食べてもらうのが好きだった。
喜んでくれる顔が、嬉しくて。
あ……
テーブルに並ぶクッキーを眺める。
たぶん、ここに出ているだけでクッキーはもう残っていない。
クリフにも食べてほしかったな、私が作ったクッキー。
「クリフ……」
あ、つい口に出しちゃった。
「はい、なんでしょうお嬢様?」
もう、こんなに小さな声、聞き逃してよ、クリフ。
「私、お腹がいっぱいだわ。私のクッキーはあなたが食べて」
フッとクリフの口元が弧を描いた。
「紅茶を甘くしたからって、ダイエットを気にされなくても」
違うわよー!
ダイエットなんてしてないってば!!
「別に少しくらい太ったって、中身は変わらないのですから食べても大丈夫ですよ。甘いもの、お好きでしょう? クッキーは包んでおきますので、後でお召し上がりください」
だから、ダイエットなんてしてないのよー!!
まあ、いいわ。帰ったらクリフにあげよう。
クスクスと殿下が笑った。
「ヴェレッドはそんな事を気にしているのかい。可愛いね。少しくらい欠点があっても君は魅力的だよ」
違いますわ、殿下!!
それはアカリ様に言う言葉です。
クッキー作りの失敗を私に馬鹿にされ、落ち込んだアカリ様を慰めるために。
そういえば……。
ゲームの中でそのあと殿下はアカリ様に、『自分にも欠点がある、私だって悩みのある一人の人間なんだ。完璧な人間なんていない』とおっしゃっていたけれど、殿下のお悩みっていったいなんだったのかしら。
ゲームの中では具体的に出てこなかったわ。
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