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 今日こそは、今日こそは嫌がらせを成功させるわよ!!
 
 その決意を胸に、学園の噴水広場に仁王立ちしている私。
 そして私の両隣には、仲良くしている伯爵令嬢が二人ずつ、計四名。
 ああ、この場合は取り巻きと言った方がいいのよね。
 相対するのは、アカリ様、一名。

 生徒会室にいらっしゃるモフィラクト王太子殿下、見ていてくださいね。
 私いまから、アカリ様を馬鹿にして罵りますから。

 アカリ様が泣いたら殿下は生徒会室から駆けてきて、俯くアカリ様にそっと寄り添い「大丈夫、完璧な人間なんていない」とおっしゃって慰めるのですよ。
 ゲームのシナリオ通りに動いてくださいね。

 本日アカリ様を嘲笑するお題は、炎魔法と調理実習を兼ねた授業で行ったクッキー作りについて。
 「こんな事も満足にできないの、男性に媚を売る前に学ぶことがあるのではなくて」と悪役令嬢らしく高笑いしながら嫌味っぽく馬鹿にする。

 ゲームをしている時は、悪役令嬢のヴェレッドが大袈裟に言っているんだろうなぁと思っていたけれど、実際にアカリ様の作ったクッキーは黒焦げで、本当に酷かった。
 勉強だけじゃなくて魔法による炎の調節の仕方についても、今度補習してさしあげたい。

 ホホホッ、と高笑いしてセリフを述べようと思ったら、脇から聞き慣れた声が割り込んできた。
 
「ああ、お嬢様、お茶会の席はあちらにご用意しております。ご招待されるのは5名ですね」

「え、クリフ!?」

 なによ、お茶会って!?

「授業でクッキーを作ったと聞きました。先生の許可は取ってありますのであちらにおかけになって、皆様でごゆっくりお召し上がりください」

 あれよあれよという間に、噴水そばにある芝生エリアへ案内されていく。
 優雅にランチをとったりお茶会を開催できるようにと、椅子とテーブルが配置されている芝生エリア。

 噴水前からクリフのセッティングしたテーブルまで歩くあいだ、アカリ様のクッキー黒焦げ話を聞いたクリフはそれを上回る自身の失敗談を披露して皆の笑いを誘い場を和ませていた。

 いやいやいやいや、いつも完璧なクリフ、今話しているような失敗なんてしたことないでしょう。
 その失敗談はアカリ様を落ち込ませないための優しい嘘。

 ……優しい、クリフが。女の子に対して、優しい。
 なによクリフ、私が何か失敗したら、嬉しそうな顔して揶揄ってくるくせに。

 ちょっと胸のあたりがモヤモヤする……。
 なんだろう、胃もたれ? お昼に消化の悪い物でも食べたかしら。



「さ、お嬢様方、お茶をどうぞ。本日はナッツと干し野菜入りのクッキーに合わせ、紅茶はアッサムをご用意いたしました。お好みでミルクティーにしてもよろしいかと存じます」

「ありがとう、クリフ」

 お礼を言って、クリフがひいてくれた椅子に座る。
 私が座ると、クリフはスッとナプキンを膝にかけてくれた。
 膝にかけられたナプキンには、皺ひとつない。

 ん……?
 ほぅっ、とウットリしたようなため息が周りからいくつも聞こえ、顔を上げる。

「クリフ様、素敵ですわね」

「さすが執事クラスでトップの成績を維持されているだけありますわ」

「こんなに素晴らしい執事がいらっしゃるなんて、ヴェレッド様が羨ましい」

「紅茶について、今度ぜひゆっくりと教えていただきたいですわ」

「あら私も」

「私は勉強を教えていただきたいわ」

「いいですわね、クリフ様を招いて勉強会なんてどうかしら」

「ふふふ、楽しみですわ」

 友人達が皆、口を揃えてクリフを褒め称えている。アカリ様もクリフに羨望の眼差しを向けていて。

 ん? また胸のあたりがモヤモヤしてきた。
 胸やけかしら。授業中に味見でクッキー食べ過ぎたのかも。

 すぐ隣に立つクリフの方を見上げると、口元に上品な笑みを浮かべていた。
 営業スマイル? それとも女性に褒められて嬉しいの?
 牛乳瓶の底眼鏡でどちらの表情なのか分からない。

 ねぇ、断れば、クリフ。
 公爵家の仕事が忙しいので無理です、とか言ってさ。

 ま、執事の身分で伯爵令嬢に物申すのが難しいのは分かっているけど。
 それなら私が断る? でも、それも変かしら。
 あー、なんかイライラする。どうしたのかしら私、今日は少し変。

 チラ、と牛乳瓶の底眼鏡がこちらを向いた。
 クリフは何も言わずに私の紅茶へいつもより多めの砂糖を入れかき混ぜたあと、たっぷりのミルクを注ぐ。

 ……よく分かったわね、イライラしてるからいつもより甘いものを欲してるって。

 ミルクティーを口に含む。
 私を蕩けるように甘やかしてくる味が、口の中に広がった。







 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
 

 【お知らせ】

 ここまでの閲覧ありがとうございます。

 ふと『コミュ障』の単語が目に入って、あなたはあなたのままで愛しいよ、の想いが溢れショートショートを書いてしまいました。
 長編が亀更新にもかかわらず申し訳ありません。

 タイトルは
『コミュ障の私が女勇者になってしまいました。世界を救えなかったらごめんなさい     m(_ _)m 』
 となっております。
 全年齢向け一日一話、三日で完結のあっさりほのぼのとしたストーリーです。
 長編の箸休めに、よかったらご一読ください。
 亀更新ではありますが、長編の方も引き続きお付き合いいただければ幸いです。



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