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26 弟シャルマンのひとりごと
しおりを挟む今日はモフィラクト王太子殿下に続けて隣国のマッジョルド王子のダンスのお相手もされた姉様。
ダンスでクルリと回った時にふわりと揺れるドレス。
まるで、優雅に微笑む姉様に羽があるように見えて。
あーッ、もう、天使!
くぅぅぅ、とひとり心の中で悶えていたけれど、曲が終わり姉様が淑女の礼をしたのを見届けて僕はホールの出口に向かった。
僕はダンスはこりごり。
前に一度、フィダンツァート公爵令嬢のダンスの相手を務めたら、その後ひっきりなしに他のご令嬢から声をかけられて時間が終わるまで踊り続けることになってしまったから。
途中で断るのって、難しいよね。
自分でも外面がいいのは自覚している。声をかけられたら無下にできないんだよね。
だから今日も、姉様とマッジョルド王子のダンスが終わると早々にホールを抜け出して、ロビーで一息ついていた。
姉様の美しい姿を思い出して、ほぅ……とため息をつく。
素敵だったな、姉様のダンス……。
ん……?
たった今ロビーに入ってきたふたりは、よく知っている顔だった。
「クリフじゃないか。それに、アカリ嬢も」
珍しい組み合わせだな。
「シャルマン様、ちょうどお会いできてよかった。アカリ様のエスコートをヴェレッドお嬢様から頼まれていたのですが、私は正式な招待客ではありませんので、シャルマン様にお願いしてもよろしいでしょうか」
「姉様から?」
「はい、実はアカリ様の乗った馬車が脱輪しまして、エスコートするはずだったヘルディン男爵はモフィラクト王太子殿下とお嬢様と一緒に先に会場入りすることとなったため、お嬢様はアカリ様のエスコートを大変心配されておりました。そこで私にその役を頼んだのです。無事にアカリ様がエスコートされて会場にいらっしゃれば、お嬢様も安心なさるでしょう」
なるべく会場に戻る時間は遅くしたかったけど、姉様の頼みなら仕方ないね。アカリ嬢をエスコートしたら、姉様も褒めてくれるかな。
「エスコートするのは構わないけど、でも、もうすぐダンスタイムは終わってしまうよ」
「ああ、本当にちょうどよかった」
ちょうどいいのかな? アカリ嬢にとっては将来の結婚相手を探す機会でもあったのに。
あ、もしかしてアカリ嬢はダンスが苦手とか? 歓談の時間だけ参加するつもりだったのかも。
「では、シャルマン様よろしくお願いいたします。私はこれで失礼いたしますので、お嬢様にもよろしくお伝えください」
クリフの後ろ姿を見送り、アカリ嬢を振り返ると何か違和感を覚えた。
何だろう……と思い、失礼だったかもしれないけれどアカリ嬢の事をジッと見たら違和感の原因に気付く。
「アカリ嬢のイヤリング、右と左で違うデザインなのですか?」
同じブルーのイヤリングだけれど、左右で全く違う。
貴族は教養として、本物を見る目を養うため宝石についても学ぶから分かる、右はブルーサファイアで、左はイミテーションかな。
そういう風につけるの流行ってたりするの?
「実は片方落としてしまって。ま、いっかと思っていたらクリフ様が上着のポケットからイヤリングをひとつ出して貸してくれたのです。後でお返しします」
「ふぅん……」
クリフのポケット、どんな仕組みになってるんだろ。四次元?
それとも様々な事態を想定して、あらかじめ色々入っているのかな。
確かにクリフは、暑い時にはスッと扇子を出してくれるし、必要な時に紙とペンはすぐに出てくるし、僕が手を洗うとサッとハンカチを渡してくれたり準備がいい。
僕はたまにハンカチを忘れちゃったりするけど、クリフは絶対に忘れないもんね。
うんうん、とひとり納得しながらもう一度アカリ嬢の右耳を見る。
でもそのイヤリング、どこかで見たような。
……気のせいかな?
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