悪役令嬢は婚約破棄されて破滅フラグを回収したい~『お嬢様……そうはさせません』イケメンツンデレ執事はバッドエンドを許さない~

弓はあと

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 クリフの腕の中に飛び込んだら身体がふわりと浮いて。
 あっという間に私はクリフにお姫様抱っこをされていた。
 まるで童話に出てくるヒロインのように。

 でも私を抱き上げているクリフの表情は、甘い笑顔の王子様とはほど遠い。
 牛乳瓶の底眼鏡をかけていても分かる。
 私を見つめるその顔は、今まで見たことのない険しい表情だった。

「ヴェレ、怪我してただろっ! それにその髪……どうして……、いやそれより怪我の治療の方が先か、救護室へ行こう」
「来賓用の救護室はすごく混んでて」
「わかった」

 私を横抱きにしたまま、クリフは一般参加者用のフロアへと進んでいく。
 怪我をした腕を赤いスカーフで押さえながら、クリフの顔を見上げた。

 私の髪、シャルマンのように短く切ったのに、よくすぐに私だって分かったわね……。
 クリフは……以前から前髪は長かったけど、ますます伸びたかしら。
 ん……クリフの髪、少し濡れてる?

 違和感を覚えて、ジッとクリフの前髪を見つめてしまう。
 水……では、なさそう。
 お父様が使う整髪料のような匂いが微かにするのに気が付いた。
 今は崩れてしまっているけれど、きちんと髪を整えていたのかしら。
 もしかして……誰かとデートしてた、とか?
 あとで聞いてみたい。でももし本当にデートだったらショックだから……聞きたくない気もする。

 救護室らしき場所へ着くとすぐ、そばにいた医療用の白衣を身につけた人に向かって慌てたような声で話しかけたクリフ。
 こんな話し方をするクリフは珍しい。
 前に魔法の授業で、私が怪我をした時以来かしら。

「傷の残らないよう、魔法治療のできる者を頼む、早く!」
「まぁまぁ落ち着いて。魔法治療の方は今、混みあっています。まずは患部をみせてください」

 患者が座る丸椅子をすすめられたのでそこへ腰をおろした。クリフとサブルスは私のすぐそばに立っている。

 白衣の人は傷の様子を確認すると「うん」と呟いて笑顔を見せた。

「これなら魔法ではなく通常治療でも傷は残らないでしょう」
「よかっ、た……」

 途端にへたり込むクリフ。
 こんな姿、本当に珍しい。

 白衣の人が数歩あるき、目隠し用の衝立のそばに立った。

「ではこちらへどうぞ……。そうですね、腰に差している剣はお連れの方に持っていてもらってください」
「じゃ、俺が持ってるよ」

 手を出してくれたサブルスに剣を渡す。

「付き添いの方、お荷物、重いでしょう。どうぞこちらにおかけになってお待ちください」

 剣を持ったサブルスは白衣の人のすぐ近くにある椅子をすすめられ、そこへ座った。
 私は目隠し用の衝立の奥へと進んでいく。

「順番でお呼びしますのでここでお待ちください」

 衝立の奥では、私の他にも治療を受ける人が何人か待っていた。
 しばらく座って順番を待ち、「どうぞ」と声をかけられ治療を受ける。

「消毒して包帯を巻いておきますね」

 腕に包帯を巻いてもらい衝立の外へ戻ると、サブルスが即座に立ち上がった。
 ずっとこっちを気にしてくれていたのかも。
 自分が怪我をさせてしまったと、責任を感じているのかもしれない。
 ごめんねサブルス、心配かけて。剣技中に油断した私が悪いのに。

「大丈夫か?」
「うん、もう大丈夫。クリフは?」
「ぁ? ぁぁ、そういえば、いないな。すまん、全然気にしてなかった」

 治療前よりも救護室は混んできたような気がするし。
 クリフは他の人の邪魔にならないように、救護室の外にいるのかしら。

 室内にクリフがいないことを確認して、サブルスと一緒に救護室を出ていく。

「あのぅ……」

 ?
 ??
 救護室を出た途端、見知らぬ女の子に声をかけられた。

 ぁ、でも。
 会ったこと、ある。

 剣技を披露する前に屋台を見てまわった時、花屋にいた10歳くらいの女の子だわ。
 お店にはこの子のお父さんかなって感じの大人の男の人がいた。
 この子は看板娘らしくお店の前で花を売っていて。
 その時に持っていた花の入ったかごを、今も腕からさげている。

 私の腕をチラリと見た女の子。
 包帯を巻いている方の、腕を。

「腕の治療をして出てきた人に、渡してって。眼鏡かけた人が」

 女の子が私に渡してくれたのは、小さな薔薇の花束。

 幼い頃、私を慰めるためにクリフが部屋に飾ってくれた薔薇の花。

 私の前からいなくなった日に、残していった薔薇の花。

「その人は……今、どこに……?」

 女の子は「知らない」と首を横に振り、去って行った。
 慌てて辺りを見回したけれど、クリフの姿は見えない。

 また薔薇の花を残して、いなくなってしまったの?
 クリフがいないなら、薔薇の花があっても泣き止むことなんてできない。
 よけいに悲しくなって、泣いてしまうじゃないの。

「クリフ……」
「ヴェレッド嬢……もしかして、クリフの事……」

 戸惑っているようなサブルスの声がしたけど、ただ涙を流すことしかできなかった。





 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
 


 【お知らせ】

 読者様、いつも閲覧&しおり、お気に入り登録に感想の投稿等してくださり、本当にありがとうございます。 

 実はこのたび、大人の方向けのエタニティ小説を投稿開始させていただきました。

 もしよかったら、作者名『弓はあと』で検索してみてください。

 他に亀更新の連載作品があるなか大変恐縮ですが、どの小説も引き続き更新していきますのでこれからもお付き合いいただけると幸甚です。   





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