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しおりを挟む昨日メルヴェイユ王国から戻った私は、今日からいつもどおりの学園生活。
放課後になり、学園の生徒会室でシャルマンがチョコレートを皆に配っている。
そのチョコレートは、先日行われたメルヴェイユ王国の武術大会で参加者全員に渡された品。
いわゆる参加賞のようなもの。
シャルマンに代わって私が武術大会に参加したことを、サブルス以外は知らない。
だから皆に配るのはシャルマンの役目。私もチョコレートを受け取り、口へと運ぶ。
ん、美味しい……。
私の好きな、いちごジャムを挟んだチョコレートだわ、これ。
とても美味しいけれど、舐めていたら胸がキュンと切なくなった。
チョコレートを食べたのは、クリフがいなくなった日以来だと気づいてしまったから。
アカリ様のすぐそばで、ふわりふわりと浮いている鮮やかなピンク色の聖剣を眺める。
そうでもして気を紛らせていないと、目から涙が零れてしまいそう。
アルアスラ王国を出て行ったあの日、薔薇の花とともにクリフが残していったチョコレートの味と同じなんだもの。
「クンベル、モフィラクト王太子殿下は今日も公務?」
シャルマンがクンベル第二王子殿下へ問いかけた。
身分は違っても、敬語を使わず話すほどふたりは仲がいい。
「そうだよ、今日の公務は兄上だけ。……来週は気が重いなぁ、僕ひとりでの公務だから」
「珍しいね、クンベルひとりでの公務なんて」
シャルマンの言葉に、クンベル殿下が小さくため息をつく。
――来週おひとりで……ぁ、もしかして。
「そのご公務って、メルヴェイユ王国マッジョルド第二王子殿下の誕生祝いですか?」
国同士は不穏な雰囲気もあるけれど、クンベル殿下とマッジョルド殿下は第二王子同士ということもあって気が合うと聞いている。
私の問いに対し、机を挟んで真向かいに座っていたクンベル殿下は頷きながら「そうです」と答えた。
その返答を聞いた瞬間、思わず勢いよくテーブルに両手をつき、ガタンッと音を立てて席を立ってしまう。
生徒会室にいた皆が私の方へ視線を向けた。
淑女らしくない振る舞いだと分かっているけれど、なりふり構っていられない。
「クンベル殿下、お願いです! 私をメルヴェイユ王国へ一緒に連れて行ってください!」
座ったまま目を大きく見開き私を見上げるクンベル殿下と目が合う。
「お願い……します……クンベル殿下」
深く頭を下げると、戸惑ったようなクンベル殿下の声が聞こえてきた。
「僕は第二王子同士マッジョルド殿下と交流があるから行くけれど……一見平和そうに見えても今のメルヴェイユ王国は情勢が不安定で危険です。我が国との戦争を企てている者もい、」
「危険は承知の上です、お願いします!」
クンベル殿下のセリフを遮るように言葉を被せてしまう。
不敬で咎められてもおかしくない行為。
でも、そうしてしまうくらい私は必死だった。
もう一度メルヴェイユ王国へ行って、クリフを探したい。
「ダメです、危険ですから。シャルマン、黙って見てないでキミも止めてくれよ」
「……僕じゃ姉様は止められない。止めても止まらないよ、姉様は」
「でも、今回は王太子である兄上も行かないし、友好的な理由で訪れるからそこまで厳重な警護をつけることもできない」
クンベル殿下は、縋るような視線をサブルスへ向けた。
幼馴染のサブルスならきっと、私を止めてくれると思ったのかもしれない。
止めても無駄だから諦めろと言わんばかりに、サブルスが首を横に振る。
ぅ、とクンベル殿下は喉を詰まらせてしまった。
「……分かりました、少し考えさせてください」
わがままを言って申し訳ないとは思っている。
だけど、どうしてもメルヴェイユ王国へ行きたい。
家へ帰ってから、お父様にもこの件について相談をした。
もしかしたら、お父様が陛下に何か話をしてくれたのかもしれない。
三日後クンベル殿下から、私も一緒にメルヴェイユ王国へ行くことになったと報告を受けた。
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