もうッみんな異世界に転生しすぎです! 悪役令嬢のおかげで婚約破棄されたので、最強の幼馴染と自由なスローライフを日常的に楽しんでいます

弓はあと

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『オフィス異世界転生』の事務員

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 ここは『オフィス異世界転生』

 私の名前は、山野桃香。22歳新卒です。
 ここで半年ほど事務員をしています。

 オフィス……と言っても、働いているのは私の他に所長の遊庭賢人だけ。

 ガチャ、とオフィスのドアが開く。

「所長、おはようございます」
「ハハハ、桃香、所長じゃなくてケンちゃんでいいっていつも言ってるだろ」

 所長のケンちゃんは、私が生まれた時からの幼馴染。
 お隣に住んでいたお兄ちゃんです。

 住んでいた……と過去形なのは、ふたりとも今はこのオフィスの2階に住んでいるから。
 もちろん部屋は別々ですよ。

 ケンちゃんはすごい人らしく、時空と光と世界、そして生命体の持つ歪みを解明して、20歳の時に異世界転生ビジネスを立ち上げた人。

 このビジネスに関しては、法の整備も追いつかず、他に真似できる企業もなかったから独占状態だったけれど、ケンちゃんはなるべく目立たないように細心の注意を払っているようでした。

 私が手伝うまでは、12年間ずーとひとりで地味に仕事をしていたようです。

 ケンちゃんの仕事は、異世界に行きたい人と、異世界をつなぐこと。
 うーん、分かりやすく言うと、旅行代理店のような、もしくは、結婚相談所のような、そんなイメージでしょうか。

 うちの両親は、半年前に異世界でカフェをオープン、ケンちゃんのご両親は、数年前から異世界のダンジョンでモンスターを倒してはそれを美味しく調理して食す生活を満喫しているようです。
 ようです、というのは、異世界の状況は音声でしかこちらに分からないから。
 映像を見るシステムは、まだまだ開発途中みたいです。

 ネットで異世界への転生を予約できるシステムもケンちゃんが開発したので、異世界転生はとっても気軽にできるようになりました。
 プランによってはお値段も格安。庶民の味方です。
 でも安全安心をモットーに、お客様に寄り添ってご納得いただける転生を提供しています。

 戻りたいと希望する人がいないのも、みなさん異世界生活を楽しんでいる証拠ですね。
 おかげさまで大繁盛! なのはいいけど……、私の目の前には書類の山。

「もうッ! みんな異世界に転生しすぎ! そう思わない? ケンちゃん」

 ハッハッハッと楽しそうにケンちゃんが笑う。

「桃香、がんばれ。週末になったら、一緒にキャンプに行こう。桃香も好きな、あの穴場のキャンプ場」

 よし、週末を励みに今日もお仕事がんばろう。

 本日1枚目の書類をめくる。
 申込者欄を見て、ヒュッと心に冷たい風が吹いた。

 『悪役令嬢断罪イベント破滅フラグ回避カップルプラン』に申し込んでいるのは……
 先日一方的に私に婚約破棄を突きつけた、私の元婚約者。
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