2 / 4
事務員のお話
しおりを挟む
彼、勇さんは、親が勝手に決めた婚約者だった。
異世界に行くことが決まった両親が、私が将来困らないようにと決めた婚約。
とにかくお金は持っている人だったらしい。
遠い遠い親戚にあたる人の友人の孫。
顔も世間一般的には、いい人だったと思う。
ただ頭の中が、お花畑だった。
この半年間で、少なくとも10回は浮気をされている。
私が指一本触れさせなかったことも、原因かもしれないけれど、これはヒドイ。
その挙句に「もう本気を出したくない、異世界に行きたい」と言い出した。
あなた、ただ単に親の遺産を受け継いだだけで、自分でお金を稼いだりしてないじゃないですか。
この半年間、本気を出しているところなんて、一度も見たことなかったですよ。
「一緒に異世界に行こう」と言われたので、丁重にお断りする。
私に悪役令嬢になれって、俺が破滅フラグ回避させてやるからって、言われたけど全然嬉しくない。
『悪役令嬢断罪イベント破滅フラグ回避カップルプラン』は、男性だけに破滅フラグ回避方法を事前に伝える。
女性の方は断罪イベントをどう回避するかドキドキ。回避させてくれた彼を惚れ直すパターン。
でも勇さん。あなたは知らないだろうけど、それうちのオフィスの商品ですから。
私、回避方法知ってますから。全然ときめきませんからッ!
それでも、他に一緒に異世界へ行く人ができたと一方的に婚約破棄を告げられた時は、やっぱりショックだった。
私には好きな人がいたから、どうやってお断りしようか、それとも諦めて結婚するしかないのか、真剣に悩んでいたのに。
悪役令嬢の断罪イベントが繰り返しループして発生している異世界への転生をまずシステムで入力する。
この悪役令嬢のイベントは、大人気で利用する人が多い。
そして破滅フラグ回避実行後、オプションプランのスローライフに適した異世界へまた転生。
入力した情報に間違いが無いか、再確認してから席を立つ。
「ケンちゃん、こちら実行お願いします」
席に戻ってしばらくすると、ケンちゃんが何か呟いた。
「え? ケンちゃん何か言ったー?」
「週末のキャンプ、楽しみだなって言った」
そう、最近私はキャンプにハマっている。
自然大好きな、ケンちゃんの影響。
見た目はインテリ系なのに、無人島に行っても自給自足できるんじゃないかと思うくらいケンちゃんは生活能力が高い。
「桃香、不便な生活に慣れておいた方がいいぞ。将来何があるか分からないからな」とキャンプに行くたびに言われた。
ケンちゃんが連れて行ってくれるキャンプ場は、自然がいっぱいでとても素敵な場所なのに、いつも人が少ない。というか、いくたびに少なくなっている気がする。
キャンプの時だけは、ひとつのテントで一緒に眠る。
もちろん、男女の関係はありませんよ。まだ、ね……。
「ケンちゃん、コーヒーどうぞ」
「ありがとう、桃香」
ケンちゃんが私に笑顔を向ける。
私の大好きな笑顔。
私の好きな人……は、今目の前で私の淹れたコーヒーを飲んでいる、ケンちゃん。
物心ついた頃には、もう好きだった。
いつもさりげなく、私の事を助けてくれる。
高校生の時、突然の雨で途方にくれていた私を一緒に傘に入れて帰ってくれたことがある。
ケンちゃんは当時、ボサボサの髪の毛に牛乳瓶の底のようなメガネ。
「どうして、そんなメガネかけてるの?」と聞くと、「女除けだ」と答える。
もったいない。眼鏡を外して髪を整えれば、かなりのイケメンさんなのに。
「ありがとう」とお礼を言った時、私はちっとも濡れていないのに、ケンちゃんの肩はぐっしょりと濡れていた。
今はもう、あのメガネはかけていない。
私の事は女として意識していないから、必要ないのだと思う。
だから私は、ケンちゃんに女性として意識してもらえるように、努力の日々。
「ケンちゃん、今度行くキャンプ場、星がすごくきれいだよね」
「ああ、そうだな」
席に戻り、いつか叶うといいなと、願いを込めて呟く。ケンちゃんには聞こえないように小さな声で。
「私、満天の星空の下でプロポーズされるのが夢なんだ」
異世界に行くことが決まった両親が、私が将来困らないようにと決めた婚約。
とにかくお金は持っている人だったらしい。
遠い遠い親戚にあたる人の友人の孫。
顔も世間一般的には、いい人だったと思う。
ただ頭の中が、お花畑だった。
この半年間で、少なくとも10回は浮気をされている。
私が指一本触れさせなかったことも、原因かもしれないけれど、これはヒドイ。
その挙句に「もう本気を出したくない、異世界に行きたい」と言い出した。
あなた、ただ単に親の遺産を受け継いだだけで、自分でお金を稼いだりしてないじゃないですか。
この半年間、本気を出しているところなんて、一度も見たことなかったですよ。
「一緒に異世界に行こう」と言われたので、丁重にお断りする。
私に悪役令嬢になれって、俺が破滅フラグ回避させてやるからって、言われたけど全然嬉しくない。
『悪役令嬢断罪イベント破滅フラグ回避カップルプラン』は、男性だけに破滅フラグ回避方法を事前に伝える。
女性の方は断罪イベントをどう回避するかドキドキ。回避させてくれた彼を惚れ直すパターン。
でも勇さん。あなたは知らないだろうけど、それうちのオフィスの商品ですから。
私、回避方法知ってますから。全然ときめきませんからッ!
それでも、他に一緒に異世界へ行く人ができたと一方的に婚約破棄を告げられた時は、やっぱりショックだった。
私には好きな人がいたから、どうやってお断りしようか、それとも諦めて結婚するしかないのか、真剣に悩んでいたのに。
悪役令嬢の断罪イベントが繰り返しループして発生している異世界への転生をまずシステムで入力する。
この悪役令嬢のイベントは、大人気で利用する人が多い。
そして破滅フラグ回避実行後、オプションプランのスローライフに適した異世界へまた転生。
入力した情報に間違いが無いか、再確認してから席を立つ。
「ケンちゃん、こちら実行お願いします」
席に戻ってしばらくすると、ケンちゃんが何か呟いた。
「え? ケンちゃん何か言ったー?」
「週末のキャンプ、楽しみだなって言った」
そう、最近私はキャンプにハマっている。
自然大好きな、ケンちゃんの影響。
見た目はインテリ系なのに、無人島に行っても自給自足できるんじゃないかと思うくらいケンちゃんは生活能力が高い。
「桃香、不便な生活に慣れておいた方がいいぞ。将来何があるか分からないからな」とキャンプに行くたびに言われた。
ケンちゃんが連れて行ってくれるキャンプ場は、自然がいっぱいでとても素敵な場所なのに、いつも人が少ない。というか、いくたびに少なくなっている気がする。
キャンプの時だけは、ひとつのテントで一緒に眠る。
もちろん、男女の関係はありませんよ。まだ、ね……。
「ケンちゃん、コーヒーどうぞ」
「ありがとう、桃香」
ケンちゃんが私に笑顔を向ける。
私の大好きな笑顔。
私の好きな人……は、今目の前で私の淹れたコーヒーを飲んでいる、ケンちゃん。
物心ついた頃には、もう好きだった。
いつもさりげなく、私の事を助けてくれる。
高校生の時、突然の雨で途方にくれていた私を一緒に傘に入れて帰ってくれたことがある。
ケンちゃんは当時、ボサボサの髪の毛に牛乳瓶の底のようなメガネ。
「どうして、そんなメガネかけてるの?」と聞くと、「女除けだ」と答える。
もったいない。眼鏡を外して髪を整えれば、かなりのイケメンさんなのに。
「ありがとう」とお礼を言った時、私はちっとも濡れていないのに、ケンちゃんの肩はぐっしょりと濡れていた。
今はもう、あのメガネはかけていない。
私の事は女として意識していないから、必要ないのだと思う。
だから私は、ケンちゃんに女性として意識してもらえるように、努力の日々。
「ケンちゃん、今度行くキャンプ場、星がすごくきれいだよね」
「ああ、そうだな」
席に戻り、いつか叶うといいなと、願いを込めて呟く。ケンちゃんには聞こえないように小さな声で。
「私、満天の星空の下でプロポーズされるのが夢なんだ」
0
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました
由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。
彼女は何も言わずにその場を去った。
――それが、王太子の終わりだった。
翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。
裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。
王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。
「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」
ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。
王子好きすぎ拗らせ転生悪役令嬢は、王子の溺愛に気づかない
エヌ
恋愛
私の前世の記憶によると、どうやら私は悪役令嬢ポジションにいるらしい
最後はもしかしたら全財産を失ってどこかに飛ばされるかもしれない。
でも大好きな王子には、幸せになってほしいと思う。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
出来損ないの私がお姉様の婚約者だった王子の呪いを解いてみた結果→
AK
恋愛
「ねえミディア。王子様と結婚してみたくはないかしら?」
ある日、意地の悪い笑顔を浮かべながらお姉様は言った。
お姉様は地味な私と違って公爵家の優秀な長女として、次期国王の最有力候補であった第一王子様と婚約を結んでいた。
しかしその王子様はある日突然不治の病に倒れ、それ以降彼に触れた人は石化して死んでしまう呪いに身を侵されてしまう。
そんは王子様を押し付けるように婚約させられた私だけど、私は光の魔力を有して生まれた聖女だったので、彼のことを救うことができるかもしれないと思った。
お姉様は厄介者と化した王子を押し付けたいだけかもしれないけれど、残念ながらお姉様の思い通りの展開にはさせない。
婚約破棄すると言われたので、これ幸いとダッシュで逃げました。殿下、すみませんが追いかけてこないでください。
桜乃
恋愛
ハイネシック王国王太子、セルビオ・エドイン・ハイネシックが舞踏会で高らかに言い放つ。
「ミュリア・メリッジ、お前とは婚約を破棄する!」
「はい、喜んで!」
……えっ? 喜んじゃうの?
※約8000文字程度の短編です。6/17に完結いたします。
※1ページの文字数は少な目です。
☆番外編「出会って10秒でひっぱたかれた王太子のお話」
セルビオとミュリアの出会いの物語。
※10/1から連載し、10/7に完結します。
※1日おきの更新です。
※1ページの文字数は少な目です。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年12月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、番外編を追加投稿する際に、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
悪役令嬢に相応しいエンディング
無色
恋愛
月の光のように美しく気高い、公爵令嬢ルナティア=ミューラー。
ある日彼女は卒業パーティーで、王子アイベックに国外追放を告げられる。
さらには平民上がりの令嬢ナージャと婚約を宣言した。
ナージャはルナティアの悪い評判をアイベックに吹聴し、彼女を貶めたのだ。
だが彼らは愚かにも知らなかった。
ルナティアには、ミューラー家には、貴族の令嬢たちしか知らない裏の顔があるということを。
そして、待ち受けるエンディングを。
【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた
22時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる