もうッみんな異世界に転生しすぎです! 悪役令嬢のおかげで婚約破棄されたので、最強の幼馴染と自由なスローライフを日常的に楽しんでいます

弓はあと

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事務員のお話

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 彼、勇さんは、親が勝手に決めた婚約者だった。
 異世界に行くことが決まった両親が、私が将来困らないようにと決めた婚約。

 とにかくお金は持っている人だったらしい。
 遠い遠い親戚にあたる人の友人の孫。

 顔も世間一般的には、いい人だったと思う。
 ただ頭の中が、お花畑だった。

 この半年間で、少なくとも10回は浮気をされている。
 私が指一本触れさせなかったことも、原因かもしれないけれど、これはヒドイ。

 その挙句に「もう本気を出したくない、異世界に行きたい」と言い出した。
 あなた、ただ単に親の遺産を受け継いだだけで、自分でお金を稼いだりしてないじゃないですか。
 この半年間、本気を出しているところなんて、一度も見たことなかったですよ。

 「一緒に異世界に行こう」と言われたので、丁重にお断りする。
 私に悪役令嬢になれって、俺が破滅フラグ回避させてやるからって、言われたけど全然嬉しくない。
 
 『悪役令嬢断罪イベント破滅フラグ回避カップルプラン』は、男性だけに破滅フラグ回避方法を事前に伝える。
 女性の方は断罪イベントをどう回避するかドキドキ。回避させてくれた彼を惚れ直すパターン。

 でも勇さん。あなたは知らないだろうけど、それうちのオフィスの商品ですから。
 私、回避方法知ってますから。全然ときめきませんからッ!

 それでも、他に一緒に異世界へ行く人ができたと一方的に婚約破棄を告げられた時は、やっぱりショックだった。
 私には好きな人がいたから、どうやってお断りしようか、それとも諦めて結婚するしかないのか、真剣に悩んでいたのに。

 悪役令嬢の断罪イベントが繰り返しループして発生している異世界への転生をまずシステムで入力する。
 この悪役令嬢のイベントは、大人気で利用する人が多い。
 そして破滅フラグ回避実行後、オプションプランのスローライフに適した異世界へまた転生。
 入力した情報に間違いが無いか、再確認してから席を立つ。

「ケンちゃん、こちら実行お願いします」

 席に戻ってしばらくすると、ケンちゃんが何か呟いた。

「え? ケンちゃん何か言ったー?」
「週末のキャンプ、楽しみだなって言った」

 そう、最近私はキャンプにハマっている。
 自然大好きな、ケンちゃんの影響。

 見た目はインテリ系なのに、無人島に行っても自給自足できるんじゃないかと思うくらいケンちゃんは生活能力が高い。
 「桃香、不便な生活に慣れておいた方がいいぞ。将来何があるか分からないからな」とキャンプに行くたびに言われた。

 ケンちゃんが連れて行ってくれるキャンプ場は、自然がいっぱいでとても素敵な場所なのに、いつも人が少ない。というか、いくたびに少なくなっている気がする。
 キャンプの時だけは、ひとつのテントで一緒に眠る。
 もちろん、男女の関係はありませんよ。まだ、ね……。

「ケンちゃん、コーヒーどうぞ」
「ありがとう、桃香」

 ケンちゃんが私に笑顔を向ける。
 私の大好きな笑顔。

 私の好きな人……は、今目の前で私の淹れたコーヒーを飲んでいる、ケンちゃん。

 物心ついた頃には、もう好きだった。
 いつもさりげなく、私の事を助けてくれる。

 高校生の時、突然の雨で途方にくれていた私を一緒に傘に入れて帰ってくれたことがある。

 ケンちゃんは当時、ボサボサの髪の毛に牛乳瓶の底のようなメガネ。
 「どうして、そんなメガネかけてるの?」と聞くと、「女除けだ」と答える。
 もったいない。眼鏡を外して髪を整えれば、かなりのイケメンさんなのに。

 「ありがとう」とお礼を言った時、私はちっとも濡れていないのに、ケンちゃんの肩はぐっしょりと濡れていた。

 今はもう、あのメガネはかけていない。
 私の事は女として意識していないから、必要ないのだと思う。
 だから私は、ケンちゃんに女性として意識してもらえるように、努力の日々。

「ケンちゃん、今度行くキャンプ場、星がすごくきれいだよね」
「ああ、そうだな」

 席に戻り、いつか叶うといいなと、願いを込めて呟く。ケンちゃんには聞こえないように小さな声で。

「私、満天の星空の下でプロポーズされるのが夢なんだ」
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