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お返しのキス

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 ぎゅっと抱きしめていた身体を少し離すと、創一郎さんは左手で私の髪を優しく撫でながら、右手をそっと私の頬に添える。
 そしてゆっくりと顔を近づけて、触れたら壊れてしまうと恐れているかのように、そっと唇を重ねた。

 目を閉じて、彼の唇を感じる。

 彼は少しずつ角度を変えて、ちゅぅ……ちゅく……と優しいキスを繰り返す。
 そしてほんの少しねだる感じに、舌先で私の唇をゆっくりと撫でてから唇を離した。

「ふっ……ぁ……」

 呼吸をするのを忘れていたかのように、息が乱れる。
 彼のキスが唇を心地よく蕩けさせるものだから、なんだか口に力が入らない。
 潤んで滲む視界の向こうに、彼の目を見る。

「これで止めようと思ってたのに。花、そんな表情かおされたら……」

 切なそうな声音が耳に届く。

 私いったい、どんな顔してるんだろう。

 その続きを考える間もなく、再び重なる唇。
 力の抜けた唇から、ヌル……と生暖かい彼の舌が這入ってきた。

 ビクッと緊張した私を宥めるように、頬を優しく撫でてくれる創一郎さん。
 手のひらの温もりが心地よくて、身体から力が抜けていく。

 口の中で私の舌を探すように彼の舌が動くから、早く見つけて欲しくて舌先で彼をつつく。
 こんな風に積極的な自分が信じられないけれど、勝手に舌が動いてしまう。
 私の頭を支える彼の左手にグッと力が入り、より深さを増して溶け合うように、くちゅくちゅと舌を絡めた。

「ぅ……ん……」

 絡めているのは舌なのに、なぜか下腹部がじゅわりと甘く疼く。

 じゅる……と舌先を吸われた瞬間、スゥッと太腿にひんやりとした外気を感じた。
 その冷たい空気の中から、さわ……と私の太腿に触れる、温かい感触。

 チラリとそちらを見ると、創一郎さんの手が、私のチュニックの裾から潜り込んでいるのがわかった。

 自分以外の手が太腿に触れるなんて、電車通学で痴漢にあった時以来。
 でも、あの時とは全然違う。
 あの時は泣きたいぐらい嫌悪感でいっぱいだったのに。
 今は……

 創一郎さんが、触れるか触れないかの感じで私の太腿を撫でるものだから、なんだかもどかしい気分になって自然と膝を擦り合わせてしまう。
 もう少し触って欲しいって、思っちゃう。

 ……知らなかった、私ってなんて恥ずかしい女なんだろう。

 もっと、もっと触っていて欲しい……

 少しずつチュニックの奥へ奥へと進んできた創一郎さんの手が、ショーツの端にかかった。
 そんな経験初めてで、ビクンと身体が強張る。
 ショーツに手をかけた創一郎さんの手の動きが止まった。

 ……?
 創一郎、さん?

 彼はグッと手を握り締めたかと思うと、バッとチュニックからその手を抜いて、有無を言わさない勢いで、右手を私の左手の指に絡めてきた。

「花、ごめん。悪さしないように、俺の手しっかり握ってて」

 わわ、これって恋人つなぎでは? なんて咄嗟に考えてしまう。
 うわ、創一郎さんの手、すごく熱い。

 行き場のない熱を逃すように、彼は指を絡めながら親指で私の手のひらを擦る。
 そしてまた貪るようなキスをする。

 口の中で舌を絡められながら、手のひらを何度も何度も擦られるものだから、なんだか頭がとろんとしてきた。
 頭はとろんとしているのに、身体はどんどん敏感になっていって、彼の舌や指が動くたびにピクッピクッと腰のあたりが動く。

「花?」

 彼が唇をそっと離して、心配そうな目で見つめてくる。
 
 ……やだ、顔、見られたく、ない。

 自分がとんでもなく淫らな表情をしていそうで、羞恥心にまみれて彼の胸元に顔をうずめる。
 そんな私の髪を、優しく優しく撫でる彼の大きな手の温もりを感じた。

「あのさ、花」
「なんですか? 創一郎さん」

 顔を彼の胸にうずめたまま、返事をする。

「婚約したって、俺の親や会社に言っても……いいかな?」

 私の実家には、創一郎さんと婚約したと言ってある。
 そうしておけば、無理な結婚話に振り回されることがないから。
 婚約者という立場で創一郎さんは私の実家に援助もしてくれているらしく、これ以上何か言ってくることはないだろう。

 創一郎さんの方には、手紙を書く叔母さんに、お付き合いしていると軽く伝えているだけ。海外に住んでいるし、そんなに影響はないはず。
 でも、創一郎さんの親御さんや会社に婚約なんて伝えたら、周りの反応や状況の変化は大きくて、何もいい事ありませんよね。

 ……それとも、本当の婚約者になる可能性が、あるってことですか?
 もし、そうなら……そうなら、私……

「もちろん花には迷惑かけないから。花は自由に誰と恋愛してもいい。その時がきたら、必ず婚約破棄するから」

 心が、ヒヤリとする。
 ……そうですよね、創一郎さんの気持ちは、婚約破棄が前提。

 何か創一郎さんに思うところがあるとしても、婚約破棄なんてあなたにデメリットが大きすぎますよ。
 創一郎さんは、社会的立場もある方なんですから、その経歴に傷がつきます。
 婚約したなんて公にして、いい事なんて……ない。

 ゆっくりと顔を上げて、しっかりと彼の目を見つめる。

「……言うのは、やめた方がいいと思います」
「……そっか」

 創一郎さんはため息交じりに呟くと、私の頭をポンポンとした。
 お姫様抱っこをして、私をそっとソファに座らせる。
 そしてふわりと優しく私を抱きしめて、私の首に顔をうずめた。

「今日も仕事があるから、花は先にお風呂入って寝てて」

 なんだか創一郎さんの声が泣きそうな感じだったけど、ここからだと表情は見えない。
 フッと頬に触れるだけのキスをして、「おやすみ」と言い創一郎さんは部屋を出て行った。
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