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5 眠れない夜
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ふと気がつけば身体中を覆うねっとりとした泥状のなにか。それは僕の身体の表層にぬるぬると張り付き探りながら中に入れるところを探っているようで、いつの間にか口を塞がれ鼻や耳の穴の奥にも侵入しようとしてくる。息ができずにただただこみ上げる恐怖心をなだめているとそれはむにゅりと僕のおしりの穴に触れてきた。もぞりもぞりと明確な意思を持って侵入してきたそれに触れられた粘膜があっという間に熱を持ち奥へと向かう導火線を伝ってさらに深いところが飢餓感を覚えだす。
(あぁそこをこねて、壊して、満たして欲しい……)
(!!)
「はぁっ!」
開いた目には何も映らず、荒い自分の息だけが静寂を乱していた。
(自分の寝室だ。大丈夫)
気持ちの悪い夢に嫌な汗をかいてしまった。首元がじっくりと濡れたパジャマを脱ぎ捨てようと引っ張って、そこでふと気づく。
隣から聞こえるはずの呼吸音がしない?と僕は慌てて隣に眠る子どもの口元に手をかざした。
この子は眠りが深すぎて時々息が止まっているのではないかと心配になる。
手のひらにかすかに触れる息にやっと安心して布団をかけ直してあげる。
暗闇に慣れた目でしばらく見つめていれば、スピスピと小さな鼻をならしもぞもぞと動き出す愛しい子。小刻みにまぶたがふるえる様子を見つめていたがどうやらまた眠りに落ちたらしい、後に続いたのは本当に静かな寝息だけ。
「かわいいなぁ」
僕はとろけるような幸せを感じながら子供を見つめる。この子は僕の子どものはずなのになぜかシオンの小さな頃とそっくりで、だから生まれてきてこの子の目の色と髪の癖が彼と同じだと分かった時にマッドサイエンティストがしでかしたんだと理解した。どういう理由かはわからないけどこの子はきっとシオンのクローンで僕のお腹の中に入れられたんだと。
じゃなきゃ彼とセックスをしたこともないのにそっくりなこの子を処女懐胎なんてマリア様でもあるまいし。ねぇ?
シオンにそっくりなこの子はショーンと名付けた。
僕は君がいればそれでいいよ。何にもいらない。
何にもいらないはずなのに。
どうしてだろう。時折身体の奥が熱くうずいてたまらないんだ。
布団を抱きしめるようにしてきつく目を閉じた。
朝はまだ遠い。
***
5年前、異能学園を卒業し僕は異能を活かして政府系の職場で働き出した。
税務関係の職場で僕が任されたのは裏金などの証拠集め。悪い人たちが集めたお金の流れを追跡したりってまぁ言うのは簡単、見つかったら危ない目に合わされちゃったりするかも?しれない?死ぬかもしれない?って感じで職場環境としてはグレーゾーンな職場だった。
もちろん守秘義務事項だらけ、家族にも友達にも誰にも僕の所在がわからないように手を回された。
何度かまずい目に合いそうになりつつOJTで先輩について仕事に慣れてきた三ヶ月め。僕は悪い人たちに捕まりボコボコにされ山の中に捨てられたことがある。
命からがらやっとのことでたどり着いた病院で告げられたのは……
「妊娠?僕が?」
「異能者といえど男性ですからね気づかなかったのも無理はないです。
まだまだ症例も少ないですし専門医にかからないといけないんで紹介状を書いておきました。
すぐにでもこちらにかかってくださいね。特別な赤ちゃんですから、お大事になさってくださいね」
先生の言葉が遠くから聞こえる。
だって僕は今まで誰ともそんなことした覚えがないんだもん!夢の中では色々やらしいことしちゃったりしたけど、僕おしりの中に赤ちゃんを育てるお部屋はあっても誰にも侵入を許してないのに。マッドな先生は僕の細胞を使った卵が入ってるって言ってた。それは受精卵じゃないから何もしてないのに命が芽生えるわけがない……
でも……もし本当に命がお腹の中にいるのなら……
「子供」
特・別・な・子供。
『絶対に守らなきゃ』
なぜかそう強く思った。誰かがこの子をさらいに来る気がして。
僕がその時感じた思いは杞憂じゃないって分かったのはショーンが生まれてから実際何度も攫われそうになったから。
どうやら最初にかかったお医者さんが僕らの情報を異能ベイビーを売り買いするブローカーに売ったらしいと分かったのは何度目かの襲撃を受けた時。警察の保護を受けた先でも襲われてそれ以来僕とシオンは二人だけで逃避行を重ねている。誰にも誰にも見つからないように。
かくれんぼスキルもこの子と逃げるあいだに強化されていって今では呼吸を止めなくても気配を悟られることはほぼなくなった。
目立たないように中規模の都会で日銭を稼ぎながら住まいを転々とする日々。どこかに腰を落ち着けたほうがショーンの教育には良いと分かっていても頼れる誰かを思いつかなくて。
友達が出来てもすぐに引っ越さなきゃいけない環境でもショーンはすくすくと育った。シオン譲りの愛くるしい容姿に物怖じをしない性格で新しい場所でもすぐに友達を作って楽しく遊んでいる。生まれたときと違って少し暗いブラウンになった巻き毛に暗いグレーグリーンの瞳は色以外は僕と初めてあった時のシオンにそっくり。
本当にクローンなのかと訝しんだことはあるけどなんせ僕とシオンは子供ができるようなことはしていないんだもの、髪と目の色のことは気になったけど考えても考えても幼い頃のシオンにそっくりすぎてやはりこの子はシオンのクローンだろうと結論付けた。
(でもこの子が本当にシオンのクローンだとしたら異能の発動まです・ぐ・)
僕はショーンのまろいおでこに張り付いている巻き毛にそっと触れる。
(シオンの異能の発動は6歳だった。この子もおそらくは幼少期に発動するはず)
だとしたら僕はこの子が異能を発動しても大丈夫なように準備をしなくちゃいけない。かわいいかわいいこの子を僕一人で守っていけるだろうか?
答えはNOだ。
シオンのご両親が手におえなかった異能初発動期のことを思えば僕一人でこの子を護りつつブローカーから逃げるなんて無茶だ。僕は隠すことしか出来ないのにショーンの異能が攻撃系なら僕に向かってその能力が暴発することだってあり得る。最悪の事態ではショーンを一人にしてしまうことだって。
そんな事になったらショーンがどれだけ傷つくかわからない。
そっとおでこにキスを落としてもショーンはピクリとも反応しない。また深い眠りに落ちたらしい。
重たい気持ちと濡れた襟元が気持ち悪くて僕はひとり寝返りを打った。
(あぁそこをこねて、壊して、満たして欲しい……)
(!!)
「はぁっ!」
開いた目には何も映らず、荒い自分の息だけが静寂を乱していた。
(自分の寝室だ。大丈夫)
気持ちの悪い夢に嫌な汗をかいてしまった。首元がじっくりと濡れたパジャマを脱ぎ捨てようと引っ張って、そこでふと気づく。
隣から聞こえるはずの呼吸音がしない?と僕は慌てて隣に眠る子どもの口元に手をかざした。
この子は眠りが深すぎて時々息が止まっているのではないかと心配になる。
手のひらにかすかに触れる息にやっと安心して布団をかけ直してあげる。
暗闇に慣れた目でしばらく見つめていれば、スピスピと小さな鼻をならしもぞもぞと動き出す愛しい子。小刻みにまぶたがふるえる様子を見つめていたがどうやらまた眠りに落ちたらしい、後に続いたのは本当に静かな寝息だけ。
「かわいいなぁ」
僕はとろけるような幸せを感じながら子供を見つめる。この子は僕の子どものはずなのになぜかシオンの小さな頃とそっくりで、だから生まれてきてこの子の目の色と髪の癖が彼と同じだと分かった時にマッドサイエンティストがしでかしたんだと理解した。どういう理由かはわからないけどこの子はきっとシオンのクローンで僕のお腹の中に入れられたんだと。
じゃなきゃ彼とセックスをしたこともないのにそっくりなこの子を処女懐胎なんてマリア様でもあるまいし。ねぇ?
シオンにそっくりなこの子はショーンと名付けた。
僕は君がいればそれでいいよ。何にもいらない。
何にもいらないはずなのに。
どうしてだろう。時折身体の奥が熱くうずいてたまらないんだ。
布団を抱きしめるようにしてきつく目を閉じた。
朝はまだ遠い。
***
5年前、異能学園を卒業し僕は異能を活かして政府系の職場で働き出した。
税務関係の職場で僕が任されたのは裏金などの証拠集め。悪い人たちが集めたお金の流れを追跡したりってまぁ言うのは簡単、見つかったら危ない目に合わされちゃったりするかも?しれない?死ぬかもしれない?って感じで職場環境としてはグレーゾーンな職場だった。
もちろん守秘義務事項だらけ、家族にも友達にも誰にも僕の所在がわからないように手を回された。
何度かまずい目に合いそうになりつつOJTで先輩について仕事に慣れてきた三ヶ月め。僕は悪い人たちに捕まりボコボコにされ山の中に捨てられたことがある。
命からがらやっとのことでたどり着いた病院で告げられたのは……
「妊娠?僕が?」
「異能者といえど男性ですからね気づかなかったのも無理はないです。
まだまだ症例も少ないですし専門医にかからないといけないんで紹介状を書いておきました。
すぐにでもこちらにかかってくださいね。特別な赤ちゃんですから、お大事になさってくださいね」
先生の言葉が遠くから聞こえる。
だって僕は今まで誰ともそんなことした覚えがないんだもん!夢の中では色々やらしいことしちゃったりしたけど、僕おしりの中に赤ちゃんを育てるお部屋はあっても誰にも侵入を許してないのに。マッドな先生は僕の細胞を使った卵が入ってるって言ってた。それは受精卵じゃないから何もしてないのに命が芽生えるわけがない……
でも……もし本当に命がお腹の中にいるのなら……
「子供」
特・別・な・子供。
『絶対に守らなきゃ』
なぜかそう強く思った。誰かがこの子をさらいに来る気がして。
僕がその時感じた思いは杞憂じゃないって分かったのはショーンが生まれてから実際何度も攫われそうになったから。
どうやら最初にかかったお医者さんが僕らの情報を異能ベイビーを売り買いするブローカーに売ったらしいと分かったのは何度目かの襲撃を受けた時。警察の保護を受けた先でも襲われてそれ以来僕とシオンは二人だけで逃避行を重ねている。誰にも誰にも見つからないように。
かくれんぼスキルもこの子と逃げるあいだに強化されていって今では呼吸を止めなくても気配を悟られることはほぼなくなった。
目立たないように中規模の都会で日銭を稼ぎながら住まいを転々とする日々。どこかに腰を落ち着けたほうがショーンの教育には良いと分かっていても頼れる誰かを思いつかなくて。
友達が出来てもすぐに引っ越さなきゃいけない環境でもショーンはすくすくと育った。シオン譲りの愛くるしい容姿に物怖じをしない性格で新しい場所でもすぐに友達を作って楽しく遊んでいる。生まれたときと違って少し暗いブラウンになった巻き毛に暗いグレーグリーンの瞳は色以外は僕と初めてあった時のシオンにそっくり。
本当にクローンなのかと訝しんだことはあるけどなんせ僕とシオンは子供ができるようなことはしていないんだもの、髪と目の色のことは気になったけど考えても考えても幼い頃のシオンにそっくりすぎてやはりこの子はシオンのクローンだろうと結論付けた。
(でもこの子が本当にシオンのクローンだとしたら異能の発動まです・ぐ・)
僕はショーンのまろいおでこに張り付いている巻き毛にそっと触れる。
(シオンの異能の発動は6歳だった。この子もおそらくは幼少期に発動するはず)
だとしたら僕はこの子が異能を発動しても大丈夫なように準備をしなくちゃいけない。かわいいかわいいこの子を僕一人で守っていけるだろうか?
答えはNOだ。
シオンのご両親が手におえなかった異能初発動期のことを思えば僕一人でこの子を護りつつブローカーから逃げるなんて無茶だ。僕は隠すことしか出来ないのにショーンの異能が攻撃系なら僕に向かってその能力が暴発することだってあり得る。最悪の事態ではショーンを一人にしてしまうことだって。
そんな事になったらショーンがどれだけ傷つくかわからない。
そっとおでこにキスを落としてもショーンはピクリとも反応しない。また深い眠りに落ちたらしい。
重たい気持ちと濡れた襟元が気持ち悪くて僕はひとり寝返りを打った。
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