死に戻り能力家系の令嬢は愛し愛される為に死に戻ります。~公爵の止まらない溺愛と執着~

無月公主

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シーズン1

34.謎の辞表

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レッドナイト公爵家の馬車が石畳を軋ませながら進み、王都の喧騒から徐々に離れていく。窓越しに見える景色は、徐々に城下町の賑わいから静かな田園風景へと移り変わっていった。馬車の中にはユリドレと秘書のゼノが座っており、二人の間に緩やかな沈黙が漂っていた。

ユリドレは深く腰掛け、無表情で窓の外を見つめていた。その視線は遠く、彼の内心を読み取ることは難しい。一方、ゼノは書類を整理しながら時折ユリドレの様子を伺っていた。

馬車が王都の門を抜け、田園地帯へ入ったころ、ゼノが書類から顔を上げて静かに口を開いた。

「うまくいきましたね、主。」

その声は淡々としていたが、どこか安堵の色が含まれていた。

ユリドレは視線を窓の外に向けたまま、わずかに唇を動かして答えた。

「あぁ、当然の結果だ。」

ゼノは微かに笑みを浮かべ、椅子に背を預けた。

「先程、スパイたちに撤収命令が下されたそうですよ。陛下が相当焦られていたとか。」

その報告に、ユリドレの目が一瞬だけ光を帯びた。彼は口元に冷ややかな笑みを浮かべながら、短く返す。

「だろうな。あの様子では限界だったろう。」

ゼノはその反応を見て、肩をすくめながらも続けた。

「やはり奥様への気持ちは本物なのですね。」

その言葉には、どこか確信を求めるような響きがあった。

ユリドレは初めてゼノに視線を向け、少しだけ眉をひそめた。

「もちろんだ。」

その声には確固たる決意が宿っており、迷いは一切なかった。

ゼノはそんな彼の様子を見て、ふっと小さく息を吐いた。

「正直なところ、私は少し疑っていましたよ。主のことですから…奥様も何かの駒かと思っていた。」

彼の声はどこか挑発的だったが、その奥には微かな敬意も感じられた。

ユリドレはその言葉に一瞬だけ鼻を鳴らし、皮肉めいた笑みを浮かべた。

「ふん、ゼノ。俺のことをよく見ているようで、何もわかっていないな。」

ゼノはそれを聞いて微笑みながらも、少しだけ肩を竦めた。

「まぁ、確かに、奥様を見ている旦那様の目はこれまでのどんな作戦の時とも違いますね。情熱的といいますか…。」

そう言いながら、彼は少しからかうような視線を向けた。

ユリドレはその言葉には答えず、再び窓の外に視線を戻した。しかし、その横顔には微かな柔らかさが宿っていた。


一方で、メイシールは執務室の机の前で6枚の辞表を前に頭を抱えていた。その整然と並べられた紙には、使用人たちの名前と共に、辞職の理由が簡潔に書かれている。だが、その言葉のどれもが薄っぺらく、どこか表面的でしかなかった。

「おかしい。急にこんなに人が辞めるなんて…何が起きたの?」

メイシールは困惑した声で呟きながら、視線を辞表に落とした。彼女の眉間には深い皺が刻まれている。普段は冷静な彼女も、この突如として現れた事態には戸惑いを隠せない。

側に控えていたミレーヌも、いつになく真剣な表情を浮かべていた。
「本当に不思議ですね。どうされたのでしょうか?どの方も突然で…。何か共通点でもあるのでしょうか。」

メイシールは目を細め、机に広げられた辞表を一つ一つ丁寧に見直す。名前や役職、提出のタイミングを確認する中で、ある共通点が頭をよぎる。

(この人たち、全員…まさか…。スパイ?)

彼女の脳裏に閃いたその言葉に、背筋が冷たくなる感覚が広がった。
(でも、何故こんなタイミングで一斉に辞めるの?これが偶然だとは思えない。)

メイシールは内心の動揺を隠しながら、さらに考えを巡らせる。
(王宮から何らかの指示が下されたのだとしたら…。そうだ、ユリは王城に行っていた。あの時に何か起きたのでは?でも、彼は何も言わなかった。ということは…彼が関与している可能性もある?)

次々と浮かぶ仮説の中で、答えが見つからず、思考は迷宮に入り込んでいく。辞表を見つめ続ける彼女の顔には、次第に疲労の色が濃くなっていた。

「ちょっと横になるわ。」
思考が渦巻く中、メイシールは疲れ果てた声でミレーヌに告げた。

「はい。畏まりました。」

ミレーヌは丁寧に頭を下げると、すぐに部屋を整え、メイシールが横になりやすいよう手配をした。

ベッドに身を沈めたまま、メイシールは微睡んでいた。その静寂を破るように、ふと頬に感じる優しい手の感触に目を覚ます。瞼を開けると、目の前にはユリドレが座っており、彼の手がそっと頬を撫でていた。

「ユリ…?」

眠たげな声で名前を呼ぶと、彼は穏やかな笑みを浮かべた。

「はい、ただいま帰りました。」

その言葉に、メイシールは目をぱちくりと瞬かせる。

「お帰りなさい。随分と早いですね。」

そう言いながら、体を起こそうとするが、ユリドレがすかさず彼女の肩を軽く押さえる。

「少し事件が起きてしまいまして、しばらくここで謹慎するよう言い渡されました。」

「……はい!?」

彼の予想外の言葉に、メイシールは驚きのあまり勢いよく起き上がろうとする。

「ダメです!」

ユリドレは慌ててメイシールの動きを制し、優しく腰に手を添えて支えた。その手つきは慎重そのもので、彼女の体を気遣う思いやりが滲んでいた。


「そんなに勢いよく起き上がったら、お腹の子に障りますよ。」

彼の言葉に、メイシールはハッとして動きを止める。

「ごめんなさい、ユリ。私、本当にびっくりしちゃって…。」
彼女の謝罪に、ユリドレは微かに笑いながら首を振った。

「こちらこそ、すみませんでした。俺ももう少し言葉を選ぶべきでしたね。」

ユリドレは彼女の額に唇を寄せ、そっとキスを落とす。その行為は静かで穏やかだったが、メイシールの胸には暖かい安心感が広がった。

「数日離れていただけで、俺はどうにかなってしまいそうなくらい辛かったです。」

ユリドレの低い声が部屋に響く。その目には真摯な思いが溢れ、彼の不安と寂しさが感じ取れた。

「そんな大袈裟な…」

そう言おうとしたが、彼の目に宿る情熱を見た瞬間、言葉が喉に詰まる。彼女の口が開きかけて止まったのを見て、ユリドレは小さく微笑む。

「どうしました?」

彼の指が優しく彼女の唇をなぞる。その触れ方は愛おしさに満ちていた。

「王城では――」

言葉を紡ぎ始めたメイシールの唇に、ユリドレの唇が覆いかぶさった。彼のキスは長く、深く、彼女の思考を塗りつぶしていく。その濃密なひとときが終わり、唇が離れると、メイシールは肩で息をしていた。

「もう少し、暴走しても?」

ユリドレは微笑を浮かべながら問いかける。その瞳はどこか期待と焦がれるような光を宿していた。

「う…そんな顔で迫られたら…断れないです…。」

恥ずかしさのあまり、メイシールは顔を横に向ける。だが、その瞬間、ユリドレが彼女の顎を軽く持ち上げ、視線を自分に向けさせた。

「その瞳に俺以外を映さないでください。」

彼の声は低く、深い独占欲が込められていた。

(ん~~~~~~~~~! よくそんな言葉が出てくるわね!?)

内心で叫びながらも、彼女はその言葉に返事を迫られる。

「メイ、返事は?」

彼の問いかけに、メイシールはどう答えようか迷ったが、素直に返せば彼の独占欲が加速する気がして、言葉を濁した。

「…善処します。」

「まぁ、良いでしょう。」

ユリドレは満足したように微笑み、彼女をそっとベッドに押し倒した。

彼は片手でジャボを取り外し、胸元を開けた。その姿を見たメイシールの頬が赤く染まる。
(聞きたいことはたくさんあるのに…。でも、この暴走を抑えない限り、それらを話すのは無理ね。)

ユリドレの手が優しく彼女の髪を撫で、もう片方の手がそっと彼女の背中を支える。二人は静かな夜の中で、互いの愛を確かめ合うように、深く抱き合った。
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