死に戻り能力家系の令嬢は愛し愛される為に死に戻ります。~公爵の止まらない溺愛と執着~

無月公主

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シーズン1

64.山積みな招待状

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「お義兄様…」

ユリはゆっくりと立ち上がり、落ち着いた足取りでシリルお兄様に歩み寄った。その姿には、一切の敵意や焦りはなく、むしろ静かな威厳すら漂っていた。

「メイを守るためなら、どんな犠牲も惜しくはない。俺の行動は恐らくですが、正しいのでは?」

その言葉に、シリルお兄様は少し目を伏せ、深く息を吐いた。疲れた表情の中に、わずかな後悔と迷いが見え隠れしている。

「そういう意味では正しいな。すまない。また無礼を働いてしまった。気が動転しているんだ。」

彼の言葉に、ユリは静かに微笑んだ。その笑顔は、挑発でも勝利の表情でもなく、ただ相手を受け入れる穏やかなものだった。

「でしょうね。お義兄様が必要としている件は両親とも話はついています。どうされますか?」

シリルお兄様は一瞬動揺したように目を見開いたが、すぐに険しい表情に戻る。そして、ユリを鋭い目で見据えた。

「待て、ユリドレ・レッドナイト。あまりにも知りすぎている。知っていることを全て話せ。信用できない。」

その強い言葉にも、ユリは微動だにせず、穏やかな態度を崩さなかった。

「良いでしょう。ですが、明日でもよろしいですか?」

「…何故だ。」

「お疲れでしょうし、少し頭を整理されたほうが良いですよ。俺は逃げませんよ。」

その冷静な返答に、シリルお兄様は少し肩の力を抜いたように見えた。そして短く「…わかった。休ませてもらおう。」と応じた。

ユリが手で軽く合図を送ると、待機していた使用人が現れ、丁寧な仕草でシリルお兄様を別の賓客室へと案内していった。その背中を見送りながら、私は胸の奥に言いようのない不安が広がるのを感じた。

そして、自室に戻った私たちは、ベッドの上に腰を下ろしていた。ユリが隣で黙って座っていると、その温かい存在が私を安心させてくれる。けれど、私はどうしても気になってしまい、彼に問いかけた。

「ユリ、どうしてそんなにお兄様のことを知っているの?」

彼は私の手を握り、穏やかに微笑んだ。その笑顔には、全てを包み隠そうとする意図があるのが分かった。

「ん?メイを…いや、ブルービショップ家を相手にしているから、何通りもの可能性を考えて慎重に行動しているだけですよ。そのうちの1つが的中したまでです。」

彼の答えは曖昧だったけれど、その言葉に込められた確信に、私はそれ以上追及することを躊躇した。

「ユリ、疲れない?大丈夫?」

私が心配そうに尋ねると、彼はさらに微笑みを深め、私の手をそっと引き寄せた。

「メイが側にいる限り、俺は疲れを知りません。」

その言葉に胸がじんわりと温かくなる。こんなにも私を大切に思ってくれる彼の存在が、私の全てを支えているのだと改めて感じた。

「そう?私にできることがあったら何でも言ってね?」

その瞬間、彼は一瞬だけいたずらっぽい笑みを浮かべた。

「なら、今癒してもらっても?」

突然、ズイッと距離を縮めてきたユリの顔が、ほんの数センチ先にある。鼻が触れそうなほどの近さに、私の頬が一気に熱くなる。

「え!?今から!?」

「正直、途中で邪魔されて腹が立っておりまして。それに今“何でも”と…。」

その表情は冗談半分のように見えて、目には本気の色が宿っている。

「ず、ずるいわ!ユリ!!だから、その顔で言われたら断れないって…。」

気づけば、ユリの手が私の肩に触れて、そっと押し倒されていた。彼の瞳には、私への愛情と情熱が溢れていて、私はただその感情を受け止めるしかなかった。

「母上に感謝しないといけませんね。」

彼の言葉に、私は困惑しながらもユリの行動に引き込まれていった。部屋の中に広がる静かな夜の空気が、私たちを優しく包み込んでいた。

――――――――
―――――

翌日、目が覚めると昼過ぎだった。

カーテンの隙間から柔らかな光が差し込み、私はまどろみの中でゆっくりと目を開けた。少しぼんやりした頭でベッドから起き上がり、部屋を見渡す。すると、目に飛び込んできたのは、ルーと遊ぶユリの姿だった。

ユリは小さな木の積み木を使って塔を作り、それをルーが嬉しそうに壊している。そんな二人の穏やかな光景を見て、私は思わず微笑んだ。すると、ユリがすぐに私に気づき、柔らかな声で言った。

「おはようございます、メイ。」

その声に続いて、ルーが少しつたない言葉で「おあよー!ままー!」と嬉しそうに叫んだ。その愛らしい声が胸に染み渡る。

「おはよう、ルー。ユリ。」

私も自然と笑顔になりながら返事をする。しかし、次の瞬間、ふと昨夜の出来事が頭をよぎり、胸の奥がドキッとする。

「って!お兄様とお話する約束は!?」

慌ててそう叫ぶと、ユリはまるで予想していたかのように穏やかな笑みを浮かべた。

「すみません、メイがあまりにも気持ちよさそうに眠っておりましたので、朝のうちに済ませてしまいました。」

「えっ、もう話したの?それならどうして起こしてくれなかったの?」

私は少し焦ったように問いかける。兄との重要な話し合いを自分が見逃してしまったことが、妙に落ち着かない。

「メイが昨晩の…少し激しくしてしまったので、疲れているのはわかっていましたし、シリル様もそれを理解しておられました。お話は無事に終わりましたので、心配はいりませんよ。」

ユリの声は優しく、まるで全てが問題なく進んでいると確信させるかのようだった。その言葉に、少しだけ安堵しながらも、何となく腑に落ちない気持ちが残る。

「お兄様はなんて?」

「感謝をされました。」

「それだけ?」

「はい。」

ユリの簡潔な答えに、何か物足りなさを感じながらも、それ以上の追及は控えるべきだと直感的に思った。

「そう…。でも、やっぱり私も聞きたかった。」

「大丈夫ですよ、メイ。お義兄様はしばらくこの家で療養されるようですから、いつでも話す機会はあります。それに、今日もいくつか予定があるでしょう?」

「そうね。」

ユリの冷静な言葉に、再び安心感が広がった。そして同時に、彼が常に私たちのことを考え、先回りして行動してくれていることが伝わり、感謝の気持ちが湧き上がる。

「わかったわ。でも、本当に無茶はしないでね。もう私はユリ無しじゃ生きていけないんだからね!」

そう言うと、ユリは嬉しそうに微笑み、私の手をそっと握り返した。その笑顔を見ると、胸がじんわりと温かくなる。

「この笑顔を守りたい」――そんな思いが自然と湧き上がる。

私は改めて、これからやるべきことに心を向けた。ルーの未来を守るためには、今の幸せに甘んじるだけではいけない。社交界に出て、しっかりとルーの後ろ盾を固めなければならないと、強く心に誓った。


昼食を終えた後、ユリとルーが遊んでいる声を背に、私は書斎に腰を下ろし、机に山積みされた招待状の束を見つめた。封筒の色や装飾はさまざまで、それぞれの送り主がどれほど力を入れているかがうかがえる。私はその数の多さに気が遠くなる思いだった。

「これ、全部私宛なのね。」

呟きながら、一つ手に取り、中身を確認する。きらびやかな金箔の文字が目に飛び込むが、内容は「ぜひお越しください」という型にはまった文面。それでも送り主の名が、各界の名士や貴族たちで埋め尽くされているのを見て、私はため息をついた。

「メイ、あなたの存在は今や注目の的ですからね。」

ユリが書斎のドア枠に寄りかかりながら言った。その言葉には軽い調子を装いつつも、誇らしさが滲んでいるのがわかる。

「う…過去の自分が憎い。」

つい本音が漏れる。前世では名家の娘として育った経験が、今や完全に裏目に出ている。社交界における立ち回り方を知っていることが、かえって自分をこの状況に追い込んでいるように感じた。

「俺がちゃんと付き添いますから、そんなに気構えなくても良いですよ。茶会も俺が透明になって側についています。」

ユリがそっと私の肩に手を置き、優しく微笑む。その言葉に少し救われる気持ちになったが、同時に苦笑も浮かんだ。

「ユリ、それって、私に誰かが意地悪しないように監視するってこと?」

「もちろんです。あなたに嫌な思いをさせる者は許しませんからね。」

その真剣な表情に、思わず頬が緩む。ユリの過保護とも言える態度は、時に呆れるけれど、確かな愛情が伝わってくる。

「まずはどれから行くべきかしら…?」

私は積み上げられた招待状の中から、いくつかを手に取って内容を確認した。送り主の名前を見て、日程を確認する。あまり気の乗らないものもあれば、興味を引かれるものもある。

「お茶会や小規模な集まりに順次出席すればいいと思います。」

ユリが冷静に助言する。彼の言葉は的を射ていて、私の考えを整理してくれる。

「そうね。大規模なパーティーより、まずは小さな集まりから慣らしていったほうがいいかもしれないわね。」
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