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第十話【なんてお優しいのかしら、惚れてしまいますわぁ~~~~~!!!】
しおりを挟むスッとアナスタリアの目の前からエルメラルダが消えた。
「行ってしまったか。」とテーブルに肘をつき、口元で手を組み微笑むアナスタリア。
「追いかけましょうか?」とウリュウが問う。
「いや、どうせ自室だろう。いいんだ…もう。彼女は全くの別人だ。」
「畏まりました。」と頭を下げるウリュウ。
エルメラルダは自室のベッドの上に置かれていた。
ずっと泣いていた。影はそれでもドアの近くでじっと立っていた。血が出るほど拳を握りしめて。
夕方、やっとヒスイが帰ってきた。
「エル、エルにとても似合うドレスが・・・。」と嬉々としてエルメラルダの部屋に入ってくるヒスイだが、エルと影の異変に気付いて直ぐに近寄る。
「エル、どうしました?」とベッドに座り布団にくるまって泣きじゃくるエルメラルダの布団をはいで顔を見ようとする。
「エル?何がありました?」と優しくガラスを扱うように声をかけるヒスイ。
「ヒ…ス・・・うっ・・・うっ・・・わ・・・わたしっ・・・」とようやくエルメラルダが少しだけ顔を上げたので、さらっと唇を奪うヒスイ。泣き止むまで長いキスを落とした。
「泣き止んだ?」と今にも唇と唇が触れてしまいそうな距離で優しく呟く。
「……うん。」と言うが、まだ思い悩んでそうな顔が残る。
「何があったか…聞いても良いですか?」
「アナスタリア様は…エルメラルダの事が好きで、好きで、好きで、この世の誰よりも愛していた事がわかっちゃって…。相思相愛だったのに…私が…それを…壊したの。」と再び目から涙が流れる。
「でも、もうエルメラルダは君なんですよね?」と優しい声で優しくエルメラルダの頭を撫でるヒスイ。
「……私のせいで…もう、どこにも…いない。」と今にも消え入りそうな声のエルメラルダ。
「代々雷属性を継ぐサルバトーレ家には古い言い伝えがあります。【雷 その身に宿す時 時空へ旅立たん】知っていますか?」
「うん、覚えてる…サルバトーレ家の庭にその言葉が刻まれた石碑があった。」
「自分の仮説…ですが、言葉通り、元のエルメラルダはその身に雷を宿して時空へ旅立ったんだと思います。過去か未来かで。」
「どうしてそんな…。」
「エル、乙女ゲーム【ウルコク】で、アナスタリアを攻略した時、エルがどうなったかわかりますか?」
「エルメラルダは最後…断罪され…て、国外追放されたはず…。」
「昔のエルはそれに耐えられたと思いますか?」
「耐え…られないかも。だって…エルメラルダはずっと抑えきれない癇癪を持ってて…私が前世を思い出した途端に消えちゃったけれど…確かにあったの抑えきれないほどのモヤモヤが。熱くて熱くてどうにかなってしまいそうなくらいのモヤモヤが。」
「当時はあまり気にしてなかったんですけど、というよりもヒトというものに全く興味を持てなくて、最初にエルを見かけたのはサルバトーレ宰相が1歳くらいのエルを抱いてお父様に謁見した時です。当時、自分はまだ3歳でしたがハッキリと覚えています。とても魔力が強そうな子だった事を。兄上がエルを見るようになってから魔力欠片も感じなくなってしまいました。何か心当たりありませんか?」
「心当たり…ごめん、上手く思い出せないかも。
「なら、話を聞きに行きましょう。そうですね…エルの御兄弟に。」
「兄様に?…でも、こんな顔じゃ…。」と俯くエルメラルダ。
「今なら…上手く使えそうです。」と目を閉じて笑って、自分のデコをエルメラルダのデコにくっつけて、エルメラルダの両手を両手で持ち、黄金の光を放つヒスイ。エルメラルダの泣きはらした目がスゥっと治ってゆく。
「ヒスイ…。」と呟きながら顔を上げるエルメラルダ。すると今にも唇がくっついてしまいそうな距離になってしまう。
「本来使えない魔法も、エルを癒してあげたい気持ちでいっぱいになって行使することができました。エルの涙が…自分の為のものだと思うと嬉しくて…嬉しくて…不謹慎ですね。」
エルメラルダは自ら唇をくっつけた。ヒスイは一瞬大きく目を見開いて驚いたが、直ぐに目を閉じた。唇が離れると、エルメラルダは薄っすらと微笑んだ。
エルメラルダ本人も思い悩んでいた。たった数日でヒスイの事しか頭にない自分。何年もアナスタリアに寵愛されていたのに、出会ったばかりのヒスイに心を完全も持って行かれてしまっている自分。
ヒスイの言う通り、あの涙は………罪悪感だ。そう思ってしまったエルメラルダは言葉を何も発しなかった。
「行きましょうか。」と言ってパチンと指を鳴らせば、影が二人の方を持ってワープした。
ワープ先はサルバトーレ侯爵家の門前だった。
「こ、これはヒスイ殿下!!」と門番が驚く。
「エルメロイ・サルバトーレに用事があります。」と少し挑発的に微笑むヒスイ。
「はっ!今連絡を…。」と門番が言えばコツコツと足音が聞こえて「その必要はない。」と声が聞こえた。
「何用でございますか。ヒスイ第四王子。それとも王子殿下とお呼びしたほうがよろしいですか?」と真顔で問うのはエルメラルダの兄、エルメロイ・サルバトーレだ。長い金髪をポニーテールし、雷属性の名門らしい紫色の瞳。
「…あ。最近殿下って呼ばれたりするのはもしかして、自分が動き回ってるからですか?」ととぼけたような顔で問う。
「え…。時期国王の座をアナスタリア様と争ってるのでは?」と流石に片方の眉毛をうねらせて少し汗をかくエルメロイ。
「そんなつもりで動いてるわけじゃないですよ。エルとのデートが毎日忙しくて。それに、兄上と自分が争っても自分が勝つだけなんで、今から争うだけ無駄ってもんですよ。」
「では、何用でございますか?」
「ロイお兄様、お久しぶりです。とりあえず中に入りませんか?」とエルメラルダ。
「は?…………お前本当にエルか?」と、とうとう動揺のあまりうろたえるエルメロイ。
「えっと、そ、そうですわ!!早く中に入れてくださいまし!!」と、兄との会話を思い出しながら再現して喋るエルメラルダ。
「ヒスイ王子、まさかとは思いますが人体実験に手を出しましたか?」と青い顔をしてヒスイに問うエルメロイ。
「失礼な。まぁ、自分とぶつかって(お尻の)打ちどころが悪くてぶっ倒れて、そのまま高熱で数日寝込んでたんで、頭のネジ一本や二本外れててもおかしくはなさそうですけど。」
「ふむ。中へ案内しよう。」
エルメロイはなるべく丁寧にサルバトーレ家の客室へと案内する。
「で、本題は?」と椅子に座るなりエルメロイは質問する。
「エルはいつから魔力を失いましたか?」とド直球に聞くヒスイ。
すると少し沈黙してから、軽く溜息をついてエルメロイが舌をベッと出した。そこにはアナスタリアの魔法痕が焼きついていた。ヒスイはそれを見て右手指先に雷、氷、風、地、火の属性の光を灯して、左手をだしてその中に小さな黒い玉を作り出し、そこに属性の光を注入すれば玉は消えてキラキラの光になって、それ中指に灯し、席を立って、エルメロイの近くへより、出していた舌を右手で引っ張って持ち、魔法痕のあるところ左手中指を押し当てれば、魔法痕が消え去った。
「カハッ!!!王子じゃなければ殺していたぞ!!」と喉を抑えるエルメロイ。
「呪いが消えて良かったじゃないですかぁ。どうせ幼い頃に飴だとかなんかいわれて口に入れられたんじゃないですか?」と頬杖をついて椅子に座った。
「うっ、何故それを知っている。」と焦るエルメロイ。
「さて、お待ちかねの本題です。エルはいつから魔力を失いましたか?」とヒスイは真剣な顔をしてエルメロイに問う。
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