囚われの公爵と自由を求める花~マザコン公爵は改心して妻を溺愛する~

無月公主

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20.崇められる愛

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翌朝、サクレティアはベッドの上で天井をじっと見つめながら、まるでボクシングで燃え尽きた選手のように、深いため息をついた。髪は乱れ、体は脱力し、彼女の頭の中では、昨夜の出来事がぐるぐると渦巻いていた。

《……やっちまった……ぜ……》

彼女はぼんやりと自分に呟きながら、もうどうにでもなれと心の中でつぶやいた。まるでリングで最後のパンチを受け、完全にダウンしたボクサーのように、全ての力を使い果たしてしまった感覚だった。

「こんなはずじゃなかったのに……」サクレティアは反省しながら、昨夜の自分の言動をひとつひとつ思い返して、さらに後悔の念に襲われた。

《クレノースは契約書をビリビリに破りやがったし……私はなんでそれを止められなかったんだ……!?》

彼女は布団の中で身を縮こませ、完全に現実逃避モードに突入していた。

「……やっちまったぜ……」と、もう一度自分に言い聞かせるように呟きながら、彼女はぼんやりと天井を見つめ続けた。《これからどうするのよ、私……》

そんな時、寝室の扉がそっと開き、侍女たちが気を使いながら静かに入ってきた。彼女たちは、まるで爆発寸前の火薬を扱うかのようにサクレティアの様子を伺いながら、ケアの準備を進めた。

「奥様、お加減いかがでしょうか…?」侍女の一人が恐る恐る尋ねた。

サクレティアは、ベッドの中でぼんやりとした顔をして横たわったまま、内心では《いや、マジで……やっちまった……》と反省しつつ、何とか冷静を装って「ええ、大丈夫よ…たぶん…」と答えたが、その声はやや力なく響いていた。

その時、クレノースがゆっくりと目を覚まし、彼の独特な崇拝の視線でサクレティアを見つめた。狂気を秘めた瞳で彼女をじっと見つめながら、彼は優しく囁いた。

「サクレティア様、もう少し休んでいてもよろしいのですよ。昨夜はお疲れでしょうし……」

クレノースのその言葉に、サクレティアは苦笑しながら内心で思った。

《お疲れでしょうって、そりゃああんたのせいでしょうが!》

「えっと、休んでいられないのよ、クレノ。公爵家の執務が……ええっと、何日だっけ……そう、17日も滞っているから、大変だし、それにキースにも会いたいし……」

「おっしゃる通りです、サクレティア様……愛の結晶であるキースは、このクレノにとっても何より大事な存在でございます。僕もすぐに準備をいたします!」

彼はすぐさまベッドから抜け出し、顔を洗い、身支度を整え始めた。その動きは無駄がなく、彼が完全にサクレティアのために行動しているのがはっきりとわかる。

一方で、サクレティアはクレノースのその動きに驚きを隠せず、内心で《ちょっと待って、なんでそんなにテンション高いの!?》と混乱していた。表情には出さないようにしながらも、心の中では困惑と戸惑いが交錯していた。

《何がどうなってるのか、さっぱりわからないんですけど!》

サクレティアは自分でも理解しきれない状況に呆れつつ、仕方なく自分も準備を整え始めた。何とか冷静を保とうと努力しながらも、クレノースの異常なまでの献身ぶりには、どうしても笑いを抑えられなかった。

「クレノ……様、いや、クレノ……とにかく、ちょっと落ち着いてもらってもいいかしら?」サクレティアは、なんとか話を逸らそうとしながらも、クレノースの狂ったような愛情に戸惑い続けた。

しかし、クレノースはまったく意に介さず、満面の笑みでサクレティアを見つめ、「はい、サクレティア様……すぐに参りましょう。すべてはあなたのために……」とまるで儀式のように丁寧に言い、彼女の手を取った。

「どうして急に変わるの? 前まではもっと普通だったじゃない……」サクレティアは、目の前の彼がまるで別人のように変わってしまったことに、疑問を隠せずにいた。

クレノースはその言葉に、少しだけ目を伏せた。彼の口元は依然として笑みを保っていたが、その奥には、言葉にできない苦しみが潜んでいるようだった。数瞬の沈黙の後、彼はゆっくりと口を開いた。

「……サクレティア様、あなたは、僕のすべてです。あなたは、僕が失ったもののすべてを補ってくれる……それ以上の存在なのです。」

彼はサクレティアの手を少し強く握り、続けた。「僕は……もう、あの過去から逃れることができない。母上に従ってきたこと、そして……最終的に自分の手で、母上を……」そこまで言いかけて、彼の言葉が途切れた。彼はサクレティアの目を見つめるが、やがて視線を外し、痛々しい沈黙が漂った。

「それなのに……あなたは、公爵家を支え、僕を支えてくれている。それが、どれほどありがたいことか……あなたの強さ、優しさ、すべてが、僕にはもったいなさすぎる存在なんです。」クレノースの声には、感謝を超えた崇拝の色が混じっていた。

「だから……」彼は、再びサクレティアを見つめ、その瞳には強い決意が宿っていた。「もう、僕はあなたを崇めるしかないのです。あなたは……僕にとって、唯一の光ですから。」

サクレティアはその言葉を聞きながら、内心で困惑を隠しきれなかった。クレノースが抱える苦しみや罪悪感、そして母親との歪んだ関係――彼がすべてを飲み込み、その中で自分を唯一の救いと見ていることが、どこか狂気じみていて、理解しがたいものだった。

《仕方ない……しばらく、様子を見るしかないわね……》

彼女はそう心に決め、クレノースに向かって微笑みを浮かべた。だが、その微笑みの裏には複雑な感情が隠されていた。
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