囚われの公爵と自由を求める花~マザコン公爵は改心して妻を溺愛する~

無月公主

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29.異世界の秘密

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夜、クレノースは穏やかな微笑みを浮かべながら、サクレティアの育てた作物を眺めていた。彼の背中からは、心の安らぎが感じられるような静けさが漂っていた。そんな彼の姿を見て、サクレティアは自然にそっと後ろから抱きしめた。

「うわぁっ!?」クレノースは、これまでに聞いたこともないような驚いた声をあげた。

「あ、ごめん。驚かせちゃった?」サクレティアは軽く笑いながら、腕をゆっくりと緩めた。

クレノースは、顔を真っ赤にしながら、少し戸惑った様子で言葉を探していた。「い、いえ……でも、まさか……こんなふうに、抱きしめていただけるなんて……思ってもみなくて……」

その言葉を発しながら、クレノースの瞳からは涙がこぼれ始めた。サクレティアは彼のそんな姿を見て、思わず優しく微笑んだ。そして、再びクレノースをそっと抱きしめ、彼の頭を優しく撫でた。

「よしよし、泣くのか照れるのか、どっちかにしておこうね。」サクレティアは冗談めかして優しく諭した。

クレノースは涙を拭きながら、頷いた。「すみません……自分でもどうしたらいいのか、わからなくて……あなたの優しさに触れると、胸がいっぱいになってしまうんです……」

サクレティアはそんな彼の言葉に頷きながらも、心の中でふと笑ってしまった。彼が変わってしまったことも、そして自分が彼を支え続けていることも、もう彼女にとっては日常の一部になっていたのだ。

「クレノ、これからも一緒に頑張っていこうね。私たちはもう家族なんだから、いつまでもこんな感じで一緒にいられるわよ。」サクレティアは彼にそう言いながら、彼の背中に手をそっと当てて、そのぬくもりを感じ取った。

クレノースは涙を流しながらも、幸せそうに微笑んで、彼女の言葉に深く頷いた。「はい……サクレティア様、これからもずっと……あなたと一緒に生きていきます。」

サクレティアはクレノースと共にベッドに横たわりながら、ぼんやりと天井を見つめていた。クレノースの温かな存在感が隣で感じられるけど、ふと、彼女は心の中でつぶやく。

《段々重くなってきた……!!》

頭の中でため息をつき、彼女はそっと頭を抱えた。クレノースの深い愛情はありがたいけれど、最近はその重さに押しつぶされそうな瞬間が増えてきた気がする。まるで崇拝される対象にされているような毎日。彼がいるのは心強いけれど、どこかで息が詰まる。

《そもそも……私、異世界転生したわけだけど……ここも誰かの物語の中だったりするのかな。前世では異世界転生系の小説や漫画をたくさん読んでたなぁ……。なんだか、あの世界と似ているところがあるし、こういうパターン、よく見た気がするんだけど……》

考えれば考えるほど、自分がどこかのストーリーの中にいるのではないかという疑念が浮かんでくる。だが、次の瞬間、彼女は小さく笑いながら思う。

《まぁ、でもクレノには恩があるしね……。助けてもらったし、自由もくれた。これくらいの重さなら、まだなんとかやっていけるかな。》

その思考の合間に、クレノースが静かに囁いた。

「サクレティア様、もしかして眠れないのですか?」

「え?あぁ、ごめん。気付かれちゃったか。」

クレノースは優しく微笑んで、少し得意げな顔をして答えた。

「僕ほどの者になると、サクレティア様の呼吸だけでわかります。」

その言葉に、サクレティアは一瞬固まり、冗談半分で思わず内心でツッコんだ。

《き、気持ち悪い……でも、冗談っぽく返しとこ。》

「そ、そう……それ、ちょっと気持ち悪いわね。でも、ありがとう。」

クレノースはまったく意に介さず、微笑を浮かべたままだ。サクレティアはふと、今まで心に抱えていた秘密を話そうかと思った。この瞬間が、もしかしたら彼を少しでも楽にできるかもしれない。

「ねぇ、クレノ。良い機会だから言っておこうかなって思うの。」

「何をですか?」

クレノースは彼女の顔を真剣に見つめながら聞いた。サクレティアは一瞬ためらったが、覚悟を決めて続けた。

「私の知識のこと。」

「サクレティア様の……発明した数々についてでしょうか?」

「うん、そう。実はね……私、異世界からこの世界に転生してきたの。」

その言葉にクレノースは全く動じることなく、むしろ彼女の話にさらに耳を傾けるようにして続けた。

「まぁ、信じられないでしょうけど……。」

「いえ、信じますよ。サクレティア様のお言葉に、疑いを持つことなどありません。続きを聞かせてください。」

サクレティアは少し驚きながらも、話を続けることにした。

「そう……それで、私が公爵家に来てから発明したり、服をデザインしたりしてきたけど……正直に言うと、全部元の世界にあったものなの。それをさも自分が1から作ったみたいにふるまってた。……私も、ある意味で悪いことをしているのよ。」

彼女の言葉には、少しの後ろめたさが込められていたが、クレノースはそれを聞きながら、彼女に対する尊敬の念をますます深めるばかりだった。

「サクレティア様……それでも、あなたは私を救ってくださいました。何が元の世界にあったものであれ、この世界でそれを形にしたのはあなたです。私は、どんなことがあっても、あなたを信じています。」

サクレティアはクレノースの言葉に少し戸惑い、頭の中で《あれ?逆に励まされてる……?》と考えながら、どう返事をするべきか悩んだ。

「うーん……だからね……えーっと……」サクレティアは言葉を探しながら、何とか説明しようとしたが、クレノースはすでに別の方向に考えを巡らせていた。

「しかし……それほどの知識をお持ちなら、ボーン伯爵に打ち勝てたのでは?もしくは……家を出ることも……」彼の言葉は少し途切れたが、サクレティアの反応を見て何かに気付いたように口元を引き締めた。

「……あぁ、そうですか……無理……ですよね。僕にはわかります……あなたも、耐えがたい痛みを与え続けられてきたのですね……」

クレノースの声は静かだったが、その言葉には深い共感と理解が込められていた。彼は自分の過去の苦しみとサクレティアの苦しみを重ねて考えているのだろう。サクレティアは一瞬驚きながらも、彼の誤解を解こうとしつつも、優しさを感じて微笑んだ。

「そういうわけじゃないんだけど……クレノ、ありがとう。でも、私の苦しみとはちょっと違うのよ。ただ、ね……いろいろあって……本当に家を出るのは無理だったっていうか……」サクレティアはあいまいな笑顔で返しながらも、どうにもならなかった過去を振り返っていた。

クレノースはじっと彼女を見つめながら、さらに言葉を紡いだ。「サクレティア様、どうかご自身を責めないでください。あなたは強く、そして優しい方です……だからこそ、今こうして僕のそばにいてくださる。」

その言葉を聞いて、サクレティアは少し驚きながらも、彼の真摯な気持ちに少し心が温かくなるのを感じた。そして、彼の過剰な崇拝にも慣れてきた自分に気付いて、苦笑いを浮かべた。

「ありがとう、クレノ。でも、もう少し普通に接してもらえたら嬉しいんだけどな……」

「普通ですよ。」クレノースはきっぱりと言った。

サクレティアは眉をひそめ、軽くため息をついた。「ほら、キースの前では私のこと『サク』って呼んで、普通に接してくれてるじゃない。」

クレノースはその言葉に苦笑しながら、「うーん、あれは正直、心が痛いのです。サクレティア様と同等なふりをするのは……疲れます。」

「はぁ?最初に出会ったとき、あなたはクールでツンケンしてて、冷酷非道な感じだったじゃない。」サクレティアは少し強めに返した。

クレノースはサクレティアの言葉に一瞬考え込むような表情を見せたが、次の瞬間、彼は突然がばっと身を乗り出し、彼女の上に覆いかぶさった。サクレティアは驚いて息を飲む。

「クレノ……?」

彼は微笑を浮かべながら、彼女の顔を近づけた。そして低く囁いた。

「あの時と今、何が違うのか……よく確かめてください。」

その言葉と共に、彼の手がゆっくりとサクレティアの髪をなでるように滑り落ち、彼女の心臓がドキリと高鳴った。彼の瞳は、まるで彼女を逃がさないと言わんばかりに強く見つめていて、サクレティアはその圧倒的な存在感に心の中で混乱しながらも、彼の抱擁から抜け出す術を見失っていた。

彼の手が彼女の背中に回され、彼の呼吸が耳元で感じられるたびに、彼の意図がひしひしと伝わってきた。サクレティアは瞬間的に状況を理解し、そのまま身を彼に委ねた。
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