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49.バレンティル家にまた一人
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サクレティアの妊娠八ヶ月目を迎えた頃、情緒が不安定な「ガルガル期」が訪れた。彼女は普段の冷静さとは打って変わって、どこか些細なことでも敏感に反応してしまうことが多くなった。
ある日、クレノースが少し外に出る支度をしていたとき、サクレティアがその姿を見つけて眉をひそめた。「どこに行くの?」と、目を細めてじっと見つめてくる。
「すぐに戻ってきますよ、サクレティア様。ただ少しだけ屋敷の外に確認をしに行くだけで…」と、クレノースが軽く手を振って安心させようとするが、彼女の表情は一向に和らがない。
「でも、今は私と赤ちゃんのそばにいるべきじゃないかしら?何かあったら…って考えると、やっぱりそばにいてくれないと…」と、サクレティアはさらに不安そうに言い募る。そんなサクレティアの様子を見て、クレノースは少し寂しそうに微笑んだ。
《キースの時も、こんな時期があったのだろうか…》と彼はふと思った。キースを妊娠していたとき、彼は母親マリアベルに閉ざされていて、サクレティアの心の支えになることはできなかった。今の彼は、それを取り返すかのように、彼女のそばにいてあげたくて仕方ないのだ。
クレノースは温かな目でサクレティアを見つめ、「おっしゃる通りです。大丈夫ですよ、ずっとそばにいます」と言って彼女を安心させた。
その後も、サクレティアが情緒の波に揺られるたびに、クレノースはむしろ嬉しそうに微笑み、彼女に寄り添い続けた。サクレティアがクレノースを拒絶して距離を取ろうとしても、「いいえ、絶対に離れません」と断固とした態度で、常にサクレティアのそばを離れない。サクレティアが少し落ち着いた後も、クレノースは気配りを欠かさなかった。
彼は一緒にいてあげるだけでなく、サクレティアが見えるところで筋トレを始めるなど、彼女が常に気配を感じられるように工夫していた。重りを持ち上げては、サクレティアのほうをチラリと見て微笑む姿には、つい彼女も笑わずにはいられない。
さらに、クレノースは彼女が執務中に窓から見える庭で、剣術や武道の訓練を行うようになった。庭の真ん中で見事な剣さばきを見せるクレノースの姿には、サクレティアも感心しながら見入ってしまう。「うまく気分転換になってくれるといいのですが…」と、彼は心の中でひそかに思っていたのだった。
サクレティアの妊娠が進む中、日々の体調が少しずつ安定し、彼女はクレノースと過ごす穏やかな毎日で気持ちを整えていった。クレノースもまた、サクレティアに寄り添うことが当たり前のように自然になり、その心遣いが日常の風景として根付いていった。彼はあれこれと世話を焼き続ける一方で、彼女が気付かないうちに小さな配慮を忘れず、優しさで満たし続けていた。
そうした日々が続いたある日、サクレティアの陣痛が突然訪れた。クレノースはサクレティアの表情が変わるや否や、待っていたかのように助産師や侍女たちに次々と指示を飛ばし、臨戦態勢に入った。サクレティアは痛みの中でも、彼が自らが助産師のごとく手際よく立ち回る姿を見て、内心の不安が少しずつ解けていくのを感じた。
「クレノ、大丈夫だから……助産師さんたちに任せて、少し休んでいてもいいのよ」と彼女が促すが、クレノースは微笑み、彼女の手を優しく握りしめた。「いいえ、サクレティア様。僕はここにいることが、今この瞬間、何より大事なんです」
クレノースは、布や水を何度も助産師に渡すために動き回り、緊張でいつもよりさらに手際が良くなっていた。何度目かの陣痛が訪れると、息も絶え絶えのサクレティアが、強烈な痛みに眉を寄せて「クレノ、そんなに完璧な手際で立ち回らなくても!」と少しイラついた声を出した。
「は、はい、申し訳ありません、サクレティア様!」と、クレノースは一瞬だけ動きを止めて返事したが、その直後に「でも、今こそ僕がしっかりしなければ!」と再びバタバタ動き出し、周りの助産師たちも思わず噴き出しそうになる。
そして次の瞬間、助産師が「そろそろ大詰めです!」と声をかけると、クレノースは「よし、では次は私がサポートを……」と身を乗り出し、助産師からタオルを受け取ろうとしたが、サクレティアが目を光らせて「クレノ、あなたはそこにいなさい!」と一喝。驚いた彼は「は、はい!」と、その場に直立不動で固まってしまった。
そして、いよいよ赤ちゃんの産声が聞こえた瞬間、クレノースは感極まって涙を流しながら「サクレティア様、僕たちの愛が……形になりました……!」と、感動に震える声で叫んだ。
サクレティアはため息をつきながらも、彼を見上げて「クレノ、そうね……でも、少し落ち着いてくれる?」とにこやかに返すと、クレノースは深呼吸して、「はっ、申し訳ありません、サクレティア様!でも、これ以上はもう抑えきれません!」と再び涙をぬぐいながら、嬉しそうに赤ちゃんを見つめた。
そんなクレノースの様子に、サクレティアは思わず微笑んでしまう。
出産が無事に終わり、クレノースが赤ちゃんをそっと抱き上げ、「サクレティア様、元気な男の子ですよ」と優しく告げた。サクレティアは、息も絶え絶えながらも彼に微笑みかけ、「すごいわね……名前を決めている時から、男の子だってわかっていたんじゃない?」と半ば冗談のつもりで問いかける。
クレノースはサクレティアの問いに少し誇らしげに頷き、「実は、バレンティル家ではほとんど男しか生まれないんです。稀に女の子も生まれるそうですが、それこそ極まれなんです」と得意げに説明する。
《もし女の子が生まれたらどうするつもりなんだろうって思ってたけど、なるほどね。》
「そういうことだったのね」
クレノースは赤ちゃんの小さな顔をじっと見つめ、「バレンティル家の家紋を背負っていくために、この子も、きっと強く育っていくんでしょうね」と優しく語りかけた。
「でも、強さだけじゃなくて、優しさもね」と、サクレティアは彼に微笑みかけながら答えた。
クレノースはその言葉に深く頷き、「はい、もちろんです。サクレティア様が教えてくださったような、思いやりを持った子に育ってほしいと思っています」と言ってサクレティアに視線を移す。
サクレティアは彼の優しい言葉に安心し、赤ちゃんを優しく抱き寄せた。「そうね、私たちがこの子の成長を見守っていきましょうね」と、クレノースに向かって微笑んだ。
ある日、クレノースが少し外に出る支度をしていたとき、サクレティアがその姿を見つけて眉をひそめた。「どこに行くの?」と、目を細めてじっと見つめてくる。
「すぐに戻ってきますよ、サクレティア様。ただ少しだけ屋敷の外に確認をしに行くだけで…」と、クレノースが軽く手を振って安心させようとするが、彼女の表情は一向に和らがない。
「でも、今は私と赤ちゃんのそばにいるべきじゃないかしら?何かあったら…って考えると、やっぱりそばにいてくれないと…」と、サクレティアはさらに不安そうに言い募る。そんなサクレティアの様子を見て、クレノースは少し寂しそうに微笑んだ。
《キースの時も、こんな時期があったのだろうか…》と彼はふと思った。キースを妊娠していたとき、彼は母親マリアベルに閉ざされていて、サクレティアの心の支えになることはできなかった。今の彼は、それを取り返すかのように、彼女のそばにいてあげたくて仕方ないのだ。
クレノースは温かな目でサクレティアを見つめ、「おっしゃる通りです。大丈夫ですよ、ずっとそばにいます」と言って彼女を安心させた。
その後も、サクレティアが情緒の波に揺られるたびに、クレノースはむしろ嬉しそうに微笑み、彼女に寄り添い続けた。サクレティアがクレノースを拒絶して距離を取ろうとしても、「いいえ、絶対に離れません」と断固とした態度で、常にサクレティアのそばを離れない。サクレティアが少し落ち着いた後も、クレノースは気配りを欠かさなかった。
彼は一緒にいてあげるだけでなく、サクレティアが見えるところで筋トレを始めるなど、彼女が常に気配を感じられるように工夫していた。重りを持ち上げては、サクレティアのほうをチラリと見て微笑む姿には、つい彼女も笑わずにはいられない。
さらに、クレノースは彼女が執務中に窓から見える庭で、剣術や武道の訓練を行うようになった。庭の真ん中で見事な剣さばきを見せるクレノースの姿には、サクレティアも感心しながら見入ってしまう。「うまく気分転換になってくれるといいのですが…」と、彼は心の中でひそかに思っていたのだった。
サクレティアの妊娠が進む中、日々の体調が少しずつ安定し、彼女はクレノースと過ごす穏やかな毎日で気持ちを整えていった。クレノースもまた、サクレティアに寄り添うことが当たり前のように自然になり、その心遣いが日常の風景として根付いていった。彼はあれこれと世話を焼き続ける一方で、彼女が気付かないうちに小さな配慮を忘れず、優しさで満たし続けていた。
そうした日々が続いたある日、サクレティアの陣痛が突然訪れた。クレノースはサクレティアの表情が変わるや否や、待っていたかのように助産師や侍女たちに次々と指示を飛ばし、臨戦態勢に入った。サクレティアは痛みの中でも、彼が自らが助産師のごとく手際よく立ち回る姿を見て、内心の不安が少しずつ解けていくのを感じた。
「クレノ、大丈夫だから……助産師さんたちに任せて、少し休んでいてもいいのよ」と彼女が促すが、クレノースは微笑み、彼女の手を優しく握りしめた。「いいえ、サクレティア様。僕はここにいることが、今この瞬間、何より大事なんです」
クレノースは、布や水を何度も助産師に渡すために動き回り、緊張でいつもよりさらに手際が良くなっていた。何度目かの陣痛が訪れると、息も絶え絶えのサクレティアが、強烈な痛みに眉を寄せて「クレノ、そんなに完璧な手際で立ち回らなくても!」と少しイラついた声を出した。
「は、はい、申し訳ありません、サクレティア様!」と、クレノースは一瞬だけ動きを止めて返事したが、その直後に「でも、今こそ僕がしっかりしなければ!」と再びバタバタ動き出し、周りの助産師たちも思わず噴き出しそうになる。
そして次の瞬間、助産師が「そろそろ大詰めです!」と声をかけると、クレノースは「よし、では次は私がサポートを……」と身を乗り出し、助産師からタオルを受け取ろうとしたが、サクレティアが目を光らせて「クレノ、あなたはそこにいなさい!」と一喝。驚いた彼は「は、はい!」と、その場に直立不動で固まってしまった。
そして、いよいよ赤ちゃんの産声が聞こえた瞬間、クレノースは感極まって涙を流しながら「サクレティア様、僕たちの愛が……形になりました……!」と、感動に震える声で叫んだ。
サクレティアはため息をつきながらも、彼を見上げて「クレノ、そうね……でも、少し落ち着いてくれる?」とにこやかに返すと、クレノースは深呼吸して、「はっ、申し訳ありません、サクレティア様!でも、これ以上はもう抑えきれません!」と再び涙をぬぐいながら、嬉しそうに赤ちゃんを見つめた。
そんなクレノースの様子に、サクレティアは思わず微笑んでしまう。
出産が無事に終わり、クレノースが赤ちゃんをそっと抱き上げ、「サクレティア様、元気な男の子ですよ」と優しく告げた。サクレティアは、息も絶え絶えながらも彼に微笑みかけ、「すごいわね……名前を決めている時から、男の子だってわかっていたんじゃない?」と半ば冗談のつもりで問いかける。
クレノースはサクレティアの問いに少し誇らしげに頷き、「実は、バレンティル家ではほとんど男しか生まれないんです。稀に女の子も生まれるそうですが、それこそ極まれなんです」と得意げに説明する。
《もし女の子が生まれたらどうするつもりなんだろうって思ってたけど、なるほどね。》
「そういうことだったのね」
クレノースは赤ちゃんの小さな顔をじっと見つめ、「バレンティル家の家紋を背負っていくために、この子も、きっと強く育っていくんでしょうね」と優しく語りかけた。
「でも、強さだけじゃなくて、優しさもね」と、サクレティアは彼に微笑みかけながら答えた。
クレノースはその言葉に深く頷き、「はい、もちろんです。サクレティア様が教えてくださったような、思いやりを持った子に育ってほしいと思っています」と言ってサクレティアに視線を移す。
サクレティアは彼の優しい言葉に安心し、赤ちゃんを優しく抱き寄せた。「そうね、私たちがこの子の成長を見守っていきましょうね」と、クレノースに向かって微笑んだ。
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