囚われの公爵と自由を求める花~マザコン公爵は改心して妻を溺愛する~

無月公主

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56.隠されていた全ての思い

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クレノースは一息つき、ゆっくりとサクレティアに真実を話し始めた。その声には、これまで彼が隠し通してきた全ての思いが静かにこめられていた。



王が最初にサクレティアに目をつけたのは、彼女の異才と類まれな才能を見出してのことだった。サクレティアの発明や知識が公爵領を豊かにしていく様子は王の目には強い野心と欲望を刺激するものであり、彼女の力を王家に引き寄せようと考えたのだ。しかし、彼女は既にバレンティル公爵夫人であり、強固な地位を築いていたため、王はまず彼女の夫であるクレノースを排除しなければならないと判断した。



毒による暗殺未遂事件が起こったのもそのためだった。だが、クレノースはその毒の出所を調べた結果、裏に潜む王の思惑に気づき、さらなる調査を進めていた。調査が進むにつれて、さらに恐ろしい事実が浮かび上がった。王はサクレティアと王太子を結婚させるという計画を立て、その障害となる者を次々と排除しようとしたのである。サクレティアの才能を自らの支配下に置き、国力をさらに強固にしようと考えた王は、まずクレノースを始末し、次に王太子妃をも暗殺する計画を練っていた。



その計画を事前に察知していた王太子も、王の冷酷な野心に危機感を抱いていた。彼は妻である王太子妃の命が狙われていることを知り、内心で不安と恐怖を抱いていた。そんな時、クレノースは公爵家の騎士団を使って王太子妃の警護を申し出た。これによって王太子妃を守りつつ、王を手薄な状態に追い込むための策が一つ整ったのである。



クレノースは、王太子には直接的に「王を殺す」と言ったわけではなかった。ある日、カジノで豪華賞品を狙うために公爵家の騎士団を全て動かす予定であることを公表し、王太子には「王太子妃の護衛に王宮の騎士を配置したほうが良い」とだけ提案した。王太子はクレノースの助言を信頼し、その提案通り王宮騎士の多くを王太子妃の護衛に回すことを決定した。その結果、王の護衛は手薄になり、クレノースはその隙をついて王宮に忍び込み、王の暗殺を実行したのだった。



その夜、王宮での王の守りが極めて弱まったのは、全てクレノースの入念な計画の結果であり、王の警護が薄くなっている絶好の機会を狙っての行動だった。彼は最後の瞬間まで王の抵抗を受けつつも、執念で暗殺を成し遂げた。



一連の計画を終えたクレノースは、サクレティアの顔を静かに見つめながら、全ての真実を淡々と語り終えた。



サクレティアはその話を聞き終え、少し驚いたように微笑みながら言った。



「危なかったわ。丁度先日、王太子がいらしたのよ。」



クレノースは眉を上げ、「それで、どんな話をしたんです?」と興味を持ったように尋ねた。



「王太子は、例の新聞記事についてかなり気にしている様子だったわ。あなたがあの夜カジノで豪華賞品を狙っていたという話に一応納得してもらったんだけれど、まだ疑念が残っているみたい。『彼が数日間姿を現さないのは、ただ気恥ずかしいだけなのか?』なんて、遠回しに探りを入れてきたのよ」



クレノースはサクレティアの言葉に小さく笑って、「ふむ、なるほど。さすが殿下、用心深いですね。でも、あなたならうまくかわしたんでしょう?」



サクレティアも微笑み、「ええ、さりげなく説明して納得してもらったわ。『大金を使って遊んだ後は、少し顔を伏せたくなるものだ』って。それに、もし私たちが報告を怠るとすれば、それはきっと誤解によるものだと付け加えておいたから、王太子も少し安心したようだったわ」



クレノースは感謝の眼差しを向け、「ありがとう。本当にサクのおかげで、この状況を乗り切れた。」と、少し照れたように小さく微笑んだ。



サクレティアは微笑み、「私たちはもう、本当の意味での夫婦なんだから、助け合うのは当然でしょ?」と優しく言った。



その言葉に、クレノースは一瞬驚いたように目を見開いたが、次の瞬間には感動が胸にあふれて、思わず涙がこぼれてしまった。



「サクレティア…」



「あぁ、もう泣かないの」とサクレティアは優しく微笑みながら、そっとクレノースの涙をハンカチで拭いてあげた。そして、ふと思い出したように「あぁ、そうだ、それとね…嫌がるかなって思って、今まで黙ってたんだけど、クレノの弟、クリス様のこと…実はこっそり会ってて、キースと遊ばせているの。歳も一緒だから…」と少し気まずそうに告白した。



クレノースは少し言葉に詰まった後、申し訳なさそうに口を開いた。「……僕の、弟と…その…サクレティア様に面倒をみさせてしまうなんて、僕には…到底申し訳なくて……」彼は俯きがちに続けた。「クリスのことは、僕がもっと責任を持つべきなのに……本当に、ごめんなさい。」





サクレティアはクレノースの目をじっと見つめ、優しく微笑んで言った。「ううん、前にも言ったでしょう?クリス様も立派な公爵家の一員だし、彼には何の罪もないわ。それにね、クレノが彼をちゃんと弟だと認識してくれていること、それが私にとっては一番大事なことなの。」



その言葉には、クレノースが誠実であることに対する信頼と安心が滲んでいた。





その瞬間、クレノースは思わずサクレティアを見つめ、まるで彼女が女神か何かに見えたかのように、静かに感動に包まれていた。こんなにも受け入れてくれる人が、側にいる。彼は言葉が出てこないままサクレティアの手をそっと握り、少し震えながら切り出した。



「…サクレティア。君がそう言ってくれるから…僕も、クリスと真正面から向き合ってもいいのだろうか?」



彼の声には葛藤が滲んでいたが、それでもどこかに光を見つけたような微かな希望も感じられた。サクレティアは静かにうなずき、もう一度彼の手を包むようにして握り返した。



「もちろんよ、クレノ。クリス様はあなたの大切な家族よ。そして、クリス様にとってもあなたと向き合うことが、きっと何より必要なことだと思うわ。」



その言葉を聞いて、クレノースは少しずつ顔を上げ、深く息をついて微笑んだ。



「ありがとう、サクレティア。…僕は本当に、君と出会えて良かった。」



サクレティアは微笑みながら、「さぁ、まだ無理はしないで、ゆっくり休んで。私も自室で眠るわ」と優しく声をかけた。



しかしクレノースは、彼女の手をふと引き寄せ、真剣な瞳で見上げながら「一緒じゃなきゃ……いや、です」と小さく呟いた。



その一途な可愛らしさに、サクレティアは思わず胸がキュンとした。結局、彼の手を握り返し、「全く、クールで冷酷だったあの頃の公爵様はどこに行っちゃったのかしら」サクレティアがくすりと笑いながらからかうように言うと、クレノースは彼女をじっと見つめながら、恥ずかしそうに微笑んだ。



「君がそばにいるからさ。まるで、温かな日差しみたいに……僕を溶かしてしまったんだよ、サク。もう、冷たい僕には戻れそうにありません。」



サクレティアはその言葉に胸がじんと温かくなり、クレノースの隣にそっと横たわった。二人の間には、夜の静けさが優しく流れ込んで、互いの温もりを感じながらそっと目を閉じる。こうして二人は、穏やかな安らぎの中で、ゆっくりと眠りに落ちていった。
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