囚われの公爵と自由を求める花~マザコン公爵は改心して妻を溺愛する~

無月公主

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55.愛の呼び声に目覚める

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2週間の長い眠りからようやく目を覚ましたクレノースは、朦朧とした視界の中で、自分の名前を呼ぶ懐かしい声を耳にした。「ん…サク…レティア…様?」と、かすれた声で呟く。



その瞬間、サクレティアが目を見開き、「クレノっ!!」と、彼のもとへ駆け寄った。彼女の表情は喜びに満ちていたが、クレノースは混乱している様子だった。彼は目をぱちぱちと瞬かせながら周囲を見回し、意識が少しずつ戻っていくと同時に、自分が今どこにいるのかをようやく理解した。



「僕…生きて…いる?なぜ…どうして…」まだ定かではない記憶に戸惑いながら、クレノースは自分がどうしてここにいるのかを理解できず、ゆっくりとその視線をサクレティアに向けた。



サクレティアはその言葉に一瞬だけ眉をひそめたが、すぐに深く息を吐き出し、「私が、公爵邸を抜け出して、あなたを助けに行ったのよ。覚えていない?」と優しく問いかける。クレノースは微かに首を横に振り、ぼんやりとした視線のままで彼女の話に耳を傾けた。



「…私、いてもたってもいられなくて。あの晩、急いで支度をして馬に乗って、ずぶ濡れになりながらもあなたのもとへ向かったんだから!」サクレティアの声には当時の焦りや不安が今も残っているように響いていた。「傷がひどかったから、なんとか応急処置をして…自分が持ってた知識、全部使って、クレノを助けるために必死に…っ。」とサクレティアの目から涙が溢れる。



クレノースはその言葉を静かに聞きながらも、徐々に表情が険しくなっていく。彼はサクレティアの涙を指で掬い、小さな声で呟いた。



「僕は…サクレティア様を自由にしたかったんです…僕が死ぬことで、あなたを解放してあげたかった…なのに…」



クレノースが呟いた言葉を耳にした瞬間、サクレティアの瞳が鋭く光り、彼の頬を容赦なく平手打ちした。クレノースは驚きのあまり、反射的にその場に固まってしまう。彼女はすかさず胸倉を掴み、彼の顔を正面から捉え、まるで逃がさないようにその瞳をじっと見つめていた。



「どうして、そんなに怒って…」と、クレノースは戸惑いの表情を浮かべ、かすれた声で問いかける。彼にとって、彼女がこのような強い感情を向けてくれることがまるで夢のようであり、それを受け止めるのが恐ろしくもあり、混乱していた。



しかし、サクレティアの目は鋭くも温かく、その中には迷いのかけらもない確かな意志が宿っていた。「まだわからないの?」と、彼女は少しだけ声を震わせながら続ける。「私は、あなたを失うなんて耐えられない…」



言葉が途切れた一瞬、クレノースは息を飲んだ。今まで彼が抱えていた孤独と不安、過去の痛みがこの瞬間、何か大きなものに包み込まれるように消えていくのを感じた。



「私がここまでして、こうしてあなたのそばにいるのに、どうしてわからないの?」彼女の瞳からは涙がこぼれそうで、しかしその中には怒りと悲しみ、そして揺るぎない愛が込められていた。「…あなたを、愛しているからよ…クレノ。」



サクレティアの手がゆっくりとクレノースの頬に触れ、そのまま優しく彼を抱きしめた。彼は何も言えないまま、静かに彼女の肩に顔を埋め、胸の奥からこみ上げてくる温かさと喜びに満たされていく。自分がこんなにも愛されているとは、彼にとっては驚きであり、そして、何よりもかけがえのない喜びだった。



サクレティアは彼の背中をそっと撫でながら囁く。「クレノ、お願いだから、もう二度とそんなことを言わないで。あなたがいるから、私の人生は自由なの。あなたが隣にいてくれるから、私は幸せでいられるの。」



クレノースは少し不安げに顔を上げ、瞳を揺らしながら尋ねる。



「ほん…とうに?」



「ほんとうよ…。」サクレティアは微笑んで、彼の不安をしっかりと打ち消すように優しく頷いた。



「もう…離してあげられませんよ?」クレノースはそう言いながらサクレティアを抱きしめ、まるで彼女が消えないようにと力強く腕を回す。



それに対してサクレティアは「これだけ片時も離れずにいろいろしてきたのに、まだ離れると思ってるの?」と涙を浮かべたまま笑い、応じる。



クレノースは少しだけ緊張した顔をして、「僕の愛は…自分で言うのもなんですが、異常ですよ?普通じゃありません」と真剣に彼女を見つめた。



サクレティアはその視線を受け止め、少しだけ眉を下げながら「もう慣れたわ。でもね、私もそのくらいは覚悟しているわ。」と、クレノースの背中に優しく触れ続けた。



クレノースは彼女の言葉をしばらく考えた後、何かが崩れるように微笑んで、安心したように小さく息をついた。「サクレティア様、僕のこの歪んだ愛情を受け入れてくださるなんて…本当に感謝してもしきれません。こんな僕でも…大丈夫ですか?どんなに尽くしても、何があっても、あなたを離したくないんです。」



サクレティアは微笑み、「大丈夫よ。何があっても、クレノ、あなたは私にとって大切な人なの」と言葉を添えた。



クレノースはしばらく彼女の顔をじっと見つめてから、小さな声でため息をつくように言った。

「僕は…怖いんです。サクレティア様…あなたに僕の過去を全部知ったら、きっと嫌いになります…離れたくなります…僕は…僕の心は…醜い…。」



サクレティアは、彼の手を優しく握り返し、心配そうな顔で彼を見つめた。



「本当に僕でいいのか、もう一度確認させてください。ご存知でしょうが、僕は…母上と体を重ねていました。そして、あなたと出会うまでは母上を心底愛していました。それだけじゃない、母上が僕に強要し、他者と体の関係を持つように仕向けられたことも…サクレティア様、本当に…こんな汚れた体でいいのでしょうか?」その言葉には、長年抱え続けた苦しみが滲んでいた。



サクレティアは一瞬目を伏せたが、すぐに彼を見つめ、「いいのよ、クレノ。過去は過去。それを選んだのはあなたじゃない。あなたが今ここにいて、こうして私と一緒にいる、それだけで十分なのよ」と、しっかりと微笑んで彼に伝えた。



クレノースは少し困惑したように瞬きをし、さらに続けた。

「まだあります。僕は…自分で気味が悪いと思うこともあって…異常なほどの執着があって…あなたをただ崇めるだけじゃなく、独占したくて…誰にも触れさせたくない。僕の心の一番深いところで、あなたを自分だけのものにしたいと願っているんです。」



サクレティアはそんな彼の告白を聞き、顔を少し赤らめながらも微笑んで彼の気持ちを受け止めた。



「そうなの。なら、私も同じ気持ちでいること、信じてくれていいわよ。クレノ、あなたがいるから私はここにいるの」



それでもクレノースの顔にはまだ迷いが残り、「僕の…異常なところも…気にしないと?」と呟くように続けた。



「それだってあなたの一部でしょ?私、もう驚かないわ」とサクレティアは肩をすくめるようにして答えた。



彼は少しずつその視線を柔らかくし、さらなる告白をしようと唇を開いた。「それに…僕は多くの命を手にかけてきました。あなたのために、領地のために、そして自分の母の命さえも…。殺しの記憶が…ずっと僕の心を支配している…。もう、お気付きだと思いますが…王も僕が殺しました。」



サクレティアは彼の不安を感じ取ると、静かに首を横に振り、「それでも…私はクレノースを愛してるわ。どれだけ汚れていようと…、私はもうクレノの側にいると決めたわ。だから…もう大丈夫。こわがらないで。私は…もういなくならない。ずっと一緒よ。だって、心から愛してるから…。」と、優しく彼の肩を抱いた。



その瞬間、クレノースの中にあった崇拝のような固い何かが、少しずつ溶けていくのを感じ、彼の瞳に新たな温かさが宿った。彼は彼女を見つめながら、そっと微笑んで「…サク」と、初めて心から対等に名を呼んだ。



サクレティアはその呼び方に驚き、しかし心底嬉しそうに微笑み返した。
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