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第一章 惑星ガイノス開拓計画

ハンターの性能

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 仮想空間から戻った俺はメンバーを連れて翌日、パティさん達の待つ場所へと向かった。ここは以前エマさんに頼んでおいた施設で、一辺の長さが2km、高さは10mの壁が四方を囲い更に上空から見られないよう光学式ドームで覆ってある軍事訓練用施設だ。
 ここに使用許可の下りたバーサーカー義体が届くので、現物を調べながら大まかなデータ収集の為に集まった。

 厳重な警備を連れて運ばれて来た義体をパティさんの待つ研究室に寝かせて機材をセットしていく。

「興奮して私、昨日は眠れなかったわん♪」

 とはマリアンヌさん。よく見れば本当に目が充血している。白目を赤くしてムキムキなオネエが興奮した様子でクネクネしている姿は空恐ろしいものがあった。こんなこと口に出したら無事では済まないだろうけども。絶対地声で「あ゙あ゙ん!?」とか言いそう。

「あらあら♪本当に素敵な変態スペックね♪腕が鳴るわぁ」

 空間ディスプレイに映し出された義体のデータを眺めながら、パティさんもとても楽しそうにしている。研究者気質なんだろうな、親父も時々こんなテンションの時があったのを思い出す。

「さて、準備完了と♪まずはこの間決めたように修正しちゃうわね。その後誰かがダイブして……やっぱり初めは計画立案者にダイブして貰いましょう♪リョースケちゃん、使った感想を聞かせてちょうだいね。はじめるわよマリアンヌ♪」

「オーケーリーダー!んっふふー♪ようやく弄れるのね」

 そう言うなり、二人は凄まじい早さで指を動かしていった。別の空間ディスプレイには入力された情報を元に義体を構成している人工細胞が変化していく様子が映し出されていた。

 バーサーカーの筋繊維は一本一本がスーパーカーボンナノチューブという素材で構成されている。その表面は正六角形、つまりハニカム構造のこの素材は軽く丈夫でダイヤモンドの8倍の硬度を持ち、軌道エレベーターの部品にも利用されている。

 バーサーカーが殺戮兵器と呼ばれる由来の一端がこれだ。全体を構成する人工筋肉と血液の代わりに流れるポリテインゲルが生み出すパワーは人間の身体など容易く、文字通り木っ端微塵にするし、フルメタルジャケットの銃弾程度ではビクともしない耐久性を誇る。実際、戦争中はこの義体に液体防弾スーツを着せていたというのだから厄介極まりない代物だ。

 そんな恐ろしい兵器なだけにバーサーカーの使用許可などそう簡単に下りるはずがない、と誰しもが思うところだろう。

 そこでお偉方を納得させるにあたり、追加した機能の1つがロック機能だ。つまり設定された本人以外には使用出来ないようにした。一度ロックされてしまえば、例え本人が死んでも誰も使う事は出来ない。何故なら本人の死亡が確認された時点で義体を構成している細胞が自壊するようプログラムするからだ。最低限これ位厳しくしないと誰も許可など下ろさないだろう。

 加えてHALの監視システムに義体から発する信号を登録してその動向を監視させる。これで二重に予防策を張ったのである。

 果たしてそれはうまくいった。大統領はあの通り渋っていたが、周りの首脳陣はロック機能のアイデアに感心すらしていた。あの瞬間こそ勝利を確信した瞬間でもあった。


*****


 マイクが出したアイデアで調査用義体ハンターは『スタイル』、所謂ステータスシステムを採用する事にしたが、今回はテスト用として一番ポピュラーな『バランス型』と呼ばれるスタイルに設定した。試験的に動かすには最適だろうという判断だ。
 
「OKよリョースケちゃん、接続してみて♪」

「んじゃ、遠慮なく…」

 ヘッドギアを装着し、視界が白くなった次の瞬間には俺は皆の視線を浴びていた。すぐそこに自分が寝ている。幽体離脱したような変な気分だ。

「ハンター(仮)になった気分はどう?リョースケ」

 そうミラから質問をされ、ひとまず両手をニギニギしたり、脚を動かしたりしてみる。

「ワクワクするな!今のところハンティング・ワールドで身体を動かした感じと大差はないかな?とりあえず施設内で動作を確認したい」

「じゃあ、私達はモニターで観てるから行ってらっしゃい」

「行ってくる。あ、マイクは一緒に来てくれよ」

「おう、だが無茶させんなよ?こちとら生身なんだからよ」

「軽い確認だから、大丈夫だよ……多分」

「多分て言うなよ!」

 そんないつものやり取りをしつつ広い空間に出て来た。マイクから5m程離れたところで軽くジャブ、ワンツー、と身体を動かしてみるのだが…

「パンチが全然見えんぞ…」

 マイクがポカンとした表情で感想を漏らす。仮にも元は殺戮兵器だ、生身の人間に見える筈もない。

「だろうな、だけどこの義体だと見える。動体視力も格段に向上しているな当たり前だが」

 試しに少し強めでストレートを打ってみると

 ッヒュボ!!!

 と聞いたことのない風切り音が出た。何じゃこれ!ステータス次第で音速になるんじゃねえか?

「怖っっ!!」

 相当離れているのに、マイクがビビっている。俺もビビったよ相棒。

「その足元にある石を殺す気で投げてくれマイク」

「これか?OK、行くぜ……死ねぇぇぇ!!!」

 堂には入ったフォームから本当に殺す気で投げたらしい拳大の石が迫ってくる、が…止まって見えるようだ。マイクは元軍人でその前は野球をやっていし、今でも鍛えているから相当な強肩の筈だよな?

 自分の間合いに入った瞬間にジャブで撃ち落とす。

 パァン!!

 石は跡形もなくなった。

「何今の、銃撃音かよ」

「怖っ…でも、快感…」

 ビビる二人。だが、この身体に慣れなければモンスターを狩る事など出来ないだろう。恐れてなどいられない。

「次は走ってみよう」

 1kmは離れている壁に向かって走り始めると、耳に聞こえる音が、周りの景色が、車に乗ってハイスピードで走っている時のようだ。ウッホオオオオオオオオオ!しゅごいしゅごい!ナニコレ!?

『リョースケちゃん今の全力?』

 止まった後にモニターを見ていたパティさんから質問される。

「うん、結構全力で走ったよ」

『100m大体3秒ってところね』

「チーターかな?」

 体感的には100m走のつもりだったが振り向くとマイクが遥か後方にいた。あんぐり口を開けているのが見える。

「スピード型ならもっと速くなるのか…これゲームのハンターより身体能力高いよな?」

『逃げる時には便利じゃない♪』

「確かになバニー。義体も無限にあるわけじゃないし大事にするに越したことはないよな。それにしても、こんなスペックだと反則のような気がする」

 何に対して?と自分でツッコんでしまうが、鬼畜ゲーと言われるハンティング・ワールドとはいえ、モンスターとハンターの能力のバランスはクリア出来るように設定されている。だが、現実にそんな設定は存在しない。

 リアルなモンスターとの戦いはよりシビアで何が起こるか予測不能だろうから、これ位でいいのかもしれないな。

「よし、じゃあ次はコイツだ」

 マイクの近くまで戻り、ロングソードに見立てた模造剣を持つ。ハンティング・ワールドでは初心者から熟練者まで幅広い層に使われている武器だから、テスト用にちょうどいいと採用した。勿論刃引きはしてある。

 重さは15kg。本来人間がゲームのように片手で振り回せる重さではないが、義体のパワーを考慮した結果これ位でなければバランスが取れないだろうという予想だ。ひとまず軽く振ってみる。

 ヒュッ!!ブォン!!

 おお!まるで木の枝でも振っているような軽さに感じる!調子に乗って両手で握り全力で振り下ろした。

 ッヒュン!ペキッ!

「あっ」

「あれ?」

 マイクと二人で間抜けな声を出してしまったのはロングソードの刃が根元近くから折れていたからだ。

『ただの鉄じゃ義体のパワーに耐えられないみたいだね』

「そのようだなロイ。素材の問題もあるだろうし、或いは重さも関係しているかも…いずれにせよ武器関係はおやっさんに相談だな」

「まあ、いいデータが取れたじゃねえか。よし次はこれだな」

 そういいながら、ゴロゴロと運んで来たのはピッチングマシン。ただし飛ばすのはソフトボール大の鉄球。耐久性のテストの為にわざわざ改造して貰った。マイクがスイッチを押すと射出口から唸るような作動音が聞こえ始める。

「このボディなら耐えるだろうとは分かっていても、怖いな…避けてしまいそうだ」

「フフン、避けるなよリョースケ?耐久性と痛覚のテストも兼ねてるからな」

 痛覚。元々バーサーカーには痛覚を感じる機能はない。殺戮兵器には必要のないものだ。

 では、ハンターには必要だろうか?

 この疑問については「痛みで一々動きが鈍っていてはモンスターなど倒せない」という者と「危険を回避するには痛みという恐怖こそ必要だ」という必要派(防御や回避に専念)と不必要派(攻撃こそ最大の防御)に別れて熱く議論した。

 結果、必要だという結論に達した。最大の理由は義体の数が有限であること。「壊れても自分は痛くないし死なない」というスタンスと「死ぬのは嫌だ、痛いのは嫌だ」という人間本来の生存本能がある状態では、緊張感に圧倒的な差が生まれる。最終的にその差は義体が破壊される回数に影響が出て来るだろう。有限である以上、そうホイホイと壊されては堪らないのだ。

「よーし、まずは150kmだ。行くぜリョースケ!覚悟しやがれ!」

「おっしゃ!来いや!」

 ボッ

 という音と共に発射された鉄球が右回転しながら俺の腹目掛けて飛んでくるところを、ハンターの動体視力がハッキリと捉えた。「こんなもん当たったら絶対痛いわ!避けたい!けど、根性じゃい!」鉄球は腹筋に命中した。

 ガスッ!

「うぐッ!!…ん…?あ、大したことないな。子供に叩かれた位?」

 足元を見ると、鉄球の方が形を変えていた。義体硬すぎだろ…

「何ともなさそうだなリョースケ。おし、何かムカつくから250kmでセットするぜ」

「何でムカついてるのかな?まあいいや、どうせなら300kmで来いやゴリラ!」

「ほお~言ったなリョースケ、遠慮しないぜ?…セット完了だ。ククク、さあ、のたうち回れクソ野郎!!」

 ヒュボッ!!!

 おお!当たり前だけど速いな~。何て考える余裕があるくらい見えてはいるのだが、コレは少しは痛いのかもしれない。つい、本能的に腹筋に力を込めたようで…

 ギィン!

 という音を立てて鉄球が跳ね返った。見れば亀裂が入っている。

「痛っ。ってレベルだな、まあ腹筋絞めたからってのもあると思うけど…」

「ガッデム!野郎ピンピンしてやがる!」

「本気で悔しがってんじゃねえよ。筋肉弛めてたら少し効いたと思うぞ?こりゃ、回避出来ない場合は防御が大事になるな…基本だけど、そこを疎かにしちゃ痛い目を見るな。ハンター希望のヤツらには絶対伝えないと」

『リョースケちゃん、もう少しいけそう?』

「余裕だパティさん。ヘイ、マイクお前の実力はそんなもんか?そんな粗チンじゃ、誰も相手にしてくれないな~」

「今チ○コは関係ねえだろ!野郎~ブッ○してやる!!オラァ!」


****


 とまあ、こんな感じで色々とデータを収集し皆で気付いた事や要望など話し合い解散になった。パティさん達はコッチにしばらく残るそうで「出来上がり楽しみにしててねん♪」と、頼もしい言葉を残して研究室に籠もって行った。

 
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