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第四章 訪問者
13話
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そう……記憶が…………ない。
チチチ
楽しげな鳥の声で目が覚めると、見慣れた天井が視界に映った。ぼんやりした頭で、ヴィラがベッドまで運んでくれたのかと考える。
片付け……しなきゃいけないけど…後でいいや。とにかく瞼が重たくて、再び目を閉じかけた時、モゾリと隣で何かが動いた。
慌てて横を見ると、視界いっぱいに広がるヴィラの顔。身じろぎする度、陶器のような白い肌を星屑の髪がすべり落ちる。伏せられたまつ毛は髪と同じ銀色で、薄く色づいた唇から静かな吐息が漏れていた。
「うわっ!!!!」
思わず叫び声を上げると、見慣れた色違いの瞳が薄っすらと現れる。起きたことに安心したのも束の間、不機嫌そうな声音でうるさいと一蹴され、彼は再び瞼を閉じた。ちょっと待って、寝ようとしないで。
嫌がる顔をピタピタと叩いて、文字通り叩き起こす。国宝のように綺麗な顔を叩くのは正直気が引けたけど、こちらも緊急事態なのでやむを得ない。
「何……」
「いや、何ってこっちが聞きたいよ。なんでヴィラが僕のベッドにいるの」
「んん……どこかの馬鹿が泥酔していたから、ベッドに運んでやっただけだ」
「え、ごめん。ありがとう」
「構わん。私は寝る……」
「いや待って、寝ないで。ヴィラがここにいることについての説明が一切ないんだけど」
「お前が私の服を握って離さなかったんだろう」
毛布をどかしてヴィラの服を見ると、確かに腰の一部分だけクシャクシャになっていた。
つまり僕は泥酔した上に、怪我をしているヴィラに自分を運ばせ、尚且つ服を握って離さなかったから仕方なく一緒に寝てくれたと………?
サァーッと顔から血の気が引く。我ながらとんでもない失態を……。穴があったら入りたいと、今まで生きてきた中で初めて思った。
「本当にごめんね……重かったでしょ。傷悪化してない?」
「別に、お前1人くらいどうという事はない。分かったら寝かせろ」
「あ、うん。おやすみ……」
再び眠り始めたヴィラを起こさないよう、静かにベッドから抜け出して浴室に向かう。
熱いシャワーを浴びて気分を切り替えようと思っていたのに、ふとした瞬間に視界いっぱいに映ったヴィラの顔が甦ってきて顔が赤くなるのを止められない。
ふかふかのタオルに顔を埋めて小さく叫ぶ、顔面の暴力って凄い、寝起きの掠れた声と合わさってなんかもう凄かった。
少年期でこれなのだから、ヴィラが成人したら世界中の人が彼に惚れるんじゃないか? 本気でそう思えるほど、彼の色香は壮絶だったのだ。
ヴィラがいる前ではもう二度とワインを飲まないでおこうと心に誓って、ようやくシャツに袖を通す。
朝っぱらから良いものを見たような、体に悪い物を食べたような、そんな不思議な気分だった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
▽
酷い惨状だろうと覚悟して足を踏み入れたリビングは、驚くほどに綺麗でいつも通りだった。
一瞬思考が止まって、それでもすぐに理解する。僕は昨日泥酔していたようだし、片付けなんて到底できるわけがない。つまりは………
はぁぁとため息をついてしゃがみ込む。いくら重力操作が使えるとはいえ、あれだけの量を一人で片付けるなんて、かなりの時間がかかっただろう。だからあんなに眠そうだったのか……。ダメだ、いい子すぎて泣けてくる。
起きたらわちゃわちゃに撫でくりまわしてやろうと心に決めて、滲んだ視界を擦りながら、日課の水やりへと向かうことにした。
▽
昨日余ったシチューを温めていると、匂いにつられたのか、ようやくヴィラが起きてきた。寝ぼけているのか寝巻きのままだ。これはチャンス!
シチューを一旦火から下ろして、後ろから近づき勢いよく抱きしめると、僕に気づいて暴れ出した。
「わっ、暴れないでってば」
「離せ」
「大量にあった洗い物とか色々、片付けてくれたんだろ」
「……別に」
「君は本当に良い子だな~~~! よーしよしよし」
顔を背けて大人しくなったので、これ幸いとばかりに撫で回す。……そういえば、ヴィラの髪をこんなに触ったのは初めてかもしれない。撫でた先からサラサラと溢れる銀髪は、やっぱり凄く綺麗だった。
絹のような手触りを楽しみながら、暫く無心で撫でていると、いきなり手を掴まれそのまま壁際に押しやられる。
まずい、怒ったか……? そう思ったのはほんの一瞬で、少し俯いたヴィラの顔は、耳まで真っ赤になっていた。怒ってるんじゃない、照れてるんだ。
虐めたつもりはなかったんだけど、少しやりすぎたかもしれない。反省の意味もこめて、掴まれていない方の片手をあげる。白旗を振ったのと同義、降参のポーズだ。
「ごめん、やりすぎたね」
「ああ……随分好き放題やられてしまった。だが、これでやり返されても文句は言えないな?」
「ひょぇ」
少しだけ色を濃くした瞳が静かに僕を見据える。前言撤回、照れてるんじゃなくて、やっぱり怒っていたようです。
チチチ
楽しげな鳥の声で目が覚めると、見慣れた天井が視界に映った。ぼんやりした頭で、ヴィラがベッドまで運んでくれたのかと考える。
片付け……しなきゃいけないけど…後でいいや。とにかく瞼が重たくて、再び目を閉じかけた時、モゾリと隣で何かが動いた。
慌てて横を見ると、視界いっぱいに広がるヴィラの顔。身じろぎする度、陶器のような白い肌を星屑の髪がすべり落ちる。伏せられたまつ毛は髪と同じ銀色で、薄く色づいた唇から静かな吐息が漏れていた。
「うわっ!!!!」
思わず叫び声を上げると、見慣れた色違いの瞳が薄っすらと現れる。起きたことに安心したのも束の間、不機嫌そうな声音でうるさいと一蹴され、彼は再び瞼を閉じた。ちょっと待って、寝ようとしないで。
嫌がる顔をピタピタと叩いて、文字通り叩き起こす。国宝のように綺麗な顔を叩くのは正直気が引けたけど、こちらも緊急事態なのでやむを得ない。
「何……」
「いや、何ってこっちが聞きたいよ。なんでヴィラが僕のベッドにいるの」
「んん……どこかの馬鹿が泥酔していたから、ベッドに運んでやっただけだ」
「え、ごめん。ありがとう」
「構わん。私は寝る……」
「いや待って、寝ないで。ヴィラがここにいることについての説明が一切ないんだけど」
「お前が私の服を握って離さなかったんだろう」
毛布をどかしてヴィラの服を見ると、確かに腰の一部分だけクシャクシャになっていた。
つまり僕は泥酔した上に、怪我をしているヴィラに自分を運ばせ、尚且つ服を握って離さなかったから仕方なく一緒に寝てくれたと………?
サァーッと顔から血の気が引く。我ながらとんでもない失態を……。穴があったら入りたいと、今まで生きてきた中で初めて思った。
「本当にごめんね……重かったでしょ。傷悪化してない?」
「別に、お前1人くらいどうという事はない。分かったら寝かせろ」
「あ、うん。おやすみ……」
再び眠り始めたヴィラを起こさないよう、静かにベッドから抜け出して浴室に向かう。
熱いシャワーを浴びて気分を切り替えようと思っていたのに、ふとした瞬間に視界いっぱいに映ったヴィラの顔が甦ってきて顔が赤くなるのを止められない。
ふかふかのタオルに顔を埋めて小さく叫ぶ、顔面の暴力って凄い、寝起きの掠れた声と合わさってなんかもう凄かった。
少年期でこれなのだから、ヴィラが成人したら世界中の人が彼に惚れるんじゃないか? 本気でそう思えるほど、彼の色香は壮絶だったのだ。
ヴィラがいる前ではもう二度とワインを飲まないでおこうと心に誓って、ようやくシャツに袖を通す。
朝っぱらから良いものを見たような、体に悪い物を食べたような、そんな不思議な気分だった。
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酷い惨状だろうと覚悟して足を踏み入れたリビングは、驚くほどに綺麗でいつも通りだった。
一瞬思考が止まって、それでもすぐに理解する。僕は昨日泥酔していたようだし、片付けなんて到底できるわけがない。つまりは………
はぁぁとため息をついてしゃがみ込む。いくら重力操作が使えるとはいえ、あれだけの量を一人で片付けるなんて、かなりの時間がかかっただろう。だからあんなに眠そうだったのか……。ダメだ、いい子すぎて泣けてくる。
起きたらわちゃわちゃに撫でくりまわしてやろうと心に決めて、滲んだ視界を擦りながら、日課の水やりへと向かうことにした。
▽
昨日余ったシチューを温めていると、匂いにつられたのか、ようやくヴィラが起きてきた。寝ぼけているのか寝巻きのままだ。これはチャンス!
シチューを一旦火から下ろして、後ろから近づき勢いよく抱きしめると、僕に気づいて暴れ出した。
「わっ、暴れないでってば」
「離せ」
「大量にあった洗い物とか色々、片付けてくれたんだろ」
「……別に」
「君は本当に良い子だな~~~! よーしよしよし」
顔を背けて大人しくなったので、これ幸いとばかりに撫で回す。……そういえば、ヴィラの髪をこんなに触ったのは初めてかもしれない。撫でた先からサラサラと溢れる銀髪は、やっぱり凄く綺麗だった。
絹のような手触りを楽しみながら、暫く無心で撫でていると、いきなり手を掴まれそのまま壁際に押しやられる。
まずい、怒ったか……? そう思ったのはほんの一瞬で、少し俯いたヴィラの顔は、耳まで真っ赤になっていた。怒ってるんじゃない、照れてるんだ。
虐めたつもりはなかったんだけど、少しやりすぎたかもしれない。反省の意味もこめて、掴まれていない方の片手をあげる。白旗を振ったのと同義、降参のポーズだ。
「ごめん、やりすぎたね」
「ああ……随分好き放題やられてしまった。だが、これでやり返されても文句は言えないな?」
「ひょぇ」
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