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第十二章 買い物
38話
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『ね、ねぇ……本当に気にしてない?』
先を歩く背を追いかけながら、恐る恐る口にする。ニンファは気にしていないと言っていたけど、それが本心なのかどうか、未だに信じきれなかった。
『もう、それ何回聞く気なの』
『だって……』
『俺の答えは同じだよ。ほら、余計なこと考えてる暇があるならプレゼント選びに集中して。結局さっきは何も買えなかったんだから』
こっそり顔を覗き込めば、それに気づいたニンファが、おどけたように肩をすくめる。きっと、怒っていないというアピールだ。
謝るつもりが困らせてしまっては元も子もない。もう無理に問い詰めることも出来なくなって、渋々頭を縦に振った。
『わかった』
『よし、いい子。次のお店はすぐ近くだよ』
そう言って足を早めるものだから、慌ててマントの裾に手を伸ばす。
いつの間にか日は高く上り、それに伴って人の往来も増え始めている。その上ルミナーレの商業地区ともあれば、歩くだけで、目が回りそうなほどに忙しい。興味や好奇心はあるけれど、やっぱり怖い気持ちも捨てきれないのだ。
『すごい、店がいっぱいある……』
先ほどの入り組んだ場所にある路地とは違い、メインストリートにはずらりと店が並んでいる。大小様々ではあるが、どれも石造りの立派なものだ。
物珍しくて眺めていれば、中でも一際大きな店に、ニンファは迷わず入っていった。マントを掴んでいる僕も、当然その後に続く。
──扉をくぐれば、そこは沢山のものとお客さんで溢れかえっていた。
大きな窓からは光がたっぷり降り注ぎ、薄緑色の店内を照らしている。
見上げれば、天井には何種類ものガラス飾り。花や星の形をしたそれがゆらゆらと揺れる度、幻想的な影が彩りを落としていた。
一方で棚に並んだ商品たちは、忙しなくお客さんの手を行ったり来たり。楽しげな声と雰囲気に、自然と笑顔になってしまう。
『素敵なところだね』
『うん。カデリア商会が経営しているお店でね、外国の雑貨を広く扱ってるそうなんだ。ここでなら、弟の気にいるものが見つかるかなって』
その言葉に頷きながら、店内へと一歩足を進める。これほど広いお店なら、きっと何かしらは見つかるだろう。
『それで、弟さんは何が好きなの? 探すにしても粗方絞っておかないと』
『そうだねぇ……』
『えっ、もしかしてそこから? 本当に?』
僕の問いかけに若干遠い目をしたニンファは、はぐらかすようにして近くの棚を覗きに行った。
いくら喧嘩しているとはいえ、好きなものが何一つ思い浮かばないなんて……。そんなことあり得るんだろうか。
訝しみながら近づくと、その手には花のガラス細工が握られていた。一瞬本物かと見紛うほどに美しくて、思わず感嘆の息を漏らしてしまう。透けた花びらが反射して、まるで朝露に輝いているようにも見える品だ。
『……知らないわけじゃないんだよ』
『え?』
『あの子の好きなもの、覚えてないわけじゃないんだ。でも随分昔のことだから、あんまり自信がなくってね。……ほら、昔は好きだったけど、今は興味がないものとかあるでしょう』
『まあ、確かにあるかも』
そう口にすれば、ニンファは寂しそうに笑って、花を元の棚へと戻した。最後まで話を聞かないところは少しだけヴィラに似てる。
『でもさ、僕なら嬉しいと思うけどな』
『………なんで?』
『なんでって……──だって、それだけずっと覚えててくれたってことだろ。そりゃあ嬉しいよ』
『そう?』
『うん。まあ今回は弟さん次第だけどね。一応、僕みたいな考えの人もいるよって伝えておきたくて』
白い指先が伸ばされて、一度もどって、再び届く。花びらの縁をなぞりながら、ニンファはぽつりと呟いた。
『他にも、探してみようかな』
その言葉に何度も何度も頷いて、立ち止まっていた背中を押す。
こんなに想われていることを知ったら、きっと弟さんだって喜んでくれるだろう。それでも上手くいかなかったら僕が間を取り継ごうかな、なんてそんなことを考えていた。
先を歩く背を追いかけながら、恐る恐る口にする。ニンファは気にしていないと言っていたけど、それが本心なのかどうか、未だに信じきれなかった。
『もう、それ何回聞く気なの』
『だって……』
『俺の答えは同じだよ。ほら、余計なこと考えてる暇があるならプレゼント選びに集中して。結局さっきは何も買えなかったんだから』
こっそり顔を覗き込めば、それに気づいたニンファが、おどけたように肩をすくめる。きっと、怒っていないというアピールだ。
謝るつもりが困らせてしまっては元も子もない。もう無理に問い詰めることも出来なくなって、渋々頭を縦に振った。
『わかった』
『よし、いい子。次のお店はすぐ近くだよ』
そう言って足を早めるものだから、慌ててマントの裾に手を伸ばす。
いつの間にか日は高く上り、それに伴って人の往来も増え始めている。その上ルミナーレの商業地区ともあれば、歩くだけで、目が回りそうなほどに忙しい。興味や好奇心はあるけれど、やっぱり怖い気持ちも捨てきれないのだ。
『すごい、店がいっぱいある……』
先ほどの入り組んだ場所にある路地とは違い、メインストリートにはずらりと店が並んでいる。大小様々ではあるが、どれも石造りの立派なものだ。
物珍しくて眺めていれば、中でも一際大きな店に、ニンファは迷わず入っていった。マントを掴んでいる僕も、当然その後に続く。
──扉をくぐれば、そこは沢山のものとお客さんで溢れかえっていた。
大きな窓からは光がたっぷり降り注ぎ、薄緑色の店内を照らしている。
見上げれば、天井には何種類ものガラス飾り。花や星の形をしたそれがゆらゆらと揺れる度、幻想的な影が彩りを落としていた。
一方で棚に並んだ商品たちは、忙しなくお客さんの手を行ったり来たり。楽しげな声と雰囲気に、自然と笑顔になってしまう。
『素敵なところだね』
『うん。カデリア商会が経営しているお店でね、外国の雑貨を広く扱ってるそうなんだ。ここでなら、弟の気にいるものが見つかるかなって』
その言葉に頷きながら、店内へと一歩足を進める。これほど広いお店なら、きっと何かしらは見つかるだろう。
『それで、弟さんは何が好きなの? 探すにしても粗方絞っておかないと』
『そうだねぇ……』
『えっ、もしかしてそこから? 本当に?』
僕の問いかけに若干遠い目をしたニンファは、はぐらかすようにして近くの棚を覗きに行った。
いくら喧嘩しているとはいえ、好きなものが何一つ思い浮かばないなんて……。そんなことあり得るんだろうか。
訝しみながら近づくと、その手には花のガラス細工が握られていた。一瞬本物かと見紛うほどに美しくて、思わず感嘆の息を漏らしてしまう。透けた花びらが反射して、まるで朝露に輝いているようにも見える品だ。
『……知らないわけじゃないんだよ』
『え?』
『あの子の好きなもの、覚えてないわけじゃないんだ。でも随分昔のことだから、あんまり自信がなくってね。……ほら、昔は好きだったけど、今は興味がないものとかあるでしょう』
『まあ、確かにあるかも』
そう口にすれば、ニンファは寂しそうに笑って、花を元の棚へと戻した。最後まで話を聞かないところは少しだけヴィラに似てる。
『でもさ、僕なら嬉しいと思うけどな』
『………なんで?』
『なんでって……──だって、それだけずっと覚えててくれたってことだろ。そりゃあ嬉しいよ』
『そう?』
『うん。まあ今回は弟さん次第だけどね。一応、僕みたいな考えの人もいるよって伝えておきたくて』
白い指先が伸ばされて、一度もどって、再び届く。花びらの縁をなぞりながら、ニンファはぽつりと呟いた。
『他にも、探してみようかな』
その言葉に何度も何度も頷いて、立ち止まっていた背中を押す。
こんなに想われていることを知ったら、きっと弟さんだって喜んでくれるだろう。それでも上手くいかなかったら僕が間を取り継ごうかな、なんてそんなことを考えていた。
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