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二人の勇者?
三話
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それから少しの時間が経ち、気づけば俺たちは放置された木箱の上、二人仲良く座っていた。
ポケットの中で魔水晶がとんでもなく震えているが、今は応答する余裕がない。財布はレイが持ってるし、しばらく無視する分には問題ないはずだ。
「……それで、使い方が間違ってるっていうのは」
地面に届かない足を動かして遊んでいる子どもに問いかける。あの意味深な発言を聞いて黙って立ち去れというほうが無理な話。そんなの気になるに決まってるだろ。
「うーん。お兄ちゃんはさぁ、スキルってなんだと思う?」
「質問に質問で返すなよ」
「だって多分そこからわかってないんだよ」
呑気な声に首を傾げる。
そりゃあいきなり連れてこられて「あなたにはこのスキルがあります。上手く使って戦ってください」とだけ告げられたんじゃ、理解が追いつくはずもない。
もしもレビューが書けるのなら " アフターフォローが信じられないくらい最悪 '' だと星ひとつをデカデカつけてやるところだ。
「スキルってあれだろ、個性……みたいな」
「ふっ」
ふわっとかつアバウトな感想を呟けば、小馬鹿にしたような笑みが返ってくる。先ほどの笑顔とはまた随分と違った雰囲気だ。
「それ本気で言ってるの?」
「よく考えた方だろ! そもそも俺が元いた世界にスキルなんてシステムねぇんだよ!」
「もー怒らないでよ。だから教えてあげてるのに」
「……悪い」
子ども相手に大人げない。そんな言葉が頭をよぎり、それもそうだと口をつぐんだ。
今はレイの後ろでバフをかけてやることしかできないが、使い方さえわかればもっと上手くサポートしてやれるかもしれない。なんなら使い道の不明な「魅了」スキルだって、何かしらに利用できるかもしれないのだ。
「お兄ちゃんのスキルはね、正しくは『声援』と『好感』初めて鑑定した人が間違えて教えてるの」
「ま、待ってくれ。声援と……なんて言った?」
「だーかーらー。声援と好感だってば」
聞き慣れない言葉に動揺し、自然と声が震えてしまう。トイフェルの説明によれば、俺のスキル『声援』は声を出せば出すほど対象者の能力を底上げする力らしい。
今までは危ないだとか、一旦逃げようだとか、危険な時にしか声を出していなかった。あとは能力強化が発動するよう影に隠れて祈っていただけ。
ならば今までの戦闘で、俺はほとんど役に立っていなかったのではないか。
いや、守ってもらっていた分だけ、お荷物としての割合の方が大きいだろう。
「ま…………じ、かぁ~……」
驚きのあまりすぐに言葉が出てこない。多分、親の離婚を言い渡された時より驚いている自覚はある。
「あ、でもね。『好感』の方はちゃんと使えてるみたいだよ」
「……はい?」
「これは『声援』みたいに一時的なものじゃなくて、どちらかといえば基礎能力に近いから」
長く共にいればいるほど、その効能は強くなる。トイフェルは確かにそう唇を動かした。
この感覚をなんと表現すればいいのだろう。段々と薄暗く染まっていく空に合わせて、心まで深く汚泥に沈んでいくようだった。
──レイはきっと、能力強化がかかってないことに気づいていた。それを口にしなかったのは、最初の頃は純粋な優しさ故であったのだろう。
けれど、時に過剰なほど俺のことを心配したり、何かと褒めては触れてきたり。
あれは俺のスキルがそうさせていたのだ。
ああどうしよう、喉元から酸っぱいものが迫り上がる。自己嫌悪で吐き気を催したのは初めてだ。
「いいね。そういう汚い感情だぁいすき」
ぐらぐらと揺れる視界と頭、その隣ではきゃらきゃらと金色の子どもが笑っていた。
「……ね。どうせ役に立たないのなら、僕がもらってあげようか?」
これ以上レイの側にはいられない。負担を増やすだけのお荷物にはなりたくない。
ぐるぐるぐるぐる。頭の中で真っ青な顔をした自分が呟いた。重力に任せて頭を動かそうとしたその時
──バギッッ!!
突然酷い音が響いたかと思えば、隣の木箱に深々と銀色の剣が突き刺さっていた。
真っ二つに割れるような、美しい断面などではない。感情のままに突き刺したせいか、木箱はバキバキと音を立て、その歪な割れ目を広げていった。
「馬鹿じゃないの。あげるわけないでしょ」
「レ……、イ?」
「アキは爪の先から髪の毛一本までぜ~んぶ俺のものなわけ。わかったら失せろ」
聞いたことのない地を這うような低い声。けれど、目の前で揺れる藍鼠の髪は、この世界でただ一人しか持ち得ない。
「うーわ。じゃあまたねお兄ちゃん、悲しくなったらいつでも呼んで」
最後まで言い終わることもなく、金色の子どもは空気に溶けた。後に残るのは当然────
「アキ、とりあえず宿に帰ろうか」
「…………」
いつもより数段低いその声音に反抗できる気力もなく、ただ重力のまま黙って首を縦に振った。
ポケットの中で魔水晶がとんでもなく震えているが、今は応答する余裕がない。財布はレイが持ってるし、しばらく無視する分には問題ないはずだ。
「……それで、使い方が間違ってるっていうのは」
地面に届かない足を動かして遊んでいる子どもに問いかける。あの意味深な発言を聞いて黙って立ち去れというほうが無理な話。そんなの気になるに決まってるだろ。
「うーん。お兄ちゃんはさぁ、スキルってなんだと思う?」
「質問に質問で返すなよ」
「だって多分そこからわかってないんだよ」
呑気な声に首を傾げる。
そりゃあいきなり連れてこられて「あなたにはこのスキルがあります。上手く使って戦ってください」とだけ告げられたんじゃ、理解が追いつくはずもない。
もしもレビューが書けるのなら " アフターフォローが信じられないくらい最悪 '' だと星ひとつをデカデカつけてやるところだ。
「スキルってあれだろ、個性……みたいな」
「ふっ」
ふわっとかつアバウトな感想を呟けば、小馬鹿にしたような笑みが返ってくる。先ほどの笑顔とはまた随分と違った雰囲気だ。
「それ本気で言ってるの?」
「よく考えた方だろ! そもそも俺が元いた世界にスキルなんてシステムねぇんだよ!」
「もー怒らないでよ。だから教えてあげてるのに」
「……悪い」
子ども相手に大人げない。そんな言葉が頭をよぎり、それもそうだと口をつぐんだ。
今はレイの後ろでバフをかけてやることしかできないが、使い方さえわかればもっと上手くサポートしてやれるかもしれない。なんなら使い道の不明な「魅了」スキルだって、何かしらに利用できるかもしれないのだ。
「お兄ちゃんのスキルはね、正しくは『声援』と『好感』初めて鑑定した人が間違えて教えてるの」
「ま、待ってくれ。声援と……なんて言った?」
「だーかーらー。声援と好感だってば」
聞き慣れない言葉に動揺し、自然と声が震えてしまう。トイフェルの説明によれば、俺のスキル『声援』は声を出せば出すほど対象者の能力を底上げする力らしい。
今までは危ないだとか、一旦逃げようだとか、危険な時にしか声を出していなかった。あとは能力強化が発動するよう影に隠れて祈っていただけ。
ならば今までの戦闘で、俺はほとんど役に立っていなかったのではないか。
いや、守ってもらっていた分だけ、お荷物としての割合の方が大きいだろう。
「ま…………じ、かぁ~……」
驚きのあまりすぐに言葉が出てこない。多分、親の離婚を言い渡された時より驚いている自覚はある。
「あ、でもね。『好感』の方はちゃんと使えてるみたいだよ」
「……はい?」
「これは『声援』みたいに一時的なものじゃなくて、どちらかといえば基礎能力に近いから」
長く共にいればいるほど、その効能は強くなる。トイフェルは確かにそう唇を動かした。
この感覚をなんと表現すればいいのだろう。段々と薄暗く染まっていく空に合わせて、心まで深く汚泥に沈んでいくようだった。
──レイはきっと、能力強化がかかってないことに気づいていた。それを口にしなかったのは、最初の頃は純粋な優しさ故であったのだろう。
けれど、時に過剰なほど俺のことを心配したり、何かと褒めては触れてきたり。
あれは俺のスキルがそうさせていたのだ。
ああどうしよう、喉元から酸っぱいものが迫り上がる。自己嫌悪で吐き気を催したのは初めてだ。
「いいね。そういう汚い感情だぁいすき」
ぐらぐらと揺れる視界と頭、その隣ではきゃらきゃらと金色の子どもが笑っていた。
「……ね。どうせ役に立たないのなら、僕がもらってあげようか?」
これ以上レイの側にはいられない。負担を増やすだけのお荷物にはなりたくない。
ぐるぐるぐるぐる。頭の中で真っ青な顔をした自分が呟いた。重力に任せて頭を動かそうとしたその時
──バギッッ!!
突然酷い音が響いたかと思えば、隣の木箱に深々と銀色の剣が突き刺さっていた。
真っ二つに割れるような、美しい断面などではない。感情のままに突き刺したせいか、木箱はバキバキと音を立て、その歪な割れ目を広げていった。
「馬鹿じゃないの。あげるわけないでしょ」
「レ……、イ?」
「アキは爪の先から髪の毛一本までぜ~んぶ俺のものなわけ。わかったら失せろ」
聞いたことのない地を這うような低い声。けれど、目の前で揺れる藍鼠の髪は、この世界でただ一人しか持ち得ない。
「うーわ。じゃあまたねお兄ちゃん、悲しくなったらいつでも呼んで」
最後まで言い終わることもなく、金色の子どもは空気に溶けた。後に残るのは当然────
「アキ、とりあえず宿に帰ろうか」
「…………」
いつもより数段低いその声音に反抗できる気力もなく、ただ重力のまま黙って首を縦に振った。
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