カミサマは新しいチートの楽しみ方をミツケマシタ

肉球は正義

文字の大きさ
10 / 17
ヤット タビニデル

ミッション1-6 徐々に変わる現状

しおりを挟む
朝、やや薄暗さの残る時間。
俺は軽めの足取りで、昨日おっさん騎士が居た屋敷への坂の途中。今日からは稽古場になる場所へ向かう。

そんなことになった流れとしては大変ラノベ的だ。
執事さん狙いで妹はやらん!と言い切った俺に対して、おっさん騎士は物の見事に狼狽した。それから何度も俺に意図を確認して、王子なんぞ眼中にないことを信じさせた。
だけど職業柄、秘密主義だし執事さんは王子付きの人なので俺との仲を取り持ったりはしたくないと言ってきた。

そこで俺は思いついた。
言わないなら、言わせてみせよう、ホトトギス!
おっさん騎士と勝負して、一撃でも与えられたら俺の勝ちってやり方なんだけど。
おっさん騎士としてはロクに剣を振ったこともない小僧に負けられない。でも執事さんへの熱意が本物なら食らいついてこい!ってことみたいだ。顔に書いてあった。

だがしかし!そんな小僧と、おっさんでも騎士が一撃取れるまでやり合うというのは、俺にしてみれば情報と足りない技術を磨くチャンスなのだ。
なので稽古。武器も、神力も、使うには経験が足りなすぎる。補うには使ってみるしかない。

『生半可な想いでは何も渡せぬ』

おっさん騎士が昨日の別れ際に俺に言った一言。
バカ言うなよ。俺だって、俺なりに真剣だ。

「来たか…」
来なくてもよかったのに。がとっても正直に出てるおっさん騎士に一礼して、俺は持参した木刀を構える。

「よっしくおねがっしゃーす!」
「宜しくお願い致します!だ馬鹿者!!」


◆  ◆  ◆


「あー、掃除大変っすわー」
兄は兄でやることを決め、私も私なりにやることを決めたのだが…。
「今日が初めてだものね。大丈夫!とっても上手にお掃除できてるわ♪」

近くで微笑むはこの物語、真のヒロインである女の子。
まさかお手伝い初日に出くわすとは思わなかったよ。それがヒロイン補正ってやつなの?すごいね。

陽の高い今はお客は居らず、まさしく開店準備中というやつである。
酒場らしい、ややスカート丈の短い制服を着て、せっせと床に椅子にテーブル。あらゆる箇所を許される限り綺麗に磨いていく。

時折、カウンターからこっちに指示を出してくる情報屋のおじ様…改め店長は何だか複雑そうな顔をしていた。

「マスターったら、どうしたのかしらねぇ?」
「オネェさんの制服姿がまぶしい、とか?」
凛々しい声とは違い、女性用の制服を身に付けた男性。ここのホールを取り仕切るリーダーにして心は乙女さんだ。

「あらあら、お口が上手だこと♪でも。男に同じようにはしちゃダメよ!ここは酔っ払いどもが日頃の鬱憤を晴らす場所なんだから!」

ついでに可愛いコに手ぇ出そうとしてる輩がいっぱいなのよー!とオネェさんは叫ぶ。店長がうるせえ!と怒鳴り返す。

掃除を始めて1時間としない内に、何回そのやりとりするの?
「もう、2人はいつもああなのよ?お店を開けると落ち着くけど、そうじゃない時はずっと何かとケンカするの」
くすくすと可愛らしく笑う女の子に、私は精一杯の笑みを返す。

これ、開店してからもなの?察してたけどさ。

そうこうしている間に陽は暮れて。
女の子は幼馴染の男の子に迎えに来てもらって帰っていった。
何でも、女の子に酔っ払いが絡んだことがあって開店後の手伝いは禁止されているんだとか。
ホールの手が足りない時はどうして持って残ってもらっていたけど、数日は私がいるので女の子は難を逃れるわけだ。きっと幼馴染くん的にも。

「そんじゃ、気合い入れろよー」
「妹ちゃん!何かあったらすぐ呼ぶのよ?不埒なヤローは叩き出してあげるから!」
オネェさんの熱いハグに応えながら、私は気合いを入れ直す。
ここで起こるハプニングくらい、笑って受け流してみせるだ!と。


…とは思ったけど、やっぱり初の酒場仕事は難しいです。
酒場というだけで気が緩むお客に、新入りかい?と挨拶のようにスカートをめくられまくり、見せパン履いていると分かれば、酒場ってのが分かってねえ!と文句を言われる。

「ここって、あやしいサービスもするトコなんですっけ?」
オーダーを書いた紙を渡すついでに店長に聞くと、渋い顔をされた。
「お前みたいなケツの青いガキ、からかってるだけに決まってんだろ。ビビったんなら明日から来るな」

ズン!と空になったジョッキを置いたオネェさんが店長よりも高い視線をゆっくりと下ろし、とても低くていい声で唸る。
「王子様の滞在中、大忙しなの。坊やはお分かりかしらぁん?」
思い切りビクついた店長は、悟られまい悟られまいとしているのが分かるほど冷や汗をかいていた。
「わ、わあってる…」
「なら新人イビリなんか止めて、手ぇ動かしやがれ♪」

さ、まだまだオーダー取りが残ってるわよ~♪と、オネェさんは店長に見せた顔とは全く違う優しい、それも笑顔で私の背中を押して行く。
振り返ったら、店長と同じくらい冷や汗をかいたお客で溢れていたのは、うん。仕方のないことである。


「だーっ!つーかーれーたあ!」
「うるさい」
「ようこそ!…む、兄と騎士さま」
酒場の1番盛り上がる時間、そして忙しさがピークに達した頃、兄とおじさま騎士が来店。
兄は眠そう、おじさま騎士はピリピリと近寄りがたいオーラを放って、自覚なしに周囲を威圧している。

「あら、噂のお兄ちゃん?イケメンね♪でもあたしには若すぎるわぁ♪」
だけど目の保養にしちゃう♪と、兄とおじさま騎士はオネェさんに空いたテーブルへと通される。
その時、最初はギョッとしていたおじさま騎士がじわじわと脂汗を滲ませていることに気が付いた。

「これがメニューよん♪決まったら、あたしか妹ちゃんを呼んでねん♪」
オネェさんからの愛情たっぷりウインクを、こともなげに受け流す兄の笑顔は尊敬に値した。
だが、一方のおじさま騎士はガタガタと震え出していた。

「おっちゃん、どうかしたの?」
「呼び方を改めろと何度言わせるっ!」
「俺、注文決まったよ?」
「こちらのことは気にせず食っていろ…」

震えが増すばかりのおじさま騎士を横に、兄はオネェさんにオーダーを頼む。オネェさんがカウンターへ向おうとした、その時だ。

「団長!なぜっなぜそのようなお姿でこのような場所にっ?!」
「…懐かし顔、とは思ったけれど。野暮ね、女には秘密がある、それだけよ」
何度聞いても凛々しい声で返して、オネェさんはカウンターに向かった。
私と兄は若干状況を把握したため、黙って流そう。と目配せしていた。

「おっちゃん、呑んだら?」
「勤務中は酒を飲まぬと決めている」
「そ?なら俺だけ呑んじゃって悪いね♪酔うか分かんないけど♪」

運ばれてきたウイスキーを美味しそうに口に含み、兄は上機嫌だ。どういった経緯でお店に来たのかは、まあ想像がつくけど、今は手伝いを優先だ。
私は会計を済ませ空きとなったテーブルの片付けに走った。


閉店の近い頃、少しぽやっとする兄をおじさま騎士が宿まで運んでくれることになった。
ついでに私のこともと言ってくれたが、閉店後の片付けを理由に兄だけを任せた。

「別に、いいって言っただろ」
仏頂面の店長は、テーブルを拭いて周っている。
「そんなわけにもいきませんよー。何だかオネェさん、センチメンタルしてるしー」

カウンター席に座り、何処か遠くを見つめては目蓋を閉じるオネェさん。おじさま騎士との再会に、あと動揺されたことに。穏やかになりきれないのかもしれない。

「ま、お給金のため、オネェさんのためです。夜道の不審者くらいどうにかできますし」
箒で床を履き、ホコリや食べこぼしを塵取りの中に収めて行く。
「押し倒されただけで固まったやつのセリフなんざ説得力がねえよ」

あれは己の中にあるものを認識したりしての反応であって、怖くて萎縮したのではない!と言ってやりたいけど、お客の相手をしていくらかお酒を飲んだ店長のことはスルーする。

そう、酔っ払いは絡みやすい。きちんと学んだのだ。スカートめくりに耐えながら!


◆  ◆  ◆


「んー、歩けるよぅ」
「フラつきながらな」

おっちゃんに支えられながら歩く俺は、久しぶりのお酒に酔っていた。うん、神体になってからは初めて飲んだかも。

にしても、空気が重い。
おっちゃんが気を使ってくれるのは有難いが、どうにも酒場のオネェさんとやらのことでショックが抜けきっていない。
酒場に行く前と後じゃ、毒気というか何というかが違いすぎる。

「…なあ、おっちゃん」
「呼び方を改めろ、坊主」
「俺にしか言えないことがあるんなら、聞くよー?今なら(ちょっと)酔ってるから、きっと寝たら忘れるよ!」

グッと親指を立てて満面の笑みを見せれば、おっちゃんは少しだけ寂しそうな顔をした後、俺にデコピンをくらわせた。

「阿呆…」
「なんだよー、弱みを握ったりしないぞ?カミに誓ってもいい!」
煩悩のカミサマに、だけど。

これ見よがしにからかうように言ってみたが、おっちゃんの顔には影が差したままだ。
よほどオネェさんのと出会いが堪えたと見える。

…絶対にこれは、チャンスだ。

「よし!俺がおっちゃんをお屋敷まで送ってあげよう!」
「は?」
支えてくれている手から逃れ、今度は俺がおっちゃんの手を掴む。
「さ、行こうぜ?そんなしょげた顔、俺のせいにされちゃ堪んないからな♪」
抵抗を見せるおっちゃんだが、俺がやや酔っていると思うと全力は出しにくいらしい。

ほほう、紳士ですな。さすが騎士。

「気を使って恩でも売る気か?!」
「はいはい、なんでもいーよん♪」
上機嫌に歩く俺は、白む空を一度だけ見上げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」 「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」  私は思わずそう言った。  だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。  ***  私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。  お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。  だから父からも煙たがられているのは自覚があった。  しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。  「必ず仕返ししてやろう」って。  そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。

処理中です...