初恋のイケメン従兄がオス全開の独占欲で私に迫ってきます

まのろ

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1巻

1-2

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 秀ちゃんはなにか言いたそうな顔をしたあと、私の頭をガシッと掴んだ。

「えっ、痛っ!?」

 なになに!? と目を白黒させていると、グイッと引き寄せられて頭上から温かい声が落ちてきた。

「あんま、自分を追い込むなって言っただろ。……頑張ったな」

 小さい子にするみたいに頭をよしよししながらのささやきに呼吸が止まる。
 手が私の頭から離れて。
 顔を上げた先にある秀ちゃんの笑顔に、今度は心臓まで止まった気がした。
 顔が熱い。胸が苦しい。言葉が出ない。
 さっき感じた絶対的な安心感なんて簡単に吹き飛ばされてしまう。
 私、どうして再会したら手が届くだなんて思ってしまっていたんだろう。
 やっぱり小さい頃同様、距離は縮まらないままだ。


 タクシーに乗ると、あっという間に家に着いてしまった。
 片想い歴だけが無駄に長くて、恋愛経験値が底辺の自分としては、男の人を自分の部屋に上げるというだけでも妙に気恥ずかしさを感じる。

「狭いけど、どうぞ」

 ドキドキしながらドアを開けたのに、「お邪魔します」と言いつつも、まるで自分の実家に上がるように自然と上がっていく秀ちゃん。そこに恋愛の猛者もさの背中を見た。

「よかったらその辺に適当に座ってね、コーヒーれるから」
「おー、サンキュ」

 秀ちゃんは黒いトランクを床に置いて、さっそく広げ始めた。
 ついつい血管の浮き出た腕や厚い胸板に目が行ってしまう。ちらりと彼の黒い瞳がこちらを向いた。

「なに?」
「なんか秀ちゃん前よりも……太くなった?」
「太……お前、そこはたくましくなったね、だろ。あっちのやつらジムが好きで、付き合ってたらこうなったんだよ。自分で言うのもなんだけど、今けっこういい身体してるよ。腹もちゃんとバキバキに仕上がってるから」

 ――見る? なんて悪戯いたずらっぽく顔で微笑むので、またもや顔が熱くなる。

「なに言っているの、もうっ」

 大人の男の魅力に満ちた美形が悪戯いたずらっぽく微笑むと凶悪なぐらい格好よくて、直視に耐えられず、慌てて背を向ける。
 暴れる心臓を抑えていると、いつの間にか立ち上がって距離を詰めていた秀ちゃんが、スッとその長身をかがめてのぞき込んできた。

「どうした?」

 間近にある精悍せいかんな美貌と腰にクる低い美声。もうやめてほしい。こっちのライフはとっくにゼロだというのに。

「なっ、なにがっ? 秀ちゃんこそどうしたの?」
「これ、飲もうと思って買ってきたから冷やしてもらおうかと。それよか、お前こそこんなところで突っ立ってどうした?」

 小首を傾げた美形が、私の赤くなっているであろう頬を指の背で触れて、薄く笑った。

「真っ赤」
「~~っ、これは、秀ちゃんが、さっき破廉恥はれんちなこと言ってきたから」
「いや、お前あれくらいで。っつーか、あの一言でそんな顔を赤くして、いったいなにを想像してんだよ、このムッツリが」
「~~っ!」

 ニヤニヤ笑われて、恥ずかしくってしょうがない。

「コーヒーめちゃくちゃ濃くするね」

 恨みがましく見つめると、秀ちゃんが「悪かったって」と私の頭にポンと手を置く。
 こうやって簡単に私に言い負かされてくれるところも、自分が秀ちゃんにとって保護対象のままな感じがしてちょっと悔しい。……悔しいのに。どこか喜んでる自分もいて。ほんと、恋心はどうしようもないと思う。
 自分の感情を持て余しながら、受け取った袋の中をのぞく。赤と白の二本のワインとチーズとナッツが入っていた。

「赤は常温で、白は冷蔵庫でいい?」
「ああ、それでいいよ。今晩開けようぜ」
「今日は和食の予定だよ?」
「別に飲み物はワインでもいいだろ? 日本食に飢えてるし、真白の料理、楽しみにしてる」

 ふわりとさわやかな笑みを向けられて、またしても心臓がキュウッと悲鳴を上げた。
 それからは何事もなかったように一緒にコーヒーを飲んで、秀ちゃんが荷ほどきをしている間に夕飯の準備を始めた。
 今日のメニューは秀ちゃんリクエストの唐揚げ、大葉おおば柚子胡椒ゆずこしょうをきかせたトマトと豆腐の和風サラダ、小松菜のお浸しと、肉じゃがと、具だくさんの豚汁と炊き立てのご飯。
 準備を終えて、たくあんとのりの佃煮つくだにを小皿に盛ってご飯の横に置いたら、「食いたかった」とすごく感謝された。わかるよ、実家に帰ったかのような、ほっとするメンバーだよね。
 まずはビールで乾杯したあと、「いただきます」と両手を合わせた秀ちゃんが揚げたての唐揚げを頬張る。

「この唐揚げ、実家と同じ味がする……」
「昔、おばさんと一緒によく作ってたからね」
「いつの間に」
「秀ちゃんのサッカーの応援に行ってたときに」

 あの頃の私は花嫁修業気分でルンルンだったな。秀ちゃんが、私が作るのを手伝ったお弁当を食べるのを見て、奥さんになった気持ちになったりした。――今は勝手に同棲した彼女気分を味わっている。驚くほど自分がなんにも変わっていない。これが三つ子のたましい百までもということだろうか。もしや、十年後も自分は変わっていないのだろうか。怖すぎる。

「……おばさんには、よくしてもらったな」
「母さん、真白のこと気に入ってたもんな」
「えへ、嬉しい」
「そういや、クローゼットが半分空いてたけど、服は実家に送ったのか?」
「うん、あんまり使わないのとかをとりあえずね」
「迷惑かけて悪いな」
「ううん。私は別にいいから、家が決まるまでゆっくりしていってね」

 むしろこのまま永久に私と一緒に住めばいい……そんな呪いのような言葉を私は心の中で唱えている。

「無理矢理押しかけてきた俺が言えたことじゃないけど、お前、もう少し危機感を持ったほうがいいよ」

 秀ちゃんの顔をまじまじと見返す。

「え……どういう意味?」
「別に。そのまんまだけど」

 もしかして、俺も男なんだけど、とかそういうことかな! 手を出すかもしれないだろ、的な……! 逆に言えば、私のことを女として見ている、的な……っ!

「俺がこのまま家賃も払わずにヒモのように居座ったりしたらどうするつもりだよ」

 そっちか……! 心中でガクッと項垂うなだれる。
 だって、少女漫画とかだとお約束のやつだし! 期待するよね、普通!
 これが現実ですよね。わかっていますとも。凡人にTL展開はやってこないことぐらい。自分の恋愛脳の残念さに脱力せずにはいられない。

「そんなの心配する必要ないよ。秀ちゃんって絶対そういうことしないタイプじゃん」
「まあ確かにそんなことはしないけどな。でも――」

 小首を傾げてつやっぽく笑った秀ちゃんが、スルリと私の頬を撫でた。

「俺も男だから違う意味で『危ない』ことをしたりするかもしれないだろ」

 完全なる不意打ちを食らって、心の中で『ぎぃゃああああーーっ!』と悲鳴を上げる。
 綺麗な目が悪戯いたずらっぽく細められているから、からかわれているんだってわかるのに、顔が熱くなることも、暴れまくる心臓を鎮めることもできそうにない。
 格好よすぎて反則だ。

「き、禁止……! からかうの禁止……っ!」

 死ぬ! これ以上は、死ぬ!
 身体の前で手をクロスして必死に訴えると、秀ちゃんが声を上げて笑った。

「悪い、悪い、面白いくらい顔が赤くなるから、つい」

 ひとしきり笑った秀ちゃんがビールをあおる。私も暴れる心臓と熱くなった顔を誤魔化ごまかすようにビールを一気に流し込んだ。

「真白は次どうする? もうワインいく?」
「いく」

 これは飲まないと心臓が持ちそうにない。

「じゃあ俺もワインにしようかな」
「ワインとグラス持ってきます」

 キッチンに行って、高いところに収納しているワイングラスを取ろうと背伸びをする。手を伸ばした先でワイングラスの脚に指が引っかかる。よし、と引っ張った瞬間、隣に置いてあったシャンパングラスがぐらついた。
 しまった。
 咄嗟とっさのことにギュッと目をつぶったけど、予想していたガラスの割れる音も衝撃もやってこなかった。

「……っぶね」

 恐る恐る目を開けて振り返ると、すぐ真後ろに秀ちゃんが立っていた。
 背中に感じる彼の体温に、身体が固まる。

「危ないだろ。一緒に生活するんだし、これから高いところの物は俺が取るから」

 ただでさえつやのある声なのに、甘い吐息が耳にかかって、息ができなくなる。
 腕を伸ばしたままの間抜けな体勢で固まっていると、私の左側に彼の手が置かれ――

「真白?」

 右側から顔をのぞき込まれた。
 え、なにこの状況……左側に頑丈な腕があって、後ろにたくましい身体があって、私の右側にイケメンの顔があって……って近い近い近い! 距離が近い! これが欧米帰りのパーソナルスペースか! 大和やまと撫子なでしこ(笑)にはハードルが高いです!
 どうしよう。秀ちゃんのすごくいい匂いに包まれている。かすかに香る上質なオーデコロンが大人の男、って感じがして……ああ、もうなんかエッチすぎて無理。

「おい」

 秀麗な顔が私の耳元の近くにあって、腰にクるような声が耳元で発せられて。もうだめ。私、妊娠しちゃいそう。
 次の瞬間、ふぅっと耳に息が吹きかけられた。

「ひぁぁぁ……っ!」

 ドキドキしすぎて無駄に元気のいい悲鳴が出てしまった。ぷっと笑う声が聞こえて、秀ちゃんの腕がスルリとほどかれる。振り返ると、憎らしいほどの美形が肩を揺らして笑っていた。
 く、悔しい……! またからかわれた……!
 こっちはドキドキして死にそうになっているっていうのに。
 ジトリとした目で見つめても、余裕の笑顔が返ってくるだけだ。

「怪我なくてよかったな」

 引き出しを開けてワインオープナーを取り出した秀ちゃんは、ワインボトルとワイングラスも持って、何事もなかったかのように離れていった。
 未だにドキドキしてるせいで動けない私をよそに、秀ちゃんはソムリエみたいに手際よくコルクを抜いて、ワイングラスに片手でサーブする。
 いちいち格好いい彼に腹を立てながら、ようやく動けるようになった私は、お皿に移したチーズとナッツを出した。

「あ、チーズとかは空港で適当に買ったやつだから、そんなに期待するなよ」
「社会人一年目には、十分すぎるほど豪勢です」
「そ。ならよかった」

 前に置かれたグラスを持つと、秀ちゃんも同じようにスッと持ち上げて、こちらを見る。

「お帰り、秀ちゃん」
「ああ、ただいま」

 二人でワイングラスを控えめにチンと鳴らして、口に含む。芳醇ほうじゅんな香りがふわっと鼻に抜け、口の中いっぱいにふくよかな余韻が広がって幸せな気持ちになった。

美味おいしい~」
「だろ? あっちで飲んだとき、絶対に真白にも飲ませようと思ったんだ」
「すごく嬉しい。ありがとう」

 私のことをちょっとでも思い出してくれたってことだもんね!

「それにしてもニューヨークかぁ。いいなあ、海外勤務とか憧れちゃう。私は絶対にないもんなぁ」
「言葉の壁とか文化の違いとかあって、慣れるまで結構しんどいけどな」
「秀ちゃんでも大変だったんだ」
「そりゃな。あっちのやつらは基本残業とかしないんだよな。でも働き方はすごい刺激を受けた。優先順位がはっきりしてて。一番が奥さんで、二番が家族で、三番が趣味とかで、仕事なんてもっとずっと下だからさ。仕事が残ってても普通にみんな帰ってくんだよ。でも、家族を大事にするそのスタンスはいいなって思った」
「そうだね」

 ニューヨークでのことを話す秀ちゃんはちょっと少年っぽい表情で、大人の男性とのギャップにときめきが止まらなかった。
 二人でワイン片手に離れていた間のお互いの話とか、親戚の話とか、思い出話とか、とりとめもない話をたくさんした。
 気がついたらシンクに空のワインボトルが二本転がっていて、私の秘蔵のワインまで開けている有様だ。

「てか、さっきから思ってたけど、なんでお前はそんな離れたところに座ってんだよ」
「え? 離れたところって?」

 普通にテーブルを挟んで向かいに座っているだけなのに。

「ほら」

 私のワイングラスを取り上げて、自分の横に置いた秀ちゃん。目をぱちぱちさせていると、大きな手が伸びてきて手を引かれる。

「来いよ」

 ふわふわと心地よく酔っ払っている私は、なんの疑問もなく、彼にうながされるがまま隣に座る。うっかり、肩と肩が触れ合いそうなほど近くに座ってしまって、恥ずかしくって、ちょっと横にずれた。

「なんで離れんの?」
「ちょっと、近すぎたなって」
「子どものときはあんなに俺にべったりくっついてたくせに」
「子どものときはね。でも、ほら、今は……」

 ワインを口に含んだ彼がふ、と口元を緩める。その表情が妙に色っぽくて心臓が暴れる。

「今はなんだよ」

 わかってるくせに、その抜群に整った顔をこちらに寄せてニヤニヤと意地悪く聞いてくるイケメンに目が泳ぐ。

「……お互い、大人になったから」

 なんとなく気恥ずかしくて、声が尻すぼみになる。意識しているのは私だけで、秀ちゃんにとっては、生意気に色気づきやがって、ぐらいの話だったのかもしれない。

「へーえ、随分と慎み深いんだな」
大和やまと撫子なでしこといいまして、平たい顔族の女性は奥ゆかしさを大事にしてますの」
「ははっ」

 笑う秀ちゃんに、むぅ、と唇を突き出す。
 秀ちゃんがこちらを見つめながら、私の頬にかかった髪の毛を優しく耳にかけてくれる。

「男がいたわりには、全然男慣れしてないんだなって言ってんだよ」

 私の髪の毛をもてあそんでいる秀ちゃんに「おとこ?」と首を傾げる。
 男ってなんだろう。年齢イコール彼氏いない歴の私になに言って……あっ。
 そういえば、前に電話で、彼氏は今はいないって見栄を張ってしまっていたんだった。どうしよう、早いうちに訂正しないと。

「あ、あのね」
「ん?」
「彼氏、のことなんだけど」
「そういえば、真白、あの紙のこと覚えてた?」

 突然話をさえぎられて、きょとんとする。

「え……紙?」
「そう。これ」

 そう言ってポケットから取り出した物を、秀ちゃんが私に見せつけた。
 節くれだった男らしい人差し指と中指の間に挟まれた、古びた紙切れ――

「そ、それっ!」

 思わず手を伸ばすと、ピッと遠ざけられた。

「え……? な、なんで」

 手を伸ばしたまま呆然と見つめると、黒い目が至極楽しそうに細まる。

「俺のだし、それに、これまだまだ使うつもりだから」
「え?」
「ほら」

 ぴら、と『なんでもいうことをきくけん』を裏返す。

「え……」

 そこには、下手くそな字で〝しようかいすう∞ しようきげん∞〟と書いてあった。
 ――秀ちゃんに『むげん』を教えてもらったばかりのアホの子の私が、書きたくてしょうがなかったのがうかがい知れる。

「……ッ!」

 もう、悶絶もんぜつである。本当になんてモノを生み落としてくれたんだ、私は!
 秀ちゃんは再び黒い目を細め、ゆっくりと口角を上げた。

「な?」

『な?』ってなに!? 『な?』って。
 恐ろしいほどにドロついた笑顔の秀ちゃんはすごく楽しそうだし、ちょっと悪い顔がめちゃくちゃ格好よくてキュンキュンするけど。

「……まだ、なにか、このあとも、使い道が、あるのでしょうか……?」

 口の中がカラカラである。すがりつくように見つめる私をさらに甚振いたぶるように、ゆっくりと目を細める美形。

「男にこんなものを持たせたら、使い道なんてたくさんあるだろ?」
「しゅ、しゅうちゃん?」

 胸が高鳴る、主に期待で。
 もしかして、今から、えっちな命令とかされるのだろうか。されてしまうのだろうか。いや、していただけるのだろうか!?

「朝起こすとか、ご飯作ってもらうとか、色々と」

 なんだそんなことか……がくっと項垂うなだれそうになる。

「それくらい、そんなのなくてもいくらでもするし」

 拍子抜けしながら笑みをこぼすと、秀ちゃんが口角をつやっぽく上げる。

「気前がいいな。それじゃあ、やっぱり一番最初は」

 大きな手が伸びてきて私の頬に触れる。彼の親指が私の唇をそっと撫でた。
 その仕草に息を止めて固まっていると、濃蜜な男の色香をまき散らした男前が口を開いた。

「真白」

 今まで一度も聞いたことがない、甘く低い声音。

「キスして」
「……へ?」

 初めて見るおすの顔をした秀ちゃんに、胸が痛いほど高鳴る。
 一瞬、なにを言われたかわからなかった。
 数拍おいて、言葉を呑み込んだあとは、ますます意味がわからない。

「え? なに、それ……冗談、だよね?」
「こんなことを冗談で言うわけないだろ」

 そう言われても混乱するばかり。
 それに、私を見つめる視線も空気もトロリとした甘さをはらんでいて。
 こんな秀ちゃんは知らない。本当にわけがわからない。

「イヤ?」

 じっと力強く私を見つめる秀ちゃんから視線ががせない。もちろん、イヤなわけじゃない。本音を言えば、大歓迎なぐらい。だけど――

「どうしてもイヤならあきらめるけど、そうじゃないなら……ほら」
「……っ」

 うっとりと微笑んだ顔が近付いてきて、心臓がより激しく暴れ始める。あごに手をかけられて、上を向かされて。

「ほら、早く」

 お互いの吐息が唇を湿しめらすくらい近くで、端整な顔が止まる。私が少し動けば触れてしまう距離。

「ど、どうして」

 鋭さと男の甘さがほどよく混ざり合った美形が、口角を上げて挑発的な笑みを浮かべる。

「そんなこと俺に聞くなよ」

 吐息が口にかかる。間近に迫った顔。熱っぽい眼差し。自分をすっぽりとおおたくましい身体。濃密な男の色香。初めてのものばかりで、頭の中がぐるぐるするし、息苦しいくらいに心臓が音を奏でる。

「もしかして、酔ってる?」
「まさか。この程度で酔うわけないだろ。なんだったら明日シラフでも同じことしようか」
「明日、シラフでも……?」
「そう、明日シラフでも」

 情欲をまとった黒い目が獰猛どうもうに細まる。

「俺はらされるのが好きじゃないから、早いとこ覚悟を決めてしたほうがいい」

 背に回った手が絶妙なタッチで私の背中を撫でる。ぞくぞくとした甘いしびれが駆け抜けて、ますます思考が鈍くなっていく。

「じゃないと、もっと困ることになると思うし」
「もっと?」
「そう、もっと」

 つやっぽくささやく美形に、こくっと喉を鳴らす。

「ほら、早く。残り十センチもないだろ」

 そのとおりだ。でも、セカンドキスがこんなシチュエーションだなんて……いや、むしろアリかもしれない。相手が秀ちゃんだと、とたんになんだって嬉しくなってしまう私の恋愛脳では、もはや正解なんてわからない。
 硬い指先で、くすぐるように耳のふちを撫でられて、頭の中がかすみがかったように白くなっていく。

「俺に泣かされたいってんなら、このままでもいいけど」
「わ、わかった。する、から……目、閉じて」
「ヤダ」

 やだ!? そこは紳士としてこちらのお願いを聞くところでは!?

「お願い、恥ずかしいから」

 私の必死の懇願を、うっとりするようなつやまとったささやき声が、たのしそうに「だーめ」と切り捨てる。

「~~っ、なんで」
「見たいからに決まってるだろ?」

 形のいい唇が動くたびに、甘い吐息が唇にかかる。それがまるで媚薬びやくのようで、五感が彼に支配されていく。

「ほら、早くしろよ。それとも、やっぱり俺にいじめられたい? お望みならめちゃくちゃにかせてやるけど」

 熱い息が吹きかかるたびに、もうキスをしている気分になる。それほどに近い距離で見つめ合って、ささやき合って。
 浅く乱れた息を吐き出し、涙がにじんだ目で見つめて、彼のTシャツにすがりつく私は、きっと欲情した女の顔をしている。

「ほら、早く」

 美形が笑みを深めて、さらに顔を近づける。

「真白」

 まるで恋人を呼ぶかのように、甘くかすれた声でうみたいに名前を呼ばれて、凶暴なほどの彼の魅力に吸い寄せられて――

「ん……」

 ――自然と自分から唇を重ねてしまっていた。その甘さに身体がふわふわとした喜びでいっぱいになる。

「だめだな。――全然足りない」

 すぐに、大きなてのひらが私の後頭部に回る。斜めに傾いた彼の顔が近づいて、もう一度、唇がちゅぷ、と重なる。
 ちゅ、ちゅ、と唇を何度も何度も重ねられて、心臓が壊れそうなほどドクドクと音を立てる。
 顔が熱くて息苦しい。げつきそうなほど熱い彼の視線から目を離せない。
 はふ、と息をした瞬間、ぬるりとした感触が口内に侵入してきて、びくっと身体が跳ねた。そのまま固まっていると、大きなてのひらが私の頭をゆっくりと撫で回し始めた。節くれだった長い指が耳の横から分け入って、何度も何度もくように撫でつける。まるで甘やかすみたいなその仕草にうっとりして力を抜くと、私の舌先だけをチロチロとめていた秀ちゃんの厚みのある舌が奥に侵入してきて、舌全体をからった。

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