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第1章 アリシアの諜報活動
13 迷惑な噂
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ロットナーが言っていた通り、翌日にはアリシアの部屋の鍵が交換された。
そして更にその翌日。登城したハルシュタイン将軍から指名されたアリシアには、リーゼがべったりとくっついていた。
「レッツェル、今日のお」
「本日のお菓子はマカロンとイチゴのレアチーズケーキでございます。それに合わせて紅茶はアヒレス産のアールグレイをご用意いたしました。イチゴと相性が良く・・・」
「・・・・・・」
アリシアへ声をかけようとしたハルシュタイン将軍に気付いたリーゼが、言葉を被せてにこやかに説明していく。
リーゼには前に何度か「毎回この質問をされるの」「今日も相変わらず聞かれた」とうんざりしながら話していたので、すぐに察したようだ。ハルシュタイン将軍が全て言い終える前に先回りして、アリシアが答えなくて済むように回答している。
ハルシュタイン将軍は始め驚いたようだが、すぐにリーゼの意図を察すると、明後日の方向を見て黄昏たような表情をしている。ニコニコと説明するリーゼとは対照的だ。
(ちょっと・・・面白いかも)
笑うわけにはいかないので、アリシアは二人に気付かれないように口元を抑えて耐える。
あんな顔をしているハルシュタイン将軍を初めて見た。いつも憎たらしい笑みを浮かべてアリシアの回答を聞いていたので、その腹いせも相まって余計に笑いそうだ。
(ダメダメ。平常心よ)
先日ハルシュタイン将軍を幽霊呼ばわりしたのだ。アリシアの中でこれ以上の失礼は許容できない。
「レッツェ・・・」
「何かご用命がございますか?」
「・・・・・・」
給仕の終わりがけに名前を呼ばれたが、再び被せるようにリーゼが反応する。ハルシュタイン将軍は再び黄昏たような顔でリーゼを見つめ返していた。
対するリーゼは笑顔だ。真面目な彼女でも、ハルシュタイン将軍とリーネルト将軍に見つめられたら、さすがに赤面してしまうと言っていたのに、今日は笑顔の装甲を一切剥さない。
(笑いそう・・・!)
アリシアは慌てて後ろを向いて口を覆った。
笑いの衝動をやり過ごしてハルシュタイン将軍の方へ向くと、彼とバッチリ目が合った。しかしすぐにリーゼが間に入り遮ってしまう。
ハルシュタイン将軍は額に手を当てて大きくため息をついた。
「ヒュフナー。君のその対応も分からなくもないが・・・。レッツェルに話がある。日を改めると伝えた通り、レッツェルに時間を貰いたい」
「私が同席してはいけませんか?」
「悪いが1対1で話したい」
「では、それはレッツェルに全く危険が及ばないお話でしょうか?」
「・・・どうだろうな」
「ご確約をいただけなければ了承致しかねます」
「・・・・・・・・・それもそうか。分かった」
少しの沈黙の後、ハルシュタイン将軍はそう答えてティーカップを手に取る。給仕が終わってアリシアとリーゼは壁際待機をしている間も、ずっと何かを考え込んでいる様子だった。
給仕を終えてカートを押しながら待機室に戻ると、アリシアはリーゼに苦笑しながら声をかける。
「リズ。さすがにあれはあからさま過ぎるわよ」
「いいのよ。あの方はすぐお気付きになると思ったし、実際そうだったじゃない」
「そうだけど・・・後でお叱りを受けない?」
「そこは大丈夫よ。穏健な方だから、あの程度じゃ問題ないわ」
(さすがリズ。ハルシュタイン将軍の本質をちゃんと理解してるのね)
アリシアが安堵の笑みを浮かべてリーゼに関心していると、そのリーゼがニヤリと笑った。
「私よりもミリィ。あなた笑いそうになってたでしょ」
「うっ・・・!」
「突然後ろ向いて震えるんだもの。ハルシュタイン将軍もお気付きになってたわよ」
「え!うそ!」
「気付かれないと思ったの?震えてるあなたの背中、じっと眺めてたわよ」
そう言って笑うリーゼに、アリシアは恥ずかしさと申し訳なさで項垂れた。
「だって・・・リズがあんな対応するから・・・ハルシュタイン将軍の反応も可笑しくてつい・・・」
「まあ、私も見たことが無い顔してたわね」
思い出したのか、リーゼもあははと大きく笑った。
「じゃ、私は今回の給仕内容をエルゼさんに報告してくるから、片付けはミリィにお願いしていい?」
「ええ。こちらはやっておくわ。よろしくね」
「了解!そっちもよろしくね」
リーゼは手を振りながら、エルゼがいる別の待機所へと向かった。
* * *
それから5日後。
「ちょっとミリィ!噂聞いた!?」
「噂?」
給仕を終えて待機室に戻って来るや否や、リーゼが慌てた顔でアリシアの元に駆け寄ってきた。
アリシアは椅子に座ってシルバーを磨いていたのだが、その近くのテーブルにリーゼがバン!と手を付いた。
「ハルシュタイン将軍とあなたの噂よ!」
「・・・え?」
「あ!それ私も聞いたわ!」
リーゼの言葉に驚いていると、同じパーラーの先輩であるザーラ=ロイヒリンが楽し気に話に加わってきた。
「ふふっ!全然女っ気ないから同性愛の噂がまことしやかに流れてたくらいなのにね。なんでもー。恋に落ちたハルシュタイン将軍が、レッツェルにアタックしに行ったけど、悲鳴を上げられて騒ぎになっちゃったって。この前のアレの事よね?で、本人よりも周りに警戒されて全然二人っきりになれなくて悲しんでるらしいわよ?」
「はぁ!?」
驚いたアリシアはロイヒリンに眉を寄せる。その後すぐにリーゼが勢いよく続ける。
「そうそう!でね!ミリィが可愛い、恋しくて会いたい、告白の機会すらなく失恋は嫌だ、とかなんとか言ってるって!」
「・・・それ何処で流れてる噂なの?」
「私はハウスメイドから聞いたわ。でもその子は侍女とかキッチンメイドとか、王宮使用人の複数人から聞いたって言ってた」
「私はエレオノーラ様の給仕の際に、エレオノーラ様ご本人からお聞きしたわよ」
「嘘でしょ・・・・・・」
リーゼの「王宮使用人の複数人」に続き、ロイヒリンの「エレオノーラ様ご本人」で、アリシアは呆然とした。
「エレオノーラ様の耳にまで入ってるなんて・・・」
「うーん。追い討ちかけるかもしれないけどー。魔王様もご存じなんじゃないかな」
「ええ!?なんで!?」
驚いてロイヒリンの顔を見る。しかし回答はリーゼからもたらされた。
「その可能性は高いわね。なんせハルシュタイン将軍は魔王様と幼い頃からのご友人だし」
「・・・!」
「それにー。エレオノーラ様って、恋バナ大好きなのよね。兄のようなご関係のハルシュタイン将軍の恋の話なんて、絶対に食いつくわよー。エレオノーラ様のご性格を考慮すると、魔王様のお耳にも入ると思うわ」
「・・・・・・」
撃沈して項垂れるアリシアに、リーゼは気遣わしげに言葉を発した。
「ミリィ。こんなに話が広まると、もう躱すのは難しいわ。本当に恋に落ちたのかは置いといて、一度お話の場を持った方がいいと思うの。この前ミリィに危険がないようにって話したじゃない?確約出来る状態になったからこそ、ハルシュタイン将軍も動いたんじゃないかしら」
「それはつまり・・・どう考えても迷惑なこの噂は、ハルシュタイン将軍が私の安全のために広めたって事?」
「そうねー。そこまでは分からないけど、もしかしたら本当に恋に落ちちゃったのかもよ?」
ふふっと笑うロイヒリンに、アリシアは再びガックリした。
* * *
翌日。ハルシュタイン将軍とリーネルト将軍が登城し、いつも通り指名されたアリシアは、応接室へ一人で向かった。
「・・・今日は一人か」
入室したアリシアを見て、ハルシュタイン将軍は意外そうな顔をした。
「以前ヒュフナーが申し上げた、“確約”についての用意が整ったと判断したようです」
「なるほど?」
アリシアの言葉に、ハルシュタイン将軍はニヤリと笑う。
「私の誠実さが実を結んだという訳か」
「・・・誠実・・・?」
満足げに頷くハルシュタイン将軍に、呆れ顔でリーネルト将軍が小さく疑問を零した。
「なんだその目は。俺ほど誠実な人間もそういないだろう。もちろんアレクシスには敵わないが」
「・・・今回の手段をどう見たら誠実になるんだ」
「どう見ても誠実だろう」
(リーネルト将軍の言う『手段』がどれを指してるのか分からないけど、噂については誠実とは言えないわね)
いつもの言い合いが始まったので、アリシアは心の中だけでリーネルト将軍に同意しながら、静かに給仕を進める。合間にハルシュタイン将軍をチラリと見るが、彼の表情や態度に恋愛の色は見えない。先程アリシアを見ていた時も、恥ずかしさや嬉しさなどは垣間見えず、いつも通り飄々とした態度であった。
アリシアは両親を思い浮かべる。
アリシアの父と母はお互いを愛し合って結婚した。両親は人間と獣人のような、通常の異種族間の結婚ではない。
半神半人であるエルフは人間、獣人とは寿命が大きく異なる。獣人は60歳、人間が80歳、。それに対しエルフは500歳だ。
両親はその寿命の差を理解した上で結婚したのだから、互いに対して並々ならぬ愛情があったのだろう。実際にアリシアの記憶がある時から両親は仲睦まじく、両親が互いを見る表情には愛しさが満ち溢れていた。
そうして改めてアリシアはハルシュタイン将軍を見る。しかし彼からはそういったものを感じ取れない。
(やっぱり何か意図があって流された噂みたい)
やれやれ、とカートの上へ視線を戻そうとした瞬間、ハルシュタイン将軍と目が合った。
「なんだ、レッツェル。もしかして俺に見惚れてたか?」
「いいえ全く」
「クッ!」
ニヤリとしながら言うハルシュタイン将軍に、アリシアは即答する。あっさり答えたアリシアに、リーネルト将軍が吹き出して笑った。
そして更にその翌日。登城したハルシュタイン将軍から指名されたアリシアには、リーゼがべったりとくっついていた。
「レッツェル、今日のお」
「本日のお菓子はマカロンとイチゴのレアチーズケーキでございます。それに合わせて紅茶はアヒレス産のアールグレイをご用意いたしました。イチゴと相性が良く・・・」
「・・・・・・」
アリシアへ声をかけようとしたハルシュタイン将軍に気付いたリーゼが、言葉を被せてにこやかに説明していく。
リーゼには前に何度か「毎回この質問をされるの」「今日も相変わらず聞かれた」とうんざりしながら話していたので、すぐに察したようだ。ハルシュタイン将軍が全て言い終える前に先回りして、アリシアが答えなくて済むように回答している。
ハルシュタイン将軍は始め驚いたようだが、すぐにリーゼの意図を察すると、明後日の方向を見て黄昏たような表情をしている。ニコニコと説明するリーゼとは対照的だ。
(ちょっと・・・面白いかも)
笑うわけにはいかないので、アリシアは二人に気付かれないように口元を抑えて耐える。
あんな顔をしているハルシュタイン将軍を初めて見た。いつも憎たらしい笑みを浮かべてアリシアの回答を聞いていたので、その腹いせも相まって余計に笑いそうだ。
(ダメダメ。平常心よ)
先日ハルシュタイン将軍を幽霊呼ばわりしたのだ。アリシアの中でこれ以上の失礼は許容できない。
「レッツェ・・・」
「何かご用命がございますか?」
「・・・・・・」
給仕の終わりがけに名前を呼ばれたが、再び被せるようにリーゼが反応する。ハルシュタイン将軍は再び黄昏たような顔でリーゼを見つめ返していた。
対するリーゼは笑顔だ。真面目な彼女でも、ハルシュタイン将軍とリーネルト将軍に見つめられたら、さすがに赤面してしまうと言っていたのに、今日は笑顔の装甲を一切剥さない。
(笑いそう・・・!)
アリシアは慌てて後ろを向いて口を覆った。
笑いの衝動をやり過ごしてハルシュタイン将軍の方へ向くと、彼とバッチリ目が合った。しかしすぐにリーゼが間に入り遮ってしまう。
ハルシュタイン将軍は額に手を当てて大きくため息をついた。
「ヒュフナー。君のその対応も分からなくもないが・・・。レッツェルに話がある。日を改めると伝えた通り、レッツェルに時間を貰いたい」
「私が同席してはいけませんか?」
「悪いが1対1で話したい」
「では、それはレッツェルに全く危険が及ばないお話でしょうか?」
「・・・どうだろうな」
「ご確約をいただけなければ了承致しかねます」
「・・・・・・・・・それもそうか。分かった」
少しの沈黙の後、ハルシュタイン将軍はそう答えてティーカップを手に取る。給仕が終わってアリシアとリーゼは壁際待機をしている間も、ずっと何かを考え込んでいる様子だった。
給仕を終えてカートを押しながら待機室に戻ると、アリシアはリーゼに苦笑しながら声をかける。
「リズ。さすがにあれはあからさま過ぎるわよ」
「いいのよ。あの方はすぐお気付きになると思ったし、実際そうだったじゃない」
「そうだけど・・・後でお叱りを受けない?」
「そこは大丈夫よ。穏健な方だから、あの程度じゃ問題ないわ」
(さすがリズ。ハルシュタイン将軍の本質をちゃんと理解してるのね)
アリシアが安堵の笑みを浮かべてリーゼに関心していると、そのリーゼがニヤリと笑った。
「私よりもミリィ。あなた笑いそうになってたでしょ」
「うっ・・・!」
「突然後ろ向いて震えるんだもの。ハルシュタイン将軍もお気付きになってたわよ」
「え!うそ!」
「気付かれないと思ったの?震えてるあなたの背中、じっと眺めてたわよ」
そう言って笑うリーゼに、アリシアは恥ずかしさと申し訳なさで項垂れた。
「だって・・・リズがあんな対応するから・・・ハルシュタイン将軍の反応も可笑しくてつい・・・」
「まあ、私も見たことが無い顔してたわね」
思い出したのか、リーゼもあははと大きく笑った。
「じゃ、私は今回の給仕内容をエルゼさんに報告してくるから、片付けはミリィにお願いしていい?」
「ええ。こちらはやっておくわ。よろしくね」
「了解!そっちもよろしくね」
リーゼは手を振りながら、エルゼがいる別の待機所へと向かった。
* * *
それから5日後。
「ちょっとミリィ!噂聞いた!?」
「噂?」
給仕を終えて待機室に戻って来るや否や、リーゼが慌てた顔でアリシアの元に駆け寄ってきた。
アリシアは椅子に座ってシルバーを磨いていたのだが、その近くのテーブルにリーゼがバン!と手を付いた。
「ハルシュタイン将軍とあなたの噂よ!」
「・・・え?」
「あ!それ私も聞いたわ!」
リーゼの言葉に驚いていると、同じパーラーの先輩であるザーラ=ロイヒリンが楽し気に話に加わってきた。
「ふふっ!全然女っ気ないから同性愛の噂がまことしやかに流れてたくらいなのにね。なんでもー。恋に落ちたハルシュタイン将軍が、レッツェルにアタックしに行ったけど、悲鳴を上げられて騒ぎになっちゃったって。この前のアレの事よね?で、本人よりも周りに警戒されて全然二人っきりになれなくて悲しんでるらしいわよ?」
「はぁ!?」
驚いたアリシアはロイヒリンに眉を寄せる。その後すぐにリーゼが勢いよく続ける。
「そうそう!でね!ミリィが可愛い、恋しくて会いたい、告白の機会すらなく失恋は嫌だ、とかなんとか言ってるって!」
「・・・それ何処で流れてる噂なの?」
「私はハウスメイドから聞いたわ。でもその子は侍女とかキッチンメイドとか、王宮使用人の複数人から聞いたって言ってた」
「私はエレオノーラ様の給仕の際に、エレオノーラ様ご本人からお聞きしたわよ」
「嘘でしょ・・・・・・」
リーゼの「王宮使用人の複数人」に続き、ロイヒリンの「エレオノーラ様ご本人」で、アリシアは呆然とした。
「エレオノーラ様の耳にまで入ってるなんて・・・」
「うーん。追い討ちかけるかもしれないけどー。魔王様もご存じなんじゃないかな」
「ええ!?なんで!?」
驚いてロイヒリンの顔を見る。しかし回答はリーゼからもたらされた。
「その可能性は高いわね。なんせハルシュタイン将軍は魔王様と幼い頃からのご友人だし」
「・・・!」
「それにー。エレオノーラ様って、恋バナ大好きなのよね。兄のようなご関係のハルシュタイン将軍の恋の話なんて、絶対に食いつくわよー。エレオノーラ様のご性格を考慮すると、魔王様のお耳にも入ると思うわ」
「・・・・・・」
撃沈して項垂れるアリシアに、リーゼは気遣わしげに言葉を発した。
「ミリィ。こんなに話が広まると、もう躱すのは難しいわ。本当に恋に落ちたのかは置いといて、一度お話の場を持った方がいいと思うの。この前ミリィに危険がないようにって話したじゃない?確約出来る状態になったからこそ、ハルシュタイン将軍も動いたんじゃないかしら」
「それはつまり・・・どう考えても迷惑なこの噂は、ハルシュタイン将軍が私の安全のために広めたって事?」
「そうねー。そこまでは分からないけど、もしかしたら本当に恋に落ちちゃったのかもよ?」
ふふっと笑うロイヒリンに、アリシアは再びガックリした。
* * *
翌日。ハルシュタイン将軍とリーネルト将軍が登城し、いつも通り指名されたアリシアは、応接室へ一人で向かった。
「・・・今日は一人か」
入室したアリシアを見て、ハルシュタイン将軍は意外そうな顔をした。
「以前ヒュフナーが申し上げた、“確約”についての用意が整ったと判断したようです」
「なるほど?」
アリシアの言葉に、ハルシュタイン将軍はニヤリと笑う。
「私の誠実さが実を結んだという訳か」
「・・・誠実・・・?」
満足げに頷くハルシュタイン将軍に、呆れ顔でリーネルト将軍が小さく疑問を零した。
「なんだその目は。俺ほど誠実な人間もそういないだろう。もちろんアレクシスには敵わないが」
「・・・今回の手段をどう見たら誠実になるんだ」
「どう見ても誠実だろう」
(リーネルト将軍の言う『手段』がどれを指してるのか分からないけど、噂については誠実とは言えないわね)
いつもの言い合いが始まったので、アリシアは心の中だけでリーネルト将軍に同意しながら、静かに給仕を進める。合間にハルシュタイン将軍をチラリと見るが、彼の表情や態度に恋愛の色は見えない。先程アリシアを見ていた時も、恥ずかしさや嬉しさなどは垣間見えず、いつも通り飄々とした態度であった。
アリシアは両親を思い浮かべる。
アリシアの父と母はお互いを愛し合って結婚した。両親は人間と獣人のような、通常の異種族間の結婚ではない。
半神半人であるエルフは人間、獣人とは寿命が大きく異なる。獣人は60歳、人間が80歳、。それに対しエルフは500歳だ。
両親はその寿命の差を理解した上で結婚したのだから、互いに対して並々ならぬ愛情があったのだろう。実際にアリシアの記憶がある時から両親は仲睦まじく、両親が互いを見る表情には愛しさが満ち溢れていた。
そうして改めてアリシアはハルシュタイン将軍を見る。しかし彼からはそういったものを感じ取れない。
(やっぱり何か意図があって流された噂みたい)
やれやれ、とカートの上へ視線を戻そうとした瞬間、ハルシュタイン将軍と目が合った。
「なんだ、レッツェル。もしかして俺に見惚れてたか?」
「いいえ全く」
「クッ!」
ニヤリとしながら言うハルシュタイン将軍に、アリシアは即答する。あっさり答えたアリシアに、リーネルト将軍が吹き出して笑った。
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