ハーフエルフと魔国動乱~敵国で諜報活動してたら、敵国将軍に気に入られてしまいました~

木々野コトネ

文字の大きさ
14 / 75
第1章 アリシアの諜報活動

13 迷惑な噂

しおりを挟む
 ロットナーが言っていた通り、翌日にはアリシアの部屋の鍵が交換された。

 そして更にその翌日。登城したハルシュタイン将軍から指名されたアリシアには、リーゼがべったりとくっついていた。

「レッツェル、今日のお」
「本日のお菓子はマカロンとイチゴのレアチーズケーキでございます。それに合わせて紅茶はアヒレス産のアールグレイをご用意いたしました。イチゴと相性が良く・・・」
「・・・・・・」

 アリシアへ声をかけようとしたハルシュタイン将軍に気付いたリーゼが、言葉を被せてにこやかに説明していく。

 リーゼには前に何度か「毎回この質問をされるの」「今日も相変わらず聞かれた」とうんざりしながら話していたので、すぐに察したようだ。ハルシュタイン将軍が全て言い終える前に先回りして、アリシアが答えなくて済むように回答している。
 ハルシュタイン将軍は始め驚いたようだが、すぐにリーゼの意図を察すると、明後日の方向を見て黄昏たような表情をしている。ニコニコと説明するリーゼとは対照的だ。

(ちょっと・・・面白いかも)

 笑うわけにはいかないので、アリシアは二人に気付かれないように口元を抑えて耐える。
 あんな顔をしているハルシュタイン将軍を初めて見た。いつも憎たらしい笑みを浮かべてアリシアの回答を聞いていたので、その腹いせも相まって余計に笑いそうだ。

(ダメダメ。平常心よ)

 先日ハルシュタイン将軍を幽霊呼ばわりしたのだ。アリシアの中でこれ以上の失礼は許容できない。

「レッツェ・・・」
「何かご用命がございますか?」
「・・・・・・」

 給仕の終わりがけに名前を呼ばれたが、再び被せるようにリーゼが反応する。ハルシュタイン将軍は再び黄昏たような顔でリーゼを見つめ返していた。
 対するリーゼは笑顔だ。真面目な彼女でも、ハルシュタイン将軍とリーネルト将軍に見つめられたら、さすがに赤面してしまうと言っていたのに、今日は笑顔の装甲を一切はがさない。

(笑いそう・・・!)

 アリシアは慌てて後ろを向いて口を覆った。

 笑いの衝動をやり過ごしてハルシュタイン将軍の方へ向くと、彼とバッチリ目が合った。しかしすぐにリーゼが間に入り遮ってしまう。

 ハルシュタイン将軍は額に手を当てて大きくため息をついた。

「ヒュフナー。君のその対応も分からなくもないが・・・。レッツェルに話がある。日を改めると伝えた通り、レッツェルに時間を貰いたい」
「私が同席してはいけませんか?」
「悪いが1対1で話したい」
「では、それはレッツェルに全く危険が及ばないお話でしょうか?」
「・・・どうだろうな」
「ご確約をいただけなければ了承致しかねます」
「・・・・・・・・・それもそうか。分かった」

 少しの沈黙の後、ハルシュタイン将軍はそう答えてティーカップを手に取る。給仕が終わってアリシアとリーゼは壁際待機をしている間も、ずっと何かを考え込んでいる様子だった。



 給仕を終えてカートを押しながら待機室に戻ると、アリシアはリーゼに苦笑しながら声をかける。

「リズ。さすがにあれはあからさま過ぎるわよ」
「いいのよ。あの方はすぐお気付きになると思ったし、実際そうだったじゃない」
「そうだけど・・・後でお叱りを受けない?」
「そこは大丈夫よ。穏健な方だから、あの程度じゃ問題ないわ」

(さすがリズ。ハルシュタイン将軍の本質をちゃんと理解してるのね)

 アリシアが安堵の笑みを浮かべてリーゼに関心していると、そのリーゼがニヤリと笑った。

「私よりもミリィ。あなた笑いそうになってたでしょ」
「うっ・・・!」
「突然後ろ向いて震えるんだもの。ハルシュタイン将軍もお気付きになってたわよ」
「え!うそ!」
「気付かれないと思ったの?震えてるあなたの背中、じっと眺めてたわよ」

 そう言って笑うリーゼに、アリシアは恥ずかしさと申し訳なさで項垂れた。

「だって・・・リズがあんな対応するから・・・ハルシュタイン将軍の反応も可笑しくてつい・・・」
「まあ、私も見たことが無い顔してたわね」

 思い出したのか、リーゼもあははと大きく笑った。

「じゃ、私は今回の給仕内容をエルゼさんに報告してくるから、片付けはミリィにお願いしていい?」
「ええ。こちらはやっておくわ。よろしくね」
「了解!そっちもよろしくね」

 リーゼは手を振りながら、エルゼがいる別の待機所へと向かった。



* * *



 それから5日後。

「ちょっとミリィ!噂聞いた!?」
「噂?」

 給仕を終えて待機室に戻って来るや否や、リーゼが慌てた顔でアリシアの元に駆け寄ってきた。
 アリシアは椅子に座ってシルバーを磨いていたのだが、その近くのテーブルにリーゼがバン!と手を付いた。

「ハルシュタイン将軍とあなたの噂よ!」
「・・・え?」
「あ!それ私も聞いたわ!」

 リーゼの言葉に驚いていると、同じパーラーの先輩であるザーラ=ロイヒリンが楽し気に話に加わってきた。

「ふふっ!全然女っ気ないから同性愛の噂がまことしやかに流れてたくらいなのにね。なんでもー。恋に落ちたハルシュタイン将軍が、レッツェルにアタックしに行ったけど、悲鳴を上げられて騒ぎになっちゃったって。この前のアレの事よね?で、本人よりも周りに警戒されて全然二人っきりになれなくて悲しんでるらしいわよ?」
「はぁ!?」

 驚いたアリシアはロイヒリンに眉を寄せる。その後すぐにリーゼが勢いよく続ける。

「そうそう!でね!ミリィが可愛い、恋しくて会いたい、告白の機会すらなく失恋は嫌だ、とかなんとか言ってるって!」
「・・・それ何処で流れてる噂なの?」
「私はハウスメイドから聞いたわ。でもその子は侍女とかキッチンメイドとか、王宮使用人の複数人から聞いたって言ってた」
「私はエレオノーラ様の給仕の際に、エレオノーラ様ご本人からお聞きしたわよ」
「嘘でしょ・・・・・・」

 リーゼの「王宮使用人の複数人」に続き、ロイヒリンの「エレオノーラ様ご本人」で、アリシアは呆然とした。

「エレオノーラ様の耳にまで入ってるなんて・・・」
「うーん。追い討ちかけるかもしれないけどー。魔王様もご存じなんじゃないかな」
「ええ!?なんで!?」

 驚いてロイヒリンの顔を見る。しかし回答はリーゼからもたらされた。

「その可能性は高いわね。なんせハルシュタイン将軍は魔王様と幼い頃からのご友人だし」
「・・・!」
「それにー。エレオノーラ様って、恋バナ大好きなのよね。兄のようなご関係のハルシュタイン将軍の恋の話なんて、絶対に食いつくわよー。エレオノーラ様のご性格を考慮すると、魔王様のお耳にも入ると思うわ」
「・・・・・・」

 撃沈して項垂れるアリシアに、リーゼは気遣わしげに言葉を発した。

「ミリィ。こんなに話が広まると、もう躱すのは難しいわ。本当に恋に落ちたのかは置いといて、一度お話の場を持った方がいいと思うの。この前ミリィに危険がないようにって話したじゃない?確約出来る状態になったからこそ、ハルシュタイン将軍も動いたんじゃないかしら」
「それはつまり・・・どう考えても迷惑なこの噂は、ハルシュタイン将軍が私の安全のために広めたって事?」
「そうねー。そこまでは分からないけど、もしかしたら本当に恋に落ちちゃったのかもよ?」

 ふふっと笑うロイヒリンに、アリシアは再びガックリした。



* * *



 翌日。ハルシュタイン将軍とリーネルト将軍が登城し、いつも通り指名されたアリシアは、応接室へ一人で向かった。

「・・・今日は一人か」

 入室したアリシアを見て、ハルシュタイン将軍は意外そうな顔をした。

「以前ヒュフナーが申し上げた、“確約”についての用意が整ったと判断したようです」
「なるほど?」

 アリシアの言葉に、ハルシュタイン将軍はニヤリと笑う。

「私の誠実さが実を結んだという訳か」
「・・・誠実・・・?」 

 満足げに頷くハルシュタイン将軍に、呆れ顔でリーネルト将軍が小さく疑問を零した。

「なんだその目は。俺ほど誠実な人間もそういないだろう。もちろんアレクシスには敵わないが」
「・・・今回の手段をどう見たら誠実になるんだ」
「どう見ても誠実だろう」

(リーネルト将軍の言う『手段』がどれを指してるのか分からないけど、噂については誠実とは言えないわね)

 いつもの言い合いが始まったので、アリシアは心の中だけでリーネルト将軍に同意しながら、静かに給仕を進める。合間にハルシュタイン将軍をチラリと見るが、彼の表情や態度に恋愛の色は見えない。先程アリシアを見ていた時も、恥ずかしさや嬉しさなどは垣間見えず、いつも通り飄々とした態度であった。

 アリシアは両親を思い浮かべる。
 アリシアの父と母はお互いを愛し合って結婚した。両親は人間と獣人のような、通常の異種族間の結婚ではない。
 半神半人であるエルフは人間、獣人とは寿命が大きく異なる。獣人は60歳、人間が80歳、。それに対しエルフは500歳だ。
 両親はその寿命の差を理解した上で結婚したのだから、互いに対して並々ならぬ愛情があったのだろう。実際にアリシアの記憶がある時から両親は仲睦まじく、両親が互いを見る表情には愛しさが満ち溢れていた。

 そうして改めてアリシアはハルシュタイン将軍を見る。しかし彼からはそういったものを感じ取れない。

(やっぱり何か意図があって流された噂みたい)

 やれやれ、とカートの上へ視線を戻そうとした瞬間、ハルシュタイン将軍と目が合った。

「なんだ、レッツェル。もしかして俺に見惚れてたか?」
「いいえ全く」
「クッ!」

 ニヤリとしながら言うハルシュタイン将軍に、アリシアは即答する。あっさり答えたアリシアに、リーネルト将軍が吹き出して笑った。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】

かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。 名前も年齢も住んでた町も覚えてません。 ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。 プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。 小説家になろう様にも公開してます。

崖っぷち令嬢は冷血皇帝のお世話係〜侍女のはずが皇帝妃になるみたいです〜

束原ミヤコ
恋愛
ティディス・クリスティスは、没落寸前の貧乏な伯爵家の令嬢である。 家のために王宮で働く侍女に仕官したは良いけれど、緊張のせいでまともに話せず、面接で落とされそうになってしまう。 「家族のため、なんでもするからどうか働かせてください」と泣きついて、手に入れた仕事は――冷血皇帝と巷で噂されている、冷酷冷血名前を呼んだだけで子供が泣くと言われているレイシールド・ガルディアス皇帝陛下のお世話係だった。 皇帝レイシールドは気難しく、人を傍に置きたがらない。 今まで何人もの侍女が、レイシールドが恐ろしくて泣きながら辞めていったのだという。 ティディスは決意する。なんとしてでも、お仕事をやりとげて、没落から家を救わなければ……! 心根の優しいお世話係の令嬢と、無口で不器用な皇帝陛下の話です。

処理中です...