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4 色狂いの月狂い
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そう。陛下は毎夜、後宮通いを欠かさない。
執務にもそちらにもお励みとは熱心なことで、と口さがない輩の陰口を聞いたことがある。
それについてはどうとも思わない。世継ぎを儲けるのはお役目でもあるし、そのために私たちは後宮に集められたのだから。
しかし残念ながら、未だどなたにもご懐妊の兆しはない。
月は空にない上、世継ぎもおらず。
とんと身にならぬことばかりお好きな、色狂いの月狂い──そんなあだ名が流れてきたのは、いつのことだったろうか。
後宮のどん詰まりにいる私の耳にまで入るのだ。そうとう広がっているのだろう。
流石にこれには眉をひそめざるを得ない。
御子に月。
両方とも、陛下おひとりでどうにかなるものではない。
そんなことは、子どもにだってわかる道理だ。
世の中すべてが思い通りになどなるはずがない。
それは皇帝陛下でも、市井の民でも同じことだ。
しかしどんな因果があろうが、空にあるものはそこになければならぬのだ。
当然とも呼べる理を失った都は歪んでいる。占わずして凶兆と断言する占師、飛び交う飛語は聞くに絶えないものばかり。
いくら御子を宿せば一族の地位も確たるものになるとはいえ、そんなところに愛娘を遣りたい親はそういない。
今の後宮は二極化している。
この混乱に乗じて皇帝陛下に取り入り、成り上がらんとする野心に燃える妃。
様々な事情により、入宮するしかなかった肩身の狭い妃。
もちろん、私は後者だ。
前帝の臣下とはいえ中枢にまでは潜り込めず、皇位継承の後見争いを指を咥えて見ているしかなかった半端な官吏が、その気の弱さを 慰めてくれた妾に産ませた娘。
それが私、桂月鈴なのだから。
父の正妻――義母は気の強い人で、実家も代々続く商館だ。
機を見る才はあるようで、娘──私の義妹──を入宮させると息巻いていたが、月蝕が起きたことで即座に方針を変えた。
わざわざ不吉な皇城に愛娘を送らずとも、より手近で確実な縁談を掴ませて富を得る。
そして捨て駒である私を入宮させることで、臣下としての対面を保たせる。
後宮で私の身に何があったとしても、涙ひとつ流す必要はないのだ。
そして万が一──、これは本当に万が一の話。
私が皇帝陛下の寵愛を得たとしたら。
それはもう、万々歳だ。
これ見よがしに寵姫の親族だ、そこのけそこのけと、鼻息も荒く父を出世街道に押し込むだろう。
どちらに転んでも義母は損をしないのだ。
この肝っ玉と図々しさを父が持っていたら……と優しいばかりの細い背中をなじったこともあったが、今はそれどころではない。
私は、ここで生きていかねばならないのだ。
そのためなら顔も知らない陛下より、日々顔を合わせる、身分高き妃達のご機嫌伺いをせねばならない。
そのための武器が──この耳だ。
執務にもそちらにもお励みとは熱心なことで、と口さがない輩の陰口を聞いたことがある。
それについてはどうとも思わない。世継ぎを儲けるのはお役目でもあるし、そのために私たちは後宮に集められたのだから。
しかし残念ながら、未だどなたにもご懐妊の兆しはない。
月は空にない上、世継ぎもおらず。
とんと身にならぬことばかりお好きな、色狂いの月狂い──そんなあだ名が流れてきたのは、いつのことだったろうか。
後宮のどん詰まりにいる私の耳にまで入るのだ。そうとう広がっているのだろう。
流石にこれには眉をひそめざるを得ない。
御子に月。
両方とも、陛下おひとりでどうにかなるものではない。
そんなことは、子どもにだってわかる道理だ。
世の中すべてが思い通りになどなるはずがない。
それは皇帝陛下でも、市井の民でも同じことだ。
しかしどんな因果があろうが、空にあるものはそこになければならぬのだ。
当然とも呼べる理を失った都は歪んでいる。占わずして凶兆と断言する占師、飛び交う飛語は聞くに絶えないものばかり。
いくら御子を宿せば一族の地位も確たるものになるとはいえ、そんなところに愛娘を遣りたい親はそういない。
今の後宮は二極化している。
この混乱に乗じて皇帝陛下に取り入り、成り上がらんとする野心に燃える妃。
様々な事情により、入宮するしかなかった肩身の狭い妃。
もちろん、私は後者だ。
前帝の臣下とはいえ中枢にまでは潜り込めず、皇位継承の後見争いを指を咥えて見ているしかなかった半端な官吏が、その気の弱さを 慰めてくれた妾に産ませた娘。
それが私、桂月鈴なのだから。
父の正妻――義母は気の強い人で、実家も代々続く商館だ。
機を見る才はあるようで、娘──私の義妹──を入宮させると息巻いていたが、月蝕が起きたことで即座に方針を変えた。
わざわざ不吉な皇城に愛娘を送らずとも、より手近で確実な縁談を掴ませて富を得る。
そして捨て駒である私を入宮させることで、臣下としての対面を保たせる。
後宮で私の身に何があったとしても、涙ひとつ流す必要はないのだ。
そして万が一──、これは本当に万が一の話。
私が皇帝陛下の寵愛を得たとしたら。
それはもう、万々歳だ。
これ見よがしに寵姫の親族だ、そこのけそこのけと、鼻息も荒く父を出世街道に押し込むだろう。
どちらに転んでも義母は損をしないのだ。
この肝っ玉と図々しさを父が持っていたら……と優しいばかりの細い背中をなじったこともあったが、今はそれどころではない。
私は、ここで生きていかねばならないのだ。
そのためなら顔も知らない陛下より、日々顔を合わせる、身分高き妃達のご機嫌伺いをせねばならない。
そのための武器が──この耳だ。
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