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17.王妃からの招待
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食事を終えると、カトリーナは迎えに来た侍女に連れられて王女宮に戻っていった。
大切そうに花冠を持っていったので、よほど気に入ったらしい。
カトリーナが去るとアイリスとレオナルドは二人きりになる。
先ほど話に出てきたブラックバーン公爵のことを尋ねてみるべきか、アイリスは迷う。
「そうだ、王妃からパーティーの招待状が届いた」
ところが、それよりも早くレオナルドが口を開いた。
その内容も驚きのもので、アイリスはあっけにとられてしまう。ブラックバーン公爵のことは、頭から吹き飛んでしまった。
もしかしたら、先ほどのストロベリーブロンドの令嬢ことデラニーが運んできたのだろうかと、ぼんやり頭に浮かぶ。
「お気に入りの令嬢を連れてくるとよいとあった。現王妃主催のパーティーなど、私は一度も参加したことがないからな。関係改善のアピールでもしたいのだろう」
レオナルドの話を聞き、アイリスは考え込む。
王妃は王太子レオナルドと良い関係を築きたく、アイリスに橋渡しをしてほしいとは以前聞いたことだ。
これはそのための一歩ということだろうか。
ただ、王妃の言葉など、ただの建前だろうとアイリスは思っている。
アイリスを王太子宮に送り込んでから数日、次の手を打ったということだろう。
「……レオナルドさまは、王妃殿下のことをどう思っておいでですの?」
「王妃か。くだらないことを企んでいるようだな。私としては興味もないのだが、あの女のために死んでもよいとは思えぬ」
つまらなさそうなレオナルドの発した言葉に、アイリスは言葉を失った。
レオナルドは時々物騒な物言いをするが、これはおそらく本当に命を狙われているのだろう。
そこで、レオナルドがメイドを気に入らないからと斬り捨ててしまったと、王妃が言っていたことをアイリスは思い出す。
レオナルドによればメイドは暗殺者だったようだが、ならば仕組んだのは誰か。
「アイリスだとて、王妃の企みによって望まぬ閨に送られただろう。思うところはないのか?」
考え始めたアイリスだったが、レオナルドの言葉によって驚きと共に引き戻される。
何を言われたのか、一瞬理解できなかったほどだ。
「……レオナルドさまが、そのようなことをおっしゃるなんて……あっさりと了承した張本人が……」
結局は閨で何事もなかったのだが、それはアイリスが戸惑っているだけの役立たずだったためだろう。適応していれば、レオナルドが途中で行為を止めたとは思い難い。
「最初は、納得済みだと思っていたからな。何も知らぬとわかっていれば、了承はしなかった」
レオナルドは苦笑しながら答える。
「それとも、本当は望んでいたのか? それならば、今からでも続きをしようか?」
「お望みでしたら、構いませんわよ」
微笑んでアイリスが答えると、レオナルドは一瞬だけ驚いた顔をした。だが、すぐに打ち消して唇の端をつり上げる。
「……いや、やめておこう。この流れでそれはあまりに無粋だ」
「あら、残念ですこと」
単にからかおうとしただけらしい。レオナルドが取り消すのを聞き、アイリスは物憂げにため息をついた。
すると、レオナルドの笑みが苦くなる。
「あまり煽るな。……まあ、アイリスを送り込んでくれたことに関しては、王妃に感謝してもよい。その気持ちを表すべく、パーティーにはアイリスを連れて参加したいと思うが、よいか?」
ごまかすように、レオナルドは話を元に戻す。
「ええ、お供いたしますわ」
嫌だと答える理由はない。アイリスは素直に頷く。
先ほど問われたときは、違う部分で衝撃を受けて流れてしまったが、アイリスも王妃に対して思うところがあるのは事実だ。
利用されているのは納得済みだったが、王妃の思惑は何も明かされていない。アイリスがどう動くことを期待されているかも教えられておらず、不気味だった。
「実のところ、今回の王妃の思惑は読み切れていない。何を企んでいるのかは予想がつくものの、やり方が不完全に思える。パーティーにも仕掛けがあるかもしれないので、気を付けてくれ」
心配そうなレオナルドの言葉に、アイリスは彼も読み切れていないのかと驚く。
しかも、そのことをアイリスにあっさり話すあたり、信用してくれているのだろうか。気遣いの言葉があるので、おそらくはそうなのだろう。
アイリスは自分の立ち位置がわからなくなってくる。
「……もしかしたら私が王妃の手駒で、何かを仕掛けているのかもしれませんわよ」
思わず、アイリスの口からこのような言葉が出てくる。
何かを仕掛けているというのは嘘だが、王妃の手駒に関しては間違いと言い切れない。王妃はおそらくそう思っているだろう。
アイリスの意思とは関係なく、何らかの装置としての役割を課されているのかもしれない。もしそうであれば、それはレオナルドにとって良いものではないだろう。
「アイリスが私を騙しているということか?」
興味深そうな顔をしながら、レオナルドが問いかけてくる。
アイリスは何も答えられない。いったい何故、先ほどのようなことを言ってしまったのか、自分でもわからなかった。
「アイリスに騙されるのなら、本望だ。最期まで騙し切ってくれ」
ところが、レオナルドはアイリスの答えを確かめることもなく、嬉しそうに笑った。
アイリスの艶やかな黒髪を一筋すくい上げると、レオナルドは唇を落とす。
そうしながら見つめてくる瞳は、獲物を捕らえるかのような物騒な光を放っていて、アイリスはめまいがしそうだった。
大切そうに花冠を持っていったので、よほど気に入ったらしい。
カトリーナが去るとアイリスとレオナルドは二人きりになる。
先ほど話に出てきたブラックバーン公爵のことを尋ねてみるべきか、アイリスは迷う。
「そうだ、王妃からパーティーの招待状が届いた」
ところが、それよりも早くレオナルドが口を開いた。
その内容も驚きのもので、アイリスはあっけにとられてしまう。ブラックバーン公爵のことは、頭から吹き飛んでしまった。
もしかしたら、先ほどのストロベリーブロンドの令嬢ことデラニーが運んできたのだろうかと、ぼんやり頭に浮かぶ。
「お気に入りの令嬢を連れてくるとよいとあった。現王妃主催のパーティーなど、私は一度も参加したことがないからな。関係改善のアピールでもしたいのだろう」
レオナルドの話を聞き、アイリスは考え込む。
王妃は王太子レオナルドと良い関係を築きたく、アイリスに橋渡しをしてほしいとは以前聞いたことだ。
これはそのための一歩ということだろうか。
ただ、王妃の言葉など、ただの建前だろうとアイリスは思っている。
アイリスを王太子宮に送り込んでから数日、次の手を打ったということだろう。
「……レオナルドさまは、王妃殿下のことをどう思っておいでですの?」
「王妃か。くだらないことを企んでいるようだな。私としては興味もないのだが、あの女のために死んでもよいとは思えぬ」
つまらなさそうなレオナルドの発した言葉に、アイリスは言葉を失った。
レオナルドは時々物騒な物言いをするが、これはおそらく本当に命を狙われているのだろう。
そこで、レオナルドがメイドを気に入らないからと斬り捨ててしまったと、王妃が言っていたことをアイリスは思い出す。
レオナルドによればメイドは暗殺者だったようだが、ならば仕組んだのは誰か。
「アイリスだとて、王妃の企みによって望まぬ閨に送られただろう。思うところはないのか?」
考え始めたアイリスだったが、レオナルドの言葉によって驚きと共に引き戻される。
何を言われたのか、一瞬理解できなかったほどだ。
「……レオナルドさまが、そのようなことをおっしゃるなんて……あっさりと了承した張本人が……」
結局は閨で何事もなかったのだが、それはアイリスが戸惑っているだけの役立たずだったためだろう。適応していれば、レオナルドが途中で行為を止めたとは思い難い。
「最初は、納得済みだと思っていたからな。何も知らぬとわかっていれば、了承はしなかった」
レオナルドは苦笑しながら答える。
「それとも、本当は望んでいたのか? それならば、今からでも続きをしようか?」
「お望みでしたら、構いませんわよ」
微笑んでアイリスが答えると、レオナルドは一瞬だけ驚いた顔をした。だが、すぐに打ち消して唇の端をつり上げる。
「……いや、やめておこう。この流れでそれはあまりに無粋だ」
「あら、残念ですこと」
単にからかおうとしただけらしい。レオナルドが取り消すのを聞き、アイリスは物憂げにため息をついた。
すると、レオナルドの笑みが苦くなる。
「あまり煽るな。……まあ、アイリスを送り込んでくれたことに関しては、王妃に感謝してもよい。その気持ちを表すべく、パーティーにはアイリスを連れて参加したいと思うが、よいか?」
ごまかすように、レオナルドは話を元に戻す。
「ええ、お供いたしますわ」
嫌だと答える理由はない。アイリスは素直に頷く。
先ほど問われたときは、違う部分で衝撃を受けて流れてしまったが、アイリスも王妃に対して思うところがあるのは事実だ。
利用されているのは納得済みだったが、王妃の思惑は何も明かされていない。アイリスがどう動くことを期待されているかも教えられておらず、不気味だった。
「実のところ、今回の王妃の思惑は読み切れていない。何を企んでいるのかは予想がつくものの、やり方が不完全に思える。パーティーにも仕掛けがあるかもしれないので、気を付けてくれ」
心配そうなレオナルドの言葉に、アイリスは彼も読み切れていないのかと驚く。
しかも、そのことをアイリスにあっさり話すあたり、信用してくれているのだろうか。気遣いの言葉があるので、おそらくはそうなのだろう。
アイリスは自分の立ち位置がわからなくなってくる。
「……もしかしたら私が王妃の手駒で、何かを仕掛けているのかもしれませんわよ」
思わず、アイリスの口からこのような言葉が出てくる。
何かを仕掛けているというのは嘘だが、王妃の手駒に関しては間違いと言い切れない。王妃はおそらくそう思っているだろう。
アイリスの意思とは関係なく、何らかの装置としての役割を課されているのかもしれない。もしそうであれば、それはレオナルドにとって良いものではないだろう。
「アイリスが私を騙しているということか?」
興味深そうな顔をしながら、レオナルドが問いかけてくる。
アイリスは何も答えられない。いったい何故、先ほどのようなことを言ってしまったのか、自分でもわからなかった。
「アイリスに騙されるのなら、本望だ。最期まで騙し切ってくれ」
ところが、レオナルドはアイリスの答えを確かめることもなく、嬉しそうに笑った。
アイリスの艶やかな黒髪を一筋すくい上げると、レオナルドは唇を落とす。
そうしながら見つめてくる瞳は、獲物を捕らえるかのような物騒な光を放っていて、アイリスはめまいがしそうだった。
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