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英雄となった幼なじみに婚約破棄された見習い聖女は、白い花を胸に抱いて追放される
02.白い花
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北の果てにある、辺境の聖堂でカーラは祈りを捧げて過ごしていた。
北の魔王が現れたときに一度放棄されているだけあって、打ち捨てられたみすぼらしい聖堂だ。
麓の村では人々が元の暮らしに戻りつつあったが、わざわざ祈りを捧げに来るような余裕はないようで、訪れる人はほぼいない。
それでも時折やってくる行商人が、王都の噂を持ってくる。
救国の英雄アルトと、イライザ姫の結婚式がもうじき行われるらしい。
大きな窓からの月明かりを頼りに、カーラは代わり映えのしない今日の出来事を日記に記すと、白い押し花のしおりを挟む。
アルトから求婚されたとき、捧げられた花だ。
そしてもうひとつ、同じ花のしおりが日記の最初のページに挟まれていた。
そのとき、窓から差し込む月明かりが途絶えた。
「カーラ……遅くなってすまなかった。迎えに来たよ」
月明かりを遮ったのは、アルトだった。
かつてと同じ、優しい微笑みを浮かべてカーラに手を差し出している。
「アルト……」
カーラは感極まり、涙が頬を伝っていく。
「あんなことをしてしまって、本当に悪かった。姫がきみを始末しようとしていたけれど、あの時はまだ準備ができていなくて、ああするしかなかったんだ。それでも、きみを傷つけてしまったことは申し訳ない」
「大丈夫……わかっていたから……あの袋の中身を見たとき、あなたの気持ちがわかったから……」
金貨の詰まった袋の中には、幾重にも重なる小さな花びらを持つ白い花が入っていたのだ。
求婚のときに捧げられた花と同じものだった。
『私を信じてください』という花言葉があるのだとは、そのときに聞いた話だ。
カーラはその花を見たとき、婚約破棄がアルトの本心ではないのだと気づいた。
何か理由があって、王都からカーラを遠ざけたいのだろうとも察したので、カーラは婚約破棄を受け入れるふりをして、辺境の聖堂にやってきたのだ。
邪魔なカーラをいっそ殺してしまおうかと画策していたイライザも、カーラが金貨を受け取って去っていったので、わざわざ手を下すことはないと放置した。
それだけの仕打ちをしたのだから、アルトもすっかりカーラを諦めたのだろうとイライザは安心して、その隙にアルトは準備を進めたのだ。
「北の魔王を討伐したとき、北方王国の王子とも知り合ってね。ぜひ二人で来てくれと言っているから、そこで結婚式を挙げて一緒に暮らそう」
「うん……行こう……」
差し出された手を取り、カーラは泣きながら笑う。
あの日から止まってしまった二人の時間が動き出していくのを、カーラは感じていた。
*
アルトとカーラは、北方王国にて結婚して夫婦となった。
勇者と聖女の夫婦は、それからは北方王国の平和に貢献していくこととなる。
カーラは見習い聖女ではあったが、それは平民出身のためだった。
実際には、魔王討伐時も国に結界を張り、陰ながら勇者を支えたのは、見習い聖女に過ぎないカーラだったのだ。
イライザが高位聖女なのは王女という身分のためで、実際の力はたいしたことがない。彼女は、カーラの手柄を横取りしていたのだった。
勇者と本当の聖女を失った国は、その後魔物の襲撃を防ぎきれず、窮地に陥った。
北の魔王を討伐した際には、見事な結界で国を守っていたはずのイライザが、どうしてしまったのかと疑問の声が上がる。
しかし、元からイライザにそのような力は無い。
やがて、イライザが見習い聖女の手柄を横取りしていたことが暴露される。
しかも勇者と聖女を失ったのがイライザの横恋慕のせいであることまで広く知れ渡り、イライザへの非難はとどまるところを知らなかった。
結局、北方王国に助けを求めることとなり、イライザを始めとした王族は処断されて、北方王国に吸収されることになったのだった。
北の魔王が現れたときに一度放棄されているだけあって、打ち捨てられたみすぼらしい聖堂だ。
麓の村では人々が元の暮らしに戻りつつあったが、わざわざ祈りを捧げに来るような余裕はないようで、訪れる人はほぼいない。
それでも時折やってくる行商人が、王都の噂を持ってくる。
救国の英雄アルトと、イライザ姫の結婚式がもうじき行われるらしい。
大きな窓からの月明かりを頼りに、カーラは代わり映えのしない今日の出来事を日記に記すと、白い押し花のしおりを挟む。
アルトから求婚されたとき、捧げられた花だ。
そしてもうひとつ、同じ花のしおりが日記の最初のページに挟まれていた。
そのとき、窓から差し込む月明かりが途絶えた。
「カーラ……遅くなってすまなかった。迎えに来たよ」
月明かりを遮ったのは、アルトだった。
かつてと同じ、優しい微笑みを浮かべてカーラに手を差し出している。
「アルト……」
カーラは感極まり、涙が頬を伝っていく。
「あんなことをしてしまって、本当に悪かった。姫がきみを始末しようとしていたけれど、あの時はまだ準備ができていなくて、ああするしかなかったんだ。それでも、きみを傷つけてしまったことは申し訳ない」
「大丈夫……わかっていたから……あの袋の中身を見たとき、あなたの気持ちがわかったから……」
金貨の詰まった袋の中には、幾重にも重なる小さな花びらを持つ白い花が入っていたのだ。
求婚のときに捧げられた花と同じものだった。
『私を信じてください』という花言葉があるのだとは、そのときに聞いた話だ。
カーラはその花を見たとき、婚約破棄がアルトの本心ではないのだと気づいた。
何か理由があって、王都からカーラを遠ざけたいのだろうとも察したので、カーラは婚約破棄を受け入れるふりをして、辺境の聖堂にやってきたのだ。
邪魔なカーラをいっそ殺してしまおうかと画策していたイライザも、カーラが金貨を受け取って去っていったので、わざわざ手を下すことはないと放置した。
それだけの仕打ちをしたのだから、アルトもすっかりカーラを諦めたのだろうとイライザは安心して、その隙にアルトは準備を進めたのだ。
「北の魔王を討伐したとき、北方王国の王子とも知り合ってね。ぜひ二人で来てくれと言っているから、そこで結婚式を挙げて一緒に暮らそう」
「うん……行こう……」
差し出された手を取り、カーラは泣きながら笑う。
あの日から止まってしまった二人の時間が動き出していくのを、カーラは感じていた。
*
アルトとカーラは、北方王国にて結婚して夫婦となった。
勇者と聖女の夫婦は、それからは北方王国の平和に貢献していくこととなる。
カーラは見習い聖女ではあったが、それは平民出身のためだった。
実際には、魔王討伐時も国に結界を張り、陰ながら勇者を支えたのは、見習い聖女に過ぎないカーラだったのだ。
イライザが高位聖女なのは王女という身分のためで、実際の力はたいしたことがない。彼女は、カーラの手柄を横取りしていたのだった。
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しかし、元からイライザにそのような力は無い。
やがて、イライザが見習い聖女の手柄を横取りしていたことが暴露される。
しかも勇者と聖女を失ったのがイライザの横恋慕のせいであることまで広く知れ渡り、イライザへの非難はとどまるところを知らなかった。
結局、北方王国に助けを求めることとなり、イライザを始めとした王族は処断されて、北方王国に吸収されることになったのだった。
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