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後宮の雑草令嬢は愛を令嬢力(物理)で掴み取る
01.番狂わせ
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「まあ……令嬢力皆無の、雑草令嬢のお出ましですわよ」
「お相手の方は運がよろしいですわね。何の労もなく、勝利を得られるのですもの」
フリーダが舞台に上がると、ひそひそと嘲るような囁きが交わされる。
それを聞き流し、フリーダは前を見据えた。
帝国の後宮にて、月に一度開かれる令嬢力を競う大会が行われているのだ。
大会の順位により、今後一か月の後宮内での序列が決まる。皇帝のお渡りは序列上位者のみのため、寵を得るためにはまず大会で勝ち進まなくてはならないのだ。
辺境伯の三女であるフリーダは、これまで一度も勝利を収めたことがない。
後宮の片隅でひっそりと生きるフリーダは雑草令嬢と嘲られ、トーナメント戦である大会にて彼女と当たれば、労せずして勝ち上がれると囁かれていた。
「令嬢力皆無なのに、大会には出なくてはならないなんて、フリーダさまも大変ですわねえ。でも、今回で終わりでしたかしら。やっと、生き恥を晒す日々から解放されること、お祝い申し上げますわ」
対戦相手であるジルケが、意地の悪い笑みを浮かべながら声をかけてくる。
一度も皇帝のお渡りがないまま一年が過ぎれば、お役御免となるのだ。
フリーダはあと一か月で後宮入りして一年となり、今回の大会で勝ち上がれなければ、後宮を追放となる。
「……早く、始めましょう」
フリーダはジルケの言葉に答えることなく、審判に声をかける。
わずかに怒りを滲ませるジルケだが、審判が開始の合図をすると、余裕を浮かべながらフリーダに近づいてきた。
それを迎えるように、何気ない足取りでフリーダもジルケに近づく。
ジルケは構えようとするが、フリーダは足を止めることなく、そのままジルケの横を通り過ぎた。
そして、すれ違いざまに素早く打ち込んだ手刀により、ジルケがその場に崩れ落ちる。
「えっ……?」
その場にいた誰もが目を疑った。
だが、立っているのはフリーダで、倒れているのがジルケであるという事実は変わらない。
「しょ……勝者、フリーダさま!」
審判が叫ぶと、会場がどよめきに包まれた。
「……ほう」
見物してる皇帝バルウィンが、微かな呻きを漏らしながら、楽しげに目を細める。
まだ二十代半ばという若さの皇帝バルウィンは、熊を素手で倒したという逸話を持つ筋骨隆々の大男だ。
皇帝という地位だけではなく、その逞しさは国中の女性たちの憧れであり、名実共に国一番の男性といえる。
武を尊ぶこの国では、皇帝の妃にも強さが重視される。
妃の役目は立派な子を産むことだ。
そのためには妃自身が心身共に健康である必要があるのは、当然のこと。
強さとは健康の証であり、立派な母になれる素質、そして令嬢としてのたしなみなのだ。
皇帝バルウィンにはまだ子がない。
子を産んで初めて妃の地位が得られる決まりなので、最初に子を授かった者が第一妃になれるのだ。
栄誉ある第一妃の座を得ようと、後宮の令嬢たちは日々己を磨いている。
しかし、フリーダには心に秘めた思いがあり、後宮の争いからは身を遠ざけていた。
このままひっそりと後宮を去り、修道院で人生を閉じようと思っていたフリーダだが、皇帝バルウィンが出したお触れに一縷の望みをかけた。
「さて……序盤から番狂わせがあったようだが、今回の大会も面白い戦いとなることを期待している。一位となった者には、願いをひとつきいてやる。ふるって競い合うがよい」
皇帝バルウィンの威厳ある声が響く。
フリーダは一礼すると、舞台を下りた。
今の皇帝バルウィンの言葉こそが、フリーダが立ち上がった理由である。
これまでも一位となった令嬢はおねだりをきいてもらえたようだが、暗黙の了解でしかなかった。
それを今回初めて、皇帝自らが願いをきくと明言したのである。
全てを諦めていたフリーダに、一位になれば願いをきいてもらえるという、千載一遇のチャンスが舞い降りてきたのだ。
もしかしたら、フリーダの願いは許されないことかもしれない。
だが、このままでは希望など何もないのだから、たとえ結果がどうであろうと、フリーダにとっては命を賭けるのに十分だった。
「お相手の方は運がよろしいですわね。何の労もなく、勝利を得られるのですもの」
フリーダが舞台に上がると、ひそひそと嘲るような囁きが交わされる。
それを聞き流し、フリーダは前を見据えた。
帝国の後宮にて、月に一度開かれる令嬢力を競う大会が行われているのだ。
大会の順位により、今後一か月の後宮内での序列が決まる。皇帝のお渡りは序列上位者のみのため、寵を得るためにはまず大会で勝ち進まなくてはならないのだ。
辺境伯の三女であるフリーダは、これまで一度も勝利を収めたことがない。
後宮の片隅でひっそりと生きるフリーダは雑草令嬢と嘲られ、トーナメント戦である大会にて彼女と当たれば、労せずして勝ち上がれると囁かれていた。
「令嬢力皆無なのに、大会には出なくてはならないなんて、フリーダさまも大変ですわねえ。でも、今回で終わりでしたかしら。やっと、生き恥を晒す日々から解放されること、お祝い申し上げますわ」
対戦相手であるジルケが、意地の悪い笑みを浮かべながら声をかけてくる。
一度も皇帝のお渡りがないまま一年が過ぎれば、お役御免となるのだ。
フリーダはあと一か月で後宮入りして一年となり、今回の大会で勝ち上がれなければ、後宮を追放となる。
「……早く、始めましょう」
フリーダはジルケの言葉に答えることなく、審判に声をかける。
わずかに怒りを滲ませるジルケだが、審判が開始の合図をすると、余裕を浮かべながらフリーダに近づいてきた。
それを迎えるように、何気ない足取りでフリーダもジルケに近づく。
ジルケは構えようとするが、フリーダは足を止めることなく、そのままジルケの横を通り過ぎた。
そして、すれ違いざまに素早く打ち込んだ手刀により、ジルケがその場に崩れ落ちる。
「えっ……?」
その場にいた誰もが目を疑った。
だが、立っているのはフリーダで、倒れているのがジルケであるという事実は変わらない。
「しょ……勝者、フリーダさま!」
審判が叫ぶと、会場がどよめきに包まれた。
「……ほう」
見物してる皇帝バルウィンが、微かな呻きを漏らしながら、楽しげに目を細める。
まだ二十代半ばという若さの皇帝バルウィンは、熊を素手で倒したという逸話を持つ筋骨隆々の大男だ。
皇帝という地位だけではなく、その逞しさは国中の女性たちの憧れであり、名実共に国一番の男性といえる。
武を尊ぶこの国では、皇帝の妃にも強さが重視される。
妃の役目は立派な子を産むことだ。
そのためには妃自身が心身共に健康である必要があるのは、当然のこと。
強さとは健康の証であり、立派な母になれる素質、そして令嬢としてのたしなみなのだ。
皇帝バルウィンにはまだ子がない。
子を産んで初めて妃の地位が得られる決まりなので、最初に子を授かった者が第一妃になれるのだ。
栄誉ある第一妃の座を得ようと、後宮の令嬢たちは日々己を磨いている。
しかし、フリーダには心に秘めた思いがあり、後宮の争いからは身を遠ざけていた。
このままひっそりと後宮を去り、修道院で人生を閉じようと思っていたフリーダだが、皇帝バルウィンが出したお触れに一縷の望みをかけた。
「さて……序盤から番狂わせがあったようだが、今回の大会も面白い戦いとなることを期待している。一位となった者には、願いをひとつきいてやる。ふるって競い合うがよい」
皇帝バルウィンの威厳ある声が響く。
フリーダは一礼すると、舞台を下りた。
今の皇帝バルウィンの言葉こそが、フリーダが立ち上がった理由である。
これまでも一位となった令嬢はおねだりをきいてもらえたようだが、暗黙の了解でしかなかった。
それを今回初めて、皇帝自らが願いをきくと明言したのである。
全てを諦めていたフリーダに、一位になれば願いをきいてもらえるという、千載一遇のチャンスが舞い降りてきたのだ。
もしかしたら、フリーダの願いは許されないことかもしれない。
だが、このままでは希望など何もないのだから、たとえ結果がどうであろうと、フリーダにとっては命を賭けるのに十分だった。
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