異世界恋愛短編集

葵 すみれ

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後宮の雑草令嬢は愛を令嬢力(物理)で掴み取る

02.決勝戦

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「……先ほどのは、まぐれに決まっていますわ。いえ、ジルケさまがたまたま体調を崩してしまっただけのことよ」

 二回戦目の対戦相手であるウィドが、舞台の上で怯えを滲ませながら呟く。
 だが、フリーダは何も言うことなく、開始の合図を待つ。
 そして開始の合図と共に駆け出し、ウィドに体当たりして舞台の外まで吹き飛ばした。

「しょ……勝者、フリーダさま!」

 またもあっさりと勝負が決まり、もはやフリーダのまぐれかと疑う者はいなかった。
 悠々とフリーダが舞台を下りていくのを、人々は静まり返って見送る。

 フリーダは辺境伯の娘だが、辺境伯とは魔物との境界線を守る役割を担い、日々を戦いに生きているのだ。
 幼い頃からフリーダも魔物と戦ってきた。
 整えられた環境で安全に訓練をしてきた都会の令嬢とは、実戦の場数が違う。

 続く三回戦でもフリーダは拳の一撃で難なく勝利を得て、これですでに皇帝がお渡りになる権利を獲得したことになる。
 フリーダの後宮残留が確定となったが、本当に欲しいものは違う。

 さらに準決勝もフリーダは蹴り技によって勝ち上がり、残すは決勝のみとなった。
 決勝戦の相手は不動の序列一位を誇る、公爵令嬢ベアトリクスだ。
 ベアトリクスは今までの相手とは格が違う。
 深紅のドレスを纏った肢体はしなやかに引き締まっていながら、出るべきところはしっかり出ている、メリハリのある体つきだ。
 美貌、家柄、令嬢力、どれをとっても他の追随を許さず、後宮の咲き誇る大輪の赤薔薇と呼ばれている。

「まさか、フリーダさまがこれほどの令嬢力を隠し持っていたとは……どうして、今まで最下位に甘んじて……いえ……今になって、その令嬢力を隠すのをやめたのは、何故かしら?」

 舞台で向かい合いながら、ベアトリクスが問いかけてくる。

「……愛を掴み取るためです」

 やや考え、フリーダは正直に答えた。

「まあ、わたくしも愛のために戦いますのよ。陛下の一番はわたくしのもの……フリーダさまの令嬢力は認めますけれど、この座を譲るわけにはまいりませんわ。フリーダさまに覚悟はおありかしら?」

「……令嬢ならば、言葉ではなく令嬢力で語るもの。私の覚悟は、この戦いでお見せしましょう」

「ふふ……そうですわね。令嬢ならば令嬢力で競いましょう」

 こうして、頂点の令嬢を決める決勝戦が始まった。
 開始早々、間合いを詰めてきたベアトリクスは蹴りを放つ。
 ドレスのスリットから白い足がのぞく扇情的な光景だが、この場にいる男性は皇帝バルウィンただ一人のため、問題はない。
 フリーダは後ろに飛び退いて蹴りをかわす。

 反撃の体勢を整える間もなく、ベアトリクスが勢いを拳に乗せて踏み込んできた。
 フリーダは片手でその拳を払うように受け流すと、カウンターで拳を叩き込もうとする。
 だが、すんでのところでベアトリクスはかわし、後ろに跳んだ。

 フリーダは追いかけるように間合いを詰めて、拳を放つ。
 それをベアトリクスはかわし、フリーダはさらに追撃の手を緩めず、何度も拳を放ってはかわされるのを繰り返す。
 やがて舞台の端までベアトリクスが追い詰められる形となり、このまま場外に落としてしまおうと、フリーダは拳を大きく振りかぶる。

 すると、それを待っていたように、ベアトリクスが反撃に転じた。
 目の前に飛んできた拳をフリーダは完全にかわしきれず、バランスを崩す。
 その隙を逃さず、ベアトリクスが踏み込んでくる。
 回避は無理だと咄嗟に判断したフリーダは、いっそ一撃を受けてその瞬間に反撃しようと、ベアトリクスの一撃で沈んでしまわないよう、体に力をこめる。
 だが、その一撃は重たいことを直感し、負ける、という言葉がフリーダの頭に浮かぶ。
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