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後宮の雑草令嬢は愛を令嬢力(物理)で掴み取る
03.勝者
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すると、一瞬、ベアトリクスがよろめいた。
フリーダはその好機を逃さず体勢を戻し、カウンターとして準備していた拳を反射的に放つ。
しかし、フリーダははっとしてベアトリクスの腹に向かって伸びていく拳を途中で止め、一歩後ろに飛び退いた。
「なっ……戦いの最中に情けなど……!」
怒りを込めた瞳で、ベアトリクスが睨みつけてくる。
だが、フリーダの頭の中にはある可能性が浮かび上がっていた。
根拠に乏しく、単に閃いた勘でしかないことだが、もしフリーダの考えが正しければ、この戦いは速やかに終わらせるべきだ。
フリーダはベアトリクスに足払いをかける。
まだ足下がよろめいているようで、ベアトリクスはあっさりと引っかかってしまう。
バランスを崩して倒れこもうとするベアトリクスを、フリーダは支えて両手で抱き上げる。
そして、場外にベアトリクスを下ろした。
「しょ……勝者、フリーダさま!」
上擦った審判の声が響くと、会場はしんと静まり返った後、徐々にざわざわと驚愕が広がっていった。
これまで一度たりとも敗れたことのないベアトリクスが、初めての敗北を喫したのだ。
それも、これまで一度も誰にも勝ったことのない、雑草令嬢と蔑まれていたフリーダ相手にである。
「そ……そんな……わたくしが……まさか……」
愕然として、ぶつぶつと呟くベアトリクス。
「……ベアトリクスさま。どうか、お体をおいといください。もしかしたら……特にお腹はお大事にしてください」
フリーダが近づいて囁くと、最初は厳しい顔つきをしていたベアトリクスが、唖然として自らの腹を押さえる。
「まさか……そのようなこと……既定の日数には達していませんし……」
後宮では、皇帝がお渡りになった日や、令嬢の体調についても記録されている。
懐妊の可能性があれば大会への出場も禁止されるが、ベアトリクスはその基準を満たしていなかったはずだと、呆然と呟く。
「私の勘違いでしたら申し訳ありません。ただ、私の姉が懐妊したときと状況が似ていて……そのときも、あまりにも早く兆候が出て、私だけが気づいたので、もしかしたらと……」
言いながら、もしフリーダの勘違いだったらぬか喜びさせてしまったのではないかと、後悔が襲ってきた。
これまで一度も外れたことのない、野生じみたフリーダの勘ではあるが、今回もそうであるとは限らない。
今さら慌てふためいていると、二人に近づいてくる姿があった。
「ベアトリクス、どこか怪我をしたのか? 医師に見せるとよい」
皇帝バルウィンが、気遣わしげにベアトリクスに声をかけてきたのだ。
「へ……陛下……お見苦しいところを……」
顔を赤らめて、ベアトリクスが俯く。
「そなたは敗れたとはいえ、二位だ。余が渡ることはできる故、なるべく近いうちにそなたの部屋に渡ることにしよう」
「は……はい……お待ちしております……」
見つめ合う皇帝バルウィンとベアトリクスの姿を眺めながら、フリーダは自分が邪魔者である気がしてたまらず、逃げ出したくなる。
「さて、フリーダ。そなたの令嬢力、見事であった。今月の一位はそなただ」
すると、今度はフリーダに声がかけられた。
びくりとするフリーダだが、ここからが正念場だと気合を入れる。
フリーダはその好機を逃さず体勢を戻し、カウンターとして準備していた拳を反射的に放つ。
しかし、フリーダははっとしてベアトリクスの腹に向かって伸びていく拳を途中で止め、一歩後ろに飛び退いた。
「なっ……戦いの最中に情けなど……!」
怒りを込めた瞳で、ベアトリクスが睨みつけてくる。
だが、フリーダの頭の中にはある可能性が浮かび上がっていた。
根拠に乏しく、単に閃いた勘でしかないことだが、もしフリーダの考えが正しければ、この戦いは速やかに終わらせるべきだ。
フリーダはベアトリクスに足払いをかける。
まだ足下がよろめいているようで、ベアトリクスはあっさりと引っかかってしまう。
バランスを崩して倒れこもうとするベアトリクスを、フリーダは支えて両手で抱き上げる。
そして、場外にベアトリクスを下ろした。
「しょ……勝者、フリーダさま!」
上擦った審判の声が響くと、会場はしんと静まり返った後、徐々にざわざわと驚愕が広がっていった。
これまで一度たりとも敗れたことのないベアトリクスが、初めての敗北を喫したのだ。
それも、これまで一度も誰にも勝ったことのない、雑草令嬢と蔑まれていたフリーダ相手にである。
「そ……そんな……わたくしが……まさか……」
愕然として、ぶつぶつと呟くベアトリクス。
「……ベアトリクスさま。どうか、お体をおいといください。もしかしたら……特にお腹はお大事にしてください」
フリーダが近づいて囁くと、最初は厳しい顔つきをしていたベアトリクスが、唖然として自らの腹を押さえる。
「まさか……そのようなこと……既定の日数には達していませんし……」
後宮では、皇帝がお渡りになった日や、令嬢の体調についても記録されている。
懐妊の可能性があれば大会への出場も禁止されるが、ベアトリクスはその基準を満たしていなかったはずだと、呆然と呟く。
「私の勘違いでしたら申し訳ありません。ただ、私の姉が懐妊したときと状況が似ていて……そのときも、あまりにも早く兆候が出て、私だけが気づいたので、もしかしたらと……」
言いながら、もしフリーダの勘違いだったらぬか喜びさせてしまったのではないかと、後悔が襲ってきた。
これまで一度も外れたことのない、野生じみたフリーダの勘ではあるが、今回もそうであるとは限らない。
今さら慌てふためいていると、二人に近づいてくる姿があった。
「ベアトリクス、どこか怪我をしたのか? 医師に見せるとよい」
皇帝バルウィンが、気遣わしげにベアトリクスに声をかけてきたのだ。
「へ……陛下……お見苦しいところを……」
顔を赤らめて、ベアトリクスが俯く。
「そなたは敗れたとはいえ、二位だ。余が渡ることはできる故、なるべく近いうちにそなたの部屋に渡ることにしよう」
「は……はい……お待ちしております……」
見つめ合う皇帝バルウィンとベアトリクスの姿を眺めながら、フリーダは自分が邪魔者である気がしてたまらず、逃げ出したくなる。
「さて、フリーダ。そなたの令嬢力、見事であった。今月の一位はそなただ」
すると、今度はフリーダに声がかけられた。
びくりとするフリーダだが、ここからが正念場だと気合を入れる。
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