異世界恋愛短編集

葵 すみれ

文字の大きさ
6 / 21
後宮の雑草令嬢は愛を令嬢力(物理)で掴み取る

04.願い

しおりを挟む
「……一位となれば、願いをひとつきいてくださるとのこと、相違ございませんか」

「うむ。何でも申してみよ。もっとも、この一か月全てをそなたに通えというようなものは無理だがな」

 鷹揚に答える皇帝バルウィンを見据え、フリーダは腹に力をこめて口を開く。

「わ……私を、宰相閣下に下賜してください!」

 フリーダの叫びに、皇帝バルウィンが目を見開く。
 周囲の令嬢たちも唖然として、信じられないものを見る眼差しをフリーダに向けていた。

「宰相……? 宰相といえば、マイノのことか……? 陰険ひょろひょろ眼鏡で、三十路に差し掛かりながらも嫁の来手がない、あの?」

「はい、そのマイノさまです」

「……言っては何だが、あんな女にモテぬ奴のどこがよいのだ?」

 場合によっては、後宮の一員でありながら他の男に懸想した恥知らずとして、斬り捨てられるのも覚悟の上だった。
 だが、皇帝バルウィンにそのような苛立ちは見られず、単純な好奇心だけがうかがえる。
 宰相マイノは皇帝バルウィンの言う通り、細身で貧弱な体をしており、頑強な者が好まれるこの国の感覚からいえば、まともな男性として見られないくらいだ。
 だが、フリーダにとっては唯一無二の存在である。

「以前、宰相閣下が父のもとを訪れた時、私は一人で魔物狩りを終えて帰って来たところでした。そのとき、宰相閣下は冷淡な眼差しを私に向け、私の担いでいた双頭熊を見てただため息を漏らされて……そこで私は、心を奪われたのです」

「意味がわからぬ」

「それまで私が魔物を狩ってくると、領地の者は熱狂して素晴らしいと褒め称えてきました。でも、宰相閣下はこれくらい大したことがないといった素振りで、私はいかに自分が調子に乗っているかに気づかされたのです」

「双頭熊を一人で倒せる者など、滅多におらぬが」

「そして、宰相閣下の顔色の悪さ……私がこれまで試行錯誤してきた魔物料理ならば精がつくかもしれないと思い、お作りして差し上げたいという気持ちが日ごとに募ってまいりました。しかし、父の命令により私は後宮入りして……これが愛だと気づいたのは、それからでした。もう遅かったのです」

 語り終えると、フリーダは皇帝バルウィンの足下に平伏した。

「後宮の一員でありながら、許されぬ思いとはわかっております。本来、私はこのまま後宮を去り、修道院にて人生を終えるつもりでした。そこに、願いをきくという陛下のお言葉を聞き、欲が出てしまいました。もし叶わねば、私を斬り捨てて、どうか髪だけでも宰相閣下の元へ……!」

「……顔を上げよ」

 静かな皇帝バルウィンの声が響く。

「そなたがマイノのことを想っていることはよくわかった。何故かはさっぱりわからぬが、まあよかろう。そなたをマイノに下賜してやろう」

「ほ……本当でございますか!?」

「願いをきくと言ったからな。それにマイノは貧弱だが、その頭脳は我が国に無くてはならぬものだ。そなたのような令嬢力の持ち主が寄り添えば、マイノも少しは強靱になるやもしれぬ。しっかりとマイノを支えよ」

「はい、尽力いたします! ありがとうございます!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

【完結】「私は善意に殺された」

まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。 誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。 私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。 だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。 どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※他サイトにも投稿中。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!

踏み台(王女)にも事情はある

mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。 聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。 王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

悪役令嬢の涙

拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

石塔に幽閉って、私、石の聖女ですけど

ハツカ
恋愛
私はある日、王子から役立たずだからと、石塔に閉じ込められた。 でも私は石の聖女。 石でできた塔に閉じ込められても何も困らない。 幼馴染の従者も一緒だし。

彼女が望むなら

mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。 リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。

処理中です...