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後宮の雑草令嬢は愛を令嬢力(物理)で掴み取る
05.物好き
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「……こんな物好きがいるとは思いませんでした」
宰相マイノは突然、皇帝から後宮の令嬢を下賜され、妻として宛がわれた。
ずっと女性とは無縁だったことから、業を煮やした皇帝に不要な令嬢を押しつけられたのかと思ったが、違った。
どうやらその令嬢はマイノに想いを寄せていて、下賜されるために後宮の令嬢力を競う大会で一位を獲得したのだという。
聞けば辺境伯の三女であるフリーダだそうで、そういえば双頭熊を一人で狩ってきたというところを見たことがあったと、マイノは思い出した。
見た目は少しぼんやりとした可憐な少女なのにと恐怖を覚え、それに比べて自分は何と貧弱なのだろうと、自己嫌悪に陥ったものだ。
それが何故自分などに惚れてしまったのかと、マイノは不思議でならない。
腕力に物を言わせるこの国において、貴重な頭脳労働者であるマイノは、国を支えているという自負はあるが、女性に人気があったことは一度たりともないのだ。
「旦那様、どうぞ召し上がってくださいませ」
今日もマイノが悩んでいると、溌剌とした笑顔を浮かべたフリーダが軽食を持ってくる。
フリーダが狩ってきた魔物を材料とした料理で、彼女自らが作っているのだ。
パンによくわからない魔物の肉を挟んだものや、毒々しい色のスープなどがあるが、味は悪くない。
「令嬢が自分で料理など……」
ついマイノは憎まれ口を叩いてしまう。
「旦那様に少しでも元気になって頂きたいのです」
しかし、フリーダは笑顔のままで朗らかに答える。
マイノはその健気な姿に胸の高鳴りを覚えるが、それをそのまま口に出すには、性格がひねくれてしまっていた。
「……仕方がありませんね。まあ、食べられないことはありませんから」
出てきたのはこの程度の言葉だが、それでもフリーダはにこにことしている。
実際にフリーダの料理は、美味しい部類に入る。それでいて体に良いもののようで、マイノの慢性化していた顔色の悪さも少しずつ改善されてきていた。
「そういえば、後宮で令嬢が懐妊したそうですよ。確か、公爵令嬢の……」
「まあ、ベアトリクスさまが?」
ふと思い出してマイノが口を開くと、フリーダが顔を輝かせる。
まるで我がことのように嬉しそうだ。
「そうです。めでたいことですね」
喜ぶフリーダにつられ、マイノもわずかに口元が綻ぶ。
すると、フリーダが恥じらいを見せながら、そっとマイノの手に手を重ねてくる。
「……旦那様、私も旦那様の頭脳と私の頑丈さを持った子が欲しいです」
そっと囁かれ、マイノは噴き出しそうになってしまう。
だが、冷静さを装って何でもないことのように頷いた。
大分慣れてきたが、時々こういった不意打ちが来るので、恐ろしい。
「……逆にならないことを願うばかりですね」
実はすっかりほだされているのだが、それを素直に言葉にするのは気恥ずかしくて、マイノは遠回しなことしか言えない。
せめて態度で示そうと二人の顔が近づいていき、唇が重ねられた。
宰相マイノは突然、皇帝から後宮の令嬢を下賜され、妻として宛がわれた。
ずっと女性とは無縁だったことから、業を煮やした皇帝に不要な令嬢を押しつけられたのかと思ったが、違った。
どうやらその令嬢はマイノに想いを寄せていて、下賜されるために後宮の令嬢力を競う大会で一位を獲得したのだという。
聞けば辺境伯の三女であるフリーダだそうで、そういえば双頭熊を一人で狩ってきたというところを見たことがあったと、マイノは思い出した。
見た目は少しぼんやりとした可憐な少女なのにと恐怖を覚え、それに比べて自分は何と貧弱なのだろうと、自己嫌悪に陥ったものだ。
それが何故自分などに惚れてしまったのかと、マイノは不思議でならない。
腕力に物を言わせるこの国において、貴重な頭脳労働者であるマイノは、国を支えているという自負はあるが、女性に人気があったことは一度たりともないのだ。
「旦那様、どうぞ召し上がってくださいませ」
今日もマイノが悩んでいると、溌剌とした笑顔を浮かべたフリーダが軽食を持ってくる。
フリーダが狩ってきた魔物を材料とした料理で、彼女自らが作っているのだ。
パンによくわからない魔物の肉を挟んだものや、毒々しい色のスープなどがあるが、味は悪くない。
「令嬢が自分で料理など……」
ついマイノは憎まれ口を叩いてしまう。
「旦那様に少しでも元気になって頂きたいのです」
しかし、フリーダは笑顔のままで朗らかに答える。
マイノはその健気な姿に胸の高鳴りを覚えるが、それをそのまま口に出すには、性格がひねくれてしまっていた。
「……仕方がありませんね。まあ、食べられないことはありませんから」
出てきたのはこの程度の言葉だが、それでもフリーダはにこにことしている。
実際にフリーダの料理は、美味しい部類に入る。それでいて体に良いもののようで、マイノの慢性化していた顔色の悪さも少しずつ改善されてきていた。
「そういえば、後宮で令嬢が懐妊したそうですよ。確か、公爵令嬢の……」
「まあ、ベアトリクスさまが?」
ふと思い出してマイノが口を開くと、フリーダが顔を輝かせる。
まるで我がことのように嬉しそうだ。
「そうです。めでたいことですね」
喜ぶフリーダにつられ、マイノもわずかに口元が綻ぶ。
すると、フリーダが恥じらいを見せながら、そっとマイノの手に手を重ねてくる。
「……旦那様、私も旦那様の頭脳と私の頑丈さを持った子が欲しいです」
そっと囁かれ、マイノは噴き出しそうになってしまう。
だが、冷静さを装って何でもないことのように頷いた。
大分慣れてきたが、時々こういった不意打ちが来るので、恐ろしい。
「……逆にならないことを願うばかりですね」
実はすっかりほだされているのだが、それを素直に言葉にするのは気恥ずかしくて、マイノは遠回しなことしか言えない。
せめて態度で示そうと二人の顔が近づいていき、唇が重ねられた。
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