異世界恋愛短編集

葵 すみれ

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お前を愛することはないと夫に言われたので、とても感謝しています

03.新たな門出

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 それからというもの、ジルベールは気が付けばオデットの姿を探すようになっていた。
 しかし、自分から声をかけるなどという真似はできず、遠くから見つめるだけだ。

「旦那さま、ごきげんよう」

「あ、ああ……」

 たまにオデットが気付いて挨拶されたときだけ、ジルベールは頷く。
 どこにでもいるような地味な女だと思っていた妻の顔を、まともに見ることができない。
 いったいどうしてしまったのかと、ジルベールは悩む。

「僕は……」

 そうして戸惑っているうちに日々が過ぎていき、ジルベールは少しずつ己の思いに気付いてきた。
 華やかなジルベールにふさわしい相手は、大輪の花のような令嬢だと思っていた。しかし、ひっそりと咲く花にも良さがあるのだと、思うようになってきたのだ。
 一見地味でも、よく見れば凛とした気品と穏やかな芳香で、人を惹き付ける花はあるものなのだろう。
 もしかしたら、鮮やかで香りの強い花よりも、そういった花のほうが寄り添うにはよいのかもしれない。

「そうだ、もうすぐ一年……改めて求婚しよう。そうすれば、喜ぶだろう」

 最初に一年で離縁すると決めていたが、ジルベールはそれを撤回しようとする。
 オデットはこれまで出しゃばることなく、ゆっくりとジルベールを篭絡していった。その思いに負けたといえるが、それももはや悔しくはない。
 お前の望みどおり、これからは本当の夫婦となろうと言えば、オデットは感激して涙を流すに違いない。

 当初は一年で傾いた家を立て直すつもりだったが、まだ達成には程遠い。
 しかし、離縁しないのだから、資金援助は続く。焦る必要はないだろう。
 魔物討伐も成功したと、風の便りに聞いた。これでますますギャストン子爵家も栄え、援助も期待できる。
 これまでは踏み込ませなかった領地経営の分野にも、オデットを関わらせてやれば、きっと喜ぶはずだ。
 ジルベールの負担は減り、オデットは愛を得て満足と、一石二鳥となる。
 一人、ジルベールは薔薇色の未来を描く。

 そしてとうとう、一年目の日がやってきた。
 ジルベールはオデットに求婚しようと決め、彼女を探す。
 部屋にはおらず、前庭にいるところを見つけて、ジルベールはすぐに向かった。

「あら、後ほど私からお伺いしようと思いましたのに」

 オデットはやってきたジルベールを見て、首を傾げる。
 不思議そうなオデットに向け、ジルベールは優しく微笑んだ。 

「今日は新たな門出だ。お前にとって、最良の日となるだろう」

「まあ……それは、まさか……やはり、すべてお見通しだったのですわね……」

 驚いて目を見開くオデットを見つめ、ジルベールはゆっくりと頷く。
 彼女の策略は見抜いたが、それに乗ってやろうというのだ。ときには敗者となるのも悪くはない。

「そうだ。これからは……」

「オデットさま!」

 口を開きかけたジルベールを遮り、声が響く。
 見れば、門から見知らぬ男が駆け寄ってくるところだった。立派な体躯を持ち、騎士の服を纏った男だ。ジルベールは突然の不審者に、顔をしかめる。
 門番はいったい何をやっているのかと、ジルベールは苛立つ。
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