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38.それぞれの元婚約者
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ブリジットに問いかけられ、ロゼッタはしまったと慌てる。ついぽろっと口から出てしまったのだ。
「それは……」
しかし、何と答えれば良いのかわからず、言葉に詰まってしまった。
「僕が話したのです。父上と母上にはもともと別の婚約者がいて、父上の元婚約者は処刑されてしまった王女だと……」
言葉に詰まったロゼッタに代わって、アイザックが説明する。
彼が割って入ってくれたことに、ロゼッタは胸を撫で下ろす。それは本当の理由ではなかったが、彼からその話を聞いたのも事実だ。
ブリジットはそれで納得したようで、ゆっくりと息を吐き出した。
「そう……察しが良いのね。驚いたわ。ロゼッタは六歳とは思えないほどしっかりしていて、不思議な子ね」
どうやら、うまくごまかせたようだ。ロゼッタはアイザックの助け船に感謝すると共に、ホッと安堵する。
「そういえば、ボールド王家には時折、未来を見たり死者と会話したりできるなど、不思議な力を持った姫が生まれることがあると聞くわ。あなたがそうなのかもしれないわね」
ぼそりと呟かれた言葉に、ロゼッタはピクリと反応してしまう。
まさかニーナの記憶を持っていることも、そういった不思議な力と関連があるのだろうか。そんな疑問が頭をよぎる。
しかし、ブリジットはただ何かを考え込むように黙り込んだだけで、それ以上追及はしなかった。
「そうね……これはきっと、話してしまえということなのかもしれないわね。あなたたちも王家の子だもの」
独り言のような調子でそう漏らした後、彼女はふわりと微笑みを浮かべた。とても優しく温かな笑みだった。
そして、どこか遠くを見つめるような眼差しで続ける。
「国王陛下の昔の婚約者は、ニーナという王女だったわ。小国から人質として差し出されてきて、当時第三王子だった国王陛下の婚約者となったの。でも……この国の王族たちは、彼女が捨て駒だと気づいていたわ」
淡々と話すその内容は、衝撃的な内容だった。ロゼッタはその一言一句を聞き漏らすまいと集中して耳を傾ける。
「いずれ、彼女の祖国が裏切ることはわかっていた。だから、彼女は死ぬために嫁いできたの。それを知っていたから、皆は彼女に心をかけようとはしなかった。情が移らないように距離を取ろうとしていたわ。でも……」
そこでブリジットは言葉を切った。少しだけ迷うような間が空く。しかしすぐに口を開くと、続きを語り始めた。
「それが果たして正しいことだったのかしら。一人寂しく死を待つだけの彼女に対して、何も手を差し伸べないで……。あのとき、せめて私だけでもあの子に寄り添ってあげるべきではなかったかしら。そんな風に思ってしまって……どうしてもあの子を忘れられないのよ」
物悲しげな様子で語られた言葉を耳にして、ロゼッタは胸がいっぱいになった。
ブリジットの痛ましさが伝わってくると同時に、本当はニーナのことを気にかけてもらえていたのだとわかり、嬉しかったからだ。
「そして彼女は処刑されたわ。その後、私の婚約者だった王太子殿下が病で亡くなり、第二王子殿下も戦で亡くなってしまい……あっという間だった。まるで彼女を処刑した呪いのようだと思ったものだわ」
そう語ると彼女は、ふうと重いため息をつく。
「……母上は、父上と結婚したことも、呪いだと……?」
おそるおそる尋ねるアイザックに対し、ブリジットはゆっくりと首を横に振る。
「いいえ。確かに、最初はそう思ったこともあったわ。あの方が婚約者であるニーナ姫をもう少し気にかけていれば、彼女は救われていたのではないかと思ってね」
そこまで話したところで、ブリジットは何かを思い出したらしく、ふと苦笑してしまう。
「でも、あの方も苦しんでいたのよ。そうよね、自分の婚約者が処刑されたのですもの。それなのに、私は自分の罪悪感をごまかすために、あの方のせいにしてしまった。最低よね……」
ブリジットは眉を下げながら自嘲気味に笑う。
その表情は哀愁に満ちていて、彼女の胸に渦巻いている感情の大きさを感じさせるものだった。
「それは……」
しかし、何と答えれば良いのかわからず、言葉に詰まってしまった。
「僕が話したのです。父上と母上にはもともと別の婚約者がいて、父上の元婚約者は処刑されてしまった王女だと……」
言葉に詰まったロゼッタに代わって、アイザックが説明する。
彼が割って入ってくれたことに、ロゼッタは胸を撫で下ろす。それは本当の理由ではなかったが、彼からその話を聞いたのも事実だ。
ブリジットはそれで納得したようで、ゆっくりと息を吐き出した。
「そう……察しが良いのね。驚いたわ。ロゼッタは六歳とは思えないほどしっかりしていて、不思議な子ね」
どうやら、うまくごまかせたようだ。ロゼッタはアイザックの助け船に感謝すると共に、ホッと安堵する。
「そういえば、ボールド王家には時折、未来を見たり死者と会話したりできるなど、不思議な力を持った姫が生まれることがあると聞くわ。あなたがそうなのかもしれないわね」
ぼそりと呟かれた言葉に、ロゼッタはピクリと反応してしまう。
まさかニーナの記憶を持っていることも、そういった不思議な力と関連があるのだろうか。そんな疑問が頭をよぎる。
しかし、ブリジットはただ何かを考え込むように黙り込んだだけで、それ以上追及はしなかった。
「そうね……これはきっと、話してしまえということなのかもしれないわね。あなたたちも王家の子だもの」
独り言のような調子でそう漏らした後、彼女はふわりと微笑みを浮かべた。とても優しく温かな笑みだった。
そして、どこか遠くを見つめるような眼差しで続ける。
「国王陛下の昔の婚約者は、ニーナという王女だったわ。小国から人質として差し出されてきて、当時第三王子だった国王陛下の婚約者となったの。でも……この国の王族たちは、彼女が捨て駒だと気づいていたわ」
淡々と話すその内容は、衝撃的な内容だった。ロゼッタはその一言一句を聞き漏らすまいと集中して耳を傾ける。
「いずれ、彼女の祖国が裏切ることはわかっていた。だから、彼女は死ぬために嫁いできたの。それを知っていたから、皆は彼女に心をかけようとはしなかった。情が移らないように距離を取ろうとしていたわ。でも……」
そこでブリジットは言葉を切った。少しだけ迷うような間が空く。しかしすぐに口を開くと、続きを語り始めた。
「それが果たして正しいことだったのかしら。一人寂しく死を待つだけの彼女に対して、何も手を差し伸べないで……。あのとき、せめて私だけでもあの子に寄り添ってあげるべきではなかったかしら。そんな風に思ってしまって……どうしてもあの子を忘れられないのよ」
物悲しげな様子で語られた言葉を耳にして、ロゼッタは胸がいっぱいになった。
ブリジットの痛ましさが伝わってくると同時に、本当はニーナのことを気にかけてもらえていたのだとわかり、嬉しかったからだ。
「そして彼女は処刑されたわ。その後、私の婚約者だった王太子殿下が病で亡くなり、第二王子殿下も戦で亡くなってしまい……あっという間だった。まるで彼女を処刑した呪いのようだと思ったものだわ」
そう語ると彼女は、ふうと重いため息をつく。
「……母上は、父上と結婚したことも、呪いだと……?」
おそるおそる尋ねるアイザックに対し、ブリジットはゆっくりと首を横に振る。
「いいえ。確かに、最初はそう思ったこともあったわ。あの方が婚約者であるニーナ姫をもう少し気にかけていれば、彼女は救われていたのではないかと思ってね」
そこまで話したところで、ブリジットは何かを思い出したらしく、ふと苦笑してしまう。
「でも、あの方も苦しんでいたのよ。そうよね、自分の婚約者が処刑されたのですもの。それなのに、私は自分の罪悪感をごまかすために、あの方のせいにしてしまった。最低よね……」
ブリジットは眉を下げながら自嘲気味に笑う。
その表情は哀愁に満ちていて、彼女の胸に渦巻いている感情の大きさを感じさせるものだった。
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