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第一章
05:語る勇者
私とネビロスは人間界へ行き、勇者の足取りを追った。
多分原作では、依頼された隣国へネビロスを倒した報告をしに戻っているはずだ。
勇者達は王城で手厚い歓迎を受けて、豪華な接待にひとときの休息を得る。
……そこでなんかエピソードとかあったっけな?
朧げすぎて詳しい事まで思い出せない。
とりあえず私達は角や尻尾を隠した人間に扮して、隣国の王城へ潜入する。
昨夜、祝杯を上げたであろう王城の広間は片付けなどで人が出入りしていて、すんなり入れた。
と、思ってたら
「勇者様達ですか?何か北の村から来た人たちがお困りのようで、今朝早く向かわれたようですよ」
そう言われて北の村へ向かうと
「えぇえぇ。森の魔物退治をお願いしたら、早速行ってくれましてね。無事に戻って来てくれると良いんですが…」
なので森へ向かうと、いきなり数十匹の魔狼に囲まれた勇者一行がピンチだった。
まだ話すら聞けてないのにぃ!
「あぁぁもう!面倒だわ!ネビロス!あの魔狼達やっちゃって!」
「あいよー♪」
ネビロスは丸太のような腕をぶんぶん回し、狼に向かって雷魔法をぶっ放す。
脳筋そうな巨躯を持つこの男、実は相当な魔力の持ち主で人間界で言うところの魔術師だ。勿論、腕力もある。
ネビロスの凶悪な電撃は魔狼達の防御結界を突き破り、一瞬にして沈黙させた。
ふふふ。さすが第九位。
何故この男が勇者達にやられたのか不思議すぎるわ。
「あ、アンタは…!まさか助けてくれたのか…?」
ふわりと勇者達の前に降り立った私を見て、驚愕する勇者。
「私じゃないわ。魔狼をやったのは……」
そう言いかけて気付く。
あれ?
ネビロスどこー?
隣にいると思っていたマッチョ魔術師が居ない。
見ると隠匿魔法をかけて木陰に大きな体を窄めて隠れている。私には丸見えだが。
何やってんの。
しかも何か一生懸命手を振ってるし。ジェスチャー?
なに。
『俺は?……斃されたから?……姿……?を、見せられない?』
あぁ再戦吹っかけられるかもって事?
最後のお尻フリフリはなんなの。
「な、何で俺達を助けたんだ?アンタ魔王と一緒にいたサキュバスだろ」
ネビロスのジェスチャーに吹き出しそうになっていると、勇者が困惑しながら話しかけていた。
何故助けたかって?
そりゃ勇者が転生者か確かめたかっただけに決まってるじゃない。
あれ?
私ったら何で助けたんだ?
このまま放っておけば勇者パーティ全滅で、ルキフェル様の邪魔にならなくて済んだのでは…!
あああああああっ!
何てこった!
振り回されて主旨をすっかり忘れてたーーっ!
話を聞きたいと思っていたばかりに、うっかり原作通り助けちゃったじゃない!
なんて間抜け!っく!まさかこれが原作強制力か⁉︎
いいや!負けぬ屈せぬぞ!私は決してルキフェル様を裏切る行為はせぬぞ!死してもなお抗って見せようぞ!
「あの防御結界をあっさりと突き破る魔術なんて、初めて見たわ…」
フルフルと顔を震わせ、大きな瞳で私を煽り見るゴスロリ少女。魔術師かな。
あー、だからそれ私じゃないんだけどな。
「メイベル!近寄ってはいけませんわ!この女は悪魔です!」
ゆっくりと近付こうとした魔法少女を聖女が制止した。
さすが聖女。しっかりと冷静な判断力で助かるわぁ。近寄られても困るもん。
メイベルと呼ばれた魔法少女はハッと気付き、慌てて勇者の影に隠れた。あざとい。
どうやら彼らは魔狼達の防御結界が破れずに苦戦をしていたらしい。
奴らはデフォルトで結界を張る習性があるからねぇ。雷系の魔法じゃなきゃ破れないのよ。
と、のんびりしている暇はないのよ。三時のおやつまでに戻らなければ、ルキフェル様に叱られてしまう!
「まぁ理由はどうでも良いじゃない。それよりも勇者に話があるのだけれど」
「え、俺…に?」
勇者の表情が一瞬緩んだ。
「駄目よアレックス!気を付けて!」
またもやパーティの良心、聖女ソフィーが警戒心を剥き出しにする。ちょっとヒステリック過ぎないかな。
「まさか、昨日の悪魔の代わりに本気でスカウトをしに来たんじゃないだろうな?」
冷たい口調で聞いてきたのは、シュッとした魔法剣士。
氷属性が似合いそうなクールな顔立ちの美青年だ。初めて声を聞いた。
原作ではどういう位置付けだったかなー。駄目だ、思い出せん!
「スカウトはただの冗談よ。とりあえず話がしたいだけなんだけど?勇者と二人きりで」
そう答えると勇者は頬を赤らめモジモジした。
途端に聖女が目を吊り上げ怒り出し、魔法少女がウルウル瞳で行かないでと懇願。
クール魔法剣士は冷静に勇者を諌め始め、勇者本人は戸惑いこちらをチラチラ窺う。
あーめんどくさい。
時間がないってのよ。あちこち移動されたから時間食っちゃったし。
私は亜空間を広げて勇者をその中に誘った。
「………!これは?」
「亜空間よ。あなたの意識をここへ連れて来たの。白昼夢を見ている感覚と思ってくれたらいいわ」
私は勇者の体はそのままに、彼の意識だけを私の空間へ招待した。最初からこうすれば良かった。
勇者アレックスは主人公らしい精悍な目で私を見つめ、要件を尋ねた。
馬鹿正直に『アナタ転生者ね?』などと聞く気はない。
変に仲間意識を持たれても困るし、馴れ合う気もない。そもそも敵だし。
なので、スピリチュアルな方向で探ろうと試みた。
「あなたの魂はこの世界の理と違って見えるのよね。何か心当たりがあるかしら?」
そう尋ねると、勇者アレックスは目を見開き手で口を覆った。
「ま、まさかそんな…!アンタにはわかる…のか?」
いや、分かんないから聞いてるんだけど。
意味ありげに笑顔を見せると、勇者は自分語りを始めてしまった。
「俺には前世の記憶があるんだ…」
そう喋り出してからの話はまぁまぁ長かった。
〈勇者のセリフ、すっ飛ばしても大丈夫♪〉
「俺は確かにこの世界で生まれたが別の記憶も持って生まれてきたんだ。俺の前世はこの世界とは違い、魔法のない世界で科学文明が発達し文化レベルも数段上の世界だった。俺は高校生…あ、この国で言う十六歳から入れる貴族学校みたいな所の生徒だったけど事故で命を失い、気付くとこの世界に生まれていたんだ。最初は戸惑い、周囲からは変人扱いされ親にも距離を置かれたりもしたけど、この記憶が前世だとわかって、それからはずっと封印していた。勿論勇者となった今でも誰にもこの事を明かした事はない。だってそうだろ?俺だって信じられないんだ。もう二度とあんな目で見られるのは辛くてさ。誰にも言えずに心の奥底に鍵をかけ偽りの自分を演じていたんだ…ははっ。勇者失格だろ?こんな暗い勇者誰だってごめんだよな?だがまさか悪魔であるアンタに見抜かれるとは皮肉な物だな……。誰かに理解されたいと思っていたのにその相手が敵なんてさ。前世の記憶を持つ俺はこの世界の人達とはやはりどこか違う生物なんだろうな(遠い目)」
………………なるほど。自己陶酔型ね。
少々長い語りにうんざりしたが、取り敢えず知りたい事は知れた。
つまり、この勇者は元高校生の転生者で、周囲に言えずに悶々としていたと。そして私が読んだラノベのストーリーは知らないようだ、と。
「……まぁそう悲観することはないんじゃない?そろそろ時間切れね」
彼の語りを適当にあしらい、私は指をパチンと鳴らして意識を解放させた。
現実世界に戻ると、仲間達が突然意識を失ったアレックスへ必死に呼びかけていた。
その間私は肉体ごと亜空間へ行っていたので、彼らの前から姿を消したように映っただろう。
意識を取り戻したアレックスに歓喜し、また現れた私へ驚愕と敵意を顕にする勇者の仲間達。
「アレックス!良かった目が覚めて!あなた!一体彼に何をしたの⁉︎」
キッと私を睨みつける聖女ソフィー。
「何も?少しお話を聞いただけよ。用は済んだからもう行くわ」
そう言ってさっさと退散しようとした。
「あ、ま、待ってくれ!アンタ名前は?」
気がついたアレックスはよろけながら尋ねる。
「ミラよ」
面倒なので私は即答し、後ろで隠れているネビロスを引っ捕まえて魔界へと戻った。
………おやつの時間に間に合わないわ!
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