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第一章
06:おやつの時間
しおりを挟むカチャリ、とカップを置く音だけがするこの部屋。
窓の外は曇天で今にも雨が降りそうな空模様。いや、なんか雨雲じゃなく雷雲になってきてない?
私は震える体を堪えながら口を閉じ、静かにソファに座っている。
出された高級スイーツに手もつけず、ただ黙ってお茶を嗜む隣の魔界の王。
私はルキフェル様の動向をただひたすら感じているだけだ。
「……何をしていた?」
ルキフェル様がやっと口を開いた。
そのお声は冷静沈着だが、長年仕えている私には分かり過ぎるほど分かる…これはお怒りである、と。
勇者との邂逅の後、慌てて戻ったがやはり遅くなり、三時のおやつ時間に10分ほど遅刻したのだ。
お陰で天気はどんどん悪くなり、曇天が広がり次第に真っ黒な雷雲が立ち込め出したこの魔王城。
今にも落ちそうな雷が、ゴロゴロと大気を震わせながら鳴り響く。
魔界を統べる魔王様は、その御心一つで天候をも操る恐ろしいお方。
勿論、自然に天気の変化はこの魔界でも起こるが、急過ぎる天候の乱れは魔王様の御心の乱れ。コレ魔界の常識。
「ネ、ネビロスの所に行っておりまして……遅れました……」
「ネビロスの所?」
ピシャァァァッ!と稲妻が窓の外を走った!
ひぃぃぃーーーっ!ルキフェル様めっちゃ怒ってる!どどど、どうしよう!どうしよう!
「ご、五十年ぶりでしたので、色々とお話が盛り上がり、その、あの、それで」
「それで?私の事を忘れていたと?」
どーーーーん!
落ちたーーー!何処か雷落ちたよーっ!近隣の方ごめんなさい!後で請求回してーっ!
「忘れていた訳ではありません!寧ろ忘れていたのは私の荷物でして!引き返して取りに戻っていたら遅れてしまったのです!」
「……忘れ物を?」
「はい!」
ルキフェル様はゆったりと長い脚を組み直し、チラリと私を一瞥した。
ふぅぅっ!流し目艶やか♡
いや、見惚れている場合じゃない。何とかこの怒りを収めなければ!
私は座ったままおずおずと近付き、下を向いたままぴとりとルキフェル様にくっつく。
そして小さな声で申し訳ありませんと謝った。
すると彼は後ろから腰に手を回し、膝上に乗せる。
美麗なお顔が近すぎて、ごくりと息を呑んだ。
彼は誘惑するような目つきで私の腰を抱き寄せ、そっと頬を擽る。
「何を忘れた?」
え?
何が?
「時間に遅れるほど大事な物だったのではないのか?」
ゆっくりと撫で付けていた指は、頬から首筋に這わせ鎖骨を辿り、谷間が見えるほど開いた服の隙間へ滑らせる。
「え、と。その……ネビロスからの、お土産…」
「ほう?」
不埒な指先は胸の膨らみをねっとりと滑らせるも、その頂には行かずに焦らしながら這いずる。
今日の私の衣装はベリーダンス風のお胸と肩が覆われただけのトップス。
背中はパックリ開いており、首と背中の紐で結んでいる仕様。
つまり、紐を解けば簡単に脱がせる。
「そのネビロスの土産は、どんな物だったのだ?」
ルキフェル様は耳元へ唇を寄せ、息を吐きかけるように囁く。
甘い吐息に体が震えて小さく声が上がる。
そして唇を滑らせ、歯で首元の紐を解いた。
「あ…」
するんと紐を解かれ、顕になる私のお胸。
ねっとりと撫で付けていた指を広げ、双丘の膨らみを弄る。
親指で胸の蕾を弾かれ、刺激を感じて体を捩った。
「ミラ?答えろ」
そう促した唇は首筋を這いリップ音を立てて吸われ、ちくりと痛みが疾った。
弾力のある舌が皮膚を滑り、熱い手のひらは胸を揉みしだきながら蕾を苛めて快感を齎らす。
息が上がり始めた私を紅い双眸が探るように見つめ、その視線に思考が揺らいでいく。
…はぁぁ何も考えられない。
あぁでも答えなきゃ人間界に行ったことがバレてしまう。
首筋を這っていた舌はそのまま下へと下りていき、胸の膨らみに軽くキスをした後、立ち上がった蕾を舌先でチロリと舐めつけた。
「ん、…」
湿った舌の感触を感じて、身体が反射的に仰反る。
その反応にルキフェル様は顔を上げ、無言で私の答えを待っている。
「小説………です。人間界で、流行っているという、恋愛小説です」
やっと出せた答えだ。
脳みそ溶けかけの私にしてはいい答えだったのではなかろうか。
だがしかし甘かった。
淫猥な手付きはぴたりと止まり、ルキフェル様の表情に翳りが出た。
「お前が、恋愛小説?」
はぁぁぁっ!
ヤンデレミラちゃん、そんなの読まなかったーーーっ!
マズイね、コレマズイね?誤魔化し効かないよね?
「ネビロスに、薦められたので、その、偶には読んでもいいかと思って……」
もうダメだ。謝り倒そう!
「ルキフェル様…」
「何だ?」
「申し訳ありません。時間に遅れて、本当にすみませんでした」
「………ミラ。そうではないだろう?」
冷たい眼差しが痛い、突き刺さる。死ぬ。
私は息を吸い込み思いっきり上目遣いで見つめ、反省の念を込めて呟く。
「ルキ様、ごめんなしゃ……」
言葉を遮るように塞がれた唇は、あまりにも突然で乱暴だった。
昔から何故かこの甘えた口調で謝らなければ許してもらえなかった。
答えなんてどうでも良かったのか、ルキ様呼びを待って揶揄っていたのか分からないが、とにかく…
……キスが気持ち良すぎて、どうでもいいや。
口内を蠢くルキフェル様の舌を絡め、浸透していく唾液を飲み込み思考は遥か彼方へ飛んでいく。
自分のサキュバスの性が、強大な生命力を持つルキフェル様の体液を欲して狂うように貪る。
唇を重ね舌を絡ませ唾液を飲み込み、彼の大きな手のひらが身体中を這いずり性感が疼く。
この男のエネルギーが欲しいと本能が叫び、下腹が切なくて堪らない。
もっともっとと強請るように舌を出し、媚びた目つきで見つめて甘い息を吐きながら誘惑する。
ルキフェル様の背中に手を回し、逞しく完成された体を舐めるように撫で回した。
あぁ気持ちいい。
ルキフェル様の体が気持ちいい。
もっと欲しい。
もっと奥に、体の奥にルキフェル様が欲しい。
火照った体が更に貪欲に彼の肉体を請う。
ルキフェル様の柔らかい唇と舌使いに翻弄されながら、甘い欲望を剥き出しにしていく。
ぴたりと、情熱が止んだ。
「え……」
さっきまでのやらしい手が私の体を離れて、途端に切なくなる。
「休憩時間はお終いだ」
そう言って、私をソファへ下ろしてさっさと執務机に向かうルキフェル様。
えええ、ちょ。
あーもー。ヤダー!またですか!
この男、散々私の体を激らせその気にさせて、最後まで面倒に見ずに終わらすのよ!
私の体がえらい事になっていてもお構い無しで寸止めですよ!
頑なに十五日以外は最後までしてくれず、この体を放置して自分は涼しい顔で業務をする鬼畜。
いつもいつも火照りを冷ますために私がどれだけシンドイ思いをしているか分かってんのかな。いや、分かってやってるんだろうね、確信犯だよね!
あぁもう性格歪んでるわ!
でもシュキ♡
………いつの間にか空は晴れ間が出てきた。
よし、シャワー浴びて来よう。
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