7 / 25
第一章
07:手助けしている事に気付いていない
「そんな訳でネビロス、付いてきて!」
「どんな訳だよ!」
その日、私は再び人間界へ行くのにネビロスを誘った。
今回の用事は二つ。
一つ目はもう勇者を魔界到着前に殺しちゃおうかと。何かあってからでは遅いからね!
二つ目は人間界で流行っている恋愛小説を持ち帰る事。あの時慌ててついた嘘を繕う為だ。
ネビロスにそう伝えると、さっきまで緩んでいた顔が険しくなる。
「二つ目は良いが、一つ目の勇者を殺すのには手を貸さねーぞ」
「何でよ。ルキフェル様の敵よ?」
「まだ魔王様と対峙してねーし、俺にはローズとの誓いがあるから無理だ」
「誰、ローズって?」
そう尋ねると厚い胸元からロケットペンダントを取り出し、ぱかりと開くと高貴な女性の絵姿が入っていた。
「俺の妻だ。美人だろう?」
にやけた顔で見せつけてくれた。
「あーもしかして元王女だった?」
そういえばネビロスはシルバウェル王国の王女と結婚してまんまと国王になったな。そんで正体バレて隣国が寄越した勇者にフルボッコにされたと。
「そうだ。五年前ローズは魂に還っちまったが『無闇に人を殺さない』って結婚当初に誓ってたんだわ、俺」
私達魔界人は故人に対して『魂に還る』と表現する。
感覚としては肉体の滅びを意味し、魂が浄化され、また別の身体に宿ることから死という概念は少々軽い。
「何言ってんの。ルキフェル様を斃しに来る暗殺者よ」
「まだ来てねーだろ?」
「……うっ」
ぐぬぬぬ!この愛妻家め!グゥの音も出ないじゃないか。
「魔王退治を止めさせるよう説得するだけにしておけよ。得意だろそういうの」
「天使の加護を受けた勇者が簡単に洗脳されるとでも?」
しかも異世界チート持ちだ。色々厄介だろう。
「やるだけやってみろよ。とにかく人間界にいる限り、俺は手を出さねーよ」
「分かった。じゃあそれで」
私はそう手を打ち、人間界へ向かった。
今回は前ほど時間を気にしなくても良い。何故なら今日明日はお休みだからだ。
先代サタンが取り決めた週休二日制に倣い、一応魔王の秘書官である私にも週に二日のお休みが確保されている。
とは言え、魔界では週末の概念が無いので各自好きな曜日を選び事前に提出する、シフト制のような感じになっている。
前回と同じく魔界門を潜り、人間界へ到着する。
「ねぇ?もしかして勇者達に襲われた時って、誓いを守るために手を出さなかったの?」
ふと思い出してネビロスに尋ねてみた。
彼は丁度残った角を隠し、変化する最中だった。
「ンフフフ!どうかな?あの勇者強かったからな?」
「何そのキモい笑い」
「んな!キモいとは酷ぇなミラちゃん!俺の笑顔は太陽のようだとローズに言われてたんだぞ?」
「あーゴチソウサマー。早くローズの生まれ変わりに会えるとイーネー」
「うわミラちゃん棒読み!全然心こもってねぇ!」
私達魔界人の寿命は長い。そして種族にもよるが、新しく宿った魂を見分ける事が出来る者もいる。
なので大事な人が魂に還ると、数年後に生まれ変わりを探しに行く魔界人も稀にいる。
まぁそんな事はどうでも良いとして。
私は懐中時計型の魔導探知機を取り出し、勇者の居場所を探る。
前回こっそり発信機を彼の手提げ鞄に取り付けておいたのよ。
「あぁ割と近いわね」
早速向かおうとすると、ネビロスは巨体をモジモジさせて何か言いたそうな顔をしている。
「あー、なぁミラちゃん?」
「何。トイレ?」
「違ぇよ。その、俺はちょっとだけ外しても良いか?」
あぁ。シルバウェル王国の様子が見たいのだと察した。
「良いわよ?ついでに恋愛小説を手に入れてきてよ」
そう伝えると、彼は強面の顔を輝かせ、十五時に集合と言って颯爽と去っていった。
まぁ気になるでしょうて。
探知機のおかげで今回はサクッと勇者の居場所が判明した。
どうやら勇者達は中央大陸より南のフラブラ諸島に居るらしい。
こんな場所でのエピソードとかあったかなぁ。詳しい内容は全然覚えていないポンコツ記憶力が恨めしい。そもそも前世の記憶自体が曖昧でもどかしい。
私は探知機を頼りに南の島を目指した。
「うわぁ…」
遠目で見つけて声が出た。
鬱蒼と生い茂ったジャングルのような森の中で、巨大な猿の魔物と対峙している勇者御一行。まるで一狩り行くモンスターの様に派手で巨大な猿だ。
聖女がバフをかけ、魔法少女が注意を逸らし、魔法剣士が腕や足を斬りつける。
そして赤い髪を揺らせた勇者が心臓目がけて立派な剣を翳して斬り裂いた。
「すごい連携プレイ……」
思わず見惚れ、バトル終了後には感動の拍手を送りそうになる手のひらを寸前で留めた。危なかった!
ふと見るとさっきの大猿より小ぶりな猿達数十匹が、まだ敵意を露わにしたまま機会を窺っていた。
面倒なので潜在意識に性欲を掻き立てる魔法をかけると、興奮しながら奇声を上げて去って行った。人間界の魔物ってチョロ♪
「何だ?まだ仲間がいたのか?」
奇声と共に逃げていく猿に気付いたアレックスが声を上げた。
「でももう退散したようですよ?ボス猿が倒され混乱したのでしょう」
聖女ソフィーが推測するが、ハズレだ。ムラムラして雌猿を追いかけて行ったんだよ♡
「ふふっ」
したり顔のソフィーが可愛く見えて、思わず笑い声が漏れてしまった。
「誰だっ!」
アレックスは辺りを見渡し自慢の剣を構える。
大きな木の枝に座っていた私は、一瞬焦ったものの余裕の笑顔で見下ろした。
頭上を見上げたアレックスは私に気付き、少し可愛らしい目を見開く。……って、何故オマエは頬を染めている?
「あ、アンタは…何故ここに?」
いや、何でちょっと嬉しそうなの!驚けや。
アレックスは剣を鞘に収め、私のいる大木へ近寄った。
「またあなたですか!今度は何しに来たんです!」
ソフィーの金切り声が響く。耳がキーンってなるわ。アレックスとは逆に完全に嫌われてるね。
あ、そうか。
ストーリー上、ソフィーも魔法少女のメイベルも女の子キャラは皆んなアレックスに惚れてるんだっけ?その中に私も入っていると思うと、身震いした。
「やだぁ。そんな怖い顔しないでよ。私はまだあなた達を傷つけたりはしていないでしょう?」
我ながら悪役っぽい台詞に自画自賛。
「『まだ』という事は、今後はあり得るのだろう?」
クール系イケメン魔法剣士が冷気を発しながらアレックスと並んだ。
「おいおい待てよ皆んな!そんな殺気立つなよ。ミラちゃんの言う通り俺達は手を出されていないし、殺す気なら前回会った時にやられているだろう」
アレックスは慌てて私をフォローしようとするも、墓穴を掘ったらしい。
「「「ミラ……ちゃん?」」」
残り三人が同じ不機嫌顔でハモった。
「随分と親しそうな呼び方じゃありません?」と、ソフィー。
「ねぇアレックス様ぁ?私も『ベルちゃん』て呼んでほしいな?」と、メイベル。
「……………魅了されたか」と、イケメン魔法剣士。(名前なんだっけな?)
仲間全員に詰め寄られ、アウアウとたじろぐ勇者アレックス。
わちゃわちゃと騒ぐ愉快な仲間たち……って。
……ナニコレ?
私は今、転生勇者劇場を見せられてるの?
私は木の上から頬杖を突き、うんざりしながらこの茶番が終わるのを待った。
「えふん!で、ミラちゃ……ミラ?俺達に何か用なのか?」
ちゃん付けを思い留まったアレックスが、やっと私に向き合った。
あ、茶番は終わったのね?
本題に入って良いかな?
「簡単な話よ。あなた達に私の愛しい人を殺して欲しくなくて、お願いに来ただけよ」
私から見ればコイツら全員殺し屋だからね。
本当は殺される前に殺しちゃいたいけど、ネビロスがダメって言うから止めたんだからね。
「何を馬鹿なことを!魔王は諸悪の根源です!我々人間界を脅かす人類史上最悪の敵ですわ!」
鼻息荒く真っ向から否定してきたソフィー。
この聖女気が強すぎない?私、負けそうなんだけど。
「待てよソフィー。なぁ、ミラ?俺も聞きたいけどアンタ何で魔王なんかと連んでるんだ?アンタは魔王に惚れてるみたいだけど、魔王はどうなんだ?あの雰囲気だと特定の者には興味なさそうに見えたんだけどさ。アンタはそれで幸せなのか?」
オイヤメロ、勇者。
私に揺さぶりは、き、効かないのよ。
「な、何を言ってるのかさっぱり分からないわ!そもそもあなた達にルキフェル様の何が分かるっていうの?私はずっと、それこそあなた達が生まれる前からずっと…………」
ツキン、と頭部に痛みが疾った。
あれ?
いつから私はルキフェル様と一緒にいたんだっけ?
あれ?
そう言えば思い出せなかったんだっけ?
なぜ、記憶が曖昧な事に、異常さを感じなかったの?
ドクドクと脈動する度に痛みが増してきた。
「痛った…」
私は我慢しきれず頭を抑えた。
「お、おいミラ。大丈夫か?アンタもしかして洗脳とかされているのか?そうだろう?なら一緒に俺達と……」
「私が彼を裏切る訳ないでしょ!」
頭痛を堪えて被せる様に声を張り上げた。
裏切るもんですか!それよりなんなのこの頭痛!
は!まさかコレは原作強制力とかいうものか?
ぬうううっ!媚びぬ!引かぬ!顧みぬぅぅぅ!アタマイタイィィィ!
私は全力で愛しのルキフェル様を守るんだからね!
そう決心した途端、ヌッと丸太が目の前を遮った。
なに?
「ミラちゃん、一旦退くぞ」
それは丸太ではなく、筋肉だった。
本をどっさり抱えたネビロスが、お迎えに来てくれたのだった。
あなたにおすすめの小説
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています
かきんとう
恋愛
王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。
磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。
その中心に、私は立っていた。
――今日、この瞬間のために。
「エレノア・フォン・リーベルト嬢」
高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。
完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす
小木楓
恋愛
完結しました✨
タグ&あらすじ変更しました。
略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。
「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」
「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」
大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。
しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。
強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。
夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。
恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……?
「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」
逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。
それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。
「一生、私の腕の中で溺れていろ」
守るために壊し、愛するために縛る。
冷酷な仮面の下に隠された、
一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。
★最後は極上のハッピーエンドです。
※AI画像を使用しています。
兄妹じゃないとわかったのでお兄様と結婚したら、全部仕込みでした
こじまき
恋愛
【20260401読みやすいように話を分割しました】
伯爵令嬢ヘイゼルは、兄アリステアに恋をしている。叶わないと知りながら、それでも諦めきれなかった。
しかし子ども時代の「取り違え」が発覚し、子爵令嬢ロレッタとして“正しい場所”で生き直すことに。
そして妹ではなくなった彼女に、アリステアは求婚する。
運命のねじれは正されて、望んだとおりに最愛の人と結ばれた――
けれど――その「正しい運命」は、兄アリステアによって用意されたものだった――
※「小説家になろう」にも投稿しています。
売られた先は潔癖侯爵とその弟でした
しゃーりん
恋愛
貧乏伯爵令嬢ルビーナの元に縁談が来た。
潔癖で有名な25歳の侯爵である。
多額の援助と引き換えに嫁ぐことになった。
お飾りの嫁になる覚悟のもと、嫁いだ先でのありえない生活に流されて順応するお話です。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。