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第一章
08:頭痛と氷結魔王、どっちが良い?
しおりを挟む突然の頭痛に陥り軽く混乱していた私だったが、帰りの遅い私を迎えに来てくれたネビロスに助けられた。
「ミラちゃん大丈夫か?アイツらに何かされたのか?」
魔法で移動し、恐る恐る私の汗を拭ってくれるマッチョ魔術師。
大きな体躯で優しい心遣いをしてくれる序列九位のオッサンだ。
「ありがとうネビロス。違うの、この頭痛は私の問題よ。それより門に繋げなきゃ…」
魔界からは魔界門から番人がこちら側へ開けてくれるが、人間界側からは門がない。
なので空間魔法を持つ私が、自分で魔界門に繋げなくてはならない。
私は軋む頭痛を堪えながら魔法を繰り出し、魔界門へ繋げた。
「…………っっっっ!」
ネビロスの息を呑む声で顔を上げると、
「道理で気配が消えたと思っていれば。私を欺けると思ったのか?」
あぁその色気溢れる低音ヴォイス!
いつでも側に居たいと願うも、今だけは絶対に会ってはいけない人物。
魔界門を潜るとそこに、吹雪を背にしたルキフェル様が凍えるようなお顔で仁王立ちしていた。
いやぁぁぁーーーっ!激おこ通り越して凍結させに来てる!
でもアタマイタイィィィ!
ううううっ!なんて状況だ!
頭は割れるように痛いし目の前には凍りつく魔王が立っているし。
番人達は吹き付ける暴風雪に体を震わせ、早く何処かへ行ってくれと言わんばかりに私を見つめてるし。
「うぅぅ、最…悪。ごめんネビロス」
「み、ミラちゃん……!」
頭痛と氷結魔王、どっちが良い?
って、どっちも最悪なんだけど、今現在頭痛にやられてもう意識が保ちそうにない。
私は頭を抱えてネビロスに支えてもらう。
私の異常事態に吹雪が止み、慌てて近寄るルキフェル様。
「ミラ?何があった?説明しろネビロス!」
「それが、急に激しい頭痛が来たようで……」
太い腕で私を支え、魔王の威圧に耐えながら答えるネビロス。
ルキフェル様はネビロスから私を奪うように横抱きにし、すぐに魔王城へ移動した。
そろりとベッドへ寝かされ、優しく頭を撫でられた。
「誰かに何かをされたか?」
先程の威圧はすっかり失せ、優しく問いかけるルキフェル様。
「違うんです。私もよく分からないのですが、曖昧な記憶に疑問を持った途端………イタタタ……!」
「……記憶」
あーコレだ。
原因は私の記憶にあるんじゃない?
でもダメだ。
今はとにかく頭が痛すぎて何も考えられない。
すると熱を持った頭部へ冷んやりとした物が当てられた。
ルキフェル様が冷たいタオルを巻いてくれたようだ。
「ミラ。今は何も考えず眠れ」
薄ぼんやりとルキフェル様の指先が見えると、私は眠りに落ちた。
◆
記憶を失くすってのは、防衛本能だ。
目の前の現実に心が耐えきれなくなり、壊れる前に記憶から排除させて心を守る。
つまり、私には耐え難い出来事が起こったのではないかと思うのよね。
今まで記憶が曖昧な事に何も感じず、何も考えずにいたのはヤンデレミラちゃんの本能だったのではないかと。そして今、前世の価値観と共にその状態に疑問を持ってしまったが為に、記憶の戻りが来そうになるも、防衛本能が作動して阻止しようと脳内パニックが起こったのではなかろうかと。
思い出したい私と、それを守ろうとする私が相反して脳内抗争してる状態が頭痛の原因かも。
夢うつつの中で、私が出した答えだ。
そもそもこれだけ心酔しているルキフェル様との初対面を憶えていないなんて、どう考えてもおかしい話だ。きっと何かしらのストレスな事柄が起こったのだろう。
それでも。
私のルキフェル様に対する愛は変わらないけどね。
「ルキ様………」
どうでも良いけどずっとルキ様ルキ様って譫言のように喋ってんの、私か?
意識無くしてもルキフェル様一筋って、どんだけよ。自分に感服するよ。
「ミラ。大丈夫だ。私はここに居る」
ふおっ?
何、その甘い声!
カッと目を開けるとそこには絶世の美形魔王。
「あ、ルキフェル様……」
意識を取り戻した私は途端に恥ずかしくなり、シーツで顔を隠した。
「気が付いたか?頭痛はどうだ」
ルキフェル様はベッドの端に腰をかけ、サラリと私の頭を撫で付けた。
「何とか治まりました。あの、ご迷惑をお掛けして申し訳ありません」
そう言うと、ルキフェル様は麗しい顔を傾け意地悪そうに微笑い、額にキスをくれる。
「さっきまでずっとルキ様と呼んでくれていたが、もう止めたのか?」
はぁぁっっ!そうだった!私ったらなんて事を!
そもそも私がルキ様呼びすること自体、畏れ多くて縮こまってしまう。
「無理です。だってルキフェル様は魔王様ですから」
「昔はそう呼んでくれたのだが?」
「…………?そうなんですか?」
「私が魔王になる前だ」
そうだ。私の記憶はルキフェル様が魔王になってからだった。それ以前の記憶がスッポリ抜けているんだよね。
私が思案に耽っていると、ルキフェル様は私の髪の毛をひと掬いしてキスを落とした。
私の髪は濃いピンクと白金のまだらになっていて、まるでメッシュを入れたように生えている。
「この髪も昔は白金一色だった」
「そうだったんですか?」
全く覚えていない。そもそも私に子供時代はあったのだろうか?
「ミラ……」
ルキフェル様の顔が近付き、額に、そして頬にキスをくれる。
彼の美しい黒髪が頬を掠め、擽ったくて笑みが溢れた。
私の表情に安堵したのか、ルキフェル様の眉間の皺が和らいだ。
そしてもう一度額に口をつけて囁く。
「お前の記憶が戻ろうと戻るまいと、何も変わらない。だから焦って記憶を辿らなくても良い」
どう捉えれば良いのか悩むけど、とりあえず必死に思い出す必要はないという事だろうな。
思い出してルキフェル様の愛がもらえるとかそんなボーナス展開なら、頭痛にも耐えて血反吐流してでも思い出してやるけど。
ルキフェル様は指の背で私の頬を撫で付け、メイクの落ちかけた目元を摩ると浄化魔法を掛けてくれた。
自分の顔が素っぴんになった感覚がした。前世を思い出す前の感情が、ノーメイクを晒したくないと訴えている。
ヤンデレミラのコンプレックスは、ノーメイクだと少々幼い顔になる事だった。
……魔王の側近たるもの、大人の魅力を持たなければ!
何故かそんな固い固い意地のような矜持を持ち続けていて、今の私もそれに従いフルメイクを心がけていたんだよね。
元日本人の私から見れば、素っぴんだって相当な美人顔なんだけどヤンデレミラには満足できなかったのだろう。
何せ周囲は色気たっぷりな魔界人がルキフェル様を狙っている。負けていられなかったんだろうね。
ふぁ、と欠伸が出てもう一眠りしたくなった。
帰ってきてぶっ倒れて目覚めたが、辺りはすっかり暗い事に気づく。
「もう夜も遅い。ゆっくり休め」
ルキフェル様はそう言って部屋の明かりを消してくれた。
「あぁそうだ」
退室する寸前、彼は思い出したように振り向き、先程の甘くて優しい表情は一気に消え去る。
「無断で人間界に行ったことに関しては、また明日問い質す。しっかりと言い訳を考えておけ」
パタン、と扉が閉まった。
ノォォォォォっ!
すっかり忘れてたーーーっ!
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