どうやら勇者に寝返る魔王の側近だけども【R18】

梅乃屋

文字の大きさ
8 / 25
第一章

08:頭痛と氷結魔王、どっちが良い?

しおりを挟む
 


 突然の頭痛に陥り軽く混乱していた私だったが、帰りの遅い私を迎えに来てくれたネビロスに助けられた。

「ミラちゃん大丈夫か?アイツらに何かされたのか?」
 魔法で移動し、恐る恐る私の汗を拭ってくれるマッチョ魔術師。
 大きな体躯で優しい心遣いをしてくれる序列九位のオッサンだ。

「ありがとうネビロス。違うの、この頭痛は私の問題よ。それより門に繋げなきゃ…」
 魔界からは魔界門から番人がこちら側へ開けてくれるが、人間界側からは門がない。
 なので空間魔法を持つ私が、自分で魔界門に繋げなくてはならない。

 私は軋む頭痛を堪えながら魔法を繰り出し、魔界門へ繋げた。



「…………っっっっ!」
 ネビロスの息を呑む声で顔を上げると、

「道理で気配が消えたと思っていれば。私を欺けると思ったのか?」

 あぁその色気溢れる低音ヴォイス!
 いつでも側に居たいと願うも、今だけは絶対に会ってはいけない人物。

 魔界門を潜るとそこに、吹雪を背にしたルキフェル様が凍えるようなお顔で仁王立ちしていた。

 いやぁぁぁーーーっ!激おこ通り越して凍結させに来てる!
 でもアタマイタイィィィ!

 ううううっ!なんて状況だ!
 頭は割れるように痛いし目の前には凍りつく魔王が立っているし。
 番人達は吹き付ける暴風雪に体を震わせ、早く何処かへ行ってくれと言わんばかりに私を見つめてるし。

「うぅぅ、最…悪。ごめんネビロス」
「み、ミラちゃん……!」

 頭痛と氷結魔王、どっちが良い?
 って、どっちも最悪なんだけど、今現在頭痛にやられてもう意識が保ちそうにない。

 私は頭を抱えてネビロスに支えてもらう。
 私の異常事態に吹雪が止み、慌てて近寄るルキフェル様。

「ミラ?何があった?説明しろネビロス!」
「それが、急に激しい頭痛が来たようで……」
 太い腕で私を支え、魔王の威圧に耐えながら答えるネビロス。

 ルキフェル様はネビロスから私を奪うように横抱きにし、すぐに魔王城へ移動した。

 そろりとベッドへ寝かされ、優しく頭を撫でられた。
「誰かに何かをされたか?」
 先程の威圧はすっかり失せ、優しく問いかけるルキフェル様。

「違うんです。私もよく分からないのですが、曖昧な記憶に疑問を持った途端………イタタタ……!」
「……記憶」

 あーコレだ。
 原因は私の記憶にあるんじゃない?

 でもダメだ。
 今はとにかく頭が痛すぎて何も考えられない。

 すると熱を持った頭部へ冷んやりとした物が当てられた。
 ルキフェル様が冷たいタオルを巻いてくれたようだ。

「ミラ。今は何も考えず眠れ」

 薄ぼんやりとルキフェル様の指先が見えると、私は眠りに落ちた。



 ◆



 記憶を失くすってのは、防衛本能だ。
 目の前の現実に心が耐えきれなくなり、壊れる前に記憶から排除させて心を守る。

 つまり、私には耐え難い出来事が起こったのではないかと思うのよね。

 今まで記憶が曖昧な事に何も感じず、何も考えずにいたのはヤンデレミラちゃんの本能だったのではないかと。そして今、前世の価値観と共にその状態に疑問を持ってしまったが為に、記憶の戻りが来そうになるも、防衛本能が作動して阻止しようと脳内パニックが起こったのではなかろうかと。

 思い出したい私と、それを守ろうとする私が相反して脳内抗争してる状態が頭痛の原因かも。

 夢うつつの中で、私が出した答えだ。

 そもそもこれだけ心酔しているルキフェル様との初対面を憶えていないなんて、どう考えてもおかしい話だ。きっと何かしらのストレスな事柄が起こったのだろう。
 それでも。

 私のルキフェル様に対する愛は変わらないけどね。

「ルキ様………」

 どうでも良いけどずっとルキ様ルキ様って譫言のように喋ってんの、私か?
 意識無くしてもルキフェル様一筋って、どんだけよ。自分に感服するよ。

「ミラ。大丈夫だ。私はここに居る」
 ふおっ?

 何、その甘い声!

 カッと目を開けるとそこには絶世の美形魔王。

「あ、ルキフェル様……」
 意識を取り戻した私は途端に恥ずかしくなり、シーツで顔を隠した。

「気が付いたか?頭痛はどうだ」
 ルキフェル様はベッドの端に腰をかけ、サラリと私の頭を撫で付けた。

「何とか治まりました。あの、ご迷惑をお掛けして申し訳ありません」

 そう言うと、ルキフェル様は麗しい顔を傾け意地悪そうに微笑い、額にキスをくれる。
「さっきまでずっとルキ様と呼んでくれていたが、もう止めたのか?」

 はぁぁっっ!そうだった!私ったらなんて事を!
 そもそも私がルキ様呼びすること自体、畏れ多くて縮こまってしまう。

「無理です。だってルキフェル様は魔王様ですから」
「昔はそう呼んでくれたのだが?」
「…………?そうなんですか?」
「私が魔王になる前だ」

 そうだ。私の記憶はルキフェル様が魔王になってからだった。それ以前の記憶がスッポリ抜けているんだよね。

 私が思案に耽っていると、ルキフェル様は私の髪の毛をひと掬いしてキスを落とした。
 私の髪は濃いピンクと白金のまだらになっていて、まるでメッシュを入れたように生えている。

「この髪も昔は白金一色だった」
「そうだったんですか?」

 全く覚えていない。そもそも私に子供時代はあったのだろうか?

「ミラ……」
 ルキフェル様の顔が近付き、額に、そして頬にキスをくれる。
 彼の美しい黒髪が頬を掠め、擽ったくて笑みが溢れた。

 私の表情に安堵したのか、ルキフェル様の眉間の皺が和らいだ。
 そしてもう一度額に口をつけて囁く。

「お前の記憶が戻ろうと戻るまいと、何も変わらない。だから焦って記憶を辿らなくても良い」

 どう捉えれば良いのか悩むけど、とりあえず必死に思い出す必要はないという事だろうな。
 思い出してルキフェル様の愛がもらえるとかそんなボーナス展開なら、頭痛にも耐えて血反吐流してでも思い出してやるけど。

 ルキフェル様は指の背で私の頬を撫で付け、メイクの落ちかけた目元を摩ると浄化魔法を掛けてくれた。
 自分の顔が素っぴんになった感覚がした。前世を思い出す前の感情が、ノーメイクを晒したくないと訴えている。
 ヤンデレミラのコンプレックスは、ノーメイクだと少々幼い顔になる事だった。

 ……魔王の側近たるもの、大人の魅力を持たなければ!

 何故かそんな固い固い意地のような矜持を持ち続けていて、今の私もそれに従いフルメイクを心がけていたんだよね。
 元日本人の私から見れば、素っぴんだって相当な美人顔なんだけどヤンデレミラには満足できなかったのだろう。
 何せ周囲は色気たっぷりな魔界人がルキフェル様を狙っている。負けていられなかったんだろうね。

 ふぁ、と欠伸が出てもう一眠りしたくなった。
 帰ってきてぶっ倒れて目覚めたが、辺りはすっかり暗い事に気づく。

「もう夜も遅い。ゆっくり休め」
 ルキフェル様はそう言って部屋の明かりを消してくれた。

「あぁそうだ」
 退室する寸前、彼は思い出したように振り向き、先程の甘くて優しい表情は一気に消え去る。

「無断で人間界に行ったことに関しては、また明日問い質す。しっかりと言い訳を考えておけ」

 パタン、と扉が閉まった。

 ノォォォォォっ!
 すっかり忘れてたーーーっ!

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日7時•19時に更新予定です。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

王宮地味女官、只者じゃねぇ

宵森みなと
恋愛
地味で目立たず、ただ真面目に働く王宮の女官・エミリア。 しかし彼女の正体は――剣術・魔法・語学すべてに長けた首席卒業の才女にして、実はとんでもない美貌と魔性を秘めた、“自覚なしギャップ系”最強女官だった!? 王女付き女官に任命されたその日から、運命が少しずつ動き出す。 訛りだらけのマーレン語で王女に爆笑を起こし、夜会では仮面を外した瞬間、貴族たちを騒然とさせ―― さらには北方マーレン国から訪れた黒髪の第二王子をも、一瞬で虜にしてしまう。 「おら、案内させてもらいますけんの」 その一言が、国を揺らすとは、誰が想像しただろうか。 王女リリアは言う。「エミリアがいなければ、私は生きていけぬ」 副長カイルは焦る。「このまま、他国に連れて行かれてたまるか」 ジークは葛藤する。「自分だけを見てほしいのに、届かない」 そしてレオンハルト王子は心を決める。「妻に望むなら、彼女以外はいない」 けれど――当の本人は今日も地味眼鏡で事務作業中。 王族たちの心を翻弄するのは、無自覚最強の“訛り女官”。 訛って笑いを取り、仮面で魅了し、剣で守る―― これは、彼女の“本当の顔”が王宮を変えていく、壮麗な恋と成長の物語。 ★この物語は、「枯れ専モブ令嬢」の5年前のお話です。クラリスが活躍する前で、少し若いイザークとライナルトがちょっと出ます。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

処理中です...