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第2章 王都編
64、依頼の村へ
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美味しいパンを食べながら村まで歩くこと三時間。目の前に村の入り口が見えてきた。道中はとても穏やかで平和なもので、俺たちは魔物の姿を一度も見ることなくここまで来ることができた。
ただリルンが何回か街道を逸れていたので、近くにいた魔物を倒してくれていたのだと思う。本当にリルンには感謝しないとだな。
「フィーネ、肩にパン屑が凄いから払った方がいいかも」
さっきまでラトが木の実パンを食べていた形跡が、バッチリ残っている。ちなみに肝心のラトはお腹がいっぱいになり、フィーネの鞄の中でクッションに包まれて眠りについたところだ。
本当に自由に生きてて、ちょっとだけ羨ましくなるよな。まあ俺たちが甘やかすからっていうのが大きいんだろうけど……でも可愛いから止められない。
「本当? ……これでどう?」
「うん、綺麗になった」
「良かった。教えてくれてありがとう」
そんな話をしていると村の入り口に到着し、門番を務める男性に声を掛けられた。この村はちゃんと柵で覆われていて、さらには門に常駐の門番がいることから、そこそこの規模がある村だと分かる。
この規模の村で宿泊施設がないことは考えづらいし、村長宅に滞在となってたのは、依頼を受ける冒険者への配慮なのかもしれないな。
「いらっしゃい。観光客……というよりも、冒険者か?」
「はい。フラワーボア討伐の依頼を受けてきました」
「おおっ、あれを受けてくれたのか。村の皆が困ってたからありがたいぜ。村長宅は村の大通りをずっと進んだ先にあるから、そこに行ってくれるか?」
「分かりました。ありがとうございます」
フレンドリーな男性に見送られて村の中に入ると、村は昼過ぎの時間ということもあるだろうけど、人がたくさんいて活気があった。
この村は果樹を主に育ててるって話だったけど、見たところこの辺に木はないみたいだ。
「ここは住宅密集地みたいだね。お店も色々とあるみたい」
「かなり活気があるよな。あとで買い物もしようか」
「そうだね。あのお店とかジャム専門店じゃない……?」
フィーネが指差したお店には瓶が並べられていて、中には鮮やかな色をした何かが入っている。
「ジャムだったらいくつか買いたいな」
『うむ! パンに塗ったら絶対に美味しいな』
フィーネに向けて発した言葉に返答をくれたのは、ジャムを見て瞳を輝かせているリルンだった。本当にリルンはパンが好きだよな……パン自体じゃなくて、パンを美味しくさせるものにまでここまで反応するなんて。
「ふふっ、まずは村長さんのお家に行ってからね」
それからはリルンとデュラ爺が目立つからか、村の人たちに挨拶されながら大通りを進んでいき、ついに一際大きな家の前に到着した。
「すみませーん。フラワーボア討伐の依頼を受けてきた冒険者です。村長さんはいらっしゃいますか?」
玄関ドアをノックして声を掛けると、すぐに中からドアが開く。姿を現したのは――小さな女の子だった。
「おじいちゃん、おしごと行ってるの」
村長さんのお孫さんらしき女の子は、そう告げると俺たちのことをじっと見上げた。まだかなり幼そうに見えるけど、人見知りしなそうだし良い子だな。
「サラ! 一人で玄関のドアを開けちゃダメってあれほど……」
お母さんらしき人が部屋の中から出てくると、サラちゃんというらしい女の子はきゃっきゃと笑って俺たちの後ろに隠れる。
うん、良い子だけどかなりお転婆みたいだ。
「ご迷惑をお掛けしてすみません。村長にご用事ですか?」
サラちゃんを捕まえたお母さんが頭を下げながらそう聞いてくれたところで、フィーネが口を開いた。
「はい。フラワーボアの討伐依頼を受けてきたんです」
「そうでしたか、ありがとうございます。村長は果樹園に行っておりますので、中でお待ちいただけますか? そろそろ昼食のため帰ってくると思います。皆様の分の昼食もお出ししますね」
「あっ、私たちは良いですよ。突然来ましたから」
「いえいえ、食材はたくさんあるので遠慮なさらないでください」
女性とそんな会話をしながら村長宅にお邪魔して、リビングに通された。
するとそこには村長の奥さんだというパワフルな女性と、俺たちのことを出迎えてくれたサラちゃんの弟だというまだ歩けないほどに小さな子供がいた。
「赤ちゃん可愛いね」
「本当だな。結構動き回ってるし、もう少しで歩けそうだ」
「これ、あそぶ?」
サラちゃんはリビングの奥に置かれた箱をガサゴソと漁ると、カラフルな布製のボールを持ってきた。そしてそれを赤ちゃんに差し出している。
「きゃっ、きゃっ!」
「これほしいの?」
赤ちゃんが嬉しそうな声をあげると、サラちゃんも満面の笑みになりおもちゃを差し出す。
その平和な光景に、俺たちは温かい眼差しで見つめることしかできない。なんだか、とても和む。
「サラちゃん、良いお姉さんだね」
「偉い子だよな。あの歳ならお母さんを取られたって不機嫌になってもおかしくないのに」
「そうだよね」
孤児院にいたあのぐらいの子たちは、もっと幼かった気がする。やっぱり弟妹がいるっていうのは違うのかもしれないな。
『フィーネ、エリク、家に帰ってきた人間の男たちが、我らを見て警戒しているようだぞ』
それからもひたすらのんびりとした時間を過ごしていると、家の外からリルンの声が聞こえてきた。帰って来た男の人たちって……多分村長だよな。
確かに事前連絡なしで自宅前に神獣――従魔がいたら驚き、警戒するのも当然だろう。
「表に行こうか」
「そうだな。早くしよう」
ただリルンが何回か街道を逸れていたので、近くにいた魔物を倒してくれていたのだと思う。本当にリルンには感謝しないとだな。
「フィーネ、肩にパン屑が凄いから払った方がいいかも」
さっきまでラトが木の実パンを食べていた形跡が、バッチリ残っている。ちなみに肝心のラトはお腹がいっぱいになり、フィーネの鞄の中でクッションに包まれて眠りについたところだ。
本当に自由に生きてて、ちょっとだけ羨ましくなるよな。まあ俺たちが甘やかすからっていうのが大きいんだろうけど……でも可愛いから止められない。
「本当? ……これでどう?」
「うん、綺麗になった」
「良かった。教えてくれてありがとう」
そんな話をしていると村の入り口に到着し、門番を務める男性に声を掛けられた。この村はちゃんと柵で覆われていて、さらには門に常駐の門番がいることから、そこそこの規模がある村だと分かる。
この規模の村で宿泊施設がないことは考えづらいし、村長宅に滞在となってたのは、依頼を受ける冒険者への配慮なのかもしれないな。
「いらっしゃい。観光客……というよりも、冒険者か?」
「はい。フラワーボア討伐の依頼を受けてきました」
「おおっ、あれを受けてくれたのか。村の皆が困ってたからありがたいぜ。村長宅は村の大通りをずっと進んだ先にあるから、そこに行ってくれるか?」
「分かりました。ありがとうございます」
フレンドリーな男性に見送られて村の中に入ると、村は昼過ぎの時間ということもあるだろうけど、人がたくさんいて活気があった。
この村は果樹を主に育ててるって話だったけど、見たところこの辺に木はないみたいだ。
「ここは住宅密集地みたいだね。お店も色々とあるみたい」
「かなり活気があるよな。あとで買い物もしようか」
「そうだね。あのお店とかジャム専門店じゃない……?」
フィーネが指差したお店には瓶が並べられていて、中には鮮やかな色をした何かが入っている。
「ジャムだったらいくつか買いたいな」
『うむ! パンに塗ったら絶対に美味しいな』
フィーネに向けて発した言葉に返答をくれたのは、ジャムを見て瞳を輝かせているリルンだった。本当にリルンはパンが好きだよな……パン自体じゃなくて、パンを美味しくさせるものにまでここまで反応するなんて。
「ふふっ、まずは村長さんのお家に行ってからね」
それからはリルンとデュラ爺が目立つからか、村の人たちに挨拶されながら大通りを進んでいき、ついに一際大きな家の前に到着した。
「すみませーん。フラワーボア討伐の依頼を受けてきた冒険者です。村長さんはいらっしゃいますか?」
玄関ドアをノックして声を掛けると、すぐに中からドアが開く。姿を現したのは――小さな女の子だった。
「おじいちゃん、おしごと行ってるの」
村長さんのお孫さんらしき女の子は、そう告げると俺たちのことをじっと見上げた。まだかなり幼そうに見えるけど、人見知りしなそうだし良い子だな。
「サラ! 一人で玄関のドアを開けちゃダメってあれほど……」
お母さんらしき人が部屋の中から出てくると、サラちゃんというらしい女の子はきゃっきゃと笑って俺たちの後ろに隠れる。
うん、良い子だけどかなりお転婆みたいだ。
「ご迷惑をお掛けしてすみません。村長にご用事ですか?」
サラちゃんを捕まえたお母さんが頭を下げながらそう聞いてくれたところで、フィーネが口を開いた。
「はい。フラワーボアの討伐依頼を受けてきたんです」
「そうでしたか、ありがとうございます。村長は果樹園に行っておりますので、中でお待ちいただけますか? そろそろ昼食のため帰ってくると思います。皆様の分の昼食もお出ししますね」
「あっ、私たちは良いですよ。突然来ましたから」
「いえいえ、食材はたくさんあるので遠慮なさらないでください」
女性とそんな会話をしながら村長宅にお邪魔して、リビングに通された。
するとそこには村長の奥さんだというパワフルな女性と、俺たちのことを出迎えてくれたサラちゃんの弟だというまだ歩けないほどに小さな子供がいた。
「赤ちゃん可愛いね」
「本当だな。結構動き回ってるし、もう少しで歩けそうだ」
「これ、あそぶ?」
サラちゃんはリビングの奥に置かれた箱をガサゴソと漁ると、カラフルな布製のボールを持ってきた。そしてそれを赤ちゃんに差し出している。
「きゃっ、きゃっ!」
「これほしいの?」
赤ちゃんが嬉しそうな声をあげると、サラちゃんも満面の笑みになりおもちゃを差し出す。
その平和な光景に、俺たちは温かい眼差しで見つめることしかできない。なんだか、とても和む。
「サラちゃん、良いお姉さんだね」
「偉い子だよな。あの歳ならお母さんを取られたって不機嫌になってもおかしくないのに」
「そうだよね」
孤児院にいたあのぐらいの子たちは、もっと幼かった気がする。やっぱり弟妹がいるっていうのは違うのかもしれないな。
『フィーネ、エリク、家に帰ってきた人間の男たちが、我らを見て警戒しているようだぞ』
それからもひたすらのんびりとした時間を過ごしていると、家の外からリルンの声が聞こえてきた。帰って来た男の人たちって……多分村長だよな。
確かに事前連絡なしで自宅前に神獣――従魔がいたら驚き、警戒するのも当然だろう。
「表に行こうか」
「そうだな。早くしよう」
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