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第2章 王都編

69、気づきと犯人

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 ラトがエリクの下に向かってから数分後。私の肩の上に戻ってきたラトは、かなり慌てている様子でデュラ爺の頭の上に飛び乗った。

「た、大変だよ! フィーネ、デュラ爺、リルン! エリクが攫われて閉じ込められてるよ!!」
「それ本当!?」
 
 まさか本当に危機が陥っていたなんて。ただの迷子であれば良いという願いは、届かなかったみたいだ。

『ラト、エリクはどこにいる?』
『場所は分かったか?』
『ううん、エリクは部屋の中で一人で寝てて、声をかけても起きなくて』
「どんな部屋だったの?」
『うーん、なんかキラキラしてる部屋! あっ、窓から外が見えたんだけど、公園みたいな庭があったよ』

 公園みたいな庭があってキラキラしてる部屋……もしかして、貴族に攫われた? 

 でもなんでエリクが――

 そこまで考えたところで、私はある可能性に思い至った。エリクが狙われるとすれば、あの特殊なスキル由来のものが原因に決まっている。
 しかしあのスキルのことを知っている人はほとんどいなく……この街で唯一スキルの凄さを知っているのは、冒険者ギルドの鑑定員だ。

 生命水の鑑定結果を聞いた時、少しだけ嫌な感じがしたのを覚えている。あの人が貴族と繋がっていて、エリクを攫った可能性は……十分にあり得る。

「皆、建物の外からでもエリクの匂いは分かる?」
『うむ、近くにいれば建物の中でも外でも変わらん』
『わしもじゃな』
「じゃあ皆で貴族の屋敷がある場所に行こう。エリクを助けに」
『もちろんじゃ』

 私は神獣の三人を連れて、エリクを助け出すために王都の中心部へと向かった。


 ♢ ♢ ♢


 なんだか体が酷く重い気がする。なんだこれ、風邪でも引いた? というか俺、今どこで寝てるんだっけ。家に帰って寝た記憶があんまりない気がする……。

 そんなことを考えながら重い瞼を持ち上げると、目の前に広がった光景は、全く知らない部屋だった。

「ここ、どこ? ……うわっ」

 起きあがろうとしたら手足が縛られているのか、体が動かずに寝かされていたベッドから落ちそうになった。

 待って、現状が把握できない、なんだこの状況。俺は誰かに攫われた……のか?

「あっ、そうだ。調味料を買うためにフィーネたちと別れたんだ」

 それでなんだか強烈な匂いを嗅がされて、意識がそこに落ちていく感覚を覚えたような気がする。

 でも攫われたとして、誰がなんのために? というか、ここから早く逃げ出さないと。

「おいっ、起きたか?」

 混乱してベッドに横たわったまま考え込んでいたら、突然部屋の扉が開く音がして、男の声が聞こえてきた。
 寝たふりをした方が良かったんだろうけど、驚いて思わず体を動かしてしまう。

 バレたかな……そう思いつつ、体を硬くして緊張しながら息を殺していると、突然顔を掴まれた。それに驚いて思わず開いてしまった瞳に映ったのは、下卑た笑みを浮かべた一人の男だ。

「起きてるじゃないか」

 こいつ……冒険者ギルドの鑑定員だ。生命水の性能を知って、独占しようとでも思ったのだろうか。

「ヴランゲル伯爵、起きたようです」
「そうかそうか」

 伯爵って、まさか貴族まで絡んでるのか? これからどうすればいいんだ……俺の力ではこの場から逃げ出すなんて到底できそうにない。

「お前たち、目的はなんだ」
「簡単なことだ。お前にはこれから伯爵のために、生命水を作ってもらう。――一生ここでな。ギャハハハッ」
「私がお前の能力を有効活用してやるのだから、感謝するんだな」

 感謝なんてするわけないだろ! そう叫びたいけど、今は相手を怒らせるのは得策じゃないと思い、口を噤む。

 静かに二人を睨みつけていたら、二人は俺を見下ろし嫌な笑みを向けてから、機嫌が良さそうな足取りで部屋を出ていった。

「はぁ……これからどうするか」

 フィーネたちは俺が攫われたことに気づいてくれただろうか。ラトが瞬間移動で来てくれたら、今の現状を伝えられるけど……

「ラト、早く来てくれ」

 思わずそう呟くと、その気持ちが通じたかのように、俺の肩付近に突然温もりが現れた。首を動かしてそちらに視線を向けると……そこにいたのは、いつも通りのふわふわな毛並みが可愛いラトだ。

「ラト……っ」
『あっ、エリク、起きたんだね。さっきはエリクが寝てて気づかなかっだだ』
「前にも来てくれてたんだ」
『もちろん! フィーネとリルン、デュラ爺もこっちに向かってるよ。僕が状況を伝える役目を任されてるんだ!』

 そう言って短い右手で胸を叩いたラトは、緊張していた体から力が抜けるほどに可愛かった。そんなラトのいつも通りの様子と、皆が来てくれているということで、やっと少し安心できる。

「皆はここに乗り込むの?」
『多分そうなるんじゃないかな。リルンもデュラ爺も、こそこそやるのは苦手だからね』
「やっぱりそうか……まあ、たとえ建物が壊れたりしてもあいつらの屋敷ならいいか」
『じゃあ僕、フィーネのところに少し戻るね。すぐこっちに戻ってくるから待ってて!』

 なんだかやる気十分なラトがそう言って消えたところで、俺はまた少しの不安を感じて窓から外を見つめた。
 遠くにフィーネたちが見えないかな……
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