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第3章 黒山編
83、朱鉄とファイヤーリザード
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森の中は人の手が一切入っていないので、歩くのも一苦労だった。リルンとデュラ爺が魔法で道を作ってくれるので進めてるが、そうでなければ相当な時間がかかっただろう。
「大陸の森より植物が密集してるな」
「そうだね。島が小さいから密集してるのかな?」
「確かに。周囲に広がっていけないもんな」
『でも魔物は少ないぞ』
俺たちの会話に割って入るように、リルンがつまらなそうにそう言った。
『小さな島は、大型の魔物がいることは少ないからな』
『でも虫型の魔物は多いじゃない』
嫌そうな声音でそう言ったスーちゃんに、リルンは襲ってきたジャイアントビーを片手間で倒しながら振り返る。
『しかし弱い魔物ばかりだ』
ジャイアントビーは全く弱い魔物じゃないんだけど、リルンからすると張り合いがないらしい。
そうして二人の強さに俺たちは苦笑と呆れを滲ませながら、リグルさんたちはとにかく驚きを露わにしながら、朱鉄があるという山に向かって森を進んでいった。
途中で木の実を見つけてラトがはしゃいだり、デュラ爺が珍しい植物に立ち止まったり、そうして寄り道しつつも先に進む。
森に入って一時間ほどで、ついに山の麓に辿り着いた。その山には植物がほとんど生えていないので、山の麓に着いたことが一目で分かるのだ。
「この山に朱鉄があるのか~」
山を見上げるとなんだか不思議な感覚になる。森にはこれだけ植物が溢れてるのに、この山だけ植物が一切生えないっていうのは、かなり不思議な光景だ。
普通ならこの山の成分が周りにも伝わって、強い植物だけがまばらに残ってる荒野みたいなのがあっても良さそうなのに。
そんなことを考えていると、フィーネが足元に落ちていた赤い石を拾った。
「もしかして、これが朱鉄?」
小さな呟きだったがデュラ爺には届いたようで、デュラ爺は鷹揚に頷くと近くの巨大な岩をツノで示す。
『そうじゃ。この岩も朱鉄だろう』
ということは、この赤い石や岩は全部朱鉄ってことだよな……凄い量だ。探すまでもなくそこらに大量に転がっている。
「採取が簡単で良かったな」
「本当だね。じゃあ、皆で拾おうか」
それからリグルさんたちには近くで休んでいてもらい、俺とフィーネで採取を進めた。朱鉄はデュラ爺の予想通り、俺が触れても変質はしなかった。これ以上は変質先がない素材なのだろう。
一応リグルさんたちには見られないよう、目を盗んで大きめの朱鉄もデュラ爺の異空間に収納してもらう。小さな物は持参していた袋に詰め込み、さらに少しだけ土も採取しておいた。
この島の植物も採取すべきなのかな……もしかしたら稀有な錬金素材かもしれないし。
でもそのためには変質が厄介なんだよな。なんてことを考えていると、近くで眠そうに寝そべっていたリルンが、突然立ち上がった。
そしてニヤリと、なんだか嫌な予感がする笑みを浮かべる。
「リルン、どうし……」
『魔物が来るぞ』
俺が問いかけようとした瞬間、リルンの声が頭に響いた。
『これは手応えがありそうだ。やっと楽しくなってきたな』
リルンがそう言う魔物ってことは、俺にとっては想像したくないほどに脅威なわけで――
リルンの視線の先をそっと見てみると……そこには硬そうな鱗に身を包んだ、見上げるほどの大きさである魔物が存在感を放っていた。
四足で立ち、鋭い牙と長い尻尾が特徴的だ。さらに鱗は燃えるような赤色で、瞳はギョロリとこちらを睨みつけている。
「あっ、あの魔物は……」
『ファイヤーリザードだ。我が倒すので安心すると良い。デュラ爺、今回は我一人で良いか?』
『構わんぞ。わしはこの禿山との相性が悪いからな』
朱鉄が取れる山から降りてきた様子のファイヤーリザードを一瞥し、デュラ爺はそう言った。
確かにこの山じゃ、デュラ爺が操れる植物がない。
「リルン、よろしくね。でも無理はしないで」
『分かっている』
フィーネの言葉に頷いたリルンは、地面を強く蹴ってファイヤーリザードに向けて飛び込んだ。
『エリク、そこにいると流れ弾を喰らうぞ』
飛び出して行った瞬間に、俺に対してだろう言葉を残していく。
流れ弾を喰らうってことは、ファイヤーリザードは魔法を飛ばしてきたりするのか……!?
リルンの言葉の意味を理解しているうちに、さっそく飛び込んだリルンに向かって、ファイヤーリザードが大きく開けた口から火球が放たれた。
それはまっすぐ俺の方に飛んできて――
「……っ、」
俺は転がるようにして、なんとか火球を避けた。
「おいっ、リルン! 助けてくれないのかよ!」
思わずそう叫ぶが、もうリルンはファイヤーリザードとの戦闘に夢中みたいで、こちらを見てはいない。
『大丈夫じゃ。火球はわしが止めたぞ』
デュラ爺の言葉に辺りを見回してみると、確かに数枚の葉が重なるようにして、火球を受け止めていた。葉は少し焦げたぐらいで、燃えてはいないようだ。
「本当だ……はぁ、良かった」
避けられなくても安全だったという事実に、なんだか力が抜けた。リルンもデュラ爺がいるから、火球を避けて見送ったんだろうけど……少しは俺の心労にも配慮してほしい!
心の中でそう叫んでいるうちに、リルンがファイヤーリザードの首に致命傷を与えたのが見えた。爪でぐさっと深く切り裂いて、ファイヤーリザードからは血飛沫が吹き出す。
「ギュオォォォォォ!」
断末魔の叫びを上げてから、ファイヤーリザードは完全に力を失ったように、地面に倒れ込んだ。ドシンッという重い音が響き、さらに砂煙が巻き起こる。
それをリルンが風魔法で吹き飛ばして視界をクリアにすると、満足げな笑みで俺たちの下に戻ってきた。
「大陸の森より植物が密集してるな」
「そうだね。島が小さいから密集してるのかな?」
「確かに。周囲に広がっていけないもんな」
『でも魔物は少ないぞ』
俺たちの会話に割って入るように、リルンがつまらなそうにそう言った。
『小さな島は、大型の魔物がいることは少ないからな』
『でも虫型の魔物は多いじゃない』
嫌そうな声音でそう言ったスーちゃんに、リルンは襲ってきたジャイアントビーを片手間で倒しながら振り返る。
『しかし弱い魔物ばかりだ』
ジャイアントビーは全く弱い魔物じゃないんだけど、リルンからすると張り合いがないらしい。
そうして二人の強さに俺たちは苦笑と呆れを滲ませながら、リグルさんたちはとにかく驚きを露わにしながら、朱鉄があるという山に向かって森を進んでいった。
途中で木の実を見つけてラトがはしゃいだり、デュラ爺が珍しい植物に立ち止まったり、そうして寄り道しつつも先に進む。
森に入って一時間ほどで、ついに山の麓に辿り着いた。その山には植物がほとんど生えていないので、山の麓に着いたことが一目で分かるのだ。
「この山に朱鉄があるのか~」
山を見上げるとなんだか不思議な感覚になる。森にはこれだけ植物が溢れてるのに、この山だけ植物が一切生えないっていうのは、かなり不思議な光景だ。
普通ならこの山の成分が周りにも伝わって、強い植物だけがまばらに残ってる荒野みたいなのがあっても良さそうなのに。
そんなことを考えていると、フィーネが足元に落ちていた赤い石を拾った。
「もしかして、これが朱鉄?」
小さな呟きだったがデュラ爺には届いたようで、デュラ爺は鷹揚に頷くと近くの巨大な岩をツノで示す。
『そうじゃ。この岩も朱鉄だろう』
ということは、この赤い石や岩は全部朱鉄ってことだよな……凄い量だ。探すまでもなくそこらに大量に転がっている。
「採取が簡単で良かったな」
「本当だね。じゃあ、皆で拾おうか」
それからリグルさんたちには近くで休んでいてもらい、俺とフィーネで採取を進めた。朱鉄はデュラ爺の予想通り、俺が触れても変質はしなかった。これ以上は変質先がない素材なのだろう。
一応リグルさんたちには見られないよう、目を盗んで大きめの朱鉄もデュラ爺の異空間に収納してもらう。小さな物は持参していた袋に詰め込み、さらに少しだけ土も採取しておいた。
この島の植物も採取すべきなのかな……もしかしたら稀有な錬金素材かもしれないし。
でもそのためには変質が厄介なんだよな。なんてことを考えていると、近くで眠そうに寝そべっていたリルンが、突然立ち上がった。
そしてニヤリと、なんだか嫌な予感がする笑みを浮かべる。
「リルン、どうし……」
『魔物が来るぞ』
俺が問いかけようとした瞬間、リルンの声が頭に響いた。
『これは手応えがありそうだ。やっと楽しくなってきたな』
リルンがそう言う魔物ってことは、俺にとっては想像したくないほどに脅威なわけで――
リルンの視線の先をそっと見てみると……そこには硬そうな鱗に身を包んだ、見上げるほどの大きさである魔物が存在感を放っていた。
四足で立ち、鋭い牙と長い尻尾が特徴的だ。さらに鱗は燃えるような赤色で、瞳はギョロリとこちらを睨みつけている。
「あっ、あの魔物は……」
『ファイヤーリザードだ。我が倒すので安心すると良い。デュラ爺、今回は我一人で良いか?』
『構わんぞ。わしはこの禿山との相性が悪いからな』
朱鉄が取れる山から降りてきた様子のファイヤーリザードを一瞥し、デュラ爺はそう言った。
確かにこの山じゃ、デュラ爺が操れる植物がない。
「リルン、よろしくね。でも無理はしないで」
『分かっている』
フィーネの言葉に頷いたリルンは、地面を強く蹴ってファイヤーリザードに向けて飛び込んだ。
『エリク、そこにいると流れ弾を喰らうぞ』
飛び出して行った瞬間に、俺に対してだろう言葉を残していく。
流れ弾を喰らうってことは、ファイヤーリザードは魔法を飛ばしてきたりするのか……!?
リルンの言葉の意味を理解しているうちに、さっそく飛び込んだリルンに向かって、ファイヤーリザードが大きく開けた口から火球が放たれた。
それはまっすぐ俺の方に飛んできて――
「……っ、」
俺は転がるようにして、なんとか火球を避けた。
「おいっ、リルン! 助けてくれないのかよ!」
思わずそう叫ぶが、もうリルンはファイヤーリザードとの戦闘に夢中みたいで、こちらを見てはいない。
『大丈夫じゃ。火球はわしが止めたぞ』
デュラ爺の言葉に辺りを見回してみると、確かに数枚の葉が重なるようにして、火球を受け止めていた。葉は少し焦げたぐらいで、燃えてはいないようだ。
「本当だ……はぁ、良かった」
避けられなくても安全だったという事実に、なんだか力が抜けた。リルンもデュラ爺がいるから、火球を避けて見送ったんだろうけど……少しは俺の心労にも配慮してほしい!
心の中でそう叫んでいるうちに、リルンがファイヤーリザードの首に致命傷を与えたのが見えた。爪でぐさっと深く切り裂いて、ファイヤーリザードからは血飛沫が吹き出す。
「ギュオォォォォォ!」
断末魔の叫びを上げてから、ファイヤーリザードは完全に力を失ったように、地面に倒れ込んだ。ドシンッという重い音が響き、さらに砂煙が巻き起こる。
それをリルンが風魔法で吹き飛ばして視界をクリアにすると、満足げな笑みで俺たちの下に戻ってきた。
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