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最終章 古代遺跡編
168、森の奥で大発見
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ノバック王国に騎士団を派遣してから数ヶ月。俺は探索隊の一員としてある山の中にいた。そう、ノバック王国から見返りとして得た鉱山だ。
「フィリップ様、予想ではもう少し奥に採掘跡地があるのでしたか?」
「そうだね……もう少し奥で、あとは東寄りかな。ただ予想地点をそこまで定められなかったんだよね」
ヴィッテ部隊長は難しい表情で、俺が持つ地図を覗き込んだ。ヴィッテ部隊長の他にはいつものメンバーであるパトリスを筆頭にした冒険者たちと、もちろんヴィッテ部隊長の下につく騎士たちもいる。
あとはニルスとフレディ……さらに今回はマティアスも一緒に来ている。
「マティアス、どっちに進めば良いと思う?」
「難しいよね……僕の予想では意外と浅い場所にあるんじゃないかと思ってたんだけど、なさそうかな」
「奥だとしたらこの辺りとか?」
俺が地図を指さすと、マティアスは顎に手を当てて少し考え込んでから頷いた。
「とりあえず行ってみようか。初日で採掘跡地が見つかるとは思ってないし、根気よくやっていくしかないよ」
「そうだね」
それから魔物を倒しながら進んでいくこと約一時間、そろそろ休憩しようかと口を開きかけたその時。
「うわっぁぁぁぁあ!」
一人の冒険者の叫び声が森に響き渡った。
「どうしたの!?」
先頭から声が聞こえたので慌てて呼びかけると、近くにいた他の冒険者が大きく腕を振ってその場に止まるようにと合図をする。
「フィリップ様、マティアス様、大きな穴があります! おい、大丈夫か!」
その穴の中に呼びかけるように冒険者が声を張ると、かろうじて俺の耳にも届く返答が聞こえてきた。
「何とか、生きてる……」
その返答を聞いて、とりあえず安堵した。でも気を抜くのは早い。その穴が魔物の棲家だったら大変だ。
「どういう感じの穴か分かる?」
「――それが、何かの建物みたいな感じで……これって何なのでしょうか」
冒険者の困惑した様子の声を聞いて、頭に疑問符が浮かんだ。こんな場所に建物ってどういうことだろう。採掘跡地の休憩所とか……?
「そっちに行っても大丈夫?」
「慎重にならば大丈夫だと思います。しかしどこが落ちるか分かりませんので、振動を極力避けてください」
「分かった」
それからマティアスとニルス、フレディと共に冒険者が落ちたという穴の近くに向かい、そっと下を覗き込むと。
――確かにそこにあったのは、明らかに人工物だと分かる建物だった。
「休憩所って感じじゃないよね?」
「うん。僕は違うと思う」
なんだか懐かしいというか、既視感のある建物だ。似てる建物と言えば……教会だろうか。地中に埋まってしまっていることで汚れて劣化しているから分かりづらいけど、壁面などはかなり豪華な作りに見える。
「フィリップ様、あちらから下に降りられるかもしれません」
「本当だ」
どうするのが良いかな。ここは一度引くか、それとも探索してみるか。
でも装備は万全だし人員も問題ない。一度戻ったとしても、同じようなメンバーで来ることになるだろう。それなら――
「半数ずつ探索班と待機班に分かれようか。何かの遺跡かもしれないし、少しだけ見て回ろう」
「遺跡ってことは、過去に作られた建物ってことだね」
「そういうこと」
ラスカリナ王国に伝わる歴史から考えると、争いの時代の前に作られたものか、それとも争いの時代が終わってから魔物に人間の住む場所が奪われていく間に作られたものか。
どちらにしてもかなり興味があるな。魔物に蹂躙される前にはどんな文明があったのか、あまり文献などはなくて気になっていたんだ。
ハインツが生きていた世界との共通点も、何か分かるかもしれない。
「僕は探索班がいい!」
「俺も探索に行きたい。残ってもらうとしたら……騎士の皆かな。冒険者の方が未知の場所への探索は慣れてると思うんだけど、どう思う?」
ヴィッテ部隊長に視線を向けると、心得たように頷いてくれた。
「仰る通りだと思います。我々はここで魔物が下に降りないよう見張っておきますので、気をつけて探索なさってください」
「ありがとう。長くても一時間ぐらいで戻るから、何時間も帰ってこなかったら救援を呼びに行ってほしい」
その言葉に騎士の皆が真剣な表情で頷いてくれて、俺たちは冒険者の皆と一緒に下へ降りた。
下から改めて建物の全容を見回すと、この建物の大きさがよく分かる。明らかに普通の民家やお店などに使われていた建物ではない大きさだ。
「ここはどういう場所だったのかな……あそことか、台みたいになってるよね。カウンターとか?」
「確かに」
マティアスが指差したところには石造りなので辛うじて残っている台があり、その台の後ろにはぽっかりと空いた穴があった。あの台がカウンターだと考えると、後ろの穴にはドアが嵌っていたのかもしれない。
何ヶ所か穴が空いてるところが散見されるので、そこは全てドアだったのだろう。
「他のところにも行ってみようか。皆、足元気をつけて」
「かしこまりました」
俺はまずカウンターらしき台の後ろにある穴を選び、慎重に足を踏み入れた。
~あとがき~
ずっとお待たせしていて申し訳ございません……!
最終章、全6話となっております。本日より毎日投稿しますので、よろしければ完結までお付き合いいただけますと幸いです。
よろしくお願いいたします。
蒼井美紗
「フィリップ様、予想ではもう少し奥に採掘跡地があるのでしたか?」
「そうだね……もう少し奥で、あとは東寄りかな。ただ予想地点をそこまで定められなかったんだよね」
ヴィッテ部隊長は難しい表情で、俺が持つ地図を覗き込んだ。ヴィッテ部隊長の他にはいつものメンバーであるパトリスを筆頭にした冒険者たちと、もちろんヴィッテ部隊長の下につく騎士たちもいる。
あとはニルスとフレディ……さらに今回はマティアスも一緒に来ている。
「マティアス、どっちに進めば良いと思う?」
「難しいよね……僕の予想では意外と浅い場所にあるんじゃないかと思ってたんだけど、なさそうかな」
「奥だとしたらこの辺りとか?」
俺が地図を指さすと、マティアスは顎に手を当てて少し考え込んでから頷いた。
「とりあえず行ってみようか。初日で採掘跡地が見つかるとは思ってないし、根気よくやっていくしかないよ」
「そうだね」
それから魔物を倒しながら進んでいくこと約一時間、そろそろ休憩しようかと口を開きかけたその時。
「うわっぁぁぁぁあ!」
一人の冒険者の叫び声が森に響き渡った。
「どうしたの!?」
先頭から声が聞こえたので慌てて呼びかけると、近くにいた他の冒険者が大きく腕を振ってその場に止まるようにと合図をする。
「フィリップ様、マティアス様、大きな穴があります! おい、大丈夫か!」
その穴の中に呼びかけるように冒険者が声を張ると、かろうじて俺の耳にも届く返答が聞こえてきた。
「何とか、生きてる……」
その返答を聞いて、とりあえず安堵した。でも気を抜くのは早い。その穴が魔物の棲家だったら大変だ。
「どういう感じの穴か分かる?」
「――それが、何かの建物みたいな感じで……これって何なのでしょうか」
冒険者の困惑した様子の声を聞いて、頭に疑問符が浮かんだ。こんな場所に建物ってどういうことだろう。採掘跡地の休憩所とか……?
「そっちに行っても大丈夫?」
「慎重にならば大丈夫だと思います。しかしどこが落ちるか分かりませんので、振動を極力避けてください」
「分かった」
それからマティアスとニルス、フレディと共に冒険者が落ちたという穴の近くに向かい、そっと下を覗き込むと。
――確かにそこにあったのは、明らかに人工物だと分かる建物だった。
「休憩所って感じじゃないよね?」
「うん。僕は違うと思う」
なんだか懐かしいというか、既視感のある建物だ。似てる建物と言えば……教会だろうか。地中に埋まってしまっていることで汚れて劣化しているから分かりづらいけど、壁面などはかなり豪華な作りに見える。
「フィリップ様、あちらから下に降りられるかもしれません」
「本当だ」
どうするのが良いかな。ここは一度引くか、それとも探索してみるか。
でも装備は万全だし人員も問題ない。一度戻ったとしても、同じようなメンバーで来ることになるだろう。それなら――
「半数ずつ探索班と待機班に分かれようか。何かの遺跡かもしれないし、少しだけ見て回ろう」
「遺跡ってことは、過去に作られた建物ってことだね」
「そういうこと」
ラスカリナ王国に伝わる歴史から考えると、争いの時代の前に作られたものか、それとも争いの時代が終わってから魔物に人間の住む場所が奪われていく間に作られたものか。
どちらにしてもかなり興味があるな。魔物に蹂躙される前にはどんな文明があったのか、あまり文献などはなくて気になっていたんだ。
ハインツが生きていた世界との共通点も、何か分かるかもしれない。
「僕は探索班がいい!」
「俺も探索に行きたい。残ってもらうとしたら……騎士の皆かな。冒険者の方が未知の場所への探索は慣れてると思うんだけど、どう思う?」
ヴィッテ部隊長に視線を向けると、心得たように頷いてくれた。
「仰る通りだと思います。我々はここで魔物が下に降りないよう見張っておきますので、気をつけて探索なさってください」
「ありがとう。長くても一時間ぐらいで戻るから、何時間も帰ってこなかったら救援を呼びに行ってほしい」
その言葉に騎士の皆が真剣な表情で頷いてくれて、俺たちは冒険者の皆と一緒に下へ降りた。
下から改めて建物の全容を見回すと、この建物の大きさがよく分かる。明らかに普通の民家やお店などに使われていた建物ではない大きさだ。
「ここはどういう場所だったのかな……あそことか、台みたいになってるよね。カウンターとか?」
「確かに」
マティアスが指差したところには石造りなので辛うじて残っている台があり、その台の後ろにはぽっかりと空いた穴があった。あの台がカウンターだと考えると、後ろの穴にはドアが嵌っていたのかもしれない。
何ヶ所か穴が空いてるところが散見されるので、そこは全てドアだったのだろう。
「他のところにも行ってみようか。皆、足元気をつけて」
「かしこまりました」
俺はまずカウンターらしき台の後ろにある穴を選び、慎重に足を踏み入れた。
~あとがき~
ずっとお待たせしていて申し訳ございません……!
最終章、全6話となっております。本日より毎日投稿しますので、よろしければ完結までお付き合いいただけますと幸いです。
よろしくお願いいたします。
蒼井美紗
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