上 下
68 / 88
第3章・炎帝龍の山

四十二話・辺境伯日誌・飛竜での調査記述「1」

しおりを挟む
風を切り高速で飛行する。
飛竜は、翼を羽ばたかせてその巨大な身体を自由自在に操れる
一面の雲を突き抜けた。

「領主様ー‼︎間も無く、獣人の国が見える距離に入ります。」

私の乗る飛竜とは、別の飛竜に騎乗して同行者する冒険者が叫んでいる。

「分かっている。いつも通りのコースで降りるぞ」

古代林の木々が生い茂っている森を抜けた
そして、眼下に広がる光景…
いつも通りならば、いつもと何ら変わらないはず…

しかし、今回は違った。

そこには、変わり果てた街が見えた。
焼け落ちて見る影も形もない
獣人の国の建国時に築かれた城で、古代林の木々を使って建てられていた。
それが今、消し炭の山へと変わってしまっている。
この国に来る前からこうなっているのは知っていた。
だがその事実を私は、信じたくはなかった。

「周囲に動いてる人影は、見えませんがどうしますか?」
「視認できる高度まで降りて、生存者がいないかよく調べよう」

しかし、よく調べて確認しなくても
生存者の有無の確認の結果は、既に分かっている…
だが…実際に確認せねばならないのだ。

「分かりました。」
「ジルヴァ降下だ。頼んだぞ。」

ジルヴァが返事をして、徐々に高度を下げている。

ジルヴァとは、私が今騎乗している飛竜の名だ。
この飛竜の集団の長であり、私の長年の友達だ。

徐々に、眼下に広がっていたこの国の惨状が鮮明になってきている
皇帝陛下のお言葉が頭から離れない。

「獣人の国が滅んだ。」

皇帝陛下からその言葉を告げられたのだ。



全ての事の始まりは、私がいつも通りに執務室で仕事をしていた時だった。
書類に目を通しては、署名を入れていた。
いつもと同じ日常だった。
そこに、執事がお茶を持ってやって来る。
…そのはずだった。
バタバタっと誰かが通路を走る音がする。
その音が私が居る執務室の前で止まった。
そして…

''ドンドン''

いつもと違って、激しく扉を叩く音がしたのだ。

「お仕事中失礼します。領主様、皇帝陛下の使者の方がいらしゃっています。火急な要件だそうで御座います。」

執務室の扉の向こうから、執事のマルコスが大きな声でそう告げる。
皇帝の使者⁉︎
皇帝の使者と言うだけでも異例だというのに、火急な要件とは…
一体、何がどうしたと言うのだ。

「分かった。直ぐに会うここへ通してくれないか?」
「分かりました。」

マルコスが走って行く。
マルコスは普段決して、通路を音を立てて走ったりしない…
そのマルコスが走っている。
その足音を聞いて
私は、直ぐにペンとインクをしまい、広げていた書類も片付ける。
片付け終わるのが先か、足音が聞こえるのが先かはわからないが
再びバタバタっと誰かが走る足音が聞こえて来る。
今回は、1人…いや、2人?だろうか?何人もの足音が聞こえる。
扉が勢いよく開く…
勢いがつき過ぎて、扉がもげそうだった訳だが
今は、それどころの話ではないようだ。
開かれた扉から数名が執務室の中へ入って来た。
その数名の顔は、知っている顔だった。

「お仕事中失礼します。リトルマウンテン辺境伯殿、我々は皇帝使者として来ました。私は、使者の代表のワルツです。」

そのワルツが執務室の私が座ってる机の前に立っている。

「ああ、ワルツ。君の名はもう私は、知ってるさ。」
「はー…貴方がそういう方なのは…私も知っていますが」

ワルツは、頭を掻きながら呆れ顔で私を見る。

「今回は、正式なものでして一応形式は、取らねばなりませんのでね」

ワルツが懐に手を入れて、1通の手紙を取り出した。

「これをリトルマウンテン殿、皇帝陛下から貴方への緊急の召集状です。」

手紙の封には、皇帝陛下だけが使える紋章が押印されている。
普段の皇帝陛下あの方押印コレを安易には使わない。
本当に火急な要件って事だろう。
封を開けて読もうとしたのだが…
中身は、白紙だった。
いや、正確に言うとただ一言だけ書かれていた。

『早急に宮殿へ来い。』

ただそれだけだった。
いつもならば、要らぬ前書きが書いてある事しかないのだか…
しかも、この一文…走り書きだな
陛下の性格からすれば、まずあり得ない
手紙を開いてから、ほんの数秒間だけ
そんな事を考えていた。
手紙を閉じてしまい顏を上げたら…

ワルツがこちらをガン見してした。

「伯爵、早く行きましょう。宮殿への道の手配はすんですので」
「いや、それだと遅いだろう?」
「何故です?まさか行かないとでも?貴方をお連れして宮殿へ向かう道中の警護も私たちの仕事ですよ?」
「違うって、行かない訳じゃないさ」
「だったら…」
「君たちが足に使ったのは、何だい?馬か?鳥か?」
「勿論私たちの足は鳥ですよ、それしかないでしょう?」

ダメだ。遅い…
確かに馬よりかは、早く宮殿へ着けるだろうがな
ここからだとなぁ…

「だぁーもう、仕方ない。君たちも一緒に来い」
「一体、こんな時に何処へ⁉︎」
「ワルツくん君さ忘れてない?俺がどうして、色付きの辺境伯をしているのかを」

辺境伯とは…
帝国の領土と他国の領土が接する国境線がある地域
それを治める貴族それが辺境伯だ。
色付きの辺境伯…
数ある辺境伯を務める者の中で、わずか十数名だけが使える色付きの称号

「まさか、アレを今使うんですか?」
「そうさ、もう呼んだから直ぐに来る」
「この流れからすると、私たちも乗せて頂けるんですか?」

ワルツが子供のように目を輝かせてこちらを見て来る。

「そうだよ。乗りたくないならさ、別にいいんだが?」

そう聞くと…
彼は、めっそうもないっと、ちぎれんばかりに首を振り

「もちろん乗ります。」

笑顔でこう返して来た。
そうこうしている内に、私が呼んだ者が来たようだ。
風を受けて、執務室の窓がガタガタを揺れている。
ワルツが窓に駆け寄り外を見た。
その来た存在を目に捉えるや否や
こちらを振り返り、興奮気味に仲間の使者たちに告げた。

「やった。本当に来たぞ!!お前たち見ろ!!」

仲間たちも外を見た。
すると、皆目を見開く…

「本物だ。本物の特大の飛竜…キングスカイドラゴンだ」

そう言った。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

最愛の人がいるのでさようなら

恋愛 / 完結 24h.ポイント:62,103pt お気に入り:650

私の初恋の人に屈辱と絶望を与えたのは、大好きなお姉様でした

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:3,112pt お気に入り:95

獣人の恋人とイチャついた翌朝の話

BL / 完結 24h.ポイント:163pt お気に入り:29

僕の兄上マジチート ~いや、お前のが凄いよ~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:364

騎士志望のご令息は暗躍がお得意

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:86

初恋の王女殿下が帰って来たからと、離婚を告げられました。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:70,297pt お気に入り:6,933

処理中です...