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第3章・炎帝龍の山
五十六話・薬草?いや…どう見ても、雑草だよね?
しおりを挟む朝早くから街に入って、冒険者ギルドに来た
…のはいいんだけど。
ギルドの素材の買取にかなりの時間がかかってしまった。
今は、もう昼だ。
ようやく、買い物が出来る。
「…それで、今晩の宿はもう確保したの?」
アリアナさんが聞いてきたんだけど。
今晩の宿?
「あー…いえ、まだです。この街に着いてから、一番最初にこのギルドに来ましたから」
買い出しの資金を調達する為に、一番最初にこのギルドに来たんだけど。
今思えば、失敗だった気がする。
「そうなの?だったら今からだと、厳しいかも知れないわ」
「厳しいですか?」
…だろうな。
街に入るのに、かなりの人が並んでたからね。
「昼までには、宿に行かないと満室になるのよ。でも…」
そう言って、アリアナさんがシュルトさんの方を見る。
アリアナさんが言いたい事をシュルトさんは、直ぐに察した様で
「うん?あの宿屋か?」
「そうよ。あの宿だっら今からでも空いてるでしょ?」
「だろうな。満室なんて、今まで一度もなった事ないからな」
あの宿?
「私たちのおススメの穴場のお店があるから、そこに行ってみたら?」
「穴場ですか?」
「そうよ?メインの通りからは、ちょっと離れてるからこのギルドからは遠くなるんだけどね。」
シュルトさんも頷く
「遠くなるからこそほとんど旅の人は、メインの通りにある宿に行くんだよ。」
「されにこの街の人は、自分の家があるから行かないからね。」
それは、そうだろうな。
自分の家があるのに、同じ街中にある宿屋にわざわざ行く理由があるとは思えない。
「だから、常に部屋に空きがあるよ?」
「なら、そこにします。」
「場所は、私が案内するわね。」
アリアナさんが案内してくれるの?
アリアナさんはこの街の人だから
彼女に案内してもらえれば、迷う事はないだろう。
…多分。
「はい。お願いします。」
「今日は、ありがとう。」
「では、また明日来ます。」
「うん。また明日。」
そう言って、あの軋む階段をゆっくりと降りていくと…
遠くの方から何やら聞こえてくる。
「何か騒がしいわね?何かしら?」
「何でしょうね?」
階段を下に降りて、ギルドの受け付けの扉を開けると
騒ぎの元は、受け付けだ。
受け付けの前に三人の男が立って、受付嬢に難癖を付けていた。
「だーかーらー、薬草の納品だって言ってるだろう?」
「ですが…森の中での薬草採取は、まだ禁止ですよ?」
「だーかーらー、違うって言ってんだろう?」
「ちゃんと、森の近くで探して来たって」
そんなやりとりが見える。
男の手に握られている植物
その植物をじっと見つめて、アリアナさんがリオさんに話しかけた。
「ねぇ?あれって、薬草だった?」
「いや、違うでしょう。」
「よね?誰がどう見ても雑草だものね?」
「それも、あの草はそこらへんに生えてる草です。」
普通の草…
どうやったら、普通の草を薬草と間違えるんだろう?
そのうちの一人が辺りをキョロキョロしだして…
「おい、止めようぜ。もしあの雷女に見つかったらさ。」
雷女?
誰の事だろうか?
オレは、そう思いながら様子を見ていたら
何ら背後から気配がして
ふとアリアナさんの方を振り返って見ると…
アリアナさんが鋭い眼光で連中の事を見ていた。
リオさんも、アリアナさんの様子に気づいた。
「ああ、やばいって、あのババアに…いや、鬼ババアにバレたら俺ら全員、黒焦げにされちまうんじゃないか?」
ババア?
黒焦げ?
そんな単語が出て来るたびに
アリアナさんの表情が見る間に鬼の形相へと、変わっていく。
「そうだな。あの雷女に見つかる前にずらかるか?」
そう言って、その場を離れようとしたが…
「へ~誰がババア、いや…雷女だって?」
その声が聞こえたその時には、彼女の姿はかき消えていた。
そして、その消えた
アリアナさんは、連中の背後に立ってた。
真っ先に気づいた1人が後ろに振り返った。
「ひ~!!ま、ま、まってくれ…こ、これには訳が!!うっげ!!」
悲鳴を上げて、アリアナさんに何かを懇願しようとしたが…
それよりも早く、アリアナさんの鋭い一発が男の腹に入った。
彼女の拳は、完全にズッポリと腹の奥まで突き刺さってる。
その拳の有り余った余波で、男の足は床から離れ
そのまま、大の男が宙を舞い壁まで吹っ飛んだ。
男が壁に当たるとすごい音がした。
その壁にかかっていたものが、いくつも衝撃で落ちた。
「……。」
ギルドの受け付けの部屋の中にいた人達…
その場に居て、遠巻きに様子を見ていた人の動きが一斉に止まった。
アリアナさんと壁に向かって吹っ飛んだ男を交互に見ている。
「……。」
一時の静寂が受け付けの部屋の中に訪れる。
騒いでいた連中は、その吹っ飛んだ男が泡を吹いて気を失っている様を遠巻きに名前を呼んだりしていた。
しばらくの間、男が目を覚ますか見ていたわけだが…
「ダメだ、完全に気を失っちまってる。」
「一体、どうしたんだ?」
「なんで急に壁まで飛んだんだ?」
なぜ男が壁まで、吹っ飛んだのか気になったのか?
連中が吹っ飛んだ男が元いた位置を確認するのに振り返って
その視線を向けると…
一斉にみるみる顔色が悪くなっていった。
「「「ア、ア、アリアナだ!!」」」
そう叫ぶと連中、大量の汗を流しながら震え上がっている。
ようやく、アリアナさんがいるの気がついたらしい。
…気づくのが遅い。
震え上がっている連中にアリアナさんがゆっくりと近寄って行く。
「ねぇ?誰がババア?鬼ババア?」
アリアナさんが連中にそう尋ねる。
ババアと言った男の顔色がさらに悪くなった。
「ひぃぃ~!!」
近寄って来る彼女の顔を見て、情けない悲鳴を上げた。
優しい口調で話す彼女は、その口元に笑みを浮かべている。
しかし、アリアナさんの連中を見る目
その目が全く笑っていない。
…例えるならば、アレだな。
獲物を見つめる狩人の目って感じかな?
「ゆ、許して下さい!!あ、謝りますから~!!」
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男は、その場にしゃがみ込んだ。
しゃがみ込んだ後もアリアナさんに向かって
必死になって謝っている。
オレは、アリアナさんの方をチラ見するが…
う~ん。
これは…ダメだな。
そう思ったのは、きっとオレだけじゃない。
リオさんもヴァン君も…いや
その場に居合わせた全員がそう思っただろう。
だって…
アリアナさん、全く男の謝罪に聞く耳を持っていないんだ。
あんな謝り方で彼女が許すとは思えない。
その謝っている男の前で行くと、アリアナもしゃがんだ。
「ねぇ?もう一度言ってみて?」
アリアナさんは、そう言いながらしゃがみ
しゃがみ込んでる男の胸ぐらを鷲掴みにした。
そして、胸ぐら掴んだまま男と一緒に立ち上がった。
「誰が鬼ババアだって聞いてんだ!!」
アリアナさんの罵声が轟いた。
みんな一斉に彼女のいる方から視線を逸らした。
ああ、怖い!!
アレは、鬼だ!!
間違いなく、鬼だよね!?
絶対に!!絶対に!!
アリアナさんを怒らせないようにしよう。
「答えろって、言ってんだろうが~!!」
そう言って、胸ぐら掴んでいた
男の腹に先ほどと同じくらい
いや、さっきよりも遥かにきつい一撃が放たれた。
アリアナさんの拳が直撃すると…
さっきの飛んだ男と同じような呻き声を上げて
壁に向かって、男が吹っ飛んで行く。
その際に、テーブルとイスがおはじき遊びの時のおはじきの様に
見事なまでに弾けて飛んで行った。
このテーブルとイスは、受け付けの順番待ちや納品した素材の査定待ちをするために置いてある。
そのテーブルの席に着いていた冒険者達は、飛んでくる男を見て
まるで蜘蛛の子散らす時の様に逃げて行った。
誰も、アリアナさんを止めようとしない。
彼女の標的にならないように、っとみんな一斉に彼女の視界から逃げ回る。
そんな状況の中でも、受け付けの人たちは慣れた様子で…
「やっぱり、彼女にあの言葉は禁句ですよね~」
「言っちゃいけないって、分からないのかね?」
そう言いながら、頭を掻いていたり
「全くよね?本当にアイツらって、バカよね~?」
そう聞かれた女性は、残っている男を指差して
「あと、もう一人残ってるけど?彼女に言う?」
「ほっときなさいって、その内彼女に仕留められるでしょ?」
…呑気なものだった。
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