俺の前世が『あやかしの秘宝を奪って人間に転生逃亡した戦闘狂の鬼』と言われても、全く記憶がございません!

紫月花おり

文字の大きさ
16 / 58
第一章

第16話 異文化コミュニケーション!!?

しおりを挟む
 ここは妖怪の世界・幻妖界。
 結界の張られた暗く、巨大な森──その中にある紅牙の隠れ家に、やっとの思いでたどり着いた俺と元気いっぱいの天狗二人。
 そこで待っていたのは紅牙の友人、鬼の篝……で、どうやら天音の言っていたとは篝のことだ。
 そして、そこに現れた妖狐の幻夜──。
 
 ……なんだけど。

「なんで、幻夜まで来るんだよ……!」

 そう! なんで??

 俺の疑問を代弁するように言った天音に、

「来ちゃダメかい? せっかく久しぶりに仲間みんなが揃うみたいだからわざわざ来たのに」

「……うぜぇから来んな」

 小さく呟く天音。
 間違いなく幻夜もこいつらの顔見知り……というか、仲間か。
 ただ、このやりとりを見る限り、白叡に引き続き天音も幻夜嫌いなのかな?
 ……ま、幻夜は気にしてないみたいだけど。

 それより、なんで俺らが揃うのが幻夜に分かったんだろう……?
 そんな疑問がうかんだのと同時に、

「あぁ……結界かぁ」

 彼方の呟くような声が耳に入った。

 結界? どういうことだ??
 そう聞き返そうと、彼方に視線を移したものの……俺は言葉にするのを躊躇った。
 彼方の口調はいつも通りだったけど、幻夜を見ていたその瞳は……いつもと違うように見えたから。

 もしかして……星酔の一件?
 ……あの時、星酔は何も言わなかったけど、彼方は幻夜が絡んでると確信しているはず。
 だとしたら、この状況はマズいことになるんじゃ??
 彼方のあのキレようを思い出しつつ、一人慌てる俺……!
 そんな気持ちを知ってか知らずか、幻夜は微笑みをうかべたまま俺に向かい、

この森ここの結界を張ってるのは僕なんだ。だから侵入者の気配で分かるんだ……君たちだってね」

 あ、そういうものなんだ?
 隠れ家のある森の結界を幻夜が、てことはやはり仲間なんだろうな。
 さっき口にできなかった疑問に、幻夜自ら説明してくれたのはありがたいのだが──
 それより今は、彼方の方が気になるんですけど……!?

「……にしては早かったな」

 舌打ち混じりに言う天音に、

「君らが遅かったんだよ」

 ……それはもしかしなくても、俺のせいか?
 たぶん、彼方たちだけならもっと早く到着してただろうから。
 
 幻夜に図星をつかれ、ムッとする天音。
 そして、ちょっとヘコんだ俺。

 だが、幻夜はそんな俺らを半ば無視し、改めて彼方に微笑みながら、

「もちろん、お土産も持参したよ」

 そう言ってデカい風呂敷包みを見せた。
 ……いや、今はそんなことどうでもいい!
 幻夜は彼方があれだけ怒っていた要因かもしれないんだぞ!?

 ──……だが

「わぁ…! 何?? とりあえず中入ろっ」

 ぱぁっと笑顔で喜ぶ彼方……。
 おいおいおい……! いいのかよ、それで!!?
 さっきのマジ顔はなんだったんだよッ!?
 俺の心配と焦りはどうしてくれるんだ!!!
 ……あまりの切り替えの速さに脱力する俺。
 さらに、

「もちろん、宴の準備もしてあるよ」

 そう言って微笑む篝に、喜ぶ天狗二人。
 なんだか…俺、すごく疲れたよ……?

 ──てなわけで。
 篝に背を押されるように、半ば無理やり中に入ったものの……
 紅牙の隠れ家、というからどんなものかと思ったが、意外に質素。
 というか、必要最小限と思われるような物しかない。

 まず土間があって、広い板の間の真ん中に囲炉裏いろり…には篝の言うとおり、大きな鍋を始め、宴の準備ばんたんな感じ……?
 そして、板の間の奥にも何室かありそうで、外からの見た目より家の中は随分広い印象を受ける。

「どう? 懐かしいでしょ??」

 篝が俺を見上げて言うが……

「う…うん……」

 俺は曖昧で形ばかりの返事しか返せなかった。
 確かに、懐かしいといえばそうかもしれないけど……これが紅牙の記憶によるものなのだって断言はできないし。

「わぁ~、いい匂いだねぇ」

 俺の後ろから入ってきた彼方が嬉しそうにそう言うと、篝も笑顔で、

「うん、ここに来る途中、ちょうど良い大きさの熊がいたから」

「えっ!?」

 はぁ!?
 熊を捕まえたのか!? そして、その熊を……?
 まさかそこにある鍋……熊鍋かッ!??

 あまりにもにこやかに……とんでもないことを言う篝に、俺が動揺していると、

「熊……きらい?」

 篝が上目遣いで聞いていた。
 いやいや、そんな表情かおされても……ッ

「き…嫌いも何も……食べたことないし…っ!  というか、幻妖界ここにも熊がいるのかよ!??」

 篝の大きな瞳から逃れるように、彼方に視線を移すと……

「いるよ。他にも人界の動物はだいたいいると思うけど……でも、まぁ…向こうよりもっと野性的な感じかな?」

 それは……野性的っていうか、野性だろ…元から。
 たぶん、彼方の言う野性的ってのは……狂暴ってことか!?
 妖怪だけでなく、野生動物にも絶対出会ってはいけない!!
 俺は心に固く誓った……。

 ……と、そこに、

「そんな事より、酒はッ??!」

 俺らの話を遮るように、天音が割って入ってきた……!
 そんな天音に、篝は苦笑混じりに小さく溜め息をつくと、

「……飲みたかったら、天音も手伝って」

「はいはい」

 流石に素直に従い、いそいそと篝について(主に酒の)準備を手伝う天音。

「ほら、上がって?」

「う……うん」

 後ろから幻夜に促され、彼方に続いて上がってはみたもの……
 俺……どうしたらいいんだ?

 その場に立ち尽くす俺に、

「宗一郎はここね」

 彼方に勧められ、とりあえず、囲炉裏を囲むようにセッティングされた席に座る。
 でも、紅牙(自分?)の隠れ家にきたとはいえ、他人の家同然で……どうも居心地が悪い。
 キョロキョロと周りを見渡すくらいしか、することがない。

「で、どうだい? 久々の隠れ家は」

 幻夜が俺の横に座りながら聞いてきたが、

「いや……そう言われても……」

 何とも答えようがない。そんな俺に、

「そこは紅牙がいつも座ってたとこだよ」

 そう言って彼方は微笑む。

 ……いわゆる、上座ってやつだな。
 なんだか申し訳ない気もするけど……。

 ……そうこうするうちに、篝と天音も席に着く。
 俺から見て左から彼方、天音、篝、幻夜で囲炉裏を囲む。
 おそらく、これがこいつらの定位置なのだろう。

 そして、“宴“がスタートした──。

 ……ていうか。
 これは、口にしても大丈夫なんだろうか??
 見た目は普通だけど……ここは妖怪の住む幻妖界、何が入ってるか分からない!?
 別に篝を…こいつらを信用していないわけではないけど、どうかな?
 一応、熊鍋の他にもいろいろあるけど……

「大丈夫だと思うよ? 口に合うかは……とりあえず食べてみたらいいんじゃないかな?」

 そう言って幻夜は熊鍋を取り分け、俺に手渡してくれた。そして、

「あ、僕の持ってきたのも良かったら食べてみて?」

 そう笑顔で勧めてくれたのは、幻夜の手土産──デカい三段重にびっしり入った“いなり寿司”だった。
 “幻夜=妖狐=キツネ”
 ……ということは、これは本場仕込みの“いなり寿司”?
 とりあえず、すでにそのうちの二段分は彼方に手渡されていた。

「……彼方ちゃんは…相変わらず細いのによく食べるねぇ」

 篝はそう感心…いや、半ば呆れるように言い、

「幻夜くんがおいなりさん持ってきてくれて助かったよ……ここにあるのだけじゃ足りなくなっちゃうとこだったからねぇ」

 相変わらずの口調だが、手元では天音との熊肉争奪真剣バトルが繰り広げられている……!?
 
 ……でも…まぁ、確かにな。
 すでに彼方の抱えているいなり寿司一段目は……もうほとんど残ってない。
 だが、彼方の食べっぷりも“妖怪”だし……と思って納得してたんだけど、

「おい、彼方コイツがおかしいんだからな? 一緒にするなよ?」

 天音がタイミング良く俺の考えを否定しながらも、篝から肉を奪い取る。悔しがる篝!
 そして、それを微笑みをうかべ見守りつつ……慣れた様子でしっかり自分の分を確保している幻夜。

 ──……まぁ、とりあえず。

 俺も幻夜が取ってくれた熊鍋に口をつけてみようか……?
 森を延々歩かされて腹も減ってるし?
 せっかくだし、な?

 そう自分に言い聞かせつつ、恐る恐る口へ……

 …………

 ──……ん? あ……れ?

 美味い……かも…!?
 それに、何だか懐かしい味のような気さえする……?

「おいしい?」

 もごもごといなり寿司を食べながら様子を伺うように聞いてきた彼方に、俺は素直に頷く。

 それを見た彼方…そして他三人からも、優しい笑顔がこぼれていた──。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

処理中です...