俺の前世が『あやかしの秘宝を奪って人間に転生逃亡した戦闘狂の鬼』と言われても、全く記憶がございません!

紫月花おり

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第一章

第17話 モノは試し!!?

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 ここは、妖の世界である幻妖界。
 紅牙の隠れ家で、仲間たちと熊鍋パーティー……というより、

 重箱二段分のいなり寿司をほぼ片付けた彼方も参戦し、更に白熱していく肉争奪真剣バトル!!
 そして、酒盛り!!(俺と彼方を除く)
 普段家では味わえない…いや、今までに体験したことのない騒がしい食事風景……!

 ……でも

 仲が悪いのかとも思ったけど
 肉争奪戦はマジモードだけど
 皆楽しそうだし、俺も自然と笑い合える。

 ──……あぁ
 俺…この感じ…この光景を知ってる……?
 俺はこうやって…皆と……

 仲間こいつらと──……

「どうかした? 宗一郎」

「えっ……!?」

 彼方の声に、俺は我に返った。

「あ…あぁ、うん……俺さ、この光景…見たことあるなって……」

 俺がそう言った瞬間

「「「「思い出したの/か/かい!!??」」」」

 四人の声が見事にハモった……!!?

「えっ……いや…分かんない…よ……?」

 思わず曖昧に返事をした途端、この場に流れるあからさまにガッカリした雰囲気……!

「まぁ…急には……?」

「……なぁ?」

 篝と天音がお互いを納得させるように顔を見合わせ、彼方と幻夜は苦笑をうかべていた……。
 なんだか申し訳ない気分になりつつ、改めて皆の顔を伺うように見回す……が、ふと思った。

 天狗、妖狐、鴉天狗に鬼──

 出会ってからそんなに経ってないが、ことごとく俺の“妖怪”イメージは覆されてきた。

 だが……

 性格や言動はともかく、こいつら……本当に、外見はいわゆる美形揃いだ!
 まぁ、妖怪は人間を怖がらせることの他に、惑わすようなこともするらしいから……これはこれでアリなのかな?
 ただ、この四人に関してはそんなこと……少なくとも彼方は、自分の外見を意識してもない気がする。

 ──ん? まてよ??
 こいつら、今は人間仕様だったりするわけで……この姿は“仮”ってことだよな?
 じゃあ…姿って……??

 ……よし、それとなく聞いてみようかな?

「……な…なぁ、俺といっしょに来た彼方と天音はともかく、なんで幻夜までスーツなんだ?」

 いや、あの森をこのスーツ姿で、しかもデカい手土産を持参して来るってのがそもそもすごいのだけど。
 とりあえず、遠回しな質問を切り出してみた俺だが、幻夜は特に気にする事なく、

「僕も人界からそのまま来たからね。それに、この姿の方が都合が良いんだ」

 篝に酒を注ぎつつ、そう答えた。
 ……て、そういえば、篝…子どもの姿なんだけど……酒大丈夫なのか??

「で…でも、それって本当の姿じゃなくて、人間の姿人間仕様ってことだろ?」

 (一旦篝の飲酒は置いといて)恐る恐る聞いた俺に、天音が今度は彼方と肉の取り合いをしながら……

「一応、気配…妖気を抑えるって意味もあるんだが…… 天狗オレらは見た目あんまり変わらんぞ?」

「そうだねぇ……服が違うくらいかなぁ」

 彼方がそう付け加えた。
 少なくとも天狗の姿は人間とそんなに変わらないのか?
 ……あぁ、そういえば、

「篝も本当は大人なんだろ? なんで子どもの姿なんだ?」

 その質問に、篝は注いでもらった酒を飲みつつ、

「うん。まぁ、ボクも妖気を抑えるとかの目的でこっちでいることが多いんだけど──……気になる?」

 まぁ…それ以前に、見た目未成年子どもの飲酒は……だいぶ問題映像だしな。

「う…うん、ちょっと気になっただけ……皆、本当はどんな姿なのかな、て──」

 正直に答えた俺。
 その言葉に四人は顔を見合わせた。

「「「「・・・・・・」」」」

 ……なんだ、この沈黙は?
 なんか俺マズいこと言ったのか……!??

「……まぁ、オレはこっちの方が気に入ってるんだが……」

 天音がそう言い、篝に視線を移すと、

「……見たら思い出すかなぁ?」

 篝は彼方に視線を送る。

「う~ん…無理っぽい気はするけど……」

 彼方の答えに、今度は……

「まぁ……試してみるかい?」

 幻夜が三人の顔を見回すと、その場に流れた一瞬の沈黙──その後。

「……一瞬でいいなら」

 溜め息をつきつつも、そう言って頷く篝。それを確認した天音が、

「よし……じゃあ、やってみるか!」

 そう言って立ち上がり、他三人も(半ば仕方なく?)……俺の目の前、横一列に並んだ!

 この場の妙な緊張感に、固唾を飲んで見守る中──

 別に派手な変身シーンを期待したわけではないけど
 はあっという間の出来事だった──!

「……へぇ…これが…!?」

 これが──……
 人間、子どもの姿だった妖たち四人の本来の姿……!?

 彼方と天音は本人たちが言ったように、ほとんど変わらない。
 顔などの外見はほぼそのままで、服装が洋服から篝のようなアレンジ和服…彼方は白と紫、天音は黒を基調とした和装に変わり、髪飾りや細々した装飾品がプラスされているくらいだろうか。
 まぁ、元々天音は全体的に黒いイメージだったしシルバーアクセがジャラジャラしていたから、違和感はあまりない。
 彼方に関しては、和装になったことと、その髪に付けている飾りでより中性的な印象が強くなっただろうか……?
 どちらにしても、伝承にあるような天狗っぽさはない。
 強いて言うなら……一応伝承の天狗と似たような和装だな、ということくらいかもしれない。

 幻夜もアレンジされた和服…袴姿に変わっている──。
 メガネを外したその目元は、よりキツネっぽく、それに加えて髪と同じ金色のキツネの耳と……ふさふさの尻尾!!
 ……ある程度予想どおりの姿だ。
 よく漫画とかで出てくる擬人化されたキツネな感じ?
 ただし、そこには気品と妖しさを兼ね備えていた。

 そして、篝の大人になった姿はというと……
 服装こそ先ほどのアレンジ和服が大人用になったくらいの印象だが、その身は…美少年がそのまま成長した美丈夫姿で、少し伸びた髪と角、長身で細身なのにしっかりとした筋骨格をしている。
 “鬼”のイメージでいうなら、恐くてゴツい鬼ではなく、妖艶な鬼といったかんじだ……!

 ──にしても、四人とも背が高い。
 篝以外はとくに伸びてはないだろうが、俺より背の高い彼方でさえ他三人と比べると一番低い。
 それに、四人は今までも十分美形だったが、本来の姿に戻ったからか……その美しさに妖艶さが加わり、思わず目を奪われるほどだった。

 確かに、こんなのが出てきたら──
 人間なんて簡単に目だけでなく、心を奪われ…惑わされるに違いないだろう。

 更にいうなら、妖気…のせいかは分からないけど、明らかに存在感と威圧感が増している気がする……!
 絶対、服装が違うとか簡単なことだけではなく、だ。
 そして、実年齢や歳の差は分からないが全員20代くらいに見えるし、それほど差はなさそうに思える。

 ──これが本物の妖怪!!

 あぁ…俺、本当に…ファンタジーな世界に来たんだなぁ……!
 そして、それに思いっきり巻き込まれているのかぁ……

 改めて妙な納得と実感が湧いてきた。
 本物の妖怪を前にして、色々な意味で感慨深く見とれていた俺だが、

「……もう、いい?」

 篝のその言葉に、急に我に返った。

「あっ……うん、ありがとう」

 そう答えて頷くと、四人はさっきまでの姿に再び一瞬で戻った──!

 ……そして

「──で、どうだ? 何か思い出したか?」

 席に戻るなり聞いてきた天音。
 他三人も席に着きながら、かすかな期待を込めた視線で俺を見つめる──が

「──…え…と……ごめん」

 そう答えた瞬間の──このガッカリムード!!
 そして、すっごく気まずい空気!!!

 これには本当に、申し訳ないやら、居たたまれないやら──……だが、どうしようもない。
 だって……真実だから。

「やっぱりダメかぁ……」

 そう呟き、ガッカリする天音に、酒を注ぎつつ……

「まぁまぁ…そう焦らなくていいと思うけどね……オレは」

 苦笑をうかべる彼方。
 彼方のそんな言葉に、

「…まだ、そんな悠長なことを……」

 !? 幻夜が小さく呟いた……?
 ……たぶん、彼方はもちろん、他二人にも聞こえてないほどの小さな呟き。
 逆に、なんで俺聞こえちゃったんだろう……と思うほどだった。

 ──ただ、幻夜のその言葉には、あまりにもいろいろな意味が込められているようにも聞こえた。

 “俺が紅牙の記憶を取り戻すこと”

 それは少なくともこの場にいる全員が望んでいるはずだ。
 だが、それは単に友人だから、というだけではない──。
 前に会った時も、幻夜は彼方に

 “急いだ方が良い”

 とも言っていたし、何より、

 “三妖の均衡を崩しかねない”

 とも言っていた──。
 それに、星酔だって……彼方に同じ様なことを言ってた気もするし。
 
 こいつらには、こいつらなりの想いや事情がある。
 は分かっている──痛いほどに。
 だからと言って……俺自身、どうしていいかも分からないし、この先どうなるかなんて──全く分からない。

 それでも──少なくともこの場は現状を気にせず、とばかりに続行される宴。
 ……ふいに、

「どうしたの、宗一郎? ……大丈夫?」

 篝が心配げに声をかけてきたが、

「え? いや…大丈夫、何でもないよ……」

 慌てて答えた俺。

 ──まぁ…よくよく四人の姿を見て思ったが
 俺も随分とこの状況、この感じに慣れてきてしまっているのか……?
 今までなら、こんな非現実、非科学的なことを前にして正気ではいられなかったし、認めるなんて以ての外だったハズだ。
 ……なのに。
 今の俺は素直にこの状況を受け止め、こいつらと向き合いつつある……ような気がする。
 
 ──そう思った瞬間。

「──ッ!?」

 俺の脳裏によぎったもの──……それは、さっき俺が感じたあの感覚。

 皆とこうして向かい合っての騒がしい宴

 ……あの懐かしさが、映像となって…四人と、四人とが重なって見えた……!?
 さっきは朧気な感覚だった……だが、今のは違う。

 ──……

 ……だけど。
 だけど、敢えてこいつらには言わずにおこう。

 紅牙の記憶の断片であることは、間違いない。
 そこに根拠なんてないけど……そう言い切ることができる。

 きっと、は……

 紅牙にとって、大切な記憶──仲間と過ごした時間

 そして、それは

 

 紅牙にとっての、楽しかった思い出だから──……
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