俺の前世が『あやかしの秘宝を奪って人間に転生逃亡した戦闘狂の鬼』と言われても、全く記憶がございません!

紫月花おり

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第一章

第19話 だから言ったじゃん!!?

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 思わず聞いてしまった、篝と彼方の会話──彼方の本音。

 彼方は…彼方にとっては、俺も紅牙も同じ“大切な友だち”だという。
 それは言い換えれば……紅牙である限り、宗一郎でいても構わないということだろうか?

 そして、彼方の望みは、紅牙を含めた仲間みんなと楽しく過ごせる日々が再び訪れること──。
 その望み…願い、それだけは伝わってきた。……痛いほどに。

 いくら周りが言うように俺が紅牙であったとしても、今は“記憶”と言えるような確かなものではない…断片のみが時折ちらつく程度。
 少なくとも今の俺は、彼方のことも、皆のことも──覚えてないし、思い出せない。

 何より、紅牙がどんな人物だったかもよく分からないのだ。
 ……自分の…俺自身の存在すら疑問に思ってるくらいだし。
 そんな俺でも、彼方の望みを叶えることが出来るのだろうか?
 期待に応えられるのだろうか……??

 ……今、俺には何が出来る?
 今、俺は…何をすべきなんだ──??

 答えは一つ。
 俺はでしかないし……俺はとして、皆と接する──今はそれしか出来ない。
 
 ………。

 このままここに立っている気も、再び横になる気にもならない。
 俺は気持ちを切り替えるように、一つ深呼吸をすると…襖を開けた──!

「どうしたの? 宗一郎」

 俺の顔を見て、にこやかに言う彼方。
 ……俺は、必死に言葉を探した。

 何て言えばいい?
 自然な答えは……??

 そんなことを考えていると、

「お茶、入れようか。飲むでしょ?」

 まるで助け舟を出すかのように、篝が苦笑混じりに声をかけてくれ……俺は慌てて頷いた。
 それを確認し、席を立った篝と入れ替わるように俺は先程の席に座った。

 ──……この場に流れるしばしの沈黙。

 俺が今の二人の会話を聞いてしまったことは……やはりバレてるのだろうか?
 少なくとも、篝にはバレてただろうな……あの苦笑から察するに。

 とりあえず、俺は言葉を探し続けていた。すると……

「宗一郎…もしかして、今の話……聞こえちゃった?」

 ──…ッ
 彼方の言葉に思わず、ビクッとしてしまった俺。

「…あ……う…ん」

 小さく答えたが…次の言葉に詰まっている俺に、彼方は苦笑をうかべたままゆっくりと……まるで言い聞かせるように、

「あのね、宗一郎……オレが言ったこと覚えてるよね? それに、焦ってどうにかなることじゃないし…何より、自分で思い出してもらわなければ意味のないこともある……」

 そう言い、彼方は改めて俺を見つめ直し……

「例えば、オレから紅牙はこんなだったとか教えることは簡単だけど……それはオレから見た紅牙であって、紅牙自身じゃない」

 まっすぐ見つめてくる琥珀色の瞳から……目が離せない。逃れられない。

「オレの望むのは“紅牙”なの。作られたものじゃない……のね」

 まるで俺の中の“紅牙”に語りかけるような言葉。
 
 ──彼方の言いたいことは解る。
 だが…それは、今の俺にとってはものすごく難しくて、ものすごく……痛い。
 そんな俺に彼方は、

「──もちろん、宗一郎という存在が今ココに在ることにも意味があることだと思ってるよ。本来なら“紅牙”として生まれてくるハズだったし…ね」

 それは──本来なら宗一郎…俺は存在するはずではなかった……ってことか?
 だからこそ…今、俺が存在することに意味があると……??

 心がざわつく俺に、彼方は優しく…だが、確かな意志を込めて、

「オレにとっては宗一郎も…たとえ紅牙でなくとも、大切な存在であることに変わりないんだ」

「彼…方……」

「──だからね、宗一郎は宗一郎で良いんだよ。その中でもし、記憶が蘇ることがあるとするなら…オレはそれを待つよ。いつまでも」

 微笑みをうかべる彼方。
 俺は、未だこの真っ直ぐな瞳から目を外すことが出来なかった。
 真実を…その心を写し出す、その瞳から──。

 ──と、その時。

「……悪いが、そんな悠長なことを言っている余裕はないよ」

 襖が開いたそこには、部屋に戻ってきた幻夜…と天音の姿。
 幻夜の言葉にこの場の空気が張り詰めた気がした。
 嫌な沈黙が流れる中……二人と、お茶の用意をしてきた篝が再び先程の席に着くと、幻夜は改めて、

「……言ったはずだよ? あの宝は鬼だけのものじゃない。その在処を知っているのは紅牙だ」

 その厳しい言葉に、彼方は一瞬の沈黙をおいて、

「──分かってる。でも……」

「彼方ちゃん……」

「でもッ、オレは待ちたいんだ……紅牙が戻ってくれることを。それまで…いつまでも待つ……待ちたい…ッ」

 ──それは、叫びにも似ていた。
 今にも泣き出してしまいそうなほどで、あまりにも必死で。
 彼方がこんな表情…声音で言うなんて──

 だが……

「彼方クン…でも──」

「幻夜くん」

 更に言葉を続けようとした幻夜を制止した篝。そして、

「……彼方ちゃんの気持ちは分かる。それが簡単に変わらないこともよく分かってるよ……出来ることならそれが一番だし、ボクもそうしたい」

 そう言うと、改めて彼方を見つめ、

「でも──…時間がないことも分かってるよね?」

 改めて言った篝の言葉に、彼方の表情が変わった。
 ……たぶん、彼方は全てを承知で言っている。
 それを確認し、篝は彼方から俺に視線を移すと、

「紅牙の記憶…いや、宗一郎には一日も早く宝のことを思い出してもらわなければならないんだ──」
 
 それが、何のためだとか…そんなことは分からない。
 きっと、彼方たちの想いとソレ…宝のことは別問題で……。

 頭の中が混乱する。
 
 宝……忘れかけていたが、確かに以前幻夜も言っていた。
 紅牙が奪った宝は鬼だけじゃなくて幻妖界に影響を与えるモノであり、このままだと三妖の均衡を崩しかねないのだと。
 そう言われても、やっぱりどうにもならなくて……どうすればいいかなんて分からない!

 と、その時だった──

「「「「──……ッ!!」」」」

 一瞬にして、この場の空気を変えた──張り詰めた緊張感!?
 明らかに四人の表情も変わった……?

「……やっぱり感づかれたようだね」

 溜め息混じりに言う幻夜。

 何? 何がッ??!

「あぁっ…もう! だから言ったのに……ッ!!」

 急に慌てて、取り乱す篝……!

「ど…どういうことだ?」

 何をそんなに慌てるのか……??
 明らかに様子の変わった篝から天音たちに視線を移すと、

「さっき、みんなで元の姿に戻っただろ?」

「その時の気配を察知したみたいだねぇ……」

 困ったように言う天狗二人。
 あの一瞬で、四人の気配を察知…って……やっぱり、

「……敵…か?」

「敵って言えばそうかもだけど……なぁ?」

 天音が幻夜に視線を送ると、

「この場合はそうとも言い切れない…かな? とりあえず紅牙にも宝にも興味なさそうだからね」

 そう言って困ったように苦笑をうかべる横で、

「ボクには十分邪魔なんだけど……っ」

 苛立ち混じりに言う篝。
 ……こいつらの様子から察するに、知り合いっぽい…か?

「──…森に入ってたのは分かってたけど、結界で足止めされてるから放っといたんだけどね……」

 再び溜め息混じりに言う幻夜に天音は、

「早く言え…ていうか、何とかしといてやれよ……ッ」

「そうは言ってもねぇ……」

 明らかにやる気のない返事を返す幻夜。
 そこに、彼方が…まるで他人事のように、

「ものすごい勢いでこっち向かってきてるねぇ」

 ……どうやら、何かがこっちに向かって来ていて、その何かはこいつらの知り合い??

「……仕方ない。ボクが行くよ…」

 盛大に溜め息を着くと、篝は渋々立ち上がった。

「か…篝……?」

 心配気に見上げた俺に、

「ボクが出ないと余計面倒なんだよ……ボクに付き纏ってるストーカーだし」

「えぇっ!? ストーカー!!?」

 俺の言葉に四人が同時に頷いた!?
 そして、幻夜は仕方なさそうに……

「……僕も補佐しようか? 放っといたのは僕だしね…」

 まぁ、そうなんだろうけども。
 その提案に、篝は溜め息混じりに頷くと、

「まぁ、大丈夫だと思うけど……宗一郎たちもいるし…一応よろしく」

「了解……」

 呟くように言って幻夜も立ち上がった。
 そして、彼方も……

「じゃ、オレらは待機してようね、宗一郎」

 苦笑混じりにそう言うと席を立つ。

「え? いいのか…??」

 いや、いいのも何も……俺に選択肢はない。
 せめて、待機して足手まといにならないようにするのが最善か。

「宗一郎の存在がバレても困るし、オレらがいるのがバレても面倒だから」

「ま、アイツにとっては…オレらなんて眼中にないとは思うけどな……」

 彼方の言葉に、苦笑混じりに天音がそう付け足した。

 ……いったい、どんなヤツなんだろう?
 想像出来ないけど……強い…のかな?
 篝をストーキングしてるくらいだし……?

 篝だって…外見はともかくとして……森で偶然、熊と出会って、鍋の材料にするくらいだからな。
 きっと、いや間違いなく、強いハズ!!

 まさかヤられるとは思えないけど…幻夜もいることだし……大丈夫なのかな??
 いろんな意味で心配になる…というか、気になるけど。

 ──というわけで。

 和室から縁側…外へ出た篝と幻夜。
 和室の障子の隙間からそれを見守る(?)俺と天狗二人──。
 どうやら、幻夜が隠れ家に結界を張り、俺らの気配や姿に気付かれないようにしてくれたようだ。

 そして、その敵ストーカーはやって来た──!
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