フォルティス・エトゥ・インフェルミ

MASAMBO

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別の世界から来た傲慢たる救世主

魔導兵器

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あれからまださほど日にちを経ていないが、リクはだいぶ落ち着くことはどうやらできたようだ。

「リク。よく見ていて。これが魔法よ」
「ん」

 レイラが手をかざすとゆるりと冷気が集まり始まる。それは一点に集約されていき、一つの氷柱が生み出される。それは的に突き刺さり、次第にあたりに粒子のようなものが散っていき、突き刺さっていたはずの氷は次第に消えていった。

 リクとレイラは屋敷から少しばかり離れた森の中にいた。

 森で2人は特訓をしていた。魔法の特訓である。

 この世界には『魔法』と言うものがある。魔力を媒介に火や水、風や土を生み出すことができる技術。まさに異世界にきたと思わせるものだ。

 魔力とは、体力に近い存在と考えてくれと構わない。しかし魔力=体力とは言い難い。何せ魔力は、体力が走り続けることで上昇するのに対して、魔力はそれがない。多少そのような傾向が見られる事例はあるものの、それは例外中の例外。基本的には生まれついた魔力を一生涯付き合うことになる。

 そして大半の人間は大した魔力を有さない。そのため、せいぜいタバコに火をつける程度の規模でしか生み出せないのだ。

 日常生活においてはなかなかに役立つが、いざと言う時、己の命が危うい時の切り札として扱うにはあまりに頼りないものというのがこの世界の一般的な認識である。

 しかし中にはとてつもない魔力を持つ人間もいる。その者はあたりを焼き尽くし、津波を起こし、台風を起こし、地震を起こすとされている。この表現自体は少々過度な表現ではあるが、膨大な魔力を持つ者はその一人だけで強力な力、軍事力となる。それゆえ魔力が高き者はそれだけで優遇される。需要に対して供給がまるで足りていないのだから当然と言えば当然である。

 レイラも膨大な魔力を有する者達だ。それも極めて一級。その辺にいるごろつきが襲いかかったとしたら、それはごろつき達を思わず同情せざるを得ないほどだ。

 では、リクはどうだろうか?

 それに対する答えは、彼は最高級であるとかえってくるだろう。されど未だ原石。まだ扱いも知らない、未熟者。

 いくら最高級の車を持っていたとしても、免許を持っていなければ乗ることはできない。免許を持っていたとしてもそれから一向に乗らないとなれば、それは宝の持ち腐れである。それと一緒だ。リクは未だ免許を持てない素人だ。精々仮免許を以ている程度だ。だからこそ特訓が必要であった。

 先ほど魔力は訓練でもどうすることもできないと述べた。しかしそれはあくまで魔力の話である。

 魔力。ここでは体力を例に話すことにしよう。

 例えば恐ろしいほどの体力が持った青年がいたとしよう。その青年が例えばボクシングでボクサーと戦って勝てるだろうか?トライアスロンでプロに勝てるだろうか?

 不可能とは言わないが、まず勝てない。体力がプロ以上にあったと仮定してもそれは難しい。なぜか?それは簡単。その競技には、その競技に勝つための技量というものが必要であるからだ。

 当然魔法にもそれは適用される。魔法は使用するたびに魔力を消費する。しかしその消費量は使用者に依存する。半端者はがむしゃらに使用するがゆえ、無駄に魔力を消費する。しかし熟練者はそのようなことはしない。必要最小限度の消費量で魔法を行使する。

 その意味では、ただ魔力があれば良いというものではないのだ。

 ゆえに訓練が必要であった。

「やってみて」
「こうか?」

 イメージをする。魔法。体内にある力が絞られるような不思議な感覚があった。その感覚と同時に手の周りに氷が集まっていく。大きく大きく。より大きく。

 そしてそのまま破裂する。

 衝撃が襲う。

「うごお!」

 その衝撃のせいでかなり後ろへ飛ばされる。

「大丈夫?」
「……なんとか」
「そう。それならもうすこしやりましょう」

 そう言ってレイラは立つように促す。

「もう少し、興味を持ってくれたら嬉しいのだが……」

 なんて独り言を呟くが、残念ながらレイラには聞こえていないようだ。

「ここにおられましたか。レイラお嬢様、リク様」

 後ろから落ち着いた声が聞こえてくる。振り返ると、背筋をピンっと伸ばし、にこやか無表情でカーティスが立っていた。

「カーティス。何か用かしら」
「えぇ。実はリク様にこれから役に立つであろう物をお渡ししたく」
「役に立つ物?」
「はい。リク様は未だ戦う決断をなされていないと聞いております。しかしながら、決断をしていなからと言って、一切襲われることもなく、戦わないということは難しいでしょう。何より友人を探すおつもりなのでしょう?ならば尚更戦うことになりましょう。そこで、リク様に合う。いえ、リク様にしか扱えないであろう代物をご用意しました」

 そう言ってカーティスは上等な皮が使われ、そうそうなことでは壊れなさそうな大きな黒いケースを取り出し、何とも大きな鍵を取り出し、開錠する。

 開かれた中には大きな拳銃があった。漆黒の大きな銃が。

「手に取られてみては?」

「あっ。はい」

 口角を歪ませながら進めるカーティスにリクは大人しく従う。

 ものがものである。リクは恐る恐るそれに手を触れ、その漆黒の拳銃を手に持つ。

「魔導兵器でございます。魔力を媒介に弾を放つ拳銃でございます。漆黒の拳銃の名は『ウォルンタース』でございます。そしてこれらは先ほど述べたように魔力を媒介にするが故、弾丸を詰めることなく攻撃が可能でございます。ただ必要がないだけであり、こめることも可能でございます。こちらがその専用弾『プレケス』でございます。こちらにはありとあらゆる魔法が詰まっており、放つことでその魔法を発生させることができる代物です。そしてこちらも使用者の魔力次第で威力が増すものです。リク様は間違いなく、こと魔力に関して言えば他のものを遥かに凌駕しましょう。その魔力を持ってすればこちらの武器を十二分に使いこなすことができましょう」
「魔力ねぇ……。そもそも魔法という概念がなかった俺からすれば、そんなことを言われてもいまいち理解はできないけどな」
「それでも、リク。あなたが膨大な力を持っている事実は変わらないわ」
「ただ……。水を差すようで申し訳ございませんが、リク様が秀でているのは魔『力』でございます。魔法を行使するというのはまた別の話でございます」
「それは何となくわかってる。たぶんあれだろ?俺は無駄に体力があるだけの人間ってことだろ?」
「ええ。端的に言えばそうね。だからあまり自分の力を過信しすぎてはいけないということ」
「大丈夫。別に自分が特別スゴイとか思ったことなんて……。いやあるな。めっちゃあるな。何なら自分に結構自信持ってる方だな俺……。自己肯定感に関して言えばカズキ曰く『出会った中で最高』と言われているからな……。うん、わかりました。過信しないよう気をつけます」
「……本当に大丈夫?今の独り言聞いただけだと不安要素しかないのだけど?」
「全てにおいて完璧を求めると、何も進まない。こういう時は、その不安要素を受け入れるべきだと思う」
「リクはどうやら自分のことを正当化するのは得意なようね。まぁいいでしょう。それで大丈夫なら」

 呆れた表情をしながらレイラはため息をつき額に手を添える。

「それでは、一度試されてはいかかです?」
「そうします」
「ではこちらに」

カーティスはそう言って、森の方向へと歩いていく。リクもそれに続く。
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