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年上聖皇后の苦悩と献身
エピソード16
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暫く抱き合ってその身体の体温と存在を確かめあっていた二人だが、始めにラーイがアーディルの肩に手を置くとそっと身を離して、瞳を覗き込んだ。
「なぜ私の下を離れた。ハムザを授かった時、聖女の器としての儀式には加わらないと聖教国の神官を呼んで告げた場に君も居たな。魔石の奉納は他国を圧倒していた我が帝国が聖巫女で皇后の君の派遣を取り止めたとて、誰に文句を言われるものでもない。それでもなぜ、皇居付きの女官たちすら謀って、一人で聖峡谷に向かったのだ」
厳しい口調では無かったが、誤魔化しは許さないと言う決意が見て取れて、アーディルは口を固く結び、目を伏せることしか出来なかった。
「そうか、君の口からは教えて貰えないのだな。やはり、私は父や皇太子であった兄にも及ばない、片足の皇子であるからな、君の枷でしかないことくらい、わかっていたさ、でも」
ラーイの口から自嘲の言葉が溜め息と共に溢れ落ちたのを聞いて、アーディルの目にカッと火が灯り、
「皇帝ともあろう方が、そんな弱音をお吐きになってはなりません!
あなた様は、帝国の太陽であられる前皇帝と砂漠のウェンディール様と呼ばれた前皇后陛下の御子!しかもその足は成人間も無くデスデザードでの魔物討伐の時に兄皇太子を守って負った名誉の負傷でございます。あなた様が卑下されることなど何一つもございません。
むしろ、尊き御身の傷を癒せず、この身に聖女さまを下ろすことも出来ない、不甲斐ないわたくしのせいでございますれば、この身を賭して聖女さまに陛下への御慈悲を願う以外、この身の置き所など何処にもございません。
高位魔力保持者はみな亡くなり、魔物討伐ではなく無様にも魔力切れで倒れたことで生き永たえただけの、あなた様の御父上の側女のわたくしを、帝国の為とはいえ、娶らねば成らなかったあなた様に、聖女イズミの如き清い乙女と番って欲しいと帝国貴族であれば誰も彼も願うのは当然でしょう。
勿論、わたくしも同じ思いでございます。あなた様には聖女さまと共に明るい未来を歩いて欲しいと、僭越ながらも願わずにはいられないのでございます」
そう熱く強い口調で、まるで言い聞かすように告げた。
その言葉に泣きそうに顔を歪めて、ラーイも強く強く言い放った。
「違う、今代の聖女さまも仰っていただろう、欠損部位の再生など聖女さまとて無理であると。かの聖女イズミさまですら死と病から人を救うことは聖女としても不可能と仰っているのだから。
そして、君は本当にわかっていない、イズミール教のことも私のことも」
そして、またアーディルをグッと抱き締めて、ラーイはぽつりぽつりと話し出したのだった。
聖女召喚の儀、聖教国が他国に優位性を誇示できる唯一。
であるが、長い大陸の歴史の中で、必ず千年に一度毎、執り行えることでは無かった。
魔力が足りず失敗することもあれば、魔力は貯まれど器となる聖巫女が見つからない時もあった。
イズミが召喚されたのは、そんな時代のことであった。
召喚の儀の時期を大幅に越え、世は瘴気に溢れて人は死と病に倒れ、魔物が跋扈した時期であった。
各国は聖教会を責め、早く聖女召喚をとせっついた。
同じ時、魔物の驚異から身守る為に人間同士で争うことの不条理を訴えた一族が国をまとめ統一を果たした帝国で、初代皇帝の皇子ラシードの婚約者で忠臣の娘アーヤが突然光属性に目覚めた。
それは、偶然の出来事で、デスデザードで皇太子の責務である魔物討伐中に、魔物の一撃を受けて脇腹を抉られる大怪我を負った。
その時、一緒に討伐隊として赴き、風・魔・法・で魔物を屠りまくっていたアーヤが、ラシードを助けたいと一心不乱に願った時に顕著化したのだった。
後天的に魔力にに目覚めることはあるが、二属性となると、前代未聞、しかもそれが光属性という稀少で、まさに世界に望まれている存在に、急転直下、アーヤは立たされたのであった。
直ぐ様聖教国に連れ去られ、聖女の器に決められて、あっという間にその日を向かえる運びになった。
ラシードとの婚約も聖教会から茶々が入り、一方的に解消されてしまった。
それに、激怒したラシードが、帝国の軍事力を背景に、その儀式に同席を願って叶えられた。
当時の教皇の首に剣を当て、一筋の血を流させたのだから、脅して脅して脅して脅して、掴み取ったとも言える。
魔方陣の四方を囲む神官の一人としてラシードが魔力注入を魔方陣にしながら、聖女召喚の時を待っていた。
その時まで聖女の器は各国から集めては居なかったし、魔方陣に魔力を注ぐのは聖乙女ではなく神官であった。
イズミが聖女として召喚され、起き上がった瞬間に、ラシード以外の神官が風魔法で飛ばされ、聖女イズミはラシードを唯一と宣言して、聖教会での一切の儀礼を取り止めてウエス帝国へと赴き、直ぐ様婚姻して皇后についてしまった。
聖女の魂を入れた器の魂は消滅すると思われていたが、器の意思の強さに左右されることがこの時わかり、この後から聖巫女の思想統制が厳しくされていくのだが、それはさておき。
聖女イズミはアーヤの意識と共鳴して、ラシードを選んだし、それは聖教国へ向かう前に二人で決めていたことだと、アーヤの記憶で知ったので、そうしたのだが、それからの長い皇后として過ごすうちに、思い至ることがあった。
なぜ、呼ぶ魂が16歳の少女であるか。
少女の魂は、不幸な死とそれに纏わる記憶が宿っている。
イズミもまた、幼少の頃より病を得て、儚くして散った命であった。
しかも、同世代の少女よりも病院で生活していた為、手にしている情報が少なく、異世界に変化をもたらすには知識が足らない。足らないからこそ、聖教会が利用しやすく、世界に変革をも・た・ら・さ・な・い・安心な存在なのだろう、そう気がついた。
何千年経っても変わらない、魔物は消滅せず、階級社会は当然のように存在し、魔力という特権が非常に優位に働く世界、その歪さと教会の思惑にイズミが気がついたのは、皇太子の婚約者として長く教育を受けてきたアーヤの知識に依るものである。
であるならば、帝国で護るべき者は、聖女そのものではなく、聖女の器足るべく光属性の者である!
そうして、イズミはラシードとの子に、その配偶者に、光属性の者を守護せよと言い伝えたのだった。
聖教会から各国の巡礼を願われても、それが巡礼という名の子作り指令で、それを指示する教会には各国各家門から大量の寄付金が支払われ、多くが教会の上層部が吸い上げると言うことも知っていたので、イズミは一切を拒否し、その世代の恩寵はウエス帝国のみが受けることとなった。
各国と聖教国からは睨まれ非難されたが、元々次期皇后のアーヤを拐って聖女イズミの器にした聖教会に非難する資格は無いとイズミが宣言し、それに賛同する国や地域には聖教国を通さず、秘密裏に瘴気浄化などの支援を行った為、非難の声は年々減っていった、聖教国の支持と共に。
聖女イズミを崇めるイズミール教が聖教の一派として急速に支持拡大していくのだが、それはまたとして。
肩に置いた両手にグッと力を込めてラーイはアーディルを見つめ、一つ息をして、ハッキリと言った。
「ウエス帝国で一番尊い御身は、聖女さまでも皇帝でもなく、光を宿す聖巫女アーディル、君だ。
そして私にとっても、決してあなたを儀母と思ったことは一度と無く、かつては美しい姉のように憧れていて、妻として娶った今は私の最愛であると、この胸を開いて見て貰いたいものだ。
あの日、デスデザードに大規模進行をかけた皇帝の部隊の代わりに、帝都警護に当たっていた皇太子の兄が胸騒ぎがすると、一番安全と思われて、秘され護られていたあなたの安全を確認しに向かい、非業の死を遂げる前、皇居の守護を命じた私を呼んで告げたのは『アーディルを死守せよ』であった。その命令に私は喜びに震えたのを忘れられない、片足で皇族の義務を果たせぬ私が、聖女イズミの勅命を命じられたのだから。
愛しいあなた、どうぞ、この私にあなたの慈悲を。愛してるんだ、アディー」
その肩を引き寄せ、ギュッと抱き締めたのだった。
アーディルは戸惑い、手をラーイの背に回すことが出来なかった。
そんなアーディルの脳裏にまた黒髪眼鏡の聖女の姿が浮かび声が響いた。
ーあー、覗き見みたいでごめんね、いやーゆっくり誤解を解いて欲しいとは思ってるんだけども、次もあるんでね、ちょっとだけチートを授けちゃうね。出産後で皇帝が出席を拒否した聖女召喚の儀に一人でいったの?誰に頼まれたか、それを旦那さんに教えてごらん。いや、出歯亀趣味は無いからさ、ごめんね、ごめんねぇ
「ラーイ様、あの、わたくしが聖女召喚の儀に向かったのは、」
躊躇いがちに話し出すと、
「ああ、宰相になった西の族・長・だ・っ・た・男・に指示されたからだろう?」
ラーイが何でもない顔で答えた。
「ええ、どうしてそれを!」
アーディルが目を真ん丸にしてラーイを見つめて問うと、
「他に居ないだろう、皇子誕生の祝いとして君に接見した者は彼しか居なかったからな、すぐに捕縛して吐かせた。
当然、彼奴の背後に大神官が居て、聖女を私に娶ることを理由に君を下賜させて自分のモノにしようとしたことも知っている。元々彼奴も皇族出身故、イズミール教では聖女より聖巫女が優先されると死ってのことだろう」
ラーイの目に苛立ちが見て取れた。
「ごめんなさい、あなたを信じきれなくて」
「いや、私がアディーの不安をもっとしっかり取り除けば良かった。あんな奴らをとっとと排除して!アディー、君の素直な気持ちを知りたい。帝国への献身ではなくて、私個人への気持ちを」
熱く見つめるラーイの視線に、アーディルは身を捩って頬を赤らめた。
スタンピートの後始末の為、魔物の攻撃があった場所を一緒に回ったラーイに、始めは悲しみを共有する者同士として、その後は段々と、灼熱の砂漠を義足で歩き回り、痛みに耐えながら誰よりも黙々と動くその姿に心を打たれ、気になって見つめれば、いつかの少年の眼差しは無くなり、父皇帝に良く似た小麦色の肌に濃紺の髪、砂漠の砂のような濃い金の瞳の精悍な顔立ちに、母皇后譲りの深い慈愛の心を持った彼を、深く深く愛すようになっていったが、年が10も上だとか、元々は義母だとか自分の気持ちに蓋をし重石を乗せて、直視しないように努めた。
仮初めの妻、聖女さままでの繋ぎ、皇族を増やすための借り腹。
数々の言い訳を自分の中に積み重ねて来たけれど、全部を脱ぎ捨てた裸の心には、ラーイが好き、そんな単純な気持ちだけが残されていた。
婚姻すぐ子を成し、聖女召喚の儀へと向かおうとする聖教会の命令を皇帝として一方的に拒否して、もう一人子を儲けた、その時には、もう疑いようもない彼から与えられる愛情に溺れている自覚が本心ではあったのだ。
儀式の不参加を決断したラーイに、安堵している自分に気がついて愕然としたのだから。
正直にいえば、聖女さまとは言え、他の女と夫を共有などしたくない、そう思う自分の浅ましさを恥じた。
聖女の器であれと過ごしてきた自身の矜持と本音との解離に悩み気鬱になっている時、宰相から『婚姻当初の予定通り聖女の血を皇室に入れる貴女の使命を忘れるな』と秘密裏に言い付けられて、その言葉に従ってしまった、頷いてしまったのだ。
そのまま、彼の手の者に導かれて帝都の神殿の奥にあるテレポーテーション部屋から聖教国へと向かった。
そして、聖教国で待ち受けていた大神官から聖女召喚後、下賜されることが決まったと聞いて、腹を括って望んだ儀式であった。
それが、皇族の面子からだなんて!民の為、帝国の為という教えは単なる耳触りの良いお題目だったのだと気がついた、アーディルの心に火が点りメラメラと一気に燃えた。
「愛しているわ、ラーイ心からの愛をあなたに。そして、あなたと子供たち、普く全ての帝国臣民の幸せを願っているわ」
そう告げて、熱烈にラーイの唇を奪い、深いキスをした。
程無くして、その修行部屋まんが喫茶にある数多の聖女教典ミステリーコミックをラーイと共に読み漁り、帝国に起きた未曾有のスタンピートの原因を推察すること暫し。
数々の聖典のシリーズを読破した後聖供物ソフトドリンクを二人で飲んで、お互いの目を見て頷きあった。
そして、二人は小さく各々が独り言ひとりごちた。
「真実は一つ!」
「皇帝じっちゃんの名に懸けて!」
ーメグ様メグ様、何か二人が気がついたようですが。
ああ、気にしないで、長くあのシリーズを読んでいると一度は口づさみたくなるフレーズなのよ。
ーはあ、そう言うものなんですね。でも、今回は断罪しないんですか?
ええ、それは次の話を聞いてからの方が良いと思うのよ。
そうして、高い塔の中で、ソファにキュッと縮こまって座っている聖巫女を見た。
「さて、お待ちどう様。最後にあなたのことを教えてもらえるかしら?東の聖巫女さん?」
聖タバタがそう言うと、スッと姿勢を直して恭しく傅き、
「はい、仰せのままに。聖女さま」
そう鈴の音のような可愛らしい声で答えたのだった。
「なぜ私の下を離れた。ハムザを授かった時、聖女の器としての儀式には加わらないと聖教国の神官を呼んで告げた場に君も居たな。魔石の奉納は他国を圧倒していた我が帝国が聖巫女で皇后の君の派遣を取り止めたとて、誰に文句を言われるものでもない。それでもなぜ、皇居付きの女官たちすら謀って、一人で聖峡谷に向かったのだ」
厳しい口調では無かったが、誤魔化しは許さないと言う決意が見て取れて、アーディルは口を固く結び、目を伏せることしか出来なかった。
「そうか、君の口からは教えて貰えないのだな。やはり、私は父や皇太子であった兄にも及ばない、片足の皇子であるからな、君の枷でしかないことくらい、わかっていたさ、でも」
ラーイの口から自嘲の言葉が溜め息と共に溢れ落ちたのを聞いて、アーディルの目にカッと火が灯り、
「皇帝ともあろう方が、そんな弱音をお吐きになってはなりません!
あなた様は、帝国の太陽であられる前皇帝と砂漠のウェンディール様と呼ばれた前皇后陛下の御子!しかもその足は成人間も無くデスデザードでの魔物討伐の時に兄皇太子を守って負った名誉の負傷でございます。あなた様が卑下されることなど何一つもございません。
むしろ、尊き御身の傷を癒せず、この身に聖女さまを下ろすことも出来ない、不甲斐ないわたくしのせいでございますれば、この身を賭して聖女さまに陛下への御慈悲を願う以外、この身の置き所など何処にもございません。
高位魔力保持者はみな亡くなり、魔物討伐ではなく無様にも魔力切れで倒れたことで生き永たえただけの、あなた様の御父上の側女のわたくしを、帝国の為とはいえ、娶らねば成らなかったあなた様に、聖女イズミの如き清い乙女と番って欲しいと帝国貴族であれば誰も彼も願うのは当然でしょう。
勿論、わたくしも同じ思いでございます。あなた様には聖女さまと共に明るい未来を歩いて欲しいと、僭越ながらも願わずにはいられないのでございます」
そう熱く強い口調で、まるで言い聞かすように告げた。
その言葉に泣きそうに顔を歪めて、ラーイも強く強く言い放った。
「違う、今代の聖女さまも仰っていただろう、欠損部位の再生など聖女さまとて無理であると。かの聖女イズミさまですら死と病から人を救うことは聖女としても不可能と仰っているのだから。
そして、君は本当にわかっていない、イズミール教のことも私のことも」
そして、またアーディルをグッと抱き締めて、ラーイはぽつりぽつりと話し出したのだった。
聖女召喚の儀、聖教国が他国に優位性を誇示できる唯一。
であるが、長い大陸の歴史の中で、必ず千年に一度毎、執り行えることでは無かった。
魔力が足りず失敗することもあれば、魔力は貯まれど器となる聖巫女が見つからない時もあった。
イズミが召喚されたのは、そんな時代のことであった。
召喚の儀の時期を大幅に越え、世は瘴気に溢れて人は死と病に倒れ、魔物が跋扈した時期であった。
各国は聖教会を責め、早く聖女召喚をとせっついた。
同じ時、魔物の驚異から身守る為に人間同士で争うことの不条理を訴えた一族が国をまとめ統一を果たした帝国で、初代皇帝の皇子ラシードの婚約者で忠臣の娘アーヤが突然光属性に目覚めた。
それは、偶然の出来事で、デスデザードで皇太子の責務である魔物討伐中に、魔物の一撃を受けて脇腹を抉られる大怪我を負った。
その時、一緒に討伐隊として赴き、風・魔・法・で魔物を屠りまくっていたアーヤが、ラシードを助けたいと一心不乱に願った時に顕著化したのだった。
後天的に魔力にに目覚めることはあるが、二属性となると、前代未聞、しかもそれが光属性という稀少で、まさに世界に望まれている存在に、急転直下、アーヤは立たされたのであった。
直ぐ様聖教国に連れ去られ、聖女の器に決められて、あっという間にその日を向かえる運びになった。
ラシードとの婚約も聖教会から茶々が入り、一方的に解消されてしまった。
それに、激怒したラシードが、帝国の軍事力を背景に、その儀式に同席を願って叶えられた。
当時の教皇の首に剣を当て、一筋の血を流させたのだから、脅して脅して脅して脅して、掴み取ったとも言える。
魔方陣の四方を囲む神官の一人としてラシードが魔力注入を魔方陣にしながら、聖女召喚の時を待っていた。
その時まで聖女の器は各国から集めては居なかったし、魔方陣に魔力を注ぐのは聖乙女ではなく神官であった。
イズミが聖女として召喚され、起き上がった瞬間に、ラシード以外の神官が風魔法で飛ばされ、聖女イズミはラシードを唯一と宣言して、聖教会での一切の儀礼を取り止めてウエス帝国へと赴き、直ぐ様婚姻して皇后についてしまった。
聖女の魂を入れた器の魂は消滅すると思われていたが、器の意思の強さに左右されることがこの時わかり、この後から聖巫女の思想統制が厳しくされていくのだが、それはさておき。
聖女イズミはアーヤの意識と共鳴して、ラシードを選んだし、それは聖教国へ向かう前に二人で決めていたことだと、アーヤの記憶で知ったので、そうしたのだが、それからの長い皇后として過ごすうちに、思い至ることがあった。
なぜ、呼ぶ魂が16歳の少女であるか。
少女の魂は、不幸な死とそれに纏わる記憶が宿っている。
イズミもまた、幼少の頃より病を得て、儚くして散った命であった。
しかも、同世代の少女よりも病院で生活していた為、手にしている情報が少なく、異世界に変化をもたらすには知識が足らない。足らないからこそ、聖教会が利用しやすく、世界に変革をも・た・ら・さ・な・い・安心な存在なのだろう、そう気がついた。
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聖教会から各国の巡礼を願われても、それが巡礼という名の子作り指令で、それを指示する教会には各国各家門から大量の寄付金が支払われ、多くが教会の上層部が吸い上げると言うことも知っていたので、イズミは一切を拒否し、その世代の恩寵はウエス帝国のみが受けることとなった。
各国と聖教国からは睨まれ非難されたが、元々次期皇后のアーヤを拐って聖女イズミの器にした聖教会に非難する資格は無いとイズミが宣言し、それに賛同する国や地域には聖教国を通さず、秘密裏に瘴気浄化などの支援を行った為、非難の声は年々減っていった、聖教国の支持と共に。
聖女イズミを崇めるイズミール教が聖教の一派として急速に支持拡大していくのだが、それはまたとして。
肩に置いた両手にグッと力を込めてラーイはアーディルを見つめ、一つ息をして、ハッキリと言った。
「ウエス帝国で一番尊い御身は、聖女さまでも皇帝でもなく、光を宿す聖巫女アーディル、君だ。
そして私にとっても、決してあなたを儀母と思ったことは一度と無く、かつては美しい姉のように憧れていて、妻として娶った今は私の最愛であると、この胸を開いて見て貰いたいものだ。
あの日、デスデザードに大規模進行をかけた皇帝の部隊の代わりに、帝都警護に当たっていた皇太子の兄が胸騒ぎがすると、一番安全と思われて、秘され護られていたあなたの安全を確認しに向かい、非業の死を遂げる前、皇居の守護を命じた私を呼んで告げたのは『アーディルを死守せよ』であった。その命令に私は喜びに震えたのを忘れられない、片足で皇族の義務を果たせぬ私が、聖女イズミの勅命を命じられたのだから。
愛しいあなた、どうぞ、この私にあなたの慈悲を。愛してるんだ、アディー」
その肩を引き寄せ、ギュッと抱き締めたのだった。
アーディルは戸惑い、手をラーイの背に回すことが出来なかった。
そんなアーディルの脳裏にまた黒髪眼鏡の聖女の姿が浮かび声が響いた。
ーあー、覗き見みたいでごめんね、いやーゆっくり誤解を解いて欲しいとは思ってるんだけども、次もあるんでね、ちょっとだけチートを授けちゃうね。出産後で皇帝が出席を拒否した聖女召喚の儀に一人でいったの?誰に頼まれたか、それを旦那さんに教えてごらん。いや、出歯亀趣味は無いからさ、ごめんね、ごめんねぇ
「ラーイ様、あの、わたくしが聖女召喚の儀に向かったのは、」
躊躇いがちに話し出すと、
「ああ、宰相になった西の族・長・だ・っ・た・男・に指示されたからだろう?」
ラーイが何でもない顔で答えた。
「ええ、どうしてそれを!」
アーディルが目を真ん丸にしてラーイを見つめて問うと、
「他に居ないだろう、皇子誕生の祝いとして君に接見した者は彼しか居なかったからな、すぐに捕縛して吐かせた。
当然、彼奴の背後に大神官が居て、聖女を私に娶ることを理由に君を下賜させて自分のモノにしようとしたことも知っている。元々彼奴も皇族出身故、イズミール教では聖女より聖巫女が優先されると死ってのことだろう」
ラーイの目に苛立ちが見て取れた。
「ごめんなさい、あなたを信じきれなくて」
「いや、私がアディーの不安をもっとしっかり取り除けば良かった。あんな奴らをとっとと排除して!アディー、君の素直な気持ちを知りたい。帝国への献身ではなくて、私個人への気持ちを」
熱く見つめるラーイの視線に、アーディルは身を捩って頬を赤らめた。
スタンピートの後始末の為、魔物の攻撃があった場所を一緒に回ったラーイに、始めは悲しみを共有する者同士として、その後は段々と、灼熱の砂漠を義足で歩き回り、痛みに耐えながら誰よりも黙々と動くその姿に心を打たれ、気になって見つめれば、いつかの少年の眼差しは無くなり、父皇帝に良く似た小麦色の肌に濃紺の髪、砂漠の砂のような濃い金の瞳の精悍な顔立ちに、母皇后譲りの深い慈愛の心を持った彼を、深く深く愛すようになっていったが、年が10も上だとか、元々は義母だとか自分の気持ちに蓋をし重石を乗せて、直視しないように努めた。
仮初めの妻、聖女さままでの繋ぎ、皇族を増やすための借り腹。
数々の言い訳を自分の中に積み重ねて来たけれど、全部を脱ぎ捨てた裸の心には、ラーイが好き、そんな単純な気持ちだけが残されていた。
婚姻すぐ子を成し、聖女召喚の儀へと向かおうとする聖教会の命令を皇帝として一方的に拒否して、もう一人子を儲けた、その時には、もう疑いようもない彼から与えられる愛情に溺れている自覚が本心ではあったのだ。
儀式の不参加を決断したラーイに、安堵している自分に気がついて愕然としたのだから。
正直にいえば、聖女さまとは言え、他の女と夫を共有などしたくない、そう思う自分の浅ましさを恥じた。
聖女の器であれと過ごしてきた自身の矜持と本音との解離に悩み気鬱になっている時、宰相から『婚姻当初の予定通り聖女の血を皇室に入れる貴女の使命を忘れるな』と秘密裏に言い付けられて、その言葉に従ってしまった、頷いてしまったのだ。
そのまま、彼の手の者に導かれて帝都の神殿の奥にあるテレポーテーション部屋から聖教国へと向かった。
そして、聖教国で待ち受けていた大神官から聖女召喚後、下賜されることが決まったと聞いて、腹を括って望んだ儀式であった。
それが、皇族の面子からだなんて!民の為、帝国の為という教えは単なる耳触りの良いお題目だったのだと気がついた、アーディルの心に火が点りメラメラと一気に燃えた。
「愛しているわ、ラーイ心からの愛をあなたに。そして、あなたと子供たち、普く全ての帝国臣民の幸せを願っているわ」
そう告げて、熱烈にラーイの唇を奪い、深いキスをした。
程無くして、その修行部屋まんが喫茶にある数多の聖女教典ミステリーコミックをラーイと共に読み漁り、帝国に起きた未曾有のスタンピートの原因を推察すること暫し。
数々の聖典のシリーズを読破した後聖供物ソフトドリンクを二人で飲んで、お互いの目を見て頷きあった。
そして、二人は小さく各々が独り言ひとりごちた。
「真実は一つ!」
「皇帝じっちゃんの名に懸けて!」
ーメグ様メグ様、何か二人が気がついたようですが。
ああ、気にしないで、長くあのシリーズを読んでいると一度は口づさみたくなるフレーズなのよ。
ーはあ、そう言うものなんですね。でも、今回は断罪しないんですか?
ええ、それは次の話を聞いてからの方が良いと思うのよ。
そうして、高い塔の中で、ソファにキュッと縮こまって座っている聖巫女を見た。
「さて、お待ちどう様。最後にあなたのことを教えてもらえるかしら?東の聖巫女さん?」
聖タバタがそう言うと、スッと姿勢を直して恭しく傅き、
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伯爵家の娘なのに、実母亡き後、後妻とその娘がやってきてから虐げられて育ったオリビア。
傷つけられ、生死の淵に立ったその時に、前世の記憶が蘇り、それと同時に魔力が発現した。
実家から事実上追い出された形で、家を出たオリビアは、偶然出会った人達の助けを借りて、今まで奪われ続けた、自分の大切なもの取り戻そうと奮闘する。
そんな自分にいつも寄り添ってくれるのは……。
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